あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?

りこりー

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 オリヴィアは心に不安を抱きながらも、翌日学園に登校すると真っ先にジークヴァルトに会いに行った。
 二人は異なる学科に属しているため同学年ではあるがクラスは違う。
 オリヴィアは薬学科で、ジークヴァルトは騎士科。
 戦術科と非戦術学科は校舎も離れている。

 そのこともあり、オリヴィアは早めに学園に登校していた。
 普段よりも早置く起きて、時間をかけて身なりを整えて。
 この学園には制服が存在しているので、出来ることと言えば綺麗に髪を整えることと、化粧くらいだ。
 彼が厚化粧や強い香水をあまり好まないことは知っている。
 だからやり過ぎない程度に心がけた。

(今日こそはちゃんとジーク様とお話をしなくては。昨日は、きっとお忙しかったに違いないわ……)

 そう自分に言い聞かせながらも、昨日のことを思い出すと心が沈んできてしまう。
 オリヴィアは心の中で精一杯前向きに考えて、シャキっとした顔を浮かべた。

 オリヴィアとジークヴァルトはもうかれこれ十年以上の付き合いがあり、たった二ヶ月程度離れたくらいで壊れるような脆い関係ではないはずだ。
 それなのに心の奥はずっとざわざわと揺れていて、妙な胸騒ぎが収まらない。

(わたしったらダメね。こんなことて不安になるなんて。こんなんじゃジーク様の婚約者なんて務まらないわね)

 気持ちを強引に切り替えると、ジークヴァルトのいる校舎へと入っていった。
 きっと彼に会えば、この不安も払拭出来るはずだと、オリヴィアは信じていた。
 

 ***


 ジークヴァルトは表では天才なんて言われているけど、実は努力家であることをオリヴィアは良く知っている。
 それは傍で彼の努力している姿を見てきたからだ。
 オリヴィアもそれに触発されて、王妃教育に精を入れた。
 ジークヴァルトの隣に立つ者として、相応しい人間でありたいと強く思ったから。

 その気持ちを強く持ちながら頑張っていたら、いつの間にか周囲からは認められ、才色兼備と呼ばれる程の令嬢になっていた。
 これらはオリヴィアが望んだことではなく、勝手に後からついてきたものだ。
 だけどオリヴィアが目立つ存在になることで、ジークヴァルトへの評価も上がっていく。
 二人三脚をしているみたいで、オリヴィアは素直にそれが嬉しかった。 
 ジークヴァルトの役に立てているのだという証明になるからだ。

 それなのに、オリヴィアは体調を崩してしまった。
 暫くの間王妃教育も止まり、それが気がかりでもあった。
 自分の所為でジークヴァルトの足を引っ張りたくないという思いが強かったからだ。

 
 騎士科のある校舎には何度も来たことがある。
 オリヴィアが体調を崩す前は何度もここを訪れていたからだ。
 勿論、オリヴィアのいる校舎にジークヴァルトが来てくれたこともあった。

(きっと、ジーク様は朝の訓練をしているはず……)

 恐らく中庭にいるはずだ。
 頭の中でジークヴァルトの姿を想像すると、なんだか心が浮ついてしまう。
 逸る気持ちがオリヴィアの歩を早くさせる。

 中庭が見え始めると、奥に人影を見つけた。
 少し離れているが、背格好を見れば直ぐに彼だと分かった。
 最愛の人が傍にいると思うと、オリヴィアの口元が緩み、自然と笑顔が溢れてくる。
 
「ジークさ……」

 声が届きそうな距離にまで移動すると、明るい声で彼の名前を呼ぼうとした。
 しかしその直前に思いがけない姿が視界に入り込んできて、オリヴィアの言葉はそこで止まってしまう。
 オリヴィアは慌てるように建物の影へと身を隠した。

 ジークヴァルトの傍に現れたのは、昨日見かけたふわっとしたピンク髪が特徴的なリーゼルだった。
 あの後少し気になったのでリーゼルのことを調べてみたところ、彼女は元平民であったが、数年前に男爵家の養子に迎え入れられたようだ。
 貴族であることには違いないが、男爵家と言えば貴族の中でも下級の部類に入る。
 そんな子が、どうしてあんなにも馴れ馴れしく、ジークヴァルトに接することが出来ているのか不思議でならなかった。

(どうして、わたしが隠れてしまうのよ。それに、なんでまたあの子がここにいるの……?)

 咄嗟にとった自分の行動に思わずオリヴィアは苦笑した。
 しかしその直後に話声が響いてきたので、オリヴィアは耳を澄ませた。
 盗み聞きなんて淑女がする行為ではないことは十分に理解しているが、気になってしまうのだから仕方がない。
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