126 / 151
第126話 俺、認める
しおりを挟む
「飯だ飯。丁度いい感じに腹減ってるところだ。食ったらアマテラス、陽炎の外格を綺麗にしてやるからな」
「ほんまに? 嬉しおす。ダーリン直々にお色直ししてくれるなんて夢みたいやわ~」
「それだけ錆びてるとクリーンじゃ落とせないからな」
「なら、早う食べて。ほら早う」
こいつの食べてってセクシーな声のせいで別の意味に聞こえる。見た目がスピーシー過ぎて丁重にお断りする事不可避だけど。
ゴキゲンな様子のアマテラスないし陽炎がテーブルに近づき、バレエダンサーの様にクルッと一回転して片方ずつ持っていた銀色のトレイを置いた。
「さて、スチームパンクめいた料理がどんなもんか見せて貰おう」
ホテルにある取っ手付きの例の蓋が開かれ、俺達の前に現れたのはボウルが1つ。2つの木製スプーンがどろりとした白濁液の上に浮いている。もう片方の蓋を開け中を確認したが、全く同じものだった。
「わぁ……何ていうかまるで精え――」
「おい、インド系スチームパンクマニア、それ以上先の事喋ったらこれ鼻から吸わせるぞ」
「僕はハーフだよ」
「うるさい。ちょっと黙れ」
まじか、悪い冗談だろ。こんなの喰えってのか。
顔を近づけにおいを嗅いでみたが、少なくともゲソっぽい感じはしない。何の臭いもしない。無臭だ。もしかしたらお粥である可能性が微レ存? いや、お米の臭いもしない。里芋的なでんぷんの塊かも知れない……。
「……いただき……まーす」
俺が謎の白濁液Xをどう攻略しようか迷っている最中、まさかのエルが自爆特攻をしかけた。
まずい、何がまずいって絵面がまずい。我がパーティ中見た目JSっぽさナンバーワンの彼女が白濁液をスプーンですくい口に運んで咀嚼している。とてつもなくまずい。どこぞのロリコン賢者が見たら泣いて喜びそうな光景ではある。
「ほ……んのちょっぴ……りお肉の味……」
「こマ!? ボウルいっぱいの精液じゃなかったんか!?」
「ゲイン……きたない……」
「ごめん、お姉さん許して」
「まぁ、多……少はね?」
どう見てもあれだが、肉の味がするという。
ええい、ままよ!
勇気を出し、スプーンですくい口へと運ぶ。食感は見た目通りというか、溶かして冷えて固まったこんにゃくを肉の味にした様なものか。やはり何かしらのでんぷんか何かなのだろう。しかし、ご多分に漏れず味付けが極薄でほのかに肉っぽい味がするという感じだ。
「う~ん、味薄いなぁ」
「ねぇねぇゲイン君」
「なんだ、スチームガイ」
「スチームガイって何さ。そんなことより、もう片方の蓋を観察してたんだけど、取っ手がスライドして内部に組み込まれたギアが動く様になってるよ。やってみるね」
彼が蓋の取っ手をスライドさせると、カタカタと音を内部で立て蓋が震え出し、白い蒸気が小さく放出された。
彼が取っ手を元の位置に戻した瞬間、蓋が煙の様になって消えると、白い皿の上には熟成された熱々の燻製肉が2枚に切り分けられ、丁寧に盛られていた。
おまけにいつの間にかナイフとフォークまでトレイに置かれている。先程まで白濁液が限界まで入っていたでかいボウルは消え去っている。
「あぁ……スチームパンク万歳……」
「おい、冗談だろ」
「じゃあ、エスカさん! 僕たちは頂こうか!」
「あぁ……そうだな。そうしよう。できればお兄様と一緒に食べたかった……」
「ん? エスカ俺を呼んだ?」
「い、いえ! 何でもありません!」
俺は自分の前にある皿に向き直り、エルと目を合わせる。
「エル取っ手をスライドさせるんだ」
「了解」
彼女が取っ手をスライドさせ、全く同じ過程を経て眼前には熱々の熟成肉。
匂いを嗅ぐととても美味そうな香りが鼻孔をくすぐる。
「おぉ~、すごい……美味しそう……」
あのシュガージャンキーのエルが肉を前に美味そうだと。明日は隕石が降るかもしれんな。
いや、しかしこの匂いと見た目は冗談抜きで美味そうだ。程よくミディアムレアに焼かれ、サイズは一切れ200グラムといったところか。
「じゃ、いただきます」
うっま!
なんだこの肉!?
味付けは塩コショウ? ニンニク? よくわからんが死ぬほど美味い。おまけにすっと溶けて全くクドくない。
「お兄様! このお肉すっごく美味しいです!」
「わかるマン」
「ハー! 思わず立ち食いしちゃったよ! やっぱスチームパンクを……最高やな! ね、ゲイン君!」
「認めるマン」
俺達は各々感想を言いながら異常なほど美味い肉を完食した。
――そして少し休憩をした後、俺はインベントリから錆落としのポーションを陽炎に満遍なくぶっかけ、細心の注意を心掛けながら研磨石を右手に持ち、錆ついた部分を優しめに擦ると赤銅色から血の様に赤い真紅のボディが現れた。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫なんだよね! お腹と両方の腕と膝にある培養液がたっぷり入ったカプセル破ったりしないでよ! お願いだから!」
「横でべちゃくちゃ喋んな! 手元が狂う!」
オレンジ色に鈍く光る拳ほどの大きさのカプセル、これこそこの外格がヤバイ元凶だ。こいつにはアヌンナキの威光というブラックボックス化されたスキルが付いており、発動条件が一切不明なのだが強制的に発動させる方法が1つだけあり、それがこの5つあるちょい硬めの膜をパキっと割る事だ。割れたら最後、誰にも止められない恐ろしいスキルが発動する。
俺は今、言うなればニトログリセリンの海でタバコを吸いながらイカダの掃除してる様なもんだ。
こんなに緊張してるのは初めて外格を着た時以来だ。
――やり遂げたぜ。
なんということでしょう。3時間33分の格闘末、陽炎の錆びついていたボディは真紅の光沢が怪しく輝き、上腕辺りまで伸びた真っ白な冷却ファイバーはまるで風になびくサラサラヘアーの様に。
「おおきにー! ダーリン愛してる!」
「フッ……自分の才能が怖い」
「割とマジで偉業だよ。スピーシーボディはかなり柔らかくて、普通の外格を綺麗にするつもりで触ると速攻でパキッとイっちゃうからね」
「だるるぉ? やっぱ俺って最強だよな」
「何を以て最強と言っているのかよくわからないけど同意しとくよ」
「そういえば、今の今まで忘れてたんだが、隣室静か過ぎないか」
「そうだねぇ」
ま、まさか……まずい! やはりあのバカ痴女2人をアーサーと一緒にするのは間違いだったか!
「外着!」
俺の躰に陽炎が瞬時に着装され、俺は勢いそのまま扉を開け、隣室の扉に手をかけると扉が消え去り、室内には誰一人いないもぬけの殻だった。
「ほんまに? 嬉しおす。ダーリン直々にお色直ししてくれるなんて夢みたいやわ~」
「それだけ錆びてるとクリーンじゃ落とせないからな」
「なら、早う食べて。ほら早う」
こいつの食べてってセクシーな声のせいで別の意味に聞こえる。見た目がスピーシー過ぎて丁重にお断りする事不可避だけど。
ゴキゲンな様子のアマテラスないし陽炎がテーブルに近づき、バレエダンサーの様にクルッと一回転して片方ずつ持っていた銀色のトレイを置いた。
「さて、スチームパンクめいた料理がどんなもんか見せて貰おう」
ホテルにある取っ手付きの例の蓋が開かれ、俺達の前に現れたのはボウルが1つ。2つの木製スプーンがどろりとした白濁液の上に浮いている。もう片方の蓋を開け中を確認したが、全く同じものだった。
「わぁ……何ていうかまるで精え――」
「おい、インド系スチームパンクマニア、それ以上先の事喋ったらこれ鼻から吸わせるぞ」
「僕はハーフだよ」
「うるさい。ちょっと黙れ」
まじか、悪い冗談だろ。こんなの喰えってのか。
顔を近づけにおいを嗅いでみたが、少なくともゲソっぽい感じはしない。何の臭いもしない。無臭だ。もしかしたらお粥である可能性が微レ存? いや、お米の臭いもしない。里芋的なでんぷんの塊かも知れない……。
「……いただき……まーす」
俺が謎の白濁液Xをどう攻略しようか迷っている最中、まさかのエルが自爆特攻をしかけた。
まずい、何がまずいって絵面がまずい。我がパーティ中見た目JSっぽさナンバーワンの彼女が白濁液をスプーンですくい口に運んで咀嚼している。とてつもなくまずい。どこぞのロリコン賢者が見たら泣いて喜びそうな光景ではある。
「ほ……んのちょっぴ……りお肉の味……」
「こマ!? ボウルいっぱいの精液じゃなかったんか!?」
「ゲイン……きたない……」
「ごめん、お姉さん許して」
「まぁ、多……少はね?」
どう見てもあれだが、肉の味がするという。
ええい、ままよ!
勇気を出し、スプーンですくい口へと運ぶ。食感は見た目通りというか、溶かして冷えて固まったこんにゃくを肉の味にした様なものか。やはり何かしらのでんぷんか何かなのだろう。しかし、ご多分に漏れず味付けが極薄でほのかに肉っぽい味がするという感じだ。
「う~ん、味薄いなぁ」
「ねぇねぇゲイン君」
「なんだ、スチームガイ」
「スチームガイって何さ。そんなことより、もう片方の蓋を観察してたんだけど、取っ手がスライドして内部に組み込まれたギアが動く様になってるよ。やってみるね」
彼が蓋の取っ手をスライドさせると、カタカタと音を内部で立て蓋が震え出し、白い蒸気が小さく放出された。
彼が取っ手を元の位置に戻した瞬間、蓋が煙の様になって消えると、白い皿の上には熟成された熱々の燻製肉が2枚に切り分けられ、丁寧に盛られていた。
おまけにいつの間にかナイフとフォークまでトレイに置かれている。先程まで白濁液が限界まで入っていたでかいボウルは消え去っている。
「あぁ……スチームパンク万歳……」
「おい、冗談だろ」
「じゃあ、エスカさん! 僕たちは頂こうか!」
「あぁ……そうだな。そうしよう。できればお兄様と一緒に食べたかった……」
「ん? エスカ俺を呼んだ?」
「い、いえ! 何でもありません!」
俺は自分の前にある皿に向き直り、エルと目を合わせる。
「エル取っ手をスライドさせるんだ」
「了解」
彼女が取っ手をスライドさせ、全く同じ過程を経て眼前には熱々の熟成肉。
匂いを嗅ぐととても美味そうな香りが鼻孔をくすぐる。
「おぉ~、すごい……美味しそう……」
あのシュガージャンキーのエルが肉を前に美味そうだと。明日は隕石が降るかもしれんな。
いや、しかしこの匂いと見た目は冗談抜きで美味そうだ。程よくミディアムレアに焼かれ、サイズは一切れ200グラムといったところか。
「じゃ、いただきます」
うっま!
なんだこの肉!?
味付けは塩コショウ? ニンニク? よくわからんが死ぬほど美味い。おまけにすっと溶けて全くクドくない。
「お兄様! このお肉すっごく美味しいです!」
「わかるマン」
「ハー! 思わず立ち食いしちゃったよ! やっぱスチームパンクを……最高やな! ね、ゲイン君!」
「認めるマン」
俺達は各々感想を言いながら異常なほど美味い肉を完食した。
――そして少し休憩をした後、俺はインベントリから錆落としのポーションを陽炎に満遍なくぶっかけ、細心の注意を心掛けながら研磨石を右手に持ち、錆ついた部分を優しめに擦ると赤銅色から血の様に赤い真紅のボディが現れた。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫なんだよね! お腹と両方の腕と膝にある培養液がたっぷり入ったカプセル破ったりしないでよ! お願いだから!」
「横でべちゃくちゃ喋んな! 手元が狂う!」
オレンジ色に鈍く光る拳ほどの大きさのカプセル、これこそこの外格がヤバイ元凶だ。こいつにはアヌンナキの威光というブラックボックス化されたスキルが付いており、発動条件が一切不明なのだが強制的に発動させる方法が1つだけあり、それがこの5つあるちょい硬めの膜をパキっと割る事だ。割れたら最後、誰にも止められない恐ろしいスキルが発動する。
俺は今、言うなればニトログリセリンの海でタバコを吸いながらイカダの掃除してる様なもんだ。
こんなに緊張してるのは初めて外格を着た時以来だ。
――やり遂げたぜ。
なんということでしょう。3時間33分の格闘末、陽炎の錆びついていたボディは真紅の光沢が怪しく輝き、上腕辺りまで伸びた真っ白な冷却ファイバーはまるで風になびくサラサラヘアーの様に。
「おおきにー! ダーリン愛してる!」
「フッ……自分の才能が怖い」
「割とマジで偉業だよ。スピーシーボディはかなり柔らかくて、普通の外格を綺麗にするつもりで触ると速攻でパキッとイっちゃうからね」
「だるるぉ? やっぱ俺って最強だよな」
「何を以て最強と言っているのかよくわからないけど同意しとくよ」
「そういえば、今の今まで忘れてたんだが、隣室静か過ぎないか」
「そうだねぇ」
ま、まさか……まずい! やはりあのバカ痴女2人をアーサーと一緒にするのは間違いだったか!
「外着!」
俺の躰に陽炎が瞬時に着装され、俺は勢いそのまま扉を開け、隣室の扉に手をかけると扉が消え去り、室内には誰一人いないもぬけの殻だった。
0
お気に入りに追加
1,539
あなたにおすすめの小説


World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる