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第52話 俺、称号を授かる

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「ああ! お兄様! 本当にお兄様なのですね!」
「おうよ、ようやく会えたな。いやぁ、長かった。色んな意味で」

 余程嬉しいのか、エスカが俺に抱きついて離れない。

「エスカ、そろそろ離れてくれないか? 皆が俺達をガン見してるぞ」
「ハッ! お兄様すみません。つい」

 顔をピンク色にしたエスカは即座に俺から離れ、その後ろから白いローブ魔の術師が現れた。

「お前! グリフォンのソニックブームをどうやって破りやがったんだ! 答えろ!」
「は? あんなもん簡単に破れるぞ? お前そんな事も知らねぇの? その格好魔術師か……。え? まさかソニックブームかましてるグリフォンに魔法ブッパしてたのか?」
「そ、それの何が悪い!?」

 魔術師の男は大層興奮し、目を血走らせながら俺を睨み付けてくる。

「ソニックブーム中のグリフォンは魔法耐性が大幅にアップするんだよ。1番の悪手だぞ? 槍や投擲武器をぶん投げるのが1番手っ取り早い。そんな事もわかんねぇの? そんなんじゃ甘いよ」
「クソダボ野朗が! チッ!」

 魔術師は俺に対し捨て台詞を吐き、何処かへ行ってしまった。

「困ったものなのである。わが名はアンドリュー。アンドリュー・ザン・グラガン。王立騎士団の隊長を任されている。ロンメルの件、申し訳なく思う。あ奴は優秀な魔術師なのだが、どうもプライドが高いようでな。いつもああなのだ。許してやってほしい」

 エスカの隣にいた黄金騎士が手を差し伸べてきた為、俺は応じる。

「いや、別に何とも思ってない」
「そうか。流石はエスカの兄上寛大な御仁である。ガハハハ! さて、もうここに用はない。我等も王都へ帰還するぞ!」

 アンドリューが踵きびすを返し歩き出すと、それと同時に皆歩きだした。

「お兄様、一緒に参りましょう」
「ああ、よろしく頼む」

 俺もエスカの隊に混ぜてもらい、一緒に王都へ帰還する事となった。


 城へ着くなり、門番が俺の元へとやってくる。

「お疲れ様です! ゲイン様! 王女様が貴方を呼んでおいでです! 貴方に王都救済の褒美を授けるとの事です! では!」

 門番の言葉に周りの皆がざわつき始めた。

「褒美くれるのかぁ。特に欲しいものとかないんだけどねぇ」

 何処からともなく『流石、お師匠様!』という聞き慣れた台詞が聞こえた。

「人が多過ぎてわからんけど、アーサーも無事のようでなにより」
「お兄様、参りましょう」

 城の中へ入り謁見の間へと入る。

「お出でになったか! ささ、こちらへ」

 魔術師会の何とかって言ってた婆さんが、王女の近くに来いと催促してくる。

「何か最初と態度違くね?」
「ひぃぃ! その節は大変申し訳ございません! まさか伝説の機甲兵その人だとは思いもしませんでしたので! 平にご容赦を!」

 婆さんは思いっきり頭を地面に擦り付け俺に謝っている。

「もう良いっすよ。そんな事より伝説の機甲兵ってなんすか?」
「は、はい! 機甲兵はその昔存在したという、機械仕掛けの人型魔導兵器だとこちらの文献に載っております! その威力は人智を超えた力を持ち、機甲兵一体で世界全土を壊滅させられるとか!」

 婆さんは興奮しながらローブの中からボロボロの本を取り出して俺に見せてくる。
 そこに描かれていた人物は明らかフルメタラーに酷似していた。

「おほん! わたくしを無視しては困ります!」

 王女様が、咳き込みながら俺たちを見ていた。

「これは……申し訳ありません。少々興奮してしまいました」

 王女様は俺に向き直り、目を閉じで喋り出した。

「漆黒の騎士ゲインよ、よく王都の未曾有の危機をよく防いでくれました。何か褒美を授けましょう。言ってみなさい」
「そうですね。では、エスカ副隊長を私にお譲り下さい」

 周りにいる騎士達がざわめき始めた。

「静粛になさい。1つ聞きます。エスカには生き別れとなった兄がいると聞いていました。それは貴方なのですね?」
「はい、エスカは俺の大切な妹です」

 王女は真っ直ぐ俺を見つめ、こくりと頷いた。

「良いでしょう。エスカを託します。そして貴方に機甲騎士の称号を授けましょう」

 俺は王女の前に跪いた。

「起きなさい。夜になったら晩餐会を開きます。皆もよかったら参加してさい」

「「「「ハッ!」」」」

 全員が跪いた後、立ち上がり一斉に謁見の間から退出する。

 部屋を出た所でアーサーとエル、そしてエスカと出会う。

「お師匠様! お疲れ様です!」
「おつ……かれさま」

 アーサーとエルが俺に労いの言葉を向けてくれる。

「お兄様! ようやく一緒になれたのですね!」
「ホームにお前の名前登録しとかなきゃな」
「ホームとは?」
「その名の通り、俺ん家だよ」

 エスカは俺の言った意味がわからないのか首を傾げている。

「まぁ、見りゃわかるって」

 俺はエスカの名前を登録する。

「よし、これでいつでも入れるぞ。」
「で、では今すぐ入りたいです!」

 俺は、ルームキーを取り出し回すと扉が開かれ光に包まれる。

「ここが、お兄様の家の中……ですか。何か懐かしい気がします」
「そうか、それは何より。お前の部屋だが、どうする? 空き部屋はごまんとあるぞ?」

 エスカはカッと目を見開き、俺に詰め寄ってきた。

「お兄様の隣室が良いです! いえ、なんならお兄様と同室が――」
「い、いや流石にそれはまずいんじゃ。ああ、そうだ! コロッセオなんかもあるぞ? お前の技量なんかも知りたいし暇な時にでも手合わせしよう」
「お兄様と私が手合わせ……是非!」

 エスカの目がキラキラと輝いて見える。

「流石、我が妹。お前もそっち系だったか」

 その後、宝物庫をみせたり、バーに行ったりして世間話をしているうちにあっという間に夜になってしまった為、俺達はホームを出て晩餐会へと赴くのだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 薄暗くなった城下町を1人のローブを着た男が足早に歩いていた。男は誰もいない裏路地へと入っていく。

「チィッ! まさかあの獣使いの男失敗しやがるとは!! クソがクソがクソがッ! おい、居やがるんだろうが!? 姿を見せろ!!」

 男が叫ぶと地面に魔法陣が浮かび上がる。緑のマスクを被り長く黒いローブの様なものを着た物体が姿を現した。マスクは目の辺りに黒い穴が2つ開いているだけの簡素なものだ。

「くヒヒヒヒヒ、残念デしたねぇ。もうちょっとデ巧クいきそうだったのニ」

 物体は歪な声を上げながら、くねくねと身を捩っている。

「相変わらず気色の悪い奴め! で!? どうする気だ!? サンプルとやらを集める代わりに、俺が王座に座る為に協力する手筈なんだろうが! ええ!? あの黒い男のせいで完全に失敗したぞ!? デュアルのグルーヴさんよぉ!?」
「マァまぁ、落ち着イて。急いてハ事を仕損じルと云ウではアりませんか。綺麗な紫のローブが乱れテいますよ?」
「しいて……何? クソダボが! そんな言葉しるかッ!」

 男は頭を掻き毟りながら文句を言い、謎の物体はローブの袖から触手を伸ばし赤い腕輪の様なものを差し出す。

「こレを貴方に差し上ゲましょう。命の危機が迫った時につけテください。きっと役に立つ時が来ます。私ソロそろ古巣へ帰らなければいけません。名残惜しイですが一旦お別れです」

「ダボが! 何の役にも立たなかったらぶっ殺すからな!」

 謎の物体は地面へとけるように消えていき、それを見届けた、ロンミルもこの場を離れていく。手に持った腕輪は夕日に照らされ、血のように真っ赤に染まり輝いていた。

誰も居なくなった筈の裏路地に、黒い物体が再び現れた。

「ひひヒ、精々頑張って下さいネ、実験サンプルさン」

それだけ言うと、グルーヴは再び地面へ溶けるように消えていった。
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