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第18話 俺、アーサーにスキルを教える

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 海岸の外れにあるダンジョンの入り口へとやってきた。
 俺は見覚えのある紫の石がフワフワと宙に浮いているのを目にし、思わず立ち止まる。

「ポータルか、ここがダンジョンで間違いないないようだな」

 ポータルとはダンジョンにのみ存在する物体であり、入り口と10階層毎に簡易的なセーブが可能になるものだ。

 かなり暗く湿った洞窟の中には入り中程まで進んだ所で、俺はアーサーを呼び止める。

「アーサーこの辺で修行を開始するぞ。魔剣を構えろ」
「ハイ! お師匠様、一体どの様な修行なのでしょうか?」

 剣を構えるアーサーに、一瞬で近づくとノーモーションで、顔面に緩めの左フックを俺はかます。

「いぎッ!?」

 俺のパンチをモロにくらったアーサーが斜め右に1メートル程吹き飛び、硬い地面に躰を叩きつけられる。

「いいか、アーサーお前には俺並みに強くなって貰わなきゃならん。だから、一切の容赦はしない。お前の太刀筋には殺気が感じれないし動きもなっちゃいない。このまま旅を続けたら、間違いなくお前は途中で死ぬ」

 アーサーがよろめきながら立つのを俺は静観しつつ続ける。

「この修行の第一目標は、お前の意識改革と俺の攻撃を避けれる様になって貰う事だ」

 立ち上がったアーサーの顔が絶望に染まる。

「そ、そんな……む、無理です! お師匠様の攻撃を避けるなんて!」
「無理じゃない。お前にはな、俺がやった超感覚がある。それを使いこなし、俺の攻撃を掻い潜り俺に一太刀浴びせる事。それが今日の修行の目標だ。俺は武器や魔法、その他諸々の如何なるスキルも使用しない。この拳と脚で迎撃するのみだ。超感覚をお前の物にすれば、俺の攻撃を避ける事だって十分可能になる」

 アーサーの腕に力が入るのが見えるが、しかし次の瞬間アーサーの足が崩れた。

「ッ!!?」

 超感覚を発動させた瞬間に力が抜けた為、驚くアーサーを俺はただ傍観する。

「な、なんで?」

 アーサーは剣を支えにし、無理やり立ち上がる。

「剣を振ってみろ」

 俺のアドバイス通り、震える足を我慢し剣を振りアーサーは驚愕する。魔剣を振った瞬間震えていた足が直り、顔の痛みも一瞬で消えたようだ。
 混乱するアーサーに俺は口を開く。

「超感覚は他のスキルとは違う特徴があってな、通常スキルを使うとMPが減るよな? 超感覚は使用するとMPではなくHPが減るんだよ。お前はさっき俺の左フックを食らっただろ? HPが半減していた状態で超感覚を起動させた、だから足が動かなくなったんだ。それを魔剣を振った事で体力が回復した。俺の言いたい事がわかるか?」

 アーサーが魔剣を見つめ、そして俺を見ながら剣を再び構える。

「理解したか? さぁ、来いアーサー! 俺に一太刀浴びせてみせろ!」
「うわあああああああ!!」

 アーサーは雄叫びを上げつつ、俺に剣を向けてくる。俺はそれを、上体を逸らす事で回避し続けながら俺はアドバイスを続ける。

「いいか! 超感覚は全ての感覚のリミッターを外す事ができる様になる。今はもう存在しないヒーローってジョブのスキルだ! 感覚を研ぎ澄ませろ! 聴力を強化し筋肉の音を聞け! 視力を強化し、この暗い空間で俺の攻撃を視認してみせろ! 脳みそのリミッターおも外してみせろ!
! 全てのリミッターを外した時その時こそ、超感覚の真価を発揮出来るようになる!」

 アーサーの動きが段々と洗練されていくのがわかる。俺のアドバイスをしっかりと受けれ、攻撃を続け、遂にその時がやってきた。

 俺はアーサーにアッパーカットを食らわせる為、屈み左腕に力を込めながら沈ませ、思いっきり振りかぶる。瞬間、アーサーの姿が一瞬消えたかと思うと、俺の外格と魔剣の刃がぶつかり火花が散り、アーサーの血のように紅い眼まなこに俺が写っているのがわかった。俺は構えを解き拍手を送った。

「よくやったな。今のが超感覚の本当の力だ、どうだった?」

 呆けているアーサーに対し感想を聞いてみる。

「ほんの一瞬ですが……お師匠様の姿がとても遅く見えました。」
「その通りだ、超感覚の本当の力は感覚の限界を超えて強化させる事で、無我の境地へと強制的に到達させるんだ。結果、相手の動きが遅く見える様になる。超感覚を使いこなせる様になれば、お前に怖いものなどなくなるよ。あと、個別で強化する事も勿論可能だ。例えば、こういった暗く何も見えない洞窟内で視力を強化すれば見える様になったりな! 色々できる様になるぞ!」
「ありがとうございます! お師匠様!」
「うむ! 苦しゅうない」

 腕を組みつつ、うんうんと頷く俺。

「師弟の美しい友情を育んでいる途中で申し訳ないのですが、宜しいでしょうか?」
「ん? なんだネメシス?」
「認識阻害スキルを感知しました。ゲイン様とアーサー様を監視していた者がいるようです」
「ふーん、ま、別に良いんじゃないの?」

 アーサーの口が金魚の様にパクパクしているのが目に入った。

「な、何故……お師匠様から女性の声が!? お師匠様は女性だったんですか!?」
「んなわけないでしょ!? えっと……あの……そう! 実は俺の甲冑には精霊が宿っているんだ! 騒がれると困るから、ずっと黙っているようにしてもらってたんだ!」
(ホントは忘れてた。なんて、ネメシス絶対不機嫌になるから言えねぇ!)

 アーサーの目がいつも以上にキラキラしている

「妖精が宿る甲冑!? 聞いたことがありません! 凄いです! どうも、はじめまして、アーサーと言います。妖精さん!」
「妖精……まぁ、悪魔呼ばわりさせるよりずっとマシですが……はじめましてアーサー様。ネメシスとお呼び下さい」

ネメシスは悪魔呼ばわりされた事をまだ気にしていたようだ。

「根に持つなぁ」
「ゲイン様、何か仰いましたか?」
「ゲフンゲフン、い、いいえ何も」

 アーサーは俺というか、ネメシスにキラキラした目を向け続けている、余程ネメシスが気に入ったと見える。

「よろしくお願いします! ネメシスさん! 妖精は生を受けて1000年経つと人間を誘惑し、鎧や武器にとり憑いてじわじわと人間をマナに分解していき、終いには本人に成り代わってしまうんですよね!? 子供の頃フェアリーテイルで読みました!」
「はぁ?」
(ヤバイ! ネメシスの目が座った! これはマジギレ寸前の証!)
「お、落ち着いてネメシスちゃん! ドウドウ!」
「私は馬ではございません!」

瞬間、体中に電流が迸ほとばしり俺はその場にぶっ倒れた。

「よ、よし、自己紹介も終わった事だし宿屋に一度戻って休憩しよう。俺、今丁度めっちゃ疲れてるから……死ぬほど……」

俺はよろめきながら立ち上がり、アーサーを連れてダンジョンの出入り口へと向かった。

◆◆◆

 一区切り付いた為、宿屋に戻る事にしダンジョンを後にするゲイン達。誰も居なくなったダンジョン内の空間が歪み一人の男が現れる。

「凄まじい強さだ! あの人達に頼めば、きっとリーダーの悲願が達成出来る! 急いで戻らなきゃ!」

 そう言うと盗賊風の男の姿が、再び歪み消えるのだった。
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