2 / 25
2.
しおりを挟む
オリヴィアは心に不安を抱きながらも、翌日学園に登校すると真っ先にジークヴァルトに会いに行った。
二人は異なる学科に属しているため同学年ではあるがクラスは違う。
オリヴィアは薬学科で、ジークヴァルトは騎士科。
戦術科と非戦術学科は校舎も離れている。
そのこともあり、オリヴィアは早めに学園に登校していた。
普段よりも早置く起きて、時間をかけて身なりを整えて。
この学園には制服が存在しているので、出来ることと言えば綺麗に髪を整えることと、化粧くらいだ。
彼が厚化粧や強い香水をあまり好まないことは知っている。
だからやり過ぎない程度に心がけた。
(今日こそはちゃんとジーク様とお話をしなくては。昨日は、きっとお忙しかったに違いないわ……)
そう自分に言い聞かせながらも、昨日のことを思い出すと心が沈んできてしまう。
オリヴィアは心の中で精一杯前向きに考えて、シャキっとした顔を浮かべた。
オリヴィアとジークヴァルトはもうかれこれ十年以上の付き合いがあり、たった二ヶ月程度離れたくらいで壊れるような脆い関係ではないはずだ。
それなのに心の奥はずっとざわざわと揺れていて、妙な胸騒ぎが収まらない。
(わたしったらダメね。こんなことて不安になるなんて。こんなんじゃジーク様の婚約者なんて務まらないわね)
気持ちを強引に切り替えると、ジークヴァルトのいる校舎へと入っていった。
きっと彼に会えば、この不安も払拭出来るはずだと、オリヴィアは信じていた。
***
ジークヴァルトは表では天才なんて言われているけど、実は努力家であることをオリヴィアは良く知っている。
それは傍で彼の努力している姿を見てきたからだ。
オリヴィアもそれに触発されて、王妃教育に精を入れた。
ジークヴァルトの隣に立つ者として、相応しい人間でありたいと強く思ったから。
その気持ちを強く持ちながら頑張っていたら、いつの間にか周囲からは認められ、才色兼備と呼ばれる程の令嬢になっていた。
これらはオリヴィアが望んだことではなく、勝手に後からついてきたものだ。
だけどオリヴィアが目立つ存在になることで、ジークヴァルトへの評価も上がっていく。
二人三脚をしているみたいで、オリヴィアは素直にそれが嬉しかった。
ジークヴァルトの役に立てているのだという証明になるからだ。
それなのに、オリヴィアは体調を崩してしまった。
暫くの間王妃教育も止まり、それが気がかりでもあった。
自分の所為でジークヴァルトの足を引っ張りたくないという思いが強かったからだ。
騎士科のある校舎には何度も来たことがある。
オリヴィアが体調を崩す前は何度もここを訪れていたからだ。
勿論、オリヴィアのいる校舎にジークヴァルトが来てくれたこともあった。
(きっと、ジーク様は朝の訓練をしているはず……)
恐らく中庭にいるはずだ。
頭の中でジークヴァルトの姿を想像すると、なんだか心が浮ついてしまう。
逸る気持ちがオリヴィアの歩を早くさせる。
中庭が見え始めると、奥に人影を見つけた。
少し離れているが、背格好を見れば直ぐに彼だと分かった。
最愛の人が傍にいると思うと、オリヴィアの口元が緩み、自然と笑顔が溢れてくる。
「ジークさ……」
声が届きそうな距離にまで移動すると、明るい声で彼の名前を呼ぼうとした。
しかしその直前に思いがけない姿が視界に入り込んできて、オリヴィアの言葉はそこで止まってしまう。
オリヴィアは慌てるように建物の影へと身を隠した。
ジークヴァルトの傍に現れたのは、昨日見かけたふわっとしたピンク髪が特徴的なリーゼルだった。
あの後少し気になったのでリーゼルのことを調べてみたところ、彼女は元平民であったが、数年前に男爵家の養子に迎え入れられたようだ。
貴族であることには違いないが、男爵家と言えば貴族の中でも下級の部類に入る。
そんな子が、どうしてあんなにも馴れ馴れしく、ジークヴァルトに接することが出来ているのか不思議でならなかった。
(どうして、わたしが隠れてしまうのよ。それに、なんでまたあの子がここにいるの……?)
咄嗟にとった自分の行動に思わずオリヴィアは苦笑した。
しかしその直後に話声が響いてきたので、オリヴィアは耳を澄ませた。
盗み聞きなんて淑女がする行為ではないことは十分に理解しているが、気になってしまうのだから仕方がない。
二人は異なる学科に属しているため同学年ではあるがクラスは違う。
オリヴィアは薬学科で、ジークヴァルトは騎士科。
戦術科と非戦術学科は校舎も離れている。
そのこともあり、オリヴィアは早めに学園に登校していた。
普段よりも早置く起きて、時間をかけて身なりを整えて。
この学園には制服が存在しているので、出来ることと言えば綺麗に髪を整えることと、化粧くらいだ。
彼が厚化粧や強い香水をあまり好まないことは知っている。
だからやり過ぎない程度に心がけた。
(今日こそはちゃんとジーク様とお話をしなくては。昨日は、きっとお忙しかったに違いないわ……)
そう自分に言い聞かせながらも、昨日のことを思い出すと心が沈んできてしまう。
オリヴィアは心の中で精一杯前向きに考えて、シャキっとした顔を浮かべた。
オリヴィアとジークヴァルトはもうかれこれ十年以上の付き合いがあり、たった二ヶ月程度離れたくらいで壊れるような脆い関係ではないはずだ。
それなのに心の奥はずっとざわざわと揺れていて、妙な胸騒ぎが収まらない。
(わたしったらダメね。こんなことて不安になるなんて。こんなんじゃジーク様の婚約者なんて務まらないわね)
気持ちを強引に切り替えると、ジークヴァルトのいる校舎へと入っていった。
きっと彼に会えば、この不安も払拭出来るはずだと、オリヴィアは信じていた。
***
ジークヴァルトは表では天才なんて言われているけど、実は努力家であることをオリヴィアは良く知っている。
それは傍で彼の努力している姿を見てきたからだ。
オリヴィアもそれに触発されて、王妃教育に精を入れた。
ジークヴァルトの隣に立つ者として、相応しい人間でありたいと強く思ったから。
その気持ちを強く持ちながら頑張っていたら、いつの間にか周囲からは認められ、才色兼備と呼ばれる程の令嬢になっていた。
これらはオリヴィアが望んだことではなく、勝手に後からついてきたものだ。
だけどオリヴィアが目立つ存在になることで、ジークヴァルトへの評価も上がっていく。
二人三脚をしているみたいで、オリヴィアは素直にそれが嬉しかった。
ジークヴァルトの役に立てているのだという証明になるからだ。
それなのに、オリヴィアは体調を崩してしまった。
暫くの間王妃教育も止まり、それが気がかりでもあった。
自分の所為でジークヴァルトの足を引っ張りたくないという思いが強かったからだ。
騎士科のある校舎には何度も来たことがある。
オリヴィアが体調を崩す前は何度もここを訪れていたからだ。
勿論、オリヴィアのいる校舎にジークヴァルトが来てくれたこともあった。
(きっと、ジーク様は朝の訓練をしているはず……)
恐らく中庭にいるはずだ。
頭の中でジークヴァルトの姿を想像すると、なんだか心が浮ついてしまう。
逸る気持ちがオリヴィアの歩を早くさせる。
中庭が見え始めると、奥に人影を見つけた。
少し離れているが、背格好を見れば直ぐに彼だと分かった。
最愛の人が傍にいると思うと、オリヴィアの口元が緩み、自然と笑顔が溢れてくる。
「ジークさ……」
声が届きそうな距離にまで移動すると、明るい声で彼の名前を呼ぼうとした。
しかしその直前に思いがけない姿が視界に入り込んできて、オリヴィアの言葉はそこで止まってしまう。
オリヴィアは慌てるように建物の影へと身を隠した。
ジークヴァルトの傍に現れたのは、昨日見かけたふわっとしたピンク髪が特徴的なリーゼルだった。
あの後少し気になったのでリーゼルのことを調べてみたところ、彼女は元平民であったが、数年前に男爵家の養子に迎え入れられたようだ。
貴族であることには違いないが、男爵家と言えば貴族の中でも下級の部類に入る。
そんな子が、どうしてあんなにも馴れ馴れしく、ジークヴァルトに接することが出来ているのか不思議でならなかった。
(どうして、わたしが隠れてしまうのよ。それに、なんでまたあの子がここにいるの……?)
咄嗟にとった自分の行動に思わずオリヴィアは苦笑した。
しかしその直後に話声が響いてきたので、オリヴィアは耳を澄ませた。
盗み聞きなんて淑女がする行為ではないことは十分に理解しているが、気になってしまうのだから仕方がない。
29
お気に入りに追加
3,934
あなたにおすすめの小説

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~
参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。
二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。
アイシアはじっとランダル様を見つめる。
「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」
「何だ?」
「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」
「は?」
「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」
婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。
傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。
「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」
初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。
(あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?)
★小説家になろう様にも投稿しました★

殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

わたしがお屋敷を去った結果
柚木ゆず
恋愛
両親、妹、婚約者、使用人。ロドレル子爵令嬢カプシーヌは周囲の人々から理不尽に疎まれ酷い扱いを受け続けており、これ以上はこの場所で生きていけないと感じ人知れずお屋敷を去りました。
――カプシーヌさえいなくなれば、何もかもうまく行く――。
――カプシーヌがいなくなったおかげで、嬉しいことが起きるようになった――。
関係者たちは大喜びしていましたが、誰もまだ知りません。今まで幸せな日常を過ごせていたのはカプシーヌのおかげで、そんな彼女が居なくなったことで自分達の人生は間もなく180度変わってしまうことを。
体調不良により、現在感想欄を閉じております。
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。


「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。
友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。
あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。
ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。
「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」
「わかりました……」
「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」
そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。
勘違い、すれ違いな夫婦の恋。
前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。
四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。
※本編はマリエルの感情がメインだったこともあってマリエル一人称をベースにジュリウス視点を入れていましたが、番外部分は基本三人称でお送りしています。

偽りの愛に終止符を
甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる