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第80話 俺、ダンジョンの真実を知る
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馬車の中が小さく揺れる。
どうやら停車したようだ。扉が開くと親びんが顔を出す。
「到着だ。とっとと出な」
親びんは顎をしゃくり催促する。
俺達は顔を見合わせると馬車から降りる。
「いや~、ありがとう。助かったわ」
「1つ聞かせろ」
「なに?」
親びんが俺の真ん前まで来たかと思うと、マフラーを引っ掴み俺に顔を寄せてくる。
「若わけぇの、お前積み荷弄ったか? 青臭ぇにおいがする」
「あー、弄ったっていうか袋から落ちたのを拾ったな。中身には何もしてないから安心してくれ」
「どう思った?」
「何が?」
「お前から見て俺達のポーションはどう写った?」
「何故俺に聞く? あとマフラーから手を放せ」
「良いから答えろ」
「……平たく言って商品未満だな。俺が作ったポーションの足元にも及ばない。あれどう考えても工程が歯抜けになってるだろ。だから粗末な代物が出来上がるんだろうが」
俺がそう言うと親びんは糸が切れた人形の様に手をダラリとたらし、その場にへたり込んだかと思うと、握り拳を思いっきり地面へ叩きつけた。
「ちくしょう! やはりそうだったのか! 薄々感づいてはいた! この製法は正しくないんじゃないかと! 教えてくれ! どうすれば完璧なポーションが作れるんだ!?」
「俺の知ってるポーションとお前等が作ってるポーションは別もんだ。教えたところで素材を揃えられるは思えん。だが――」
「だが?」
「アドバイスする事はできる。たぶん、俺の知ってる最初期のポーションレシピを流用できると思う。ゴブリンの骨か耳を一緒に入れて煮詰めればそれなりの物が出来上がるんじゃないか? だめだったら他を試すんだな。良いか? 生産はトライアンドエラーの繰り返しこそが基本だぞ。1つじゃ駄目だ。最低2つの素材を一緒に煮詰めなきゃまともなアイテムは作れん。それが生産の鉄の掟だ。良く肝に銘じておけ」
「……ゴブリンの骨か耳か。これが使えるかもしれん」
親びんは自分の口に手を突っ込むと俺にある物を見せてきた。手のひらには黄ばんだ歯が乗っている。
「きたねぇな。何だよそれ?」
「ゴブリンの骨で作った差し歯だ。これなら使えるだろ」
「骨で差し歯を作る技術力があるのに、ポーションはまともなの作れないのか……。ま、まぁ、骨だし? 使える可能性が微レ存?」
「よし、商品を売り捌いて谷に帰ったら試すとしよう」
「いいんじゃないの? まぁ、頑張ってな」
「――2つの素材を一緒に煮詰めるだったな。それは何でも良いのか?」
「プラスαはな? ポーション作りたいのに回復の薬草入れなきゃ絶対にできないぞ。基本が揃ってりゃあとは骨だろうが、爪だろうが、鼻くそだろうが何だっていい。その都度効果が変わる。味や風味もな。自分で色々試すのが生産の楽しい所よな」
俺がくっちゃべってると親びんは手を差し伸べてきた。
「若ぇの名前は?」
「ゲインだ。今は勇者の師匠兼従者やってる」
「変な奴だなお前は。おらぁワズダルズ・べルボン・ボワイズって名だ。人間に本名を名乗るのはこれが始めてだ」
「ワ、ワズ、何だって?」
「ワズダルズで良い。どうせ聞き返されるだろうと思ってた。若ぇのはこれからダンジョンに挑むのか? 良くは知らねぇが気をつけろ。このダンジョン一筋縄じゃ行かねぇらしいぜ」
「ほう、その心は?」
「丁度パーティが入れ違いになるみてぇだ。あれを見ろよ」
ワズダルズの指の指す方を見るとあるパーティの一団がダンジョン外に設置してあるポータルから出てきた。見ると相当疲弊しているのか、皆一様に死んだ魚のような目をしている。
「今にも死にそうな顔してんな」
「おらぁダンジョンの内部には入らねぇが外には何百回と来てる。休憩したらまたダンジョンへ潜っていく。ここにいる奴はそれを延々と繰り返すのよ」
「ある種正しい姿と言える。何処もかわらんなぁ。まぁ、それだけじゃないんだけど」
「若ぇのも潜りに来たんだろ?」
「当たらずとも遠からずかな。ま、そろそろ行くわ。世話になった」
「最後に1つ、大親分を知らねぇか?」
「誰それ?」
「知らねぇならいい。――達者でなゲインよ。ゴブリンの谷に来たときは酒ぇ一緒に飲もうや」
ワズダルズは酷く小柄だが、筋骨隆々な腕を差し出し俺に握手を求めてきた。俺達はガッチリ握手をし、ワズダルズは無言で踵を返すと馬車へ戻っていった。
「さてと、じゃあこっちも行動開始するか」
周りを歩き回りエスカ、アーサー、エルの探し出した俺は3人を横1例に並べる。
「良いかお前ら! 今からダンジョン攻略を開始する。しかしその前に言っておく事がある! 俺一切何もしないからよろしく」
「「「え?」」」
「とりあえず10階層まで行ってみようか。あ、1回層ずつローテーションなんか良いかも。それと宝箱見つけても一切触るの禁止ね。どうせゴミしか入ってないから時間の無駄。あと、ポップする雑魚モンスターどんな感じか教えてね。はい、レッツゴー!」
「待ってください! もうちょっと詳細を……」
俺は困り顔のアーサーの肩に手を置く。
「良いか、アーサー? 正直行って10階層なんて俺が言う事なんて何もないんだよ。とりあえず行ってこいって。どうせ雑魚モンスターしか出てこないから。あ、10階層攻略したらポータル使って外に戻ってきてくれない? どんな感じか聞きたいんだよね。じゃ、よろしく」
「わ、わかりました」
アーサーは俺から離れるとエスカ達と話し始めた。どうやら作戦会議をしているようだ。エルが棒切れで何やら地面に書いている。
あいつは元々冒険者だ。きっと慣れているんだろう、地面に次々何かを書いては喋っている。
「俺はポータルの前で待ってるから!」
俺はポータルの横へ移動しそばに腰を下ろす。
しばらくボーっと眺めているとエスカ達が動き始めた。どうやらポーション購入しダンジョンへ挑む様だ。
「よろしいのですか?」
ずっと黙っていたネメシスが口を開いた。
「よろしいのです。どうせ最初なんて脳死状態で敵倒していくだけだよ。変化が起きるのは最低で20階層位からだと相場が決まってる」
「少し不安要素があります。私のデータベースには1000種類以上のダンジョンの情報が眠っていますが……土塊で出来た塔の様なダンジョンは初めてです。これはどういったダンジョンなのでしょうか?」
「さぁな。進めばその内わかるだろう」
ハガセンにおいて建築物系のダンジョンは最もポピュラーなタイプである。ダンジョンには必ず隠されたコンセプトが存在し、見た目はそのコンセプトの影響を色濃く受ける。同じ塔でも白銀に輝きを放ち、天使の輪っかがてっぺんについており、ポップするモンスターは天使属性ばかりのエンジェルタワー。かたや、漆黒で彩られた塔で全身を悪魔系装備で固めないとないと入る事すら出来ないジ・デビルサンクチュアリ等多種多彩である。挙げ始めたらキリがない。
「ふーんふふふん。お?」
俺がオリジナルの鼻歌を歌っていると、ポータルが紫の光を放ち点滅し始めた。この点滅はダンジョンへ入っているパーティが外へと戻るという合図である。
俺は立ち上がるとアーサー達が姿を現した。
「どうだった?」
「正直その……歯ごたえがないといいますか、余裕でした」
「だろ? どんどん進め。はい、レッツゴー!」
「ハイ!」
その後も攻略をアーサー達は進めた。
「はい、50階層踏破おめでとう。どうだ? 結構キツくなってきたか?」
「いえ、全く」
「ほう! 言うじゃねぇの! 成長したな!」
「いえ、その……なんていうか」
「ん? どうした?」
「ゲイン、この……ダンジョン全……然余裕」
「は?」
俺はエスカの方を見る。
「お兄様、アーサー達が言ってる事は本当です。一切敵に歯ごたえがありません」
「ハハハッ、んな訳ナイジャンアゼルバイジャン」
「「「……」」」
「ごめん、ちょっと用事思い出した。ちょっくらダンジョン駆け抜けてくるわ」
俺はダンジョンへ突入する。
第一階層はロビーとなっている様だった。様々な冒険者達がたむろしているが、どいつもこいつもやはり死んだ魚のような目をしている。
俺は駆ける。駆け続け一切のモンスターを無視し50階層まで駆け切った時、無意識にポータルへ触れていた。
俺は一瞬で外へワープし、皆の元へとまい戻る。
「な、なんじゃああああこりゃあああああああああ!? なにこのダンジョン!? 全然ポップするモンスター変わらねぇじゃん!? んだこれ!? あり得んだろ!? なんでモンスターゴブリンのままなんだよ!? 50階層だぞ!? なにこれふざけんな!!」
俺が叫んでいると、俺の横を新たなパーティがダンジョンへ入ろうとしていた。俺は質問する為に盗賊の男を捕まえる。
「おい! お前! ちょっと聞きたい事がある! このダンジョンはただひたすらゴブリンを倒すだけのダンジョンなのか!? そういうコンセプトなのか!? 教えてくれ!」
「なな、何だ!? コンセプトなんて知らないよ! 離してくれ! モンスターを倒し続けるのがダンジョンだろう!?」
俺は盗賊の言葉を聞いて思考が停止した。
「全く何なんだ! 離してくれ!」
俺が思考停止している間に、盗賊はパーティメンバーと共にダンジョンへと潜っていった。
「モンスターを倒し続ける? それがダンジョン……だと?」
俺はエルの肩を掴む。
「エル! 聞きたい事がある! お前は冒険者を長い事続けてるな!? これが普通なのか!? ただひたすらモンスターを倒し続ける事がダンジョンの存在意義なのか!?」
「う? うん」
俺はエルの肩から手を離す。
「何たる事だ……でも、何故ゴブリンばかり出てくるのか?」
「ゲイン様よろしいでしょうか? こちらをご覧ください」
「ん? ネメシスこれは?」
「鋼戦記におけるダンジョンの概要です。ここをご覧ください」
画面上に長ったらしい文が表示され、一部分だけ赤い文字で表示される。
そしてそれは驚愕の事実を俺に叩きつける。
「そんな……まさか……そんな馬鹿な事が!」
「恐らく此れが原因かと」
ハガセンのダンジョンの概要に赤くチェックされた1文にはこう書かれている。
ダンジョンの進化について。
レベルダンジョンの概要には、ダンジョン内で死んだモンスターや冒険者達の魂や肉体を吸収し力と知識を蓄えた為に、通常では考えられない現象が起こる。
俺はこの要素をすっかり忘れていた。
「この世界の冒険者は強くて60~80レベル程度、知識も全くと言っていいほど持っていない。そんな奴等が幾らダンジョンへ挑もうがまともな進化なんてできるはずがない……出来上がってしまったのはただひたすらゴブリンを倒すだけのダンジョン。ハハッ、グランドデスピアーとはよく行ったもんだな……」
「ゲイン様どうなさいますか?」
ネメシスの無機質な目が俺を見つめている。
「……変える」
「今なんと?」
「俺がこのダンジョンをまともな姿へ変えてみせる! 俺にはアイツがある! あいつを使ってダンジョンを作り変える!」
「承知いたしました。アジュラスⅦ式ですね」
「チェインジ! アジュラスⅦ式!!」
ヤルダバオトⅧ式が俺の身体から外れ組み上がっていき、消え去ると同時に衝撃が走る。アジュラスⅦ式へと換装は無事完了した様だ。
アジュラスⅦ式の見た目は軍服を模したデザインとなっている。
ネイビーブルーの軍服に、鷹と髑髏のアタッチメントが付いた帽子を被り、顔はのっぺりぼうの鉄仮面で、肩と背中には黒い逆さ十字が刻印されている。全体的にかなり怪しい雰囲気を持つ外格である。
こいつのパッシブスキルはかなり特殊であり、その実、殆どがダンジョンに関するものばかりである。しかしその開き直ったかの様なスキル構成はある種の到達点であった。この外格はダンジョンという環境において最狂の名を欲しいままにしたのだ。
そしてあまりにも狂っていた為、数ある外格の中で唯一運営の手によって弱体化を余儀なくされた悲劇の外格でもある。
俺はインベントリから銀のペストマスクを取り出し、何もない鉄仮面へ近づけると吸い付くかのように着装する。
画面上に意味不明な英語の羅列が表示され、赤いバーが端まで到達すると"スキルの全制限解除を承認しますか? y/n"の文字が現れ、俺はyを選択する。
すると、脳裏に病的なまでに白い顔と肌、黒い髪に金の鷹の髪飾りを頭に付け、左目に髑髏の眼帯、口に金のキセルを咥えた花魁さんが現れた。肩から胸元へかけて着物が開けており、豊満な胸の谷間の自己主張が激しい過激な青い黒い着物をしている。
「ここは……お前様? まさかあたいを呼んでくれたのかの?」
「ああ、イザナミお前の力が必要なんだ」
「必要だなんて畏まらず、やれで良いのじゃ。あたいに任せなのじゃ!」
「よし、ダンジョン解体ショーの始まりだ」
どうやら停車したようだ。扉が開くと親びんが顔を出す。
「到着だ。とっとと出な」
親びんは顎をしゃくり催促する。
俺達は顔を見合わせると馬車から降りる。
「いや~、ありがとう。助かったわ」
「1つ聞かせろ」
「なに?」
親びんが俺の真ん前まで来たかと思うと、マフラーを引っ掴み俺に顔を寄せてくる。
「若わけぇの、お前積み荷弄ったか? 青臭ぇにおいがする」
「あー、弄ったっていうか袋から落ちたのを拾ったな。中身には何もしてないから安心してくれ」
「どう思った?」
「何が?」
「お前から見て俺達のポーションはどう写った?」
「何故俺に聞く? あとマフラーから手を放せ」
「良いから答えろ」
「……平たく言って商品未満だな。俺が作ったポーションの足元にも及ばない。あれどう考えても工程が歯抜けになってるだろ。だから粗末な代物が出来上がるんだろうが」
俺がそう言うと親びんは糸が切れた人形の様に手をダラリとたらし、その場にへたり込んだかと思うと、握り拳を思いっきり地面へ叩きつけた。
「ちくしょう! やはりそうだったのか! 薄々感づいてはいた! この製法は正しくないんじゃないかと! 教えてくれ! どうすれば完璧なポーションが作れるんだ!?」
「俺の知ってるポーションとお前等が作ってるポーションは別もんだ。教えたところで素材を揃えられるは思えん。だが――」
「だが?」
「アドバイスする事はできる。たぶん、俺の知ってる最初期のポーションレシピを流用できると思う。ゴブリンの骨か耳を一緒に入れて煮詰めればそれなりの物が出来上がるんじゃないか? だめだったら他を試すんだな。良いか? 生産はトライアンドエラーの繰り返しこそが基本だぞ。1つじゃ駄目だ。最低2つの素材を一緒に煮詰めなきゃまともなアイテムは作れん。それが生産の鉄の掟だ。良く肝に銘じておけ」
「……ゴブリンの骨か耳か。これが使えるかもしれん」
親びんは自分の口に手を突っ込むと俺にある物を見せてきた。手のひらには黄ばんだ歯が乗っている。
「きたねぇな。何だよそれ?」
「ゴブリンの骨で作った差し歯だ。これなら使えるだろ」
「骨で差し歯を作る技術力があるのに、ポーションはまともなの作れないのか……。ま、まぁ、骨だし? 使える可能性が微レ存?」
「よし、商品を売り捌いて谷に帰ったら試すとしよう」
「いいんじゃないの? まぁ、頑張ってな」
「――2つの素材を一緒に煮詰めるだったな。それは何でも良いのか?」
「プラスαはな? ポーション作りたいのに回復の薬草入れなきゃ絶対にできないぞ。基本が揃ってりゃあとは骨だろうが、爪だろうが、鼻くそだろうが何だっていい。その都度効果が変わる。味や風味もな。自分で色々試すのが生産の楽しい所よな」
俺がくっちゃべってると親びんは手を差し伸べてきた。
「若ぇの名前は?」
「ゲインだ。今は勇者の師匠兼従者やってる」
「変な奴だなお前は。おらぁワズダルズ・べルボン・ボワイズって名だ。人間に本名を名乗るのはこれが始めてだ」
「ワ、ワズ、何だって?」
「ワズダルズで良い。どうせ聞き返されるだろうと思ってた。若ぇのはこれからダンジョンに挑むのか? 良くは知らねぇが気をつけろ。このダンジョン一筋縄じゃ行かねぇらしいぜ」
「ほう、その心は?」
「丁度パーティが入れ違いになるみてぇだ。あれを見ろよ」
ワズダルズの指の指す方を見るとあるパーティの一団がダンジョン外に設置してあるポータルから出てきた。見ると相当疲弊しているのか、皆一様に死んだ魚のような目をしている。
「今にも死にそうな顔してんな」
「おらぁダンジョンの内部には入らねぇが外には何百回と来てる。休憩したらまたダンジョンへ潜っていく。ここにいる奴はそれを延々と繰り返すのよ」
「ある種正しい姿と言える。何処もかわらんなぁ。まぁ、それだけじゃないんだけど」
「若ぇのも潜りに来たんだろ?」
「当たらずとも遠からずかな。ま、そろそろ行くわ。世話になった」
「最後に1つ、大親分を知らねぇか?」
「誰それ?」
「知らねぇならいい。――達者でなゲインよ。ゴブリンの谷に来たときは酒ぇ一緒に飲もうや」
ワズダルズは酷く小柄だが、筋骨隆々な腕を差し出し俺に握手を求めてきた。俺達はガッチリ握手をし、ワズダルズは無言で踵を返すと馬車へ戻っていった。
「さてと、じゃあこっちも行動開始するか」
周りを歩き回りエスカ、アーサー、エルの探し出した俺は3人を横1例に並べる。
「良いかお前ら! 今からダンジョン攻略を開始する。しかしその前に言っておく事がある! 俺一切何もしないからよろしく」
「「「え?」」」
「とりあえず10階層まで行ってみようか。あ、1回層ずつローテーションなんか良いかも。それと宝箱見つけても一切触るの禁止ね。どうせゴミしか入ってないから時間の無駄。あと、ポップする雑魚モンスターどんな感じか教えてね。はい、レッツゴー!」
「待ってください! もうちょっと詳細を……」
俺は困り顔のアーサーの肩に手を置く。
「良いか、アーサー? 正直行って10階層なんて俺が言う事なんて何もないんだよ。とりあえず行ってこいって。どうせ雑魚モンスターしか出てこないから。あ、10階層攻略したらポータル使って外に戻ってきてくれない? どんな感じか聞きたいんだよね。じゃ、よろしく」
「わ、わかりました」
アーサーは俺から離れるとエスカ達と話し始めた。どうやら作戦会議をしているようだ。エルが棒切れで何やら地面に書いている。
あいつは元々冒険者だ。きっと慣れているんだろう、地面に次々何かを書いては喋っている。
「俺はポータルの前で待ってるから!」
俺はポータルの横へ移動しそばに腰を下ろす。
しばらくボーっと眺めているとエスカ達が動き始めた。どうやらポーション購入しダンジョンへ挑む様だ。
「よろしいのですか?」
ずっと黙っていたネメシスが口を開いた。
「よろしいのです。どうせ最初なんて脳死状態で敵倒していくだけだよ。変化が起きるのは最低で20階層位からだと相場が決まってる」
「少し不安要素があります。私のデータベースには1000種類以上のダンジョンの情報が眠っていますが……土塊で出来た塔の様なダンジョンは初めてです。これはどういったダンジョンなのでしょうか?」
「さぁな。進めばその内わかるだろう」
ハガセンにおいて建築物系のダンジョンは最もポピュラーなタイプである。ダンジョンには必ず隠されたコンセプトが存在し、見た目はそのコンセプトの影響を色濃く受ける。同じ塔でも白銀に輝きを放ち、天使の輪っかがてっぺんについており、ポップするモンスターは天使属性ばかりのエンジェルタワー。かたや、漆黒で彩られた塔で全身を悪魔系装備で固めないとないと入る事すら出来ないジ・デビルサンクチュアリ等多種多彩である。挙げ始めたらキリがない。
「ふーんふふふん。お?」
俺がオリジナルの鼻歌を歌っていると、ポータルが紫の光を放ち点滅し始めた。この点滅はダンジョンへ入っているパーティが外へと戻るという合図である。
俺は立ち上がるとアーサー達が姿を現した。
「どうだった?」
「正直その……歯ごたえがないといいますか、余裕でした」
「だろ? どんどん進め。はい、レッツゴー!」
「ハイ!」
その後も攻略をアーサー達は進めた。
「はい、50階層踏破おめでとう。どうだ? 結構キツくなってきたか?」
「いえ、全く」
「ほう! 言うじゃねぇの! 成長したな!」
「いえ、その……なんていうか」
「ん? どうした?」
「ゲイン、この……ダンジョン全……然余裕」
「は?」
俺はエスカの方を見る。
「お兄様、アーサー達が言ってる事は本当です。一切敵に歯ごたえがありません」
「ハハハッ、んな訳ナイジャンアゼルバイジャン」
「「「……」」」
「ごめん、ちょっと用事思い出した。ちょっくらダンジョン駆け抜けてくるわ」
俺はダンジョンへ突入する。
第一階層はロビーとなっている様だった。様々な冒険者達がたむろしているが、どいつもこいつもやはり死んだ魚のような目をしている。
俺は駆ける。駆け続け一切のモンスターを無視し50階層まで駆け切った時、無意識にポータルへ触れていた。
俺は一瞬で外へワープし、皆の元へとまい戻る。
「な、なんじゃああああこりゃあああああああああ!? なにこのダンジョン!? 全然ポップするモンスター変わらねぇじゃん!? んだこれ!? あり得んだろ!? なんでモンスターゴブリンのままなんだよ!? 50階層だぞ!? なにこれふざけんな!!」
俺が叫んでいると、俺の横を新たなパーティがダンジョンへ入ろうとしていた。俺は質問する為に盗賊の男を捕まえる。
「おい! お前! ちょっと聞きたい事がある! このダンジョンはただひたすらゴブリンを倒すだけのダンジョンなのか!? そういうコンセプトなのか!? 教えてくれ!」
「なな、何だ!? コンセプトなんて知らないよ! 離してくれ! モンスターを倒し続けるのがダンジョンだろう!?」
俺は盗賊の言葉を聞いて思考が停止した。
「全く何なんだ! 離してくれ!」
俺が思考停止している間に、盗賊はパーティメンバーと共にダンジョンへと潜っていった。
「モンスターを倒し続ける? それがダンジョン……だと?」
俺はエルの肩を掴む。
「エル! 聞きたい事がある! お前は冒険者を長い事続けてるな!? これが普通なのか!? ただひたすらモンスターを倒し続ける事がダンジョンの存在意義なのか!?」
「う? うん」
俺はエルの肩から手を離す。
「何たる事だ……でも、何故ゴブリンばかり出てくるのか?」
「ゲイン様よろしいでしょうか? こちらをご覧ください」
「ん? ネメシスこれは?」
「鋼戦記におけるダンジョンの概要です。ここをご覧ください」
画面上に長ったらしい文が表示され、一部分だけ赤い文字で表示される。
そしてそれは驚愕の事実を俺に叩きつける。
「そんな……まさか……そんな馬鹿な事が!」
「恐らく此れが原因かと」
ハガセンのダンジョンの概要に赤くチェックされた1文にはこう書かれている。
ダンジョンの進化について。
レベルダンジョンの概要には、ダンジョン内で死んだモンスターや冒険者達の魂や肉体を吸収し力と知識を蓄えた為に、通常では考えられない現象が起こる。
俺はこの要素をすっかり忘れていた。
「この世界の冒険者は強くて60~80レベル程度、知識も全くと言っていいほど持っていない。そんな奴等が幾らダンジョンへ挑もうがまともな進化なんてできるはずがない……出来上がってしまったのはただひたすらゴブリンを倒すだけのダンジョン。ハハッ、グランドデスピアーとはよく行ったもんだな……」
「ゲイン様どうなさいますか?」
ネメシスの無機質な目が俺を見つめている。
「……変える」
「今なんと?」
「俺がこのダンジョンをまともな姿へ変えてみせる! 俺にはアイツがある! あいつを使ってダンジョンを作り変える!」
「承知いたしました。アジュラスⅦ式ですね」
「チェインジ! アジュラスⅦ式!!」
ヤルダバオトⅧ式が俺の身体から外れ組み上がっていき、消え去ると同時に衝撃が走る。アジュラスⅦ式へと換装は無事完了した様だ。
アジュラスⅦ式の見た目は軍服を模したデザインとなっている。
ネイビーブルーの軍服に、鷹と髑髏のアタッチメントが付いた帽子を被り、顔はのっぺりぼうの鉄仮面で、肩と背中には黒い逆さ十字が刻印されている。全体的にかなり怪しい雰囲気を持つ外格である。
こいつのパッシブスキルはかなり特殊であり、その実、殆どがダンジョンに関するものばかりである。しかしその開き直ったかの様なスキル構成はある種の到達点であった。この外格はダンジョンという環境において最狂の名を欲しいままにしたのだ。
そしてあまりにも狂っていた為、数ある外格の中で唯一運営の手によって弱体化を余儀なくされた悲劇の外格でもある。
俺はインベントリから銀のペストマスクを取り出し、何もない鉄仮面へ近づけると吸い付くかのように着装する。
画面上に意味不明な英語の羅列が表示され、赤いバーが端まで到達すると"スキルの全制限解除を承認しますか? y/n"の文字が現れ、俺はyを選択する。
すると、脳裏に病的なまでに白い顔と肌、黒い髪に金の鷹の髪飾りを頭に付け、左目に髑髏の眼帯、口に金のキセルを咥えた花魁さんが現れた。肩から胸元へかけて着物が開けており、豊満な胸の谷間の自己主張が激しい過激な青い黒い着物をしている。
「ここは……お前様? まさかあたいを呼んでくれたのかの?」
「ああ、イザナミお前の力が必要なんだ」
「必要だなんて畏まらず、やれで良いのじゃ。あたいに任せなのじゃ!」
「よし、ダンジョン解体ショーの始まりだ」
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