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第115話 俺、空きっ腹に飯を食う

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「いやーしかし大したもんだよね。 あそこまでやるとは思わなかったよ」
「お前あいつらがあそこまで出来るって本当に思ってんの?」
「どういうことだい?」
「俺のステータスの2割だっけ? 言っとくけど今のあいつらじゃ10年経っても終わらねえよ」
「え? でも現にドッペルゲンガー君は倒されたんだよ?」

 先行していた俺はくるりと後ろに回転し足を止め、彼を見据える。

「へっへっへぇ~。気付いてないんだな」
「何を?」
「初めからあいつらが無理だってことはわかってたんだよ。だからパーティの攻撃が当たると同時に俺は光精霊のシャイガンを召喚して、地味に攻撃を首に当てていき体力を削っていったと言う訳だ」
「シャイガンだって? なんだっけそれ」
「光次元に存在するマナの粒子の集合体である精霊だ。シャイガンは目に見えないからな。無論その攻撃も一切不可視。地味に攻撃していく事に関してこいつの右に出る者はいない。首のコアにレーザーを執拗に当てていき、削り殺した訳だ」
「なるほど~、頭いいね」
「ふん、ダルルォ?」

 俺は踵を返し再び前を歩く。
 しばらく夕日をバックに道を歩き、階段の前までやってきた。

「そういや何故エスカはノイズといきなり戦いたいなんて言い出したんだろうな。何か理由があるのかと思いきや特に何も起きなかったし、結局の所エスカとアーサーの火力が上がっただけだった」
「それはあれじゃないかなぁ」
「あれってなんだよ」
「あれだよアレ・・

 アルジャ・岩本が俺の肩に手を回してきた。

「え~わかんないのぉ? 僕がわかるのにぃ? マジ~?」
「殴っていいか?」

 ニヤついていた彼はすぐさま回していた手を引っ込めた。

「ぼ、暴力に訴えるのはよろしくないよ。進化だよ、進化」

 頭の底から忘却の彼方にあった記憶が蘇る。

「そうか。だからエスカはノイズと戦いたがったのか。ん? じゃあどっちにしろ駄目じゃん。ダークエルフを進化させるには野良のノイズと戦って精霊の欠片ドロしないといけない。俺のノイズと戦ったところで何の意味もない。何もおきなかったのは至極当然だったと言う訳か」

 アルジャ・岩本はうんうんと相づちを打っている。
 そっかぁ。だから戦いたいなんて言い出したのか。でもそれって多分今は無理だなぁ。

「あいつ進化したいのか。でも流石にノイズの欠片は俺も持ってないわ。ノイズは音と空間の狭間に存在しててエンカウントするにもだいぶ苦労しなきゃ会えねぇんだよなぁ。まぁそれはしゃーない。真相がわかったとして、俺には行かなきゃならん所がある」
「へぇ、次に行く所ってどんな所なんだい?」
「蒸気都市だってよ」
「蒸気都市! う~んスチームパンク! いいねぇ」

 すっげぇ目輝かせてる。こいつスチームパンク好きなんか。

「お前こっちはファンタジー100%の世界だぞ。スチームパンクなんて無理だろ」
「行ってみなきゃわかんないじゃない。君だってパワードスーツ着込んでる癖に」
「まぁ確かに」

 俺達は階段を登りきり、エントランスへと舞い戻った。

「じゃ、寝ろよ。朝になったら出発するから」
「あ、部屋なんだけど好きな部屋使っていいのかい?」
「おう、好きな部屋選べ。間取りは皆共通だから。寝具だけはベッドと布団が選べるぞ」
「有能。僕布団じゃないと寝れないんだよね~。じゃ、おやすみ~」

 アルジャ・岩本は開いてる部屋へと入っていった。

 1人になった俺は食堂へと歩いていき、引き戸を横にずらし、カウンター席へと座る。

「クッキングクリエイト!」

 カウンターに虹色の光が溢れ、大中の2つの茶碗、長皿に盛られた赤い刺し身。刺し身には予め醤油が掛かっている。そして小さな器が1つ現れた。でかい白い茶碗には山盛りの白米。その隣には中くらいの黒い茶碗。その中には茶色い液体が入っており、わかめと豆腐が浮いている。1番小さな器には納豆が入っており、細かく刻まれたネギがのっている。

 共に出現した、はがせんと赤い文字で書かれた箸を右手で持ち、納豆が入った器を箸でかき混ぜ、湯気を発している白米の上に乗せる。

 箸を使いご飯を乗せ、口へと運ぶ。

 納豆の粘り気とご飯の甘みが口の中に広がり、間髪入れず刺し身を食べ、マグロの旨味が納豆と調和する。

「んまッ。あ~たまらん」

 次にわかめと豆腐を口に運び、味噌汁をのみ、納豆の粘り気をリセットする。

「うん、美味しい! やはり……空きっ腹に日本食を……最高やな!」
「あんた、口に糸引きながら何独り言喋ってんの? キッモ」

 知らぬ間に俺の隣にはセリーニアが座っていた。

「お前、こんな所で何やってんだ。寝ろよ。女は夜ふかししない方がいいぞ」
「うっさい。私は不眠症なの」
「ふーん。ズルズルズズズズズズ……味噌汁うっま! 不眠症だって?」
「そ、そうよ。この時間になるとの事思い出して寝れないのよ。大体皆が寝静まった頃に豚の相手してたから」
「ほーん。ハムッ、ハフハフ、ハフッ!! 刺し身と納豆ご飯も美味い!」
「全く因果よね。いつになったらあいつの呪縛から逃れられるのかしら」
「なるほどねぇ。ズルズルズルズル……。アーッ! 味噌汁とご飯のハーモニー最高だなおい!」
「――てめぇいい加減にしろや! 人がシリアスになってんのに一々感想言いつつ飯食いやがって!!」
「俺は今までまともに飯食う機会がなかったんだよ! ようやく空きっ腹に飯が入ったんだぞ。この感動も一入ひとしおなんだよ。お前にはわからんだろうがな!」

 俺は箸を置き、手を合わせる。

「ごちそうさまでした」

 そう言うと食器類が消え去った。

「で、不眠症の聖女様は俺にどうして貰いたいんだ? そうだ。無理やり魔法で眠らせてやろうか?」
「……暇つぶし代わりにあんたの事教えなさいよ」
「え? 俺の事?」
「そうよ」

 あまりに予想外な要求に俺の頭の中はさっきほど食った白米の様に真っ白になった。
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