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第77話 俺、王様とお話する
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薄暗い裏路地を抜け大通りへと出た。相も変わらず人でごった返しているのを見て、少しうんざりしながら広場へ向かうべく、人をかき分け前へと進む。
「どこもかしこも人で溢れてやがる。エスカはいっつもこんな所を巡回してたのか。お?」
怪しい剣士風の男がこの人混みの中、俺はすれ違いざまにスリを働く瞬間を偶然目撃してしまった。茶色い革製の小さな巾着袋を盗られたパープル色の髪をしたツインテールの女の子は、一切気付いていない様だ。
「白昼堂々スリとは、見てしまったものはしょうがない。ネメシス、エマージェンシーモード起動させろ。それとあの剣士とツインテールの女の子をマーキングだ」
「承知致しました」
さっきの剣士と女の子に赤い輪郭が浮き上がった。
「よし、行くか」
俺は人をかき分け、怪しい剣士の背後に近づき軽く肩ポンする。
「ぎゃ!」
ビリっという音が流れると同時に、男は白目を向いて前のめりにぶっ倒れた。俺は右手に握られた巾着袋を素早く奪うと、その場から撤退し、そのまま女の子の元へ直行する。顔を確認したがやはり気付いてはいない様子だ。甲冑等の防具を装備していない所から、本当にただの町娘の様だ。
俺はエマージェンシーモードを解除しさっきと同じ様に肩ポンする。
「お嬢さん? 落としましたよ?」
「え? あ! わざわざ拾ってくれたんスか!? ありがとうございます!」
俺は巾着袋を渡し、その場を離れようとしたが女の子は巾着袋と俺の左手を握ったまま離さない。
「あの、離してくれませんか?」
「まだ名前を伺ってないッス! それにこのまま返したら恩返しできないじゃないッスか! それにどこかでお会いしませんでしたッスか?」
「ほんと拾っただけなんで。恩返しとか別にいいんで。それに初対面ですよ。たぶん」
「受けた恩は必ずかえす! それが私のジャスティス! さぁ! 何なりと言ってくださいッス!」
「いや、ほんとに良いんで! 俺も行くとこあるんで! それじゃ!」
「ダメッスよ! 何勝手に切り上げてるんスか!?」
何故か後輩口調のツインテールの女の子は俺をガッチリ掴んで離さない。面倒くさくなった俺は最後の手段に出ることにした。
「どうしても離してくれないのか?」
「恩を返すまでは離さないっス!」
「そうか……わかった」
「やっとわかってくれたんスね! では――」
俺は握られている左手のガントレット着装のみを解除する。すっぽ抜けて自由の身になった俺は広場に向かって走り出す。
「チャンス! じゃあな! 紫ツインテールのねーちゃん! 今度はパクられないように気をつけろよ!」
「え!? ま、待ってくださいッス! 紅い目に紅いマフラー……あなたは!? あなたはまさか!?」
俺は走りながら全外格を1回解除し、再び着装する。すると、すっぽ抜けた左手のガントレットもちゃんと着装される。
暫く人混みの中を走り続け、広場に着いた俺はベンチに座って一休みしていた。
「ふぅ~、変な女の子だったな!」
「よろしかったのですか? 彼女はゲイン様に何か伝えたかった様です。音声ログは全て録音しています。最後の辺りのログをお聞きになられますか?」
「うん? どうせ名前を~とか、恩を返す~とかそんな感じだろう。――いや、一応聞いておくか。ネメシス再生を頼む」
「承知致しました」
画面にバーが表示され音声が流れ出した。
『え……ザー……まっ……ザザー……あか……ザーなた……ザー……』
バーが端まで行き音声が終了した。
「何これ? 雑音が酷すぎて何言ってんのかさっぱりなんだが」
「申し訳ございません。どうやら周りの環境音や音声も拾ってしまい雑音になっているようです」
「ま、良いわ。どうせ大した話じゃないだろう」
俺は暫くそのままベンチに座りボーッとしていると甲冑を着た兵士が俺の目の前で立ち止まった。
「突然失礼します! その黒い甲冑は機甲騎士その人とお見受けします! よろしいでしょうか?」
「はい、そうですけど何か問題でも?」
「は! 王が貴方様と話がしたいとの事です!謁見の間にて待つと」
「お! 目が覚めたんですか。いや~良かった良かった。じゃ、行きますか」
「ご案内致しましょうか?」
「いや大丈夫です。道なら知ってるんで」
俺はインベントリから先端に赤い宝石が付いた木の杖を取り出す。
「それは?」
「あ、これ? こいつはファストトラベルの杖って言って一度でも通った道や建物ならば、一瞬で移動する事ができるっていうアイテムなんですよ。じゃ、お仕事ご苦労さんです」
杖を地面に突き立てると俺を中心に紅い魔法陣が出来上がり、目の前の景色が一瞬にして大きな扉に変わった。
俺はノックしようか迷ったが、そのままノブに手を掛け思いっきり開けて謁見の間へと突入した。
まず驚いたのは謁見の間の状態である。ロンメルとの戦闘でめちゃくちゃに破壊されたはずの椅子、カーペット、ステンドグラスが完全に修復されていた。
「こいつは驚いた……。もう修復したのか」
「どうした機甲騎士? 近う寄れ」
「あ、はい」
俺は金色の王座に座る髭モジャの王様に催促され、王座2メートル程前で身をかがめ跪ひざまずく。
王様は大小の宝石が散りばめられた王冠を被っている。威厳たっぷり王座にどっしり腰を落としている。モコモコの赤いマントを羽織っており、足元を見ると銀のレギンスが確認出来た。どうやら甲冑を着込んでいる様だ。
「左右の足が逆ですよ」
「え?」
「跪く時は左足を軸になさい。貴方は今右足から跪きました。礼儀作法は正しくなさい」
「すいません! その、こういうのには疎くて」
俺は1度立ち上がり、再び左足から跪く。
「本来であれば侮辱罪で打ち首ですが、貴方は私達を救ってくれたそうですね。その功績に免じて不問とします。肝に命じておきなさい」
「ハッ! 覚えておきます! 女王様!」
「……私は女王ではありません。ここにいるガルデイン11世の妃でエリアンという名です」
俺を注意したお妃は白いドレスに身を包み、蒼い長髪に小さな銀色のサークレットを頭に乗せている。
椅子には座らず王の傍らへ寄り添う様に立ってり顔は扇子の様なもので鼻から下が隠れており表情を伺い知る事が出来ない。
「余の台詞を盗られてしまったな。余からも改めて言おう。よくぞ我らの昏睡を解いてくれたな。褒美を与えよう。何なりと申すが良い」
(ぶっちゃけ予想してたんだよなぁ。こういう場合って断ると更に面倒な事になるのがテンプレなんだよなぁ。どうしよう)
「どうした? 何なら余が提案してやっても良いぞ?」
「えっと、すいません。正直何もいりません」
「それは余が直々に褒美やると言っているのを無下にすると言うことか?」
「そう取って頂いて構いません」
王が立ち上がり、俺の方へと近づいて来るのがわかった。傷一つない銀のレギンスが俺の目の前で静止する。
「うぉ!?」
俺は物凄い力で無理矢理立たされ、そのまま肩を思いっきりバンバン叩かれた。
「媚び諂う馬鹿者ばかりの中、お前は自らの意思を貫き通した! 気に入ったぞ! ハハハ!」
何だかよくわからないが俺は王様に気に入られた様だった。
「お主!余の後釜にならんか!? お主きっと良き王になれるぞ!? この国は武勇さえ持っていれば王になれる可能性があるのだ! 余も元は一介の冒険者だったのだ! もう今から半世紀ほど前になるが、仲間と共に魔王打倒の旅をしたのだ!
倒すことは出来なかったが封印する事に成功してな! 前王に武勇が認められ余が次の王に抜擢されたのだ!」
「ええぇ!? そうなの!? そんなんで良いの!? この国!?」
「余が王をやれているのが証拠だ! ハハハ! で、どうだ?」
「い、いや遠慮します……」
「欲のない奴め! ますます気に入ったぞ! ちなみに妃は余のパーティ仲間だった魔術師だ。のう? エリアン」
「そうね。懐かしいわ」
「えぇ……」
王の満足そうな顔を見ると首に見知ったネックレスが掛かっているのが目に入った。
「そのネックレスは――」
「おお! そうだ! このネックレスの件についても礼を言っておかなければ!」
「そのネックレスですけど肌身離さず付け続けてくださいね。きっと役に立つ時が来ますから」
「ほう、そうなのか。サンティーヌにも同じ物が手渡されている様だ。言う通りにしよう」
「ええ、外敵に隙を見せないようにして下さいね」
「……外敵とは?」
「聖国とかいう外敵にね」
「ほう、お主聖国とこの国とのいざこざを知っておるのか……」
「ええ、詳しくは知りませんけどね。王様達には悪魔が取り付いてたみたいなんで、ちょっときな臭く思いましてね」
王は王座へ戻り、フンと鼻息を鳴らした。
「恐らくこの国の財源の在り処を探しとったんじゃろ」
「あなた!?」
王妃は相当狼狽えたのか、手に持っていた扇子のような物を落とした。
「よい、こやつは悪い奴ではない。余のカンがそう告げておる。時に機甲騎士よ。この国はどうやって成り立っていると思う?」
「うん? 市場……とかじゃないんですか?」
「この国は4方を高い城壁でガードし、おまけに鬱蒼とした森林地帯に囲まれておるんじゃぞ? 普通に考えて市場だけでやっていけると思うか?」
「た、確かに……。じゃ、他に何かあるって事ですか?」
「うむ、ズバリ言ってしまえばな、この国の主な財源は金鉱山だ。それも未曾有をのな」
「へぇ、なるほどだから聖国はちょっかいかけて来てるんですね」
「うむ。大方この城に駒を潜りこませておったのじゃろう。我らが尻尾を出さぬからサンティーヌに的を絞ったのじゃろうな。下衆な事しおって」
「王女様はその事をご存知なんですか?」
「金鉱山の場所は知っとるが、開け方は知らんはずじゃ。あれには特殊な仕掛けがしてあってな。普通に金鉱山に行っても大して採れない様に細工を施してある。その解除方法を知っているのは20歳を越えた王族のみじゃ」
「はぇ~、そんな事になってるんすね。じゃ、これはご存知ですか? 情報屋から聞いたんすけど、どうやら聖国がまたそちらとドンパチやる為の準備してるらしいですよ」
「何!? それはまことか!? まずい、まだ騎士団の再編成や兵士の増員すら済んでいないというに」
俺の頭に電球が灯った。
「実は1つ提案があるんです! この街に俺の知り合いでリズロって青年が騎士団に丁度入りたがってるんですよ。俺ほど強くはありませんがそれでも強力な戦力になるんで城に来た時は是非入団させてやってくれませんか?」
「なんと! 勿論大歓迎だ! してその者の特徴は?」
「緑の髪にムチを装備した男性です。チャームポイントは頬の横っちょに黒い炎のタトゥーですかね。目立つんですぐわかると思います」
「名はリズロ、緑の髪に、黒い炎のタトゥーだな! 覚えたぞ」
「あ、最後にどうしてもヤバい状況になったらネックレスをぶっ壊して下さい。そいつ割りと簡単に砕けるんで」
「このネックレスをか?」
「はい、そうです」
「うむ、わかった! お主との会話実に有意義であった。出ていってよいぞ」
「アーサー達は何処へ?」
「勇者達ならば娘の部屋におる筈じゃ、サンティーヌはお主に大層会いたがっておったぞ? ゆくがよい」
「では、失礼致します。王様お妃様」
俺は二人に対し礼をして、謁見の間を後にした。
「どこもかしこも人で溢れてやがる。エスカはいっつもこんな所を巡回してたのか。お?」
怪しい剣士風の男がこの人混みの中、俺はすれ違いざまにスリを働く瞬間を偶然目撃してしまった。茶色い革製の小さな巾着袋を盗られたパープル色の髪をしたツインテールの女の子は、一切気付いていない様だ。
「白昼堂々スリとは、見てしまったものはしょうがない。ネメシス、エマージェンシーモード起動させろ。それとあの剣士とツインテールの女の子をマーキングだ」
「承知致しました」
さっきの剣士と女の子に赤い輪郭が浮き上がった。
「よし、行くか」
俺は人をかき分け、怪しい剣士の背後に近づき軽く肩ポンする。
「ぎゃ!」
ビリっという音が流れると同時に、男は白目を向いて前のめりにぶっ倒れた。俺は右手に握られた巾着袋を素早く奪うと、その場から撤退し、そのまま女の子の元へ直行する。顔を確認したがやはり気付いてはいない様子だ。甲冑等の防具を装備していない所から、本当にただの町娘の様だ。
俺はエマージェンシーモードを解除しさっきと同じ様に肩ポンする。
「お嬢さん? 落としましたよ?」
「え? あ! わざわざ拾ってくれたんスか!? ありがとうございます!」
俺は巾着袋を渡し、その場を離れようとしたが女の子は巾着袋と俺の左手を握ったまま離さない。
「あの、離してくれませんか?」
「まだ名前を伺ってないッス! それにこのまま返したら恩返しできないじゃないッスか! それにどこかでお会いしませんでしたッスか?」
「ほんと拾っただけなんで。恩返しとか別にいいんで。それに初対面ですよ。たぶん」
「受けた恩は必ずかえす! それが私のジャスティス! さぁ! 何なりと言ってくださいッス!」
「いや、ほんとに良いんで! 俺も行くとこあるんで! それじゃ!」
「ダメッスよ! 何勝手に切り上げてるんスか!?」
何故か後輩口調のツインテールの女の子は俺をガッチリ掴んで離さない。面倒くさくなった俺は最後の手段に出ることにした。
「どうしても離してくれないのか?」
「恩を返すまでは離さないっス!」
「そうか……わかった」
「やっとわかってくれたんスね! では――」
俺は握られている左手のガントレット着装のみを解除する。すっぽ抜けて自由の身になった俺は広場に向かって走り出す。
「チャンス! じゃあな! 紫ツインテールのねーちゃん! 今度はパクられないように気をつけろよ!」
「え!? ま、待ってくださいッス! 紅い目に紅いマフラー……あなたは!? あなたはまさか!?」
俺は走りながら全外格を1回解除し、再び着装する。すると、すっぽ抜けた左手のガントレットもちゃんと着装される。
暫く人混みの中を走り続け、広場に着いた俺はベンチに座って一休みしていた。
「ふぅ~、変な女の子だったな!」
「よろしかったのですか? 彼女はゲイン様に何か伝えたかった様です。音声ログは全て録音しています。最後の辺りのログをお聞きになられますか?」
「うん? どうせ名前を~とか、恩を返す~とかそんな感じだろう。――いや、一応聞いておくか。ネメシス再生を頼む」
「承知致しました」
画面にバーが表示され音声が流れ出した。
『え……ザー……まっ……ザザー……あか……ザーなた……ザー……』
バーが端まで行き音声が終了した。
「何これ? 雑音が酷すぎて何言ってんのかさっぱりなんだが」
「申し訳ございません。どうやら周りの環境音や音声も拾ってしまい雑音になっているようです」
「ま、良いわ。どうせ大した話じゃないだろう」
俺は暫くそのままベンチに座りボーッとしていると甲冑を着た兵士が俺の目の前で立ち止まった。
「突然失礼します! その黒い甲冑は機甲騎士その人とお見受けします! よろしいでしょうか?」
「はい、そうですけど何か問題でも?」
「は! 王が貴方様と話がしたいとの事です!謁見の間にて待つと」
「お! 目が覚めたんですか。いや~良かった良かった。じゃ、行きますか」
「ご案内致しましょうか?」
「いや大丈夫です。道なら知ってるんで」
俺はインベントリから先端に赤い宝石が付いた木の杖を取り出す。
「それは?」
「あ、これ? こいつはファストトラベルの杖って言って一度でも通った道や建物ならば、一瞬で移動する事ができるっていうアイテムなんですよ。じゃ、お仕事ご苦労さんです」
杖を地面に突き立てると俺を中心に紅い魔法陣が出来上がり、目の前の景色が一瞬にして大きな扉に変わった。
俺はノックしようか迷ったが、そのままノブに手を掛け思いっきり開けて謁見の間へと突入した。
まず驚いたのは謁見の間の状態である。ロンメルとの戦闘でめちゃくちゃに破壊されたはずの椅子、カーペット、ステンドグラスが完全に修復されていた。
「こいつは驚いた……。もう修復したのか」
「どうした機甲騎士? 近う寄れ」
「あ、はい」
俺は金色の王座に座る髭モジャの王様に催促され、王座2メートル程前で身をかがめ跪ひざまずく。
王様は大小の宝石が散りばめられた王冠を被っている。威厳たっぷり王座にどっしり腰を落としている。モコモコの赤いマントを羽織っており、足元を見ると銀のレギンスが確認出来た。どうやら甲冑を着込んでいる様だ。
「左右の足が逆ですよ」
「え?」
「跪く時は左足を軸になさい。貴方は今右足から跪きました。礼儀作法は正しくなさい」
「すいません! その、こういうのには疎くて」
俺は1度立ち上がり、再び左足から跪く。
「本来であれば侮辱罪で打ち首ですが、貴方は私達を救ってくれたそうですね。その功績に免じて不問とします。肝に命じておきなさい」
「ハッ! 覚えておきます! 女王様!」
「……私は女王ではありません。ここにいるガルデイン11世の妃でエリアンという名です」
俺を注意したお妃は白いドレスに身を包み、蒼い長髪に小さな銀色のサークレットを頭に乗せている。
椅子には座らず王の傍らへ寄り添う様に立ってり顔は扇子の様なもので鼻から下が隠れており表情を伺い知る事が出来ない。
「余の台詞を盗られてしまったな。余からも改めて言おう。よくぞ我らの昏睡を解いてくれたな。褒美を与えよう。何なりと申すが良い」
(ぶっちゃけ予想してたんだよなぁ。こういう場合って断ると更に面倒な事になるのがテンプレなんだよなぁ。どうしよう)
「どうした? 何なら余が提案してやっても良いぞ?」
「えっと、すいません。正直何もいりません」
「それは余が直々に褒美やると言っているのを無下にすると言うことか?」
「そう取って頂いて構いません」
王が立ち上がり、俺の方へと近づいて来るのがわかった。傷一つない銀のレギンスが俺の目の前で静止する。
「うぉ!?」
俺は物凄い力で無理矢理立たされ、そのまま肩を思いっきりバンバン叩かれた。
「媚び諂う馬鹿者ばかりの中、お前は自らの意思を貫き通した! 気に入ったぞ! ハハハ!」
何だかよくわからないが俺は王様に気に入られた様だった。
「お主!余の後釜にならんか!? お主きっと良き王になれるぞ!? この国は武勇さえ持っていれば王になれる可能性があるのだ! 余も元は一介の冒険者だったのだ! もう今から半世紀ほど前になるが、仲間と共に魔王打倒の旅をしたのだ!
倒すことは出来なかったが封印する事に成功してな! 前王に武勇が認められ余が次の王に抜擢されたのだ!」
「ええぇ!? そうなの!? そんなんで良いの!? この国!?」
「余が王をやれているのが証拠だ! ハハハ! で、どうだ?」
「い、いや遠慮します……」
「欲のない奴め! ますます気に入ったぞ! ちなみに妃は余のパーティ仲間だった魔術師だ。のう? エリアン」
「そうね。懐かしいわ」
「えぇ……」
王の満足そうな顔を見ると首に見知ったネックレスが掛かっているのが目に入った。
「そのネックレスは――」
「おお! そうだ! このネックレスの件についても礼を言っておかなければ!」
「そのネックレスですけど肌身離さず付け続けてくださいね。きっと役に立つ時が来ますから」
「ほう、そうなのか。サンティーヌにも同じ物が手渡されている様だ。言う通りにしよう」
「ええ、外敵に隙を見せないようにして下さいね」
「……外敵とは?」
「聖国とかいう外敵にね」
「ほう、お主聖国とこの国とのいざこざを知っておるのか……」
「ええ、詳しくは知りませんけどね。王様達には悪魔が取り付いてたみたいなんで、ちょっときな臭く思いましてね」
王は王座へ戻り、フンと鼻息を鳴らした。
「恐らくこの国の財源の在り処を探しとったんじゃろ」
「あなた!?」
王妃は相当狼狽えたのか、手に持っていた扇子のような物を落とした。
「よい、こやつは悪い奴ではない。余のカンがそう告げておる。時に機甲騎士よ。この国はどうやって成り立っていると思う?」
「うん? 市場……とかじゃないんですか?」
「この国は4方を高い城壁でガードし、おまけに鬱蒼とした森林地帯に囲まれておるんじゃぞ? 普通に考えて市場だけでやっていけると思うか?」
「た、確かに……。じゃ、他に何かあるって事ですか?」
「うむ、ズバリ言ってしまえばな、この国の主な財源は金鉱山だ。それも未曾有をのな」
「へぇ、なるほどだから聖国はちょっかいかけて来てるんですね」
「うむ。大方この城に駒を潜りこませておったのじゃろう。我らが尻尾を出さぬからサンティーヌに的を絞ったのじゃろうな。下衆な事しおって」
「王女様はその事をご存知なんですか?」
「金鉱山の場所は知っとるが、開け方は知らんはずじゃ。あれには特殊な仕掛けがしてあってな。普通に金鉱山に行っても大して採れない様に細工を施してある。その解除方法を知っているのは20歳を越えた王族のみじゃ」
「はぇ~、そんな事になってるんすね。じゃ、これはご存知ですか? 情報屋から聞いたんすけど、どうやら聖国がまたそちらとドンパチやる為の準備してるらしいですよ」
「何!? それはまことか!? まずい、まだ騎士団の再編成や兵士の増員すら済んでいないというに」
俺の頭に電球が灯った。
「実は1つ提案があるんです! この街に俺の知り合いでリズロって青年が騎士団に丁度入りたがってるんですよ。俺ほど強くはありませんがそれでも強力な戦力になるんで城に来た時は是非入団させてやってくれませんか?」
「なんと! 勿論大歓迎だ! してその者の特徴は?」
「緑の髪にムチを装備した男性です。チャームポイントは頬の横っちょに黒い炎のタトゥーですかね。目立つんですぐわかると思います」
「名はリズロ、緑の髪に、黒い炎のタトゥーだな! 覚えたぞ」
「あ、最後にどうしてもヤバい状況になったらネックレスをぶっ壊して下さい。そいつ割りと簡単に砕けるんで」
「このネックレスをか?」
「はい、そうです」
「うむ、わかった! お主との会話実に有意義であった。出ていってよいぞ」
「アーサー達は何処へ?」
「勇者達ならば娘の部屋におる筈じゃ、サンティーヌはお主に大層会いたがっておったぞ? ゆくがよい」
「では、失礼致します。王様お妃様」
俺は二人に対し礼をして、謁見の間を後にした。
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