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第133話 俺、戦争開始
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車内で地平線の彼方を眺めていると、通信が入った。耳障りなノイズが走る。
『ゲイン様、敵が移動を開始。――後1時間程でこちらと交戦に入ると思われます』
画面上にホワイトクォーツのフェイスウインドウが表示された。
それと共に地図がアップデートされ大小の赤い凸の字で表示された敵が浮かび上がる。
4個師団か。1個師団10万と仮定して大体20分くらいか。まぁこの世界で戦争形式のゲームは初だしな。もしかしたら隠し玉を用意している可能性も捨てきれない。最初は軽く対地兵器を中心に使って数減らすか。まぁ、最悪あれを使って一気に刈ればいい。
「砂嵐以外の機体は光学迷彩を起動させ迎撃体制ヘ移れ。戦闘機隊のアイアン・スカイ、爆撃機隊のドラゴン・フライは発進しろ。戦車隊や遊撃隊は俺の指示を待て」
『『了解!』』
1時間後――。
豆粒にも見える物体が確認。
「アマテラス、スピーカーをオンにしろ」
「はいな」
《えーテステス。何処ぞの国の兵士諸君。俺はドワーフの谷の代理戦争の請負人。進軍を今すぐやめ、無条件降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやらんでもない》
豆粒は立ち止まらずに進行し、戦車に向かってオレンジ色の物体が飛来してきた。
あーあ、せっかく最後のチャンスあげたのに。
しかし、やっこさん中世感丸の世界に戦車出張って来てるのに臆せず殴ってくるのは予想外だったな。
「――全機迎撃開始」
光学迷彩を解除した戦闘機群が飛び出し、けたたましい炸裂音と共に地平線の彼方で赤い光が次々起こる。
『ゲインのアニキ、ちょっと良いですかい?』
「なんだ?」
『いや、何かくすぐったくて』
「あぁ、それはバイオアーマー陽炎に搭載されたパラサイトスキンだ。この外格のパッシブ明らかになってるスキルの1つでな、武器とか車両に乗るとスピーシーな見た目になるんだ。我慢してくれ」
マップ上の赤いアイコンが次々消えてゆく。
弱い。
草刈りゲーの雑魚を刈ってる気分だ。
所詮中世に魔法をプラスしただけの付け焼き刃か。
「――サンドクラウド、俺は照準のみに集中する。それ以外の操作全てを指示で伝える。ブースターを起動させろ」
『了解』
全長40メートル、横幅300メートル、重量290トン、ブースター7基を備えた走る城壁の異名を持つこいつを止められるか見物だな。トルクはガチガチの極太だ。一度動き出したサンドクラウドは隕石とぶつかろうが、傷1つ付かず止まることはない。
本来であれば内蔵がぐしゃぐしゃになるレベルのGを受けているが、こちらは外格を纏っている為一切の影響を受けない。
そのまま時速400キロ程度のスピードで突っ込み、どんどんバトルフィールドヘ近づく。
「接敵と同時にキャタピラをチェーンソーモードへと切り替えろ」
『それでどうするんですかい?』
「どうする? 愚問だな。轢き潰すに決まってんだろ」
そこかしこで起きている爆発を物ともせず肉が潰れ、骨が砕ける音を聞きながら突き進む。
「昔、ただひたすら人を轢き殺して点数稼ぐだけのゲームをやった事があるが、現実でやると流石に気味が悪いな。まぁゲームで乗ってたのは戦車じゃなくてイエローキャブだったけどな」
『ゲインのアニキちょっと良いですかい?』
「なんだ?」
『こいつ等……いや何でもねぇです』
明瞭快活のサンドクラウドが口籠った? 何故だ?
「どうしたんだ? サンドクラウド?」
『いえ、本当に何でもねぇです!』
「そうか。マップの中心近くに進んだら変形しろ」
マップを見ると2個師団が既に壊滅していた。
戦地の中程までに進み停止。揺れを感じ、覗き込んでいる照準器に移る緑色の景色が上へと上がっていく。
再度揺れを感じ変形完了を肌で感じる。
「飛び上がれ」
ブースターをフルに使い、巨大な機体を無理やり空へと上げていく。
天高く舞い上がったジョイスティックのコントローラーを傾け地表を向き、トリガーを押し込み徹甲弾を連射。
順調に数を減らしていく。
上空から120センチを誇る徹甲弾が雨あられと降り注いぐ。人間ではひとたまりもないだろう。
『ゲインのアニキ、敵殲滅率93%ですぜ』
「よし、あれを起動させ一挙に殲滅する」
《インターセプト完了》
頭に無機質なアナウンスが響く。
「全機、ポイントから離脱せよ」
空や陸を支配していたパワードギアが戦闘領域から次々離脱していく。
『照射範囲外へと緊急離脱しやすぜ』
そのまま地上に落下し、しばらく走り続けやがてサンドクラウドは動きを止めた。
「――衛星軌道滅却兵器ニライカナイ照射」
《照射開始5秒前……4……3……2……》
天へと導く黄色い光が降り注ぎ、マップ上のアイコンが全て消滅した。
「ニライカナイってのは黄泉の世界への道標らしい。起動したら最後、範囲内の物体は一切の例外なく無に帰す」
『戦闘終了しやした。こちらの被害はゼロ。やっこさんは全滅。大体17分ってところっすね』
「まぁまぁといったところか」
俺はハッチを開け、ニライカナイによって地表に出来上がった大穴を確認する。
「流石にこいつの威力はすごいな。ん?」
地上にでて、穴を見ようと外へ出たらバトルフィールドコマンダーが作ったマップではなく、画面上に備え付けられたマップのノイズが酷くなった。
あいつがいるのは地下か。
俺は再びサンドクラウドヘ搭乗しハッチを閉めた。
「サンドクラウド、今すぐ潜陸を開始しろ!」
『了解!』
照準器に移る景色がどんどん下がっていき、土の中へと進んでいく。
◆◆◆
薄暗く広い地下に建設された幾人ものくすんだ色のローブを着た者が慌ただしく動き、その中心に唯一白いローブを被った老人が声を殺し、コンソールのキーボードを叩いていた。
「我が帝国が誇る魔造歩兵が全滅!? バ、バカな!? あ、あり得ない! あれは人間の持つ欠点を全て排除した最強の兵士だった筈!」
『ンフフフ』
「何がおかしい! この木偶人形が!」
笑いを発したのは肩から下のない左にのみ長い角を生やした一角の鬼。いや、鬼を模したと思われる薄く白い色のクリアヘッドパーツを付けたロボットが内部フレームがむき出しとなった顔を揺らし、幾重にも連なる鎖によって繋がれていた。蒼く美しかったボディは長年の放置により苔が生え、やがてそこに繁殖していた細菌の影響により深い緑色へと変色していた。彼は笑う。長年の実験という名の茶番劇に終わりが近づいている。そう確信し、込み上がる嘲笑を我慢する事なく、口代わりの伝達手段である黄色い2つの目が光を発する。
『ヒューマンチェスト……のグラウンドゼロって曲が昔から好きで好きで……ブロステップって言うんだけどさ』
「いきなり一体なんの話を――」
『水爆より核爆弾より原子爆弾より……危険な爆弾がここに落ちてくるぞ。逃げた方が懸命だと思う……けどもう手遅れか」
「爆弾! 貴様の兵装にあった黒い玉の事か!」
大きな地響きと共に耳を劈くリバームのかかったドラムに凶暴なグリッチ音が地中から流れ、音と地響きはどんどん大きくなっていき、爆発音とも巨大な戦車が地中から現れ作業をしていた研究者達を踏み潰した。
「な、なななな何だああああ!?」
戦車は白いローブの前で停止し、主砲を彼の眼前に定める。
《あ~、テステス。たなぽん聞こえるか~?》
『けんちゃん! やっぱりけんちゃんだったのか!』
《当たり前だよなぁ? やっべマジでたなぽんやたんか。元気~?》
『えー本名じゃなくてミドル名のビーディで呼んでっていつも言ってるじゃんか。それに早く助けてー動けないからー』
《うぇーい、りょ》
紅く生物的な装甲の戦車のハッチからゲインが現れ、降り立つとそのまま白いローブの前まで歩いていき、インベントリからデザートイーグルを取り出し、構えながら男の前で立ち止まる。
「でけぇのと小せえのどっちがいい?」
『あー待った待ったけんちゃん! そいつ俺の獲物! ずっと我慢してたんだから! 俺の取らないでよ!』
「んーまぁ良いけど」
ゲインは鎖で繋がれた彼のボディに手を触れると鎖が一斉に飛散し、現れた魔法陣は失われたボディが再構築される。
解放された彼は地上に降り立つと、躰が浮き上がり地面スレスレで宙に浮く形となった。これは彼の装備品による特殊な待機モーションであり、突っ立っているのと何ら変わりない。首を左右にひねるが人間では無いため音はならない。これは彼の生前からある癖の様なものだった。腰に付けた革製のガンベルトを引き締め軽く息を吐いた。
『フゥ~……』
「よぉ、ブレイク・ダウン久々だな。それとも俺もリアルの方のあだ名で呼ぼうか? たなぽん」
『ビーディの方で』
「りょ」
再臨したビーディと呼ばれた白い鬼の仮面をしたロボットが手を翳す。そして両手両足に備えられた丸い宝石が光を発するとローブ毎左腕が千切られた。
「うぎゃあああああ!!」
『おい、すぐに死ぬなよ。ずっとお返ししたくて疼いてたんだからさぁ』
次々、腕が足が引き千切られていき男は達磨状態となっていく。
『ハハハハハ! 俺にお前の血を見せろ!』
「変わらねぇなビーディ」
男は異常性癖の1つである、血液嗜好症を患っており、彼にとって血とは快楽を得るための重要なファクターであった。
達磨となった男のローブがビリビリと音を立てながら上半身と下半身がズルリと離れ、真っ白な脊髄が露わとなった。
「おいビーディ。もう良いだろ。死体で遊ぶのやめろよ」
『じゃあ最後に……』
頭がぐるりと回転しゴキリと音と共に頭が首から離れると白かったローブを紅に染めていく。
彼は手を翳すをやめ、全身を包んでいたであろうローブは肩甲骨辺りのみとなった。それを彼は拾い上げ、まじまじと観察しまるで頭巾の様にすっぽりと被る
『どう?』
「んなもんどうすんだよ。いつもの戦利品か?」
『流石けんちゃん。わかってるじゃんか。結構似合うっぽくね?』
「赤ずきんちゃんが鬼のなり損ないに変身したって感じ」
両者は全く同じタイミングで拳を握り、互いの握りこぶしを付ける。
「『うい~』」
これまた全く同じタイミングで声を2人で発し、ビーディのみ拳を1回転させてからくっつけていた拳を離した。
「じゃあ、行くか」
『え、なになに? どこか行く所あるの?』
「この国に囚われているエルフを全員助ける」
『あーなるほど。奴隷商人は?』
「気に入らなかったらボコボコにする。返答次第ではその時の気分で判断」
『いいねぇ行こう』
ゲインとビーディは戦車に搭乗し、再び潜陸を開始した。
『ゲイン様、敵が移動を開始。――後1時間程でこちらと交戦に入ると思われます』
画面上にホワイトクォーツのフェイスウインドウが表示された。
それと共に地図がアップデートされ大小の赤い凸の字で表示された敵が浮かび上がる。
4個師団か。1個師団10万と仮定して大体20分くらいか。まぁこの世界で戦争形式のゲームは初だしな。もしかしたら隠し玉を用意している可能性も捨てきれない。最初は軽く対地兵器を中心に使って数減らすか。まぁ、最悪あれを使って一気に刈ればいい。
「砂嵐以外の機体は光学迷彩を起動させ迎撃体制ヘ移れ。戦闘機隊のアイアン・スカイ、爆撃機隊のドラゴン・フライは発進しろ。戦車隊や遊撃隊は俺の指示を待て」
『『了解!』』
1時間後――。
豆粒にも見える物体が確認。
「アマテラス、スピーカーをオンにしろ」
「はいな」
《えーテステス。何処ぞの国の兵士諸君。俺はドワーフの谷の代理戦争の請負人。進軍を今すぐやめ、無条件降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやらんでもない》
豆粒は立ち止まらずに進行し、戦車に向かってオレンジ色の物体が飛来してきた。
あーあ、せっかく最後のチャンスあげたのに。
しかし、やっこさん中世感丸の世界に戦車出張って来てるのに臆せず殴ってくるのは予想外だったな。
「――全機迎撃開始」
光学迷彩を解除した戦闘機群が飛び出し、けたたましい炸裂音と共に地平線の彼方で赤い光が次々起こる。
『ゲインのアニキ、ちょっと良いですかい?』
「なんだ?」
『いや、何かくすぐったくて』
「あぁ、それはバイオアーマー陽炎に搭載されたパラサイトスキンだ。この外格のパッシブ明らかになってるスキルの1つでな、武器とか車両に乗るとスピーシーな見た目になるんだ。我慢してくれ」
マップ上の赤いアイコンが次々消えてゆく。
弱い。
草刈りゲーの雑魚を刈ってる気分だ。
所詮中世に魔法をプラスしただけの付け焼き刃か。
「――サンドクラウド、俺は照準のみに集中する。それ以外の操作全てを指示で伝える。ブースターを起動させろ」
『了解』
全長40メートル、横幅300メートル、重量290トン、ブースター7基を備えた走る城壁の異名を持つこいつを止められるか見物だな。トルクはガチガチの極太だ。一度動き出したサンドクラウドは隕石とぶつかろうが、傷1つ付かず止まることはない。
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そのまま時速400キロ程度のスピードで突っ込み、どんどんバトルフィールドヘ近づく。
「接敵と同時にキャタピラをチェーンソーモードへと切り替えろ」
『それでどうするんですかい?』
「どうする? 愚問だな。轢き潰すに決まってんだろ」
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「どうしたんだ? サンドクラウド?」
『いえ、本当に何でもねぇです!』
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順調に数を減らしていく。
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『ゲインのアニキ、敵殲滅率93%ですぜ』
「よし、あれを起動させ一挙に殲滅する」
《インターセプト完了》
頭に無機質なアナウンスが響く。
「全機、ポイントから離脱せよ」
空や陸を支配していたパワードギアが戦闘領域から次々離脱していく。
『照射範囲外へと緊急離脱しやすぜ』
そのまま地上に落下し、しばらく走り続けやがてサンドクラウドは動きを止めた。
「――衛星軌道滅却兵器ニライカナイ照射」
《照射開始5秒前……4……3……2……》
天へと導く黄色い光が降り注ぎ、マップ上のアイコンが全て消滅した。
「ニライカナイってのは黄泉の世界への道標らしい。起動したら最後、範囲内の物体は一切の例外なく無に帰す」
『戦闘終了しやした。こちらの被害はゼロ。やっこさんは全滅。大体17分ってところっすね』
「まぁまぁといったところか」
俺はハッチを開け、ニライカナイによって地表に出来上がった大穴を確認する。
「流石にこいつの威力はすごいな。ん?」
地上にでて、穴を見ようと外へ出たらバトルフィールドコマンダーが作ったマップではなく、画面上に備え付けられたマップのノイズが酷くなった。
あいつがいるのは地下か。
俺は再びサンドクラウドヘ搭乗しハッチを閉めた。
「サンドクラウド、今すぐ潜陸を開始しろ!」
『了解!』
照準器に移る景色がどんどん下がっていき、土の中へと進んでいく。
◆◆◆
薄暗く広い地下に建設された幾人ものくすんだ色のローブを着た者が慌ただしく動き、その中心に唯一白いローブを被った老人が声を殺し、コンソールのキーボードを叩いていた。
「我が帝国が誇る魔造歩兵が全滅!? バ、バカな!? あ、あり得ない! あれは人間の持つ欠点を全て排除した最強の兵士だった筈!」
『ンフフフ』
「何がおかしい! この木偶人形が!」
笑いを発したのは肩から下のない左にのみ長い角を生やした一角の鬼。いや、鬼を模したと思われる薄く白い色のクリアヘッドパーツを付けたロボットが内部フレームがむき出しとなった顔を揺らし、幾重にも連なる鎖によって繋がれていた。蒼く美しかったボディは長年の放置により苔が生え、やがてそこに繁殖していた細菌の影響により深い緑色へと変色していた。彼は笑う。長年の実験という名の茶番劇に終わりが近づいている。そう確信し、込み上がる嘲笑を我慢する事なく、口代わりの伝達手段である黄色い2つの目が光を発する。
『ヒューマンチェスト……のグラウンドゼロって曲が昔から好きで好きで……ブロステップって言うんだけどさ』
「いきなり一体なんの話を――」
『水爆より核爆弾より原子爆弾より……危険な爆弾がここに落ちてくるぞ。逃げた方が懸命だと思う……けどもう手遅れか」
「爆弾! 貴様の兵装にあった黒い玉の事か!」
大きな地響きと共に耳を劈くリバームのかかったドラムに凶暴なグリッチ音が地中から流れ、音と地響きはどんどん大きくなっていき、爆発音とも巨大な戦車が地中から現れ作業をしていた研究者達を踏み潰した。
「な、なななな何だああああ!?」
戦車は白いローブの前で停止し、主砲を彼の眼前に定める。
《あ~、テステス。たなぽん聞こえるか~?》
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《当たり前だよなぁ? やっべマジでたなぽんやたんか。元気~?》
『えー本名じゃなくてミドル名のビーディで呼んでっていつも言ってるじゃんか。それに早く助けてー動けないからー』
《うぇーい、りょ》
紅く生物的な装甲の戦車のハッチからゲインが現れ、降り立つとそのまま白いローブの前まで歩いていき、インベントリからデザートイーグルを取り出し、構えながら男の前で立ち止まる。
「でけぇのと小せえのどっちがいい?」
『あー待った待ったけんちゃん! そいつ俺の獲物! ずっと我慢してたんだから! 俺の取らないでよ!』
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ゲインは鎖で繋がれた彼のボディに手を触れると鎖が一斉に飛散し、現れた魔法陣は失われたボディが再構築される。
解放された彼は地上に降り立つと、躰が浮き上がり地面スレスレで宙に浮く形となった。これは彼の装備品による特殊な待機モーションであり、突っ立っているのと何ら変わりない。首を左右にひねるが人間では無いため音はならない。これは彼の生前からある癖の様なものだった。腰に付けた革製のガンベルトを引き締め軽く息を吐いた。
『フゥ~……』
「よぉ、ブレイク・ダウン久々だな。それとも俺もリアルの方のあだ名で呼ぼうか? たなぽん」
『ビーディの方で』
「りょ」
再臨したビーディと呼ばれた白い鬼の仮面をしたロボットが手を翳す。そして両手両足に備えられた丸い宝石が光を発するとローブ毎左腕が千切られた。
「うぎゃあああああ!!」
『おい、すぐに死ぬなよ。ずっとお返ししたくて疼いてたんだからさぁ』
次々、腕が足が引き千切られていき男は達磨状態となっていく。
『ハハハハハ! 俺にお前の血を見せろ!』
「変わらねぇなビーディ」
男は異常性癖の1つである、血液嗜好症を患っており、彼にとって血とは快楽を得るための重要なファクターであった。
達磨となった男のローブがビリビリと音を立てながら上半身と下半身がズルリと離れ、真っ白な脊髄が露わとなった。
「おいビーディ。もう良いだろ。死体で遊ぶのやめろよ」
『じゃあ最後に……』
頭がぐるりと回転しゴキリと音と共に頭が首から離れると白かったローブを紅に染めていく。
彼は手を翳すをやめ、全身を包んでいたであろうローブは肩甲骨辺りのみとなった。それを彼は拾い上げ、まじまじと観察しまるで頭巾の様にすっぽりと被る
『どう?』
「んなもんどうすんだよ。いつもの戦利品か?」
『流石けんちゃん。わかってるじゃんか。結構似合うっぽくね?』
「赤ずきんちゃんが鬼のなり損ないに変身したって感じ」
両者は全く同じタイミングで拳を握り、互いの握りこぶしを付ける。
「『うい~』」
これまた全く同じタイミングで声を2人で発し、ビーディのみ拳を1回転させてからくっつけていた拳を離した。
「じゃあ、行くか」
『え、なになに? どこか行く所あるの?』
「この国に囚われているエルフを全員助ける」
『あーなるほど。奴隷商人は?』
「気に入らなかったらボコボコにする。返答次第ではその時の気分で判断」
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