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第150話 俺、スピードに魅入られし女に魔法を授ける

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「本当に咒式だったのかい? どんなデザインだった?」

 なんか妙に聞いてくるなこいつ。

「そうだな~。半分がツタで埋まってたけど、うーん……なんつーんかなぁ。あの甲殻類みたいな感じで無駄に威圧感あるデザインで――」
「ダイオウグソクムシとダイオウサソリだよ……」
「あぁそうか。顔のデザインはそのダイオウグソクムシってのだ。きっしょいデザインだよなぁ。絶対堅気かたぎじゃねぇぞあのデザインは。特撮ヒーロー物だったら間違いなく悪の首魁って感じ」

 アルジャ・岩本の表情はどんどん暗くなっていく。

「ゲイン君怒らないで聞いてほしいんだ」
「んだよ、無駄にシリアスな面して」
「今までは特に不安要素がなかったからおちゃらけてたけど、あれ・・が独り歩きしているのが確定している今の状況を鑑みるに、この旅やめたほうが良いかもしれない」
「ほう……お前俺がそんな事で一度始めた事やめる性格だと思ってんのか。心外だなぁ。え?」
「君はあれの恐ろしさを知らないだろう! あれには……あれにはラプラスの魔が搭載されているんだ!」
「なにそれ? サービスエリアに売ってるご当地グルメの名前か何か?」
「いいか……奴は未来を予測できるんだ! その確率は99%を超えるんだぞ!」
「へぇ、そりゃすげぇ。そいつに競馬競輪頼めば一瞬で大金持ちになれるな。で? お前が言いたいのはそれだけか? 予測できるから。それがなんだってんだよ」
「君は……君は莫迦なのか?」

 なるほどな……。俺があの時撃ったショットガンの弾を全て受け止められたのは、奴が予め軌道を予測していたからなのか。

「お前からしたら恐ろしいんだろうが、別段驚異を感じる程ではないな。あいつは俺が殺す。あいつも俺にとっては壁に過ぎん」
「勝算があるっていうのかい?」
「あ? ねぇよんなもん。俺やる事山積みなんだわ。ニコイチのスクラップの王様に構ってる暇ねぇんだよな」
「なん……だって……」

 彼はその場にヘタれこんでしまった。
 俺は腰をかがめ、彼と目線を合わせる。

「それによ、お前の言う通り未来を予測するなら何故俺がこの世界に現れて即俺を殺さないんだ? 俺がそいつだったら障害は即日処理する。だが、俺達は今こうしてのうのうと駄弁だべっていられるんだ?」
「そ、それは……確かに。しかし何故……」
「恐らくすぐに行動できない理由があるか、もしくは驚異として認識されていないかのどちらかだろう。後者はしゃくに触るがな。じゃ、もういいか? 俺やる事山積みなんだよ。じゃ、俺ちょっとエスカとお出かけするから」
「話は聞かせて持ったッス!」

 ドアが開かれ、リンが乱入してきた。

「なんスか! そのなんとかかんとかっていう敵は!? まるで特撮ヒーローのボスじゃないッスか! 先輩ズルいッスよ!」
「お前今まで何やってたんだよ」
「いや~クトゥグア先生が出てきた副作用で気持ち悪くなっちゃって、トイレに籠もってたンすよ。それより何なんスか! さっきの話は!」
「こいつが全部知ってるからこいつから聞いて~」

 俺は彼女の相手をアルジャ・岩本に任せドアノブに近づくと、凄まじい重力が躰全体にのしかかる。

 こんな非常識極まりない行動を取るのは彼女しかいない。

「ね、ね……待って……」
「あ、あの何かな? 俺用事が……あるんですけど……」
「さっきのビューン!って速くなる魔法教え……てッ!」
「あ、あの魔法は使い所を……間違えると……大怪我するから。ごめんあの、マジで辛いんで……グラヴィ・スタンプ解除して頂けると助かるんですが……」
「わかった」

 死ぬほどのしかかっていた重力が嘘のように消え、俺は後ろに向き直った。

 そして彼女はこれまでで1番なのではないかと思う程、目を輝かせ期待に満ちた表情を俺に向けてくる。

 忘れてた。そういえばスピードに魅入られし女だったなこの娘。

「よしわかった。教えてあげてもいいが、この魔法は狭い場所や人だかりの多い場所では厳禁だぞ」
「なんで?」
「もしお前がこの魔法で壁に激突したら――」
「した……ら?」
「冗談抜きでグズグズのジャムみたいになる」
「でも……私、ゲ……インから貰ったローブ着……てるよ?」

 あれ? ちょっと待てよ? 確かに物理ダメージを全て無効化するこのローブを着たままタイムハイアクセラレーションを起動させ、壁に激突した場合どうなるんだ? 無効化されるんだろうか?

「ま、まぁいいか。絶対狭い場所でやるなよ? いいな?」
「うん……約束する」

 俺は彼女の頭に手を置き、魔法を伝授させる

「よし終わったぞ」
「お~! タイム――」

 俺は彼女のマスクに手をやる。

「俺の話聞いてた!? ねぇ!?」
「む~!」
「むーじゃない! 危険だって言ったダルルォ!?」

 全く学校主席で卒業したってほんとかよ……。

「あっそうだ……。お前さっきチョコ食べてたな。2ピースくれ」
「えっ……」

 彼女は今さっきのテンションはどこへやら、まるで消え入りそうな小さな声を上げた。

 そして震える手でローブのポッケに手を突っ込み、俺に若干溶けかけているチョコを2ピース手渡してくれた。目に涙を浮かべながら。

 どんだけチョコとられるの嫌なんだよ。俺は見たぞ。あのポッケの中にまだ手を付けてない新品の銀紙に包まれた板チョコをしかとこの眼で。

「こ……れ……借りね……ウッ」
「ハイ、モウナンデモイイデス。デカケテイイデスカ?」
「ウッ……行ってらっしゃい……。大切にし……てね」

 溶けかけたチョコをインベントリにしまい、2人でホテルを後にしたのだった。

 チョコを大切にしてねってどういう発想なんだろう……。

 彼女にとって甘味とはどういった存在なのか、俺には理解できそうもない。


 ◆◆◆◆


 セントラルドグマの地下基地内に似つかわしくない白い天使が舞い降りる。

 内部から出てきたのは、ゲインの攻撃によりボディが大破したオルタナとそのボディを背負って歩く魔王。

『大丈夫ですか? セントラルドグマに着きました。すぐにドクター呼びますから』
『魔王様……ごめん俺……』
『気にしなくて良いんですよ。また修理して貰えばいいんです。ウッ……!』

 魔王はその場に崩れ落ちる。

『魔王様!』
『このスペアももう限界か……。早く光合成しなくては……』

 基地にあるガレージの奥から全身血にように真っ赤なロボットが姿を表した。6つある手の指先から黄緑のレーザーを照射し、オルタナのひどく破損した箇所を修復し、魔王を抱きかかえる。

『酷い有様ですな。ケー魔王ッヒ。すぐ玉座へお運び致しましょう』
『すまない、ドクタースカーレット』

 ドクタースカーレットと呼ばれた赤いロボットは2名を抱いたまま、セントラルドグマの最奥へと消えていった。
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