上 下
47 / 151

第47話 王立騎士団副隊長エスカの一日

しおりを挟む
 まただ。また、いつものあれ・・がやってきた。
 暗い何もない空間に、私は立っている。これは明晰夢めいせきむというやつだ。
 もう何千何万とこの夢を見てきた。私は小さくため息をつき気合を入れる。すると、暗闇が突然消え去り場面が変わる。

 私が持っている記憶の中でも古い方の記憶だ。気付くと、草原に一人立っていたのを覚えている。
 武器や防具は敬愛するお兄様から頂いたものをそのまま装備していた。

 しかし、私が求めている記憶はこれではない。
 もう一度私は気合を入れなおす。そうしてまた空間が切り替わる。私はガラス張りの筒の様なものの中にいる。

 目の前には全身を漆黒の甲冑で身を包んだ騎士が立っている。この御方が私のお兄様、ゲイン兄様だ。

 強力な効果を持つ武器や防具をくれた。
 綺麗なドレスやアクセサリーをくれた。

 一言お礼が言いたい。おもいっきり抱きついてありがとうございますと、しかしそれは叶わない。
 言いたくとも体は完全に硬直しており、指先ひとつ動かすことすらままならない。

 いつもそうだ。この明晰夢は必ず私がお礼を言おうとすると終わる。

 どうせまた――
 そう私が思った瞬間、お兄様が頭の甲冑を外し、笑いながら「相変わらずお前は美人だな」と言ったのだ。


「お兄様ッ!!」

 私は叫び声を上げながら起床する。
 周りを見渡すと、自室のベッドの上だった。私はベッドから出て寝間着を脱ぎ去り、クローゼットの中にある備え付けの服を着る。

 部屋の隅にはお兄様から頂いた【ドラゴニック・スケイス】と【ニーベリングスレイヤ】が立てかけてある。

 ドラゴニック・スケイスは魔防具と言われる物らしく、今の技術では人為的に創りだすのはほぼ不可能らしい。
 真紅の美しい甲冑だ。特徴的なのは兜だ。猛々しいドラゴンの顔の様な装飾がなされている。
 ニーベリングスレイヤは見た目はただの剣だが、この剣には面白いギミックが施されている。刀身が伸びるのだ。
 所謂いわゆる、ガリアンソードというやつだったか。
 ドラゴニック・スケイスとニーベリングスレイヤはお兄様から頂いた最後の贈り物。私の宝だ。

 ドラゴニック・スケイスの兜を被ったところで部屋の扉からノック音が聞こえた。どうやらメイドが来たようだ。
 私の名はエスカ。今は王都にある城に身を置き、王立騎士団の副隊長をやっている。

「大丈夫だ。入ってきてくれ」
「おはよう御座います。エスカ様」

 入ってきたのは私専属の使用人ネアだ。

「すまないが、甲冑付けるのを手伝ってくれ」
「勿論でございます」

 ネアの手際がよく、あっという間に着ることが出来た。

「ありがとう。もう良いぞ」
「よくありません。さ、兜をお外しになってください。髪を整えさせて頂きます。エスカ様も少しは身だしなみに気を使うべきです」
「身だしなみなんてどうでもいいじゃないか。どうせ訓練や戦闘でボロボロになるんだし、私はダークエルフだから汚れも目立たない方だぞ?」

 抵抗したが無駄だった。あれよあれよと兜を脱がされ、髪を解かされている。

「相変わらずとっても美しい褐色の肌そして銀の髪羨ましいです」
「そうか? どれも変わらないと思うが?」
「そんな事ありませんよ。とてもお綺麗です長い髪を横で結んであげますね。ずぼらなエスカ様でもこれなら簡単ですから」

 私にとってネアは大切な友人だ。もうかれこれ15年以上一緒にいる。

「ありがとう。助かった、この髪型はなんて言うんだ?」
「サイドポニーテールといいます。お願いですから、もう少し女らしくして下さい」
「努力するよ。では行ってくる」

 私は、自室を出て真っ直ぐ王女様の王室へと向かう。

 王室の前に着いた私は大きめの声を上げる。

「サンティーヌ王女様! エスカです! 入ってもよろしいでしょうか!?」
「エスカですか? どうぞ入って下さい」

 サンティーヌ王女様は私の恩人だ。王都に来たばかりの頃、右も左も分からない私を拾ってここに住まわせてくれたのだ。

「おはよう、エスカ。メイドがお茶を入れてくれました。貴女も一緒に飲みましょう」
「ハッ! 喜んでご一緒させて頂きます!」

 私は王女様の向かいにゆっくりと座る。

「エスカ、堅いですよ。どうせ私達しかいないんですから」
「いえ、しかし……わかりました。では、お言葉に甘えて」

 私達は紅茶を口にし、一息つく。

「例のあれは今日もあったの?」
「それが聞いて下さい! いつもとは最後が違ったんです! お兄様の声を確かに耳にしました!」
「まぁ、それは本当? 良かったわね。ということは、約束の日が近づいているのかもしれませんね」
「ハイ!」

 私は紅茶を飲み終えた為立ち上がる。

「あら? もう行ってしまうの?」
「もう行きませんと。外回りと団員達を見なきゃなりませんので」
「そう、名残惜しいわ。頑張ってねエスカ」

 私は立ち上がり、王女様に深々と礼をし部屋を出る。

 王室を出た私は次に城の外にある兵舎へと西に向かう。
 兵舎へと向かう途中、私を呼び止める声が後ろから聞こえた。
 振り返るとそこには、団員のひとりである犬獣人のファースが走りながら近づいてきた。

「おはようございます! エスカ副隊長!」
「おはよう、ファース。今日も元気だな」

 ファースは猛烈な勢いで尻尾を振っている。

「エスカ副隊長は何処に行かれるのですか?」
「ああ、見回りに行こうと思ってな」

 ファースは同じ亜人である為か、私を異様に慕っている。慕われる様な要素など何一つないと思うのだが。

「では、行ってくる」
「お気をつけて!」


 私は街を歩きつつ思い出していた。私がただの居候から騎士団の副隊長にまでなったあの事件を。

 その日、私は王女様と共に街の視察をしていた。視察という名目だがただ単にお菓子を食べたりアクセサリーを見たりするだけの買い食いだ。
 ただそれだけの筈だった――。街を歩いていると、突如上空から二体の巨大なグリフォンが襲ってきたのだ。この視察はほぼお忍びのようなものだった為、王女様を守れるのは私一人だけだった。

『守らなければ!』私の頭にはそれしかなかった。逃げ惑う人々をかき分け、私はグリフォンに向かってニーベリングスレイヤを振りかぶる。伸びた刀身が二体のグリフォンを一挙にズタズタに切り裂いたのだ。

 私はこの功績を認められ騎士団の副隊長の任を王女様から直々に頂いたのだ。

「思えばあの頃からか、例のあれが始まったのも」

 街へと繰り出したが、結局これといって大きなトラブルはなかった為、私は城の自室へと戻る。

 これが私の大体のルーチンワークだ。余談だが、王都はあれから巨大な壁に四方を守られている。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...