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第119話 俺、運転席へ座る

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 新たな大陸ヘ差し掛かかりる。
 もうかなり長い時間航行を続けている。

「何度もすまん、あとどの位で着くんだ?」
「そうですね、もう第6大陸には着きました。このまま真っ直ぐ行けば10キロ程行けば都市に着くと思います!」
「なるほど、サンキュー」

 アーサーをよく見ると小さく肩を震わせているのがわかった。

「お前どうしたんだ?」
「す、少し冷えますね」
「ヘーックション! ねぇゲイン君! この戦艦は中に入ったりできないのかい?」

 盛大にくしゃみしたアルジャ・岩本が鼻水を垂らしながら近づいてきた。

「そんなに寒いのか?」
「君はガッチリしたパワードスーツ着込んでるから気付かないんだよ!」

 手を見ると外格表面に水泡が出来ているのがわかった。画面上の表示を見ると外格内の温度は29度を表している。

「表示上はいい感じに常温になっていやがる。ネメシス!」

 耳に不愉快なノイズが走り、いつもは脳裏にネメシスの姿が映るはずが、ブラックアウトした映像が続くのみ。
 今まで感じたことのない焦りが湧き上がる。

「ネメシスが……消えた? 何だこれは?」
「ねぇ! マジで寒いんだって!」

 アルジャ・岩本の悲痛な叫びで我に戻る。

「あ、あぁわかった。煉獄よりいでし炎獄の精霊よ! 顕現せよ、ヘルイフリート!」


 俺の右肩に小さな黒い炎の柱が発生しすぐに消え去ると、黒い炎をまとったトカゲが現れた。

「このトカゲは?」
「炎の精霊ヘルイフリートだ、こいつを舐めてもらっちゃ困る。いるだけで周りが暖かくなるんだぞ」
「あ、確かに心地よい暖かみがある。ヤバそうな名前なのに……アツゥイ!」

 ヘルイフリートの口から吐かれた熱湯をアルジャ・岩本がその身に受けている所を見てスキルが発動できたという事実に安心感を得た瞬間、体が鉛の様に重くなり、姿勢を保つのが困難になる。

「!?」

 外格に標準搭載されたオートバランサーが機能しなくなった?

「ヤバイなこれは……嫌な予感がする」
「お兄様大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈――」

 突如として甲板が消え、俺以外の全員が空中へ放り出された。

「――ッ!? 緊急同調!」

 外格が全てキャストオフされ、状況に適正化された外格が着装され、脳裏に金髪で両目を瞑ったまま微笑む紅白の巫女服を着た女性が現れた。

「お前は……エル、アーサー! エリアルダイブを使え! 俺の考えてる事がわかるか!?」
「ハイ!」

 俺は落下中のエスカを抱き、周りを見ようとするが彼女に密着され首を動かすことができない。

「お、お兄様申し訳ありません。こんな時に、しかし私も1人の女性としてやはり憧れの男性に抱いて貰えるというのは――」

 他の奴らは大丈夫だろうか。この外格の能力ならイケる筈だが。

「お二人共無事で良かったです」
「アー君から離れなさいよ!」
「嫌ッスよ! 今落ちたら地面に真っ逆さまじゃないッスか! アーサーきゅんを独占しようたってそうはいかないッスよ」
「私は幼馴染だつってんだろ!」
「そんなの関係ないッス!」

 まぁ、無事みたいで良かった。問題はあっちだ。

「お……重い~」
「ご、ごめんね」

 エルが白衣を両手で掴み、アルジャ・岩本が宙ぶらりんになっている。
 どうやら皆無事みたいで良かった。

「ゆっくり地上まで降りるぞ」

 徐々に地上へ近づいていき着地する。

「――お兄様さえ良ければもうしばらくこのままで――」
「あの、エスカさん? もう皆離れたよ?」
「ハッ!? 申し訳ございません!」

 顔をピンク色に紅潮させた彼女は一気に俺から離れた。

「かなんわ。うちんダーリンにずっと引っ付くなんて」
「アマテラス、ちょっと待ってな?」

 京都弁で甘ったるい声が俺の頭に響く。俺は右手でももを叩き、出てきたケースを手に取り、中にある白い歯車を取り出し側に放る。

「ウェイクアップ! 白鷹しろたか!」

 歯車が分裂し大型バスが出来上がった。俺はバスの中央にある扉の横にある小さなドアを開くとスイッチがあり、それを上に向けるとプシューという空気が取り込まれる音と共に扉が開く。

「よーし、皆入れ入れ」
「あー寒い!」

 俺は運転席へ座り、全員がバスの席へ座ったのを確認。運転席右側にあるスイッチを弄ると、再度空気が取り込まれた音と共に扉が閉じた。

 ハンドルの横にある黒いつまみを回しエアコンを起動させる。

「皆ちょっとトラブったけど大事ないな、黒いひもありますよね」
「ハイ、あります!」
「えー、それを反対側にある赤いボタンがみえるでしょうか。その穴に紐の出っ張りをカチッと音が出るまで突っ込みましょう」

 カチッっという音が次々聞こえだした。

「ハイ、安全の為だからね。俺がいいと言うまで座っていましょうね」
「ゲイン様、私を呼んでくださり感謝感激です」
「あぁ白鷹。ライトを付けてエンジンを始動させろ。あとは俺がやる」
「承知致しました」

 運転席の取っ手にアルジャ・岩本が掴まり、俺の側に陣取る。

「あの、ゲイン君」
「何?」
「イヤに様になるけど君が運転するのかい?」
「あぁ、まあね」
「で、できるのかい?」
「俺がバスやトラックの運転できるのが、何か問題でも?」
「い、いやその錆た外格は何だいそれ?」
「こいつは諸事情で封印していた外格。バイオアーマー陽炎カゲロウだ」
「か、陽炎だってぇ!? 大丈夫なのかい!? だって封印してたって事は君ですら操れなかったって事だろう!? だってその外格は確か……」
「こいつをディスるのはやめろ!」
「嫌やわ。そないに褒めんといて」

 脳裏のアマテラスは口元に手を持っていき肩を小さく揺らしている。

 この外格、バイオアーマー陽炎は俺がある理由により封印していた外格だ。
 外格の中で唯一無二のある特徴があるのだが、その特徴があまりにも無慈悲かつ狂暴な為に使用を禁じた過去がある。

 緊急同調は着装している外格が何らかの理由事象により、エラーを起こした場合のトラブルシューティング機能であり、全外格で最適なものを選定し瞬時に着装される。

 よりによって陽炎とは……。幸先不安だが、仕方がない。

「アーサー、このまま真っ直ぐ進めば良いのか?」
「ハ、ハイ大丈夫です」
「良し、出発するぞ」

 外はいつの間にか白い雪に覆われていた。
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