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第81話 リアル・デイ・ブレイク

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「また新しい姿に変わったんですね! 変わった格好ですけど相変わらずかっこいいです!」

 俺が気合いを入れているとアーサーが話しかけてきた。

「お前様、この少年は?」
「紹介するわ、金髪がアーサーで、赤い甲冑着てるのがエスカ」
「よろしく頼む」
「あそこでポーション飲んでるのが――ってうぉい! それジュースじゃないって言っただろ! もったいないから飲み干すなぁ! と、とにかくポーションにんまりしながら飲んでる翠色の髪をした魔術師がエルだ。今はあの3人にダンジョンを潜って貰ってる」
「ふーん、わかったのじゃ。あたいはイザナミじゃ。よろしくな」
「よし、自己紹介も済んだところで、一度集まってくれー」

 俺は手招きしながら声を張り上げるとエルが歩きながら近づいてきた。ポーションの中身を見ると半分なくなっていた。

「結局半分飲んじゃったのかよ」
「ゲイン、これ……美味しい」
「そうなんだ! 作れてよかったね! それはともかくとして! ハァ、今からお前達に2つアイテム渡すから」

 俺はインベントリから小型化された黒いヘッドセットと銀色の鍵を取り出し、3人へ手渡す。

「良いかよく聞け? その黒い棒っキレを耳に近づけろ」

 言われた通りにアーサー達がヘッドセットを近づけると耳の裏側へひとりでにくっついた。

「お兄様これは?」
「それを付けている間はどんなに離れていようが、お前達の声を俺の耳に届ける事ができるってアイテムだ。もちろん、俺の声をお前らに届ける事もできる」
「どんなに離れていても!? 凄いです!!」

 アーサーがいつもの様に目をキラキラさせている。

「で、この鍵だがこいつは俺のホームのスペアキーだ。回せば扉が現れる。中に入れば俺ん家に続く空間へ入る事ができる。むちゃくちゃ大事なもんだらなくすなよ? 以上! んじゃ、引き続きダンジョンへ潜ってこい! 疲れたらスペアキー使って自室で休憩するなり、バーでジュース飲むなり好きに行動しろ! 解散!」
「お兄様? 自分の自室へ戻っていいでしょうか?」
「なんだ? アイテムの調整か? いいぞ、せっかくだからやってみろ。あ、人がいないか確認してからやれよ。いや、いい事考えた。テントを張るからちょっと待て」

 俺は近くにある黄色のテントまで近づき中を覗き、誰もいない事を確認する。

「ふぅん」

 隣の大きめで薄赤色のテントからは人の声が聞こえた。どうやら作戦会議中の様だ。

「失礼、少し聞きたい事があるんすけど良いですかね?」
「はい、どなた? ひッ!?」
「あの、大丈夫?」

 出てきたのは紫のストレートヘアーにたれ目で眼鏡を掛け、黒いローブを着た少年だった。何故か俺の顔を見て萎縮している。

「あ、あの何のご用でしょうか?」
「隣のテントって使っていい?」
「えっと、皆勝手にテント使ってるんでいいと思います。ハイ」
「あ、そうなんだ? ありがとう。悪いね邪魔しちゃって」
「あの!」
「ん? なに?」
「いえ、なんでも……」
「そう? んじゃ、ありがとう。ローブの少年」

 俺はテントから離れ、3人の元へ踵を返す。

「んと、あっちに薄赤色のテントがあるんだがその隣に小さな黄色いテントがある。黄色いテントを拠点として、中でキーを回せば目立つ事なくホームへ戻れるぞ」
「では、さっそく使わせて頂きます」

 エスカはテントの方へ向かっていった。

「お師匠様、わざわざありがとうございます!」
「おう、苦しゅうない!」
「何にもし……ないんじゃ……なかった……の?」

 エルが俺に話かけてきた。その顔は思いっきりニヤついていた。

「黙らっしゃい! 成り行きだ! ここからはもうマジでノータッチだからな!」
「何がノータッチなのですか?」

 声のした方向を見るとビキニアーマーに着替えたエスカの姿があった。

「それに着替えたのか、前のドラゴニック・スケイスは?」
「部屋に大切に飾ってあります。あれは私の宝物ですから。これは素晴らしいです。まず、とても動きやすくなりました。前は動きにくい上に剣を振るたびに乳首が擦れて痛くなったんです。さらしを巻く事で解決出来たんですが、今度は胸が圧迫されて動くのに更に制限が掛かってました。このアーマーは今まで抱えていた問題を一気に解決してしまったんです! 魔障防壁のお陰でドラゴニック・スケイルの頃より防御面は大幅にアップしています! おまけに、この見た目は敵を油断させる事ができる! お兄様、ありがとうございます!」
「そ、そうか、お前も苦労してたんだな……。凄く似合ってるぞ。エスカ」
「そうでしゅか!? さぁ、アーサー、エル往くぞ! 私が先陣を切る!」
「待ってください~」
「ちょ……置いてかないで!」

 ビキニアーマーを着装し、顔をピンク色に染めたエスカがニーべリングスレイヤを振り回しながらポータルへ突撃していった。それをアーサーとエルが騒ぎながら後を追っていく。

「おっしゃ、俺も行動開始すっか。イザナミ、改めてよろしくな」
「あぁ! またシャバに出られるなんて夢のようじゃ!」
「運営に規制食らって殆どの機能使えなくなってお前も消えちゃってたもんなぁ」
お上運営の奴等め、絶対に許さないのじゃ! あたいが一体何をしたというのか!? じーえむとかいうお上の使いは何処じゃ!? ボコボコにしてやる!」
「落ち着けって。色々説明するから」

 ――俺は今までにあった事を掻い摘んでイザナミに説明した。

「では、ここは前のげーむと似て非なる世界と?」
「そうだ。今はアーサーの師匠兼従者をしながら旅してる。このダンジョンも1回だけ入ったが変なダンジョンだった」
「先ずは何をするのじゃ?」
「意識調査をする。ここにいるアホ共にダンジョンとは何ぞやってのをピンから覚え直してもらう。お前・・と俺ならそれができる。もうここにはお前の嫌いな運営やゲームマスターGMはいねぇからな。お前の力を、アジュラスⅦ式のスキルをフル活用するぞ!!」
「――おぉ、最早この様な日が再び訪れようとは……。お前様! イザナミ頑張るのじゃ!」
「おう! 期待してるぜ!」

 アジュラスⅦ式は一言で言ってしまえば、ダンジョンという環境に極振りした外格である。この外格のパッシブスキルはたった3つだけなのだが、リクリエイトダンジョンというパッシブスキルがある。これを起動させると画面上に、ダンジョンの簡易マップが表示され、好きな所に部屋、道、罠を追加できる。勿論、モンスターや宝箱の配置、レアリティの設定までもが思いのままであった為、ダンジョンにアジュラスⅦ式を着装したフルメタラーがパーティ内に1人でも入れば、速攻で最高レアリティの武器や防具が手に入れる事が出来てしまうのだ。このアジュラスⅦのバランスブレイカーぶりは凄まじく、光の速さで弱体化させられる事となった。結果、殆どの能力が運営によって規制され、アジュラスⅦ式はただの置物となってしまった。
 勿論、アジュラスⅦ式を使っていたユーザー達は大激怒し運営に直談判、フルメタラー側の代表と運営が協議を重ねた結果、出来た案は極一部制限を解除されたアジュラスⅦ式を使ってのダンジョン作成大会だった。
 作成したダンジョンを専用のエリアに配置し運営が募った精鋭全員を返り討ちにした者のみ、制限を解除するパッチが配られるというもの。この俺も勿論参加した。俺が作ったダンジョンは単純に上に登っていくだけというシンプルなものだ。ただ頂上に到達するのにリアルで24時間掛かるというのがコンセプトである。登るだけでもリアルを丸一日無駄にしなければならない、おまけに急勾配の階段、敵に喧嘩売るとトレインする様に計算されている為、一体でもヘイトを稼ぐと雪崩のように敵が押し寄せてくる、その為絶対にクリア出来ないというのが俺が作った超絶クソダンジョン、その名もリアル・デイ・ブレイクであった。
 結果として誰一人として俺のダンジョンをクリアできる者は現れず、俺はアジュラスⅦ式専用の制限解除アイテム型パッチである【狂気のペストマスク】を手に入れるに至ったのだった。
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