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第123話 俺、道具屋に行く

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 俺は廊下に立ち、外格の胸部真ん中みぞおち辺りにあるボタンを押す。
 すると、外格がパックリと観音開きのような形態に変態し力を軽く込めると簡単に抜け出すことができた。
 出た瞬間、俺の体と融合状態にあった外格内にあるくだが自動的離れ、橙色に発光しながら外格へと帰っていき観音開き状態から通常の形態へ戻る。

 外格から出る際、培養液を体内に取り込む為の管が鼻に問答無用で挿入される。
 それを力任せに引き抜くとオレンジ色に輝く液体がごく少量だが地面に滴り落ち、管は外格に帰っていき陽炎の姿も元の形態へと戻っていく。

「うっひゃ~、なんというかやっぱ実にその……恒星からの生命体Zみたいでかっこいいと……思うよ」
「どちらかといえばサターン・アタックに出てきた敵対者をモデルにしたんだけどな」
「あ、あ~なるほど。だから長い髪の毛生やしてるんだね。最初は歌舞伎がモチーフなのかなぁと思ったよ。髪色は赤じゃなくて白だけど。ゲイン君ずいぶん昔の映画が好きなんだねぇ」
「今のVR映画より一世紀前に主流だった特撮の方が好きなんだよ俺は! 陽炎の見た目に関しちゃなるほど歌舞伎ね。そうだな、当たらずも遠からずって感じ」
「誰がかぶき者やてぇ?」

 アマテラスが外格を動かし、俺達の間に割って入る。

「誰もそんなこと言ってないだろ!? なぁ!?」

 俺はアルジャ・岩本にアイコンタクトし彼も同調したのか、俺と一瞬顔を合わせるとすぐに陽炎を動かしているアマテラスの方に向き直り口を開いた。

「そ、そうだよ! それにそのボリューミィなヘアスタイルとっても似合ってて僕好きだな!」
「よーし、じゃあここにアマテラス残って留守番よろしくぅ! 買いもん行くから!」
「なんかはぐらかされた気もするけど、ええどす。気ぃつけていってらっしゃい」
「よっしゃイクゾー!」

 俺たちは階段を降りて、ロビーを抜け宿屋を出ようと扉の前に立つと入ったときと同じように蒸気が発生し扉が消え去った。
 外へ出て上空を見上げると黒い雲が陽の光を完全に遮っている。

「ぎょええええええええええええええええ?!!」
「いやああああああああああああああああ!!?」

 アンニュイな気分に浸った瞬間、実に間の抜けた叫び声が宿屋をから聞こえてきた。

 アーサーに施したセーフティが発動したか。
 ちゃんと機能してるみたいでよかった。あいつも難儀だなぁ。

 セーフティの起動を合図に俺は歩を進め、皆も俺に追従する。

「何……さっきの叫び声……」
「気にすんな。ゴキブリでも見たんだろ」
「ふーん……ゴキブリ……嫌い」
「好きなやつなんていねぇよ」

 くだらない話を交えつつ、街頭らしき緑色に光る物体が均等に並ぶ道を歩く。

 すれ違う獣人はやはり俺の知っている獣人達とは違う。顔面が完全に動物のそれだ。
 馬の獣人がいたとして、手足は人間と同じなのだろうか? はたまたひづめなのだろうか?
 ひづめであった場合人間の様な手足がない訳で、武器の使用や手入れができなくなるんだよな。
 どうやって生活するんだろうか。普通の馬みたいに生活するのかな。だとしたら、人の姿であるメリットほとんど消失するよな。例のスチームアイロンだかなんだかも気になる。
 そもそもさっきから獣人とばっかすれ違っている。この中から鳥人を探し出す訳か。クッソだるいな。代理に立てたあいつ役に立てば良いんだけど。
 まぁ、それは追々考えるとするか。とりあえずまずはこの都市に関しての情報が欲しい。
 それと外格が使用不可になった原因も究明しないと――。

「お兄様! あ、あの! 頼みがあるんですが!」

 思考を巡らせていた道中、顔を真っ赤にしうつむき気味のエスカが俺の右手を掴んできた為、頭の中がリセットされた。

「どったの?」
「て、手をつないでいただけませんか!」

 え、いやもうガッチリ俺の手握ってるんですけど。
 貴女の手汗でベチョベチョになってるんですけど。

「えっと……あ、うん。どうぞ。もうなってますけど。既成事実で良いなら」
「ハッ!? すいません! 手が勝手に! 手汗が止まらない……。腕! 腕組みして頂いてよろしいでしょうか!」
「お? おう。どうぞ」
「スゥ~、失礼します!!」

 一呼吸置いてエスカは繋いでいた手を離すと俺の腕を掴み、胸の谷間に下から押し付けてきた。

 腕折れそうなんだけど! 思ってたのとだいぶ違うんだけど! これ警官が不審者捕まえるときにやるやつだよ!

「あの提案なんですけど、普通に腕組みでよくない?」
「な、何か間違っていましたか!? エルフはこうやって腕組みするのですが」

 エルフの腕って軟体なのかな。これ続けてると骨折不可避だと思うんだけど。
 まぁ亜人だし人間と比べること自体ナンセンスなのかも知れん。

「えっと谷間に入れるんじゃなくて普通に俺の腕を掴めばいいんだよ」
「わかりました。こうですか?」

 エスカは俺の|拘束・・を解き腕に捕まる。

「そうそう。これが俺の知ってる腕組みだ。恋人同士がやるやつ」

 がっつり腕に胸が当たるな。歩くたびに軽微に豊満な胸が上下に揺れてる。

「こ、恋人同士!? 恋人同士……私とお兄様が……エヘヘ」

 前を見ると道具屋の看板が目に入った。

「丁度いいところに道具屋みーっけ。ちょっくら見物するか」

 目の前にはショーウィンドウが飾ってあるがどれも鉄製の歯車が陳列されている。
 壁に白い塗料でデカくでショップと英字で書かれているのでわかりやすくはあるのだが。

「うおおおおおおおお!! 歯車! 歯車だよ! ゲイン君!」
「ハイハイ、ソウデスネー」
「ゲイン君! お金ちょうだい!」
「いや、一緒に払うから良いよ」
「ありがとうゲイン君!」

 今までで一番テンション高いじゃねぇか。

 店の出入り口であろう取っ手を引く。白い煙が吹き出し鉄製の扉が消え去った。
 店内はそれなりに広く、天井に淡い光を放つ球体が浮いている。
 あれはライトボールという魔術師が初期に覚えられる魔法の1つだ。
 まるで別の世界へ移動してしまった錯覚を俺は無意識に感じていたのか、ハガセンの魔法を見て安心している自分に気づいた。

「なにがスチームアイロンだよ。こっちは強化外骨格着てんだぞ。サイバーパンクと特撮ロボットバンザーイ」
「ねぇ、何光る球体見て独り言言ってるのさ」
「んだよ……なにそれは」

 アルジャ・岩本はいつの間にか見慣れぬ眼鏡かけていた。

 おそらくだがモノクルだ。
 レンズが3つついており、動力源不明の金色の派手な歯車が幾つも連動して動いているのがわかる。
 モノクルのレンズがカチャカチャ音を立てながら切り替わる。

「どうだい? 最高にクールだろ?」
「3つ付いてる意味わからん。1つで充分だろ。俺の好きなロボットアニメ、アーマードグレインに出てきたドクターマッドネスみたいだわ。物語中盤に主人公機を模して作ったダークグレインってロボット作るんだけど精巧に作りすぎた結果、正義の心までコピーしちゃって最後は暴走したダークグレインに剣で潰されておっ死んだやつにそっくり」
「知らないよそんなマニアックなロボットアニメ! カァーッ!! わかってない! 用途不明なところが良いんじゃないか! これがエモいんだよ! わかる?」
「エモ? あ~スクリーモの派生元だろ? 個人的にはピコリーモの方が好きなんだよな。電子音入ってるやつ」
「違うよ! 何の話!?」
「え、音楽のジャンルの話だろ? 良いよなピコリーモ」
「いや全然知らないし! もういいよこれ買う!」
「あっそ」

 アルジャ・岩本から入れ替わるように今度はエルが俺の元へとやってきた。

「似合う?」

 現れた彼女はゴツいガスマスクの様な物を付け、クルクルとゆっくり右に一回転して俺に見せてくる。
 ただゴーグルは付属しておらず、茶色の吸収缶キャニスターのみの簡素なものだ。
 古ぼけた革製のベルトが耳に引っかかっているのがわかる。
 つまりは普通のマスクと同じの様だ。
 これもまた意味不明な代物だ。キャニスターの缶の部分に中心に白い歯車が設置されている。

「――なにそれ」
「これ……出っ張りが外れる様になってて……中に液体入れてまたつけると、歯車が動いて液体が霧になって匂いとか効果が得られるの……」
「それで?」
「出っ張りの中にチョコを溶かしたら素敵な事になる……ならない?」
「おっそうだな。欲しいの?」

 エルはコクリと頷いた。

「そう……。欲しいなら買ってどうぞ」
「うん……。そうする」

 俺も買い物を済ませるか。
 店主らしきドワーフがいるカウンターへと俺は向かう

「おい店主、この都市の地図と大陸の地図くれ」
「へい、らっしゃい。地図2つで200ローゼスね」

 店主はカウンターに下から羊皮紙に紙を2枚取り出し、カウンターへ置いた。
 俺は2枚の金貨を置き、スクロール状の地図を右手で持った。

「にーさん方この辺の人じゃないね」
「わかるのか?」
「そりゃそうでさ。普通の人間はこの都市までたどり着くこと自体が命がけ。人間の団体客を見たのは二度目でさ」
「二度目? 前にもこの都市に人が来ていたことがあるのか」
「えぇ、にーさん達以上に妙ちきりんな格好してましたぜ。あっそうだ! ちょっと待っておくんなせぇ。思い出したことがあるんでさ」

 そう言うと赤毛の髭を生やしたドワーフは再びカウンターの下に潜りガサガサと音をたてるとむくりと上体を起こし、赤く一定のリズムで発光するガントレットをカウンターにドンと置いた。

「ひゃーやっぱとんでもねぇ重さだ」
「こいつは!!」
「いえね、10年位前だったか? 団体で来ていた1人に青い躰のそりゃあ大層品質の高いフルプレートの客人がいましてね? 団体さんが店から出ていったのに1人だけここに残ってこいつを置いていったんでさ。いつか俺達と同じ様に変な雰囲気を持つ客が来たら絶対に渡してくれってこと付を頼まれやしてね? べらぼうな金額とこのガントレットを置いて店から出ていったんですよ」
「よく売ろうと思わなかったもんだ」
「そりゃあしましたさ。でもこれ誰の手にもはまらないし、むちゃくちゃ重いしで売れないとわかって諦めやした」
「だろうな。だってこいつは――」

 俺は赤く点滅する青いガントレットを片手で持ち、小脇に抱える。

「ロボットの手首だからな」
「ハァ……聞いたことすらねぇです。でも思った通りわかる人で一安心でさぁ。処分しようにもできなくて困ってたんす」
「こいつはもらっとくぜ。あとあの白いひらひらを着てる奴が付けてるゴーグルと緑色の髪した小柄な女の子が付けてるマスクくれ」
「へい、えー、ゴーグルは2000000万ローゼス、マスクは4000000万ローゼスです」
「タカァイ!?」
「ここでしか作れないもんですんでね、付加価値やら製法やらで値段が上がっちゃうんでさ」
「なるほど……」

 俺はインベントリから600万分の金貨を麻袋に入れて取り出し、右手で持つとカウンターへ置く

「へい、まいど! ご贔屓に!」
「集合! もう行くぞ!」

 バラバラに行動してた皆が集まったのを確認し、俺は道具屋から出るのだった。
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