上 下
88 / 151

第88話 俺、町娘と会話する

しおりを挟む
「はい、お嬢さん? ちょっと俺と二人で話そうかー。アーサー困ってるから一旦離れて」
「アーサーきゅん~」

 俺はアーサーに抱きついていた町娘を力任せに引き離し、そのまま肩に担ぎ足早に皆から距離をとると、壁際に立たせる。

「あのさぁ、もうアーサー知ってる時点で聞く必要ないと思うけど、一応聞いとく。お嬢さん元ハガセンプレイヤーだよね」
「そうッス! いや~、走って追いかけたんスけど中々追いつけなくて!
 ダンジョンに入ったは良いものの、途中で道がわからなくなっちゃって彷徨うハメになっちゃったんスよ~。参ったッス」

 目の前の女性は甲冑やローブ等の防具を一切身につけておらず、白い服に茶色い革製のズボンに、同じく茶色で革製の靴を履いている。
 幾らゴブリンしかいないとは言っても、ここはダンジョンなのだ。中には生死に関わるレベルの罠だって発生する可能性が十分ある。
 彼女はそんなダンジョン内部を、普段着のままこの50階層まで彷徨い歩いたというのだ。

「よく生きてたな。どんだけ運いいんだよ……」
「いや~それほどでもッス。自慢じゃないっすけど昔から運は良いほうなんスよ~。ハガセンのGMのバイトにも受かりましたし~」
「……ハハァ。そういえばマッパーは? あのスキル使えば自分がどこの何回層にいるのか一目瞭然だろ」
「あ、私戦闘スキルに極振りしてるんで、それ以外のスキルてんで入れてないんスよ~」
「はぁ? マッパー位入れるポイントあるだろ! 普通!」
「――フッ、ヒーローに戦闘以外のスキルなんて不要ッス。力こそパワーッス!」
「アッソウ。とりあえず、ここで待っててくれる? 一歩も動くなよ」
「了解ッス! 名前はリンって言います。先輩!」

 俺に向かって敬礼ポーズを取っているリンと名乗る女性を放置し、皆の元へと戻る。

「アーサー大丈夫か?」
「ちょっとびっくりしましたが、大丈夫です!」
「お兄様、あの女性は一体何者なのです?」
「なんて言ったら良いのか……、後で必ず話す。
 ちょっと急用が出来たから、おまえらはそのままダンジョン攻略を再開しろ。さぁ行け! どんどん潜れ!」

 俺は一方的に話を切り上げ、再び彼女の元へと戻る。

「あ、先輩乙ッス!」
「その先輩ってのやめてくれる? 君は俺の後輩でもなければ知り合いでもないでしょ?」
「先輩酷いッス! かなーり前に私先輩に会ってるッスよ!」
「は? あぁ、王都での話か」
「違うッス! もういいッス! 見せたほうが早いッスね! メタモルフォーゼ!!」
「何!? メタモルフォーゼだと!?」

 彼女の体がピンク色の光に包まれると、みるみるうちに姿形が変わっていく。
 光が収ると、さっきまで普通に町娘だった彼女の姿は一変していた。
 顔面には真っ二つに割れた真っ赤なハートがデザインされ、胸部に光沢のある銀色のアーマーが張り付いているが、所々ヒビが入っている様に見える。パープル色の全身スーツに身を包み、腰にカードホルダーを刺したヒーローがそこに居た。

「その姿は!? 切り札シリーズ!! おまけに割れてるって事は、ただでさえ強いと言われている切り札シリーズの中でも、ブッちぎりで最強のヒーロースーツ! ブレイク・ザ・ハートか!」
「流石先輩! その通りッス! 2月14日限定で開催されるイベントで私が一番にクリアしたんスよ! 凄いでしょ!」

 ヒーローというジョブは、特定のヒーロースーツに身を包むことで初めて攻撃系スキルを使える様になる。
 この職業は基本的に遠距離攻撃や魔法に乏しく、近接攻撃がメインのアタッカー職である。
 ヒーローの最大のメリットはシリーズ毎にモチーフとなる特殊なパッシブスキルが付属されていることだ。
 その中でも特に強いと言われているのが切り札シリーズである。
 切り札シリーズのパッシブスキルは攻撃時、腰にあるカードホルダーから五枚のカードが展開され、ポーカーで使われる役が現れるのだ。
 このパッシブスキルは任意で展開することが可能であり、役によって技のダメージに倍率が加算される。
 そんな切り札シリーズでぶっちぎりで最強と言われているのがブレイク・ザ・ハートという名のヒーロースーツであり、
 このスーツは時間内であれば好きな役を作ることが可能という、元々のコンセプトガン無視のハチャメチャなパッシブスキルと、展開されるカード自体に絶対破壊不可のバリア属性が付属されるという代物なのである。

 このヒーロースーツはバレンタインデーに24時間限定で女性のみに開かれる、血涙の紅い輪舞曲というイベントを真っ先にクリアした者、たった一人に配られる。超激レアヒーロースーツなのだ。
 全容はというと、男性型のユニークモンスター全種をソロで打倒せよという、中々にキツイ内容のイベントだ。相当の運と根気がなければクリアは難しいだろうと言われている。

 閑話休題。

「前世の事とか覚えてるよな? 神とはどんな感じだった?」
「前世? 何の事かよくわかんないッスけど神様となら話たッス! あの真っ黒い球体ッスよね?」
「は? いや、白かっただろ? 無駄に偉そうでウザかった奴だよ!」
「いや、黒かったッス! しっかり覚えてるッス!」
「え? いや、いやいやいや! 何だその話!? 黒ってなんだよ!?」
「先輩こそ何言ってるんスか!?」

 俺は手を広げ、小さく上下させる。

「よしわかった。一度、落ち着こう……。俺の質問にイエスかノウで答えてくれ」
「了解ッス」
「自称神の球体と話した」
「イエス」
「そいつの色は白だ」
「ノウ」
「……これが最後の質問だ。自分の事をこの世界の他人にバラすと、何らかの形で罰を与えると脅された」
「イエス」

 まさかの回答に俺は頭を抱えたい気持ちになった。

「なんてこった。俺は今までとんでもない勘違いをしていた、ということか」
「どうしたんすか? 先輩」
「リンさんだっけ?」
「呼び捨てで良いッスよ。先輩」
「リン、今から俺のホームに招待する。ちょっとがっつり話し合う必要があるみたいなんでな」
「話し合うって誰と何を?」
「俺の知り合いの元ハガセンプレイヤー全員集めて、会議すんの」

 俺はインベントリからルームキーを取り出し、リンと共に白い扉を潜るのだった。

◆◆◆◆◆
遂にストックが切れました。
詳細は割烹の方に書いてあります。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...