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第70話 俺、エスカの置き手紙を読む

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 ――朝8時頃。
 朝起きると俺の部屋のドアに羊皮紙が挟まっていた。
 気だるい体を無理やり起こしてドアに近づき、薄茶色にくすんだ紙を手に取り中身を拝見する。

「よ、読めん。なんだこれは? 図形か? 子供が思うがままに書いた落書きにしか見えんぞ。ネメシス起きているか?」

 俺が部屋の隅っこで直立しているヤルダバオトⅧ式に声を掛けると、紅い目のレンズに一瞬光が灯り俺に向かって深々と腰を曲げ一礼した。

「ゲイン様、おはよう御座います」
「あぁ、おはよう。早速で悪いがこいつを調べてくれ。朝起きたらドアの間に挟まっていた物だ」

 ネメシスが俺に近付いてきたため、そのまま手紙を手渡しする。

「お預かりします」

 ネメシスが手紙を広げる。
 そして目から扇状にレーザーの様な光が広がったかと思うとすぐに反応が帰ってきた。

「データベースに照合、一件該当あり」
「何!? マジか!? 流石だなぁ」
「翻訳致しますか? 40秒ほど掛かります」
「勿論だ。よろしく頼む」

 俺がそう言うとネメシス――いや、ヤルダバオトⅧ式の手がとんでもないスピードで動き出した。
 何をやっているのかさっぱりだが、どうやら文字を書き直してくれているようだった。

「翻訳完了しました」
「いやに早いな、ご苦労さん。で、これは何の文字なんだ?」
「データベースによりますと、エルフのみに伝わる大変古い文字で古代エルフ文字――と言うそうです」
「へぇ~、そうなのか。言っちゃ悪いが子供の落書きにしか見えなかった。どれどれ?」

 日本語で翻訳され直した羊皮紙にはこう書かれていた。

 ‘’解任の儀は10時より執り行われます。それまでに城へご足労頂けますようお願い致します。‘’

「こ、これだけ? あんなに所狭しと文が書かれていたのに?」
「翻訳は完璧です」
「ほ、ホントに――」
「完璧です」
「ハイ、スイマセン」

 俺は一応自室の時計を確認する。まだ1時間以上余裕があった。

「まだ全然余裕だな……。よし、せっかくだし朝風呂と行くか!」

 俺はそのまま部屋を飛び出し階段を駆け下り、青い暖簾を潜り脱衣所に直行し、衣服を適当に脱ぎ捨てタオルを取り、
 引き戸を開けると、石畳に石で囲いをするかの様な形で湯が張ってあり、有に10人位は余裕で入れそうな巨大な浴槽が目に入った。
 存在をアピールするかのようにモウモウと湯気が立ち込めている。極めつけは燦々と降り注ぐ朝日だ。これは露天風呂なのだ。

「お~! ええやん。やっぱ日本人なら露天風呂だな!」

 俺は備え付けの桶を取り、下半身を濡らしてから湯船に浸かる。

「あ~、たまらねぇぜ。やはり風呂は最高や」

 俺はだだっ広い浴槽を見る。

「とは言ったものの一人で入ってもなんか虚しいな。でかいから余計に虚しく感じる。今度アーサーを誘ってみるか。裸の付き合いってのもいいだろう」

 眩しい朝日の光を浴びながら、俺は優雅な朝風呂を満喫し脱衣所に戻ると、脱ぎ捨てた衣服が全て丁寧に畳んで置いてあった。

「メイドが畳んでくれたみたいだな」

 俺は体を拭き衣服を着る。

「――外着ッ!」

 俺が声を張り上げるといつもの様にヤルダバオトⅧ式が現れ、瞬時に着装される。

「着装完了! よっしゃ! もう良い時間だろ?」
「現在の時刻は9時30分程です」
「気分もスッキリしたし行くか!」

 俺が脱衣所を出ると既にアーサーとエルがロビーに来ていた。

「お~、起きてたか二人とも」
「お師匠様! おはよう御座います!」

 アーサーは俺を見るなり小走りで近付いてきて挨拶してきた。

「おはようさん。お前はいつも元気だね」
「おはよ……」
「エルもおはようさん。お前もいつも通りだな」
「ね……ゲイン、朝起きたらドアの間に……こんなの挟まってた」
「それ僕の部屋にもありました! 何なんでしょうか? これは?」

 エルは手紙を睨みつける様に見ると喋りだした。

「これ……たぶん、文字の形からして古代エルフ文字……だと思う。昔図書館で似たような図を見たことが……」
「それ古代エルフ文字で、解任の儀は10時位に行われるからそれまでに城へ来いって書いてあんだよ」
「へぇ~、そうなんですか。遅れないようにしないといけませんね」
「そうだな、ってエルなんで固まってんの?」
「ゲ、ゲインは古代エルフ文字が読めるの!?」

 エルは目ン玉をひん剥いたかのようにまぶたを限界まで上げ、俺の顔をガン見している。

「え? お、おう……め、珍しいな、お前が大声出すなんて」
「古代エルフ文字はあまりに難解過ぎて、殆どの学者や魔術師が匙を投げた超難度の文字なの!
 これ一文字読めるってだけで世紀の大発見なの! エルフ関係の文字や遺跡は難度が高すぎて普通の人じゃ解読や解明不可能って言われてるの!」
「へ、へぇ……そう……なんだ……知らなかった。てか、お前そんなでかい声出せたんだね」
「冗談言ってる場合じゃないの!」

 エルはプンスカ怒りながらヤルダバオトⅧ式の赤いマフラーを引っ張り始めた。

「ちょちょ! やめて! 取れる取れる! それ作るのにめっちゃ時間かかったから! 4時間の自信作だから!」
「あの~ちょっと良いでしょうか? お師匠様はエスカさんのお兄さんなんですよね? 知ってて当然なのではないでしょうか?」

 エルが俺のマフラーを引っ張る手がピタリと止まった。

「そういえば……そうだった」
「流石、アーサー君! その通りなのだ!」
(渡りに船とはこの事! このチャンス絶対に物にする! でなければエルから質問攻めにされてしまう!)

 この時のアーサーは後光が指している様に見えた。

「……ほんとぉ?」

 ジト目になったエルが俺をジーっと見ている。

「本当ですとも! も、もう行こう! ほら10時になっちゃうぞ! さぁ、城に向けていざ鎌倉!」
「「カマクラ??」」

 俺はアーサーとエルの背を押しながらそそくさとホームを出た。
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