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第112話パーティvsドッペルゲンガー君
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2人を引き連れ暗い地下の階段を降りる。
「ねぇ、まだ着かないわけ?」
「あと少しだ。オレンジ色の光が見えるか?」
「うん? あぁ、確かに。あれ何の光よ? 火?」
「そっちの火ではねぇな」
「は? 意味わからないんだけど」
「黙って付いてこれば自ずとわかる」
俺の言葉に納得したのかセリーニアは小さなため息をつき、静かになった。
その後、特に何事もなく地下へと俺達は降り立つ。
「嘘……なにこれ」
「これは……凄いですね」
本来なら有り得ない光景にどうやら言葉を失っている様だ。
「おら、止まるなよ。歩き続けろー。コロッセオでいくらでも見れるから。どうせここは時が停まった様なもんだからずっとこのままだしな」
西日の夕焼けが俺達を照らす。
コロッセオに向かう為に道を進む。
「なにこれどういう事!? 地下なんじゃないの!?」
「地下だぞ? 地下に空間を作ってそこにコロッセオを建設した。俺と俺の仲間達の手でな」
「あんた……何者なの?」
「ただの勇者の従者兼師匠ですが、何か?」
「ウザ、死ねば? ――ってさっきから変な鳴き声が聞こえるんだけど?」
「ありゃ、ひぐらしっつー俺の故郷にいた昆虫だ。ちなみにモンスターとかじゃないし、そもそも触ることすらできないから無視していいぞ」
「むしだけに……」
ポチからのテクニカルパスを俺は華麗にスルー。
「そ、そういえばお前に聞くの忘れてた。戦闘技能はあるのか? 修めているジョブは?」
「毒物の扱いなら得意です。あとは脚が早い事と聖女様の盾になる事なら誰にも負けません」
「毒ねぇ。うーん、かなり微妙……。よし、ポチお前も見学な。それによくよく考えたらパーティバランス悪くなる」
セリーニアの後ろにいたポチが俺に追いすがってきた。
彼女の眼はいつもの死んだ魚の様な目つきから、明らかな生気が見てとれる。
「しかしそれでは聖女様の盾になって死ぬ事ができません!」
「良いのよポチ。私負ける気は毛頭ないから。貴女は私の有能ぶりを目に焼き付けなさい。せっかく考えて名前付けたのよ。もったいないじゃない。それに軽々しく聖女の前で死ぬなんて言わないで」
ポチは俺から手を離すと後ろへ下がっていく。
「申し訳ございません。以後、気をつけます」
「わかってくれたのね。嬉しいわ」
「お喋りは終わったか? 着いたぜ。ここから階段を登れば良いだけだ」
「か、階段がひとりでに動いてる!?」
「おう、こいつはエスカレーターつってわざわざ登る必要ないんだ。ただ乗るだけで良い。こんな感じで」
俺は階段に両足を乗せる。
「なるほど」
ポチが俺に続く形でエスカレーターに乗る。
「ちょ、ちょ待てよ! 急にそんな事言われったって! う……エイッ!」
エルもそうだったがこの世界の住人にはエスカレーターは恐怖の対象になり得るのだろう。
そんな事をなんとなく思っているとコロッセオに着いた。
エスカレーターがそのまま下りになり、自らも足を進め、アルジャ・岩本の元へと赴く。
「やあゲイン君。もういつでも始められるよ。ドッペルゲンガー君の解説はいるかい?」
「いらん。見れば大体わかる」
「そう? まだ話いてない仕様とかあるんだけど」
「――いや、1個だけ聞かせてくれ。何らかのトラブルが起きてあれを止めたくなった場合は?」
俺はコロッセオの中央で突っ立っている木人に指を指す。
「そうだね。僕が好きなタイミングで止めれるけど、君が動いた方が早い場合は首に埋め込まれているコアを取り出すか、そのまま破壊すれば止まるよ」
「なるほど。つまりロボットと同じと言う訳だ」
「そうだね。大体一緒だよ」
「しかし、俺のコピーと言うことはステもそのままなのか」
「いや、そうではないよ。君みたいな高過ぎるステータスの場合セーフティが働いて8割近く数値が下がっている筈だ」
「つまり2割程度の俺と戦う訳だ。その事はあいつらは知っているのか?」
「いいや」
「あっそ」
フィールドにアーサー達の元にセリーニアが合流したのを確認。後ろ振り向くとポチがアルジャ・岩本の隣に来ていた。
「私はどこに座れば良いのでしょうか?」
「とりあえず彼の隣へ座れ」
彼女はそのままアルジャ・岩本の隣に座る。
「お、丁度作戦会議が終わったぽいぞ」
フィールドの端で小さな団子の様になっていたが各々が散らばり、特定の位置につく。
前衛はリンを中心にアーサー、エスカの2名が左右に陣取り、2メートル程距離を置いた所にエルとセリーニアが戦闘態勢をとっている。
ふーん。その戦列で行くんだ。
何で変身してねぇんだあいつ。
「ねぇねぇせっかくだからさ、解説して」
「嫌です……」
「何で?」
「冗談だ。始まってすらいねぇじゃねぇか」
「あ、じゃあ始めるね」
木人の姿形がみるみる変わっていき、木目調のヤルダバオトⅧ式出来上がった。
「おー、かっこええ」
「でしょ!? あれ僕も気に入ってるんだよ~」
ヤルダバオトⅧ式が手を翳すと景色が一瞬モノクロに反転しノイズが現れた。
「よっしゃ行くッスよ! メタモルフォーゼ!」
彼女を中心にドギツいピンク色の光を発し、彼女の姿が変わっていく。
『ダークネスクラッシュ』
彼女が変身を完了させ、ドッペルゲンガー君ヘ接敵した刹那――彼が覇気のない機械音声で喋りだし、半球状の黒い膜の様なものが一瞬発せられるがすぐに消え去る。
「先手必勝! 正義執行! 稲妻風神脚アンド光龍連撃掌!」
リンが宙に浮かび、放電しつつドッペルゲンガー君ヘ怒涛の蹴りによる応酬。蹴り技を浴びせられた彼は2歩程後ずさりしリンが着地した瞬間、彼の足元から竜巻が発生し彼を飲み込む。
竜巻が収まったと同時にリンが彼に接近し、超高速の連続パンチを見舞っている。両手は真っ白に輝いており、龍の姿を象っている。リンの攻撃により、ドッペルゲンガーの躰が徐々に浮き始めている。
リンに吊られる形でアーサー、エスカもドッペルゲンガー君ヘ殺到するが、2人は急に後ろへふっ飛ばされた。
「嘘ぉ!? 何スカそれぇ!? 良くも先輩! 許さないッス!」
いや俺じゃねぇし。
「アタタタタタ!! うりゃ!! ショウダウン!」
とっておきの1発であろうアッパーを食らわせるとドッペルゲンガー君は上空に吹っ飛び、間髪入れずカードが5枚現れ、ハートのロイヤルストレートフラッシュが完成すると、白く輝く巨大な龍が出現し彼を飲み込み消え去り、ドッペルゲンガー君は地表に叩きつけれるが、すぐに起き上がり手を翳す。
「聖なる加護よ! 戦士に力を! シャイニングフォース!」
ふっ飛ばされエスカとアーサーに白い光が降り注いだ。
あの魔法はダメージと恐怖心を軽減させる。すぐに2名は復帰し、エスカはその場で剣を振りかぶり、アーサーは自分の周りに盾を顕現させ、後衛の2人を守る為か直線上の真ん中ヘ移動する。
戦闘を見ていると不意に肩ポンされた。
「ねぇ、どうしてあの2人は吹っ飛んだのに彼女だけ無事なの?」
「ありゃヒーローの特性お陰だな」
ハガセンにおけるヒーローの強みはその手数の多さと全ジョブ中最速のディレイタイム0.8秒という復帰の速さ。そして隠し要素ではあるが、全スキルの発動する瞬間、2フレーム無敵が付与する事である。このキ○ガイ地味た2つの特性によりヒーローは全職業中最もDPSが高いという特徴を持つ。
その為か唯一前衛職の中でヒーローは遠距離攻撃系スキルが一切覚えられないというデメリットを持つが、全900種類以上にも及ぶ変身スーツによりコンセプト毎の強力なパッシブスキルやスキルが得られ、もはやデメリットは形骸化している。強いヒーローは1人居るだけで驚異となり得るのだ。
閑話休題。
「つまり、無敵時間でドッペルゲンガー君の攻撃を図らずもガードしたと。なるほどねぇ」
「ヒーローは敵に張り付いてとにかく攻撃しまくるのが仕事だからな。上手いヒーローはノーダメージのままどんどん攻撃を継続してそのまま敵をなぶり殺しにできる。その代わり――」
「その代わり?」
「使う技にもよるが、MPの管理に人一倍気を使うジョブでもあるな。ヘイトをどんどん稼いでしまうって点も難しい点だ」
思った通りMPを使い果たし、彼女の苛烈を極めた攻撃は終ったのか、突如ジャンプしドッペルゲンガー君と距離を取る。
『ダークネスボール』
黒い球状のエネルギー帯が3人に向かって幾つも放たれる。
アーサーは俄然、後衛のエルとセリーニアを守る為、文字通り彼女達の盾となっている。
横に展開していた盾郡を巨大な黄色い盾に瞬時に変化させ、放たれた黒いエネルギー弾を弾き返す。
あいつ本当に凄い奴だな。あの調子だとタンクもいけるんじゃないだろうか?
「フフ――」
「何1人でニヤついてるのさ」
「いや、ほんと見てて飽きないなと思ってな」
トライデントは攻守両用の盾なのでシールダーが持つような使い方は本来できない可能性が高いのだが、あいつはトライデントを1点のみに集中させ疑似的なビッグシールドを作り出したとみえる。
「アー君大丈夫!?」
「平気だよセリーニア。君達こそ怪我はないかい?」
「シャイニング……スコール!」
「妖精の恵み! フェアリーエフェクト! アー君ありがとう!」
セリーニアの光属性バフの恩恵を受け、エルが放った白い光がビームの様な形になりドッペルゲンガー君ヘ直撃する。
光が収まるとドッペルゲンガー君の右腕が痙攣し、地面へ落ちた。
『アイン・ソフ・オウル』
「ハッ!? 皆避けろ!!」
エスカが声を張り上げる。
地面から髑髏が入った黒い柱の様なものが次々生えては消えてゆき、アーサー達全員の眼前ヘその柱が出現する。
「遂に来たか。ノイズの切り札」
殆どの者が突如出現した禍々しい柱から距離を取る中、エスカがあらかじめ知っていたかの如く縫うように柱を避け、剣を振りかぶり伸びた剣先がドッペルゲンガー君の胴体を切り裂く。
人間の様に黒い血液が吹き出し、血溜まりにドッペルゲンガー君は倒れ動かなくなったと同時にノイズと皆の側に現れた黒く禍々しい柱は消え去った。
「やったぞ! 私達の勝ちだ!」
エスカが高らかに勝利を宣言する。
「やってしまった」
「ん? 倒したんじゃないのかい?」
「あぁ、倒したさ。ただエスカの剣がノイズの最後っ屁をくらっちまった」
勝利に湧く中、エスカの剣が漆黒に染まり音を立て刀身にヒビが入った。
「ねぇ、まだ着かないわけ?」
「あと少しだ。オレンジ色の光が見えるか?」
「うん? あぁ、確かに。あれ何の光よ? 火?」
「そっちの火ではねぇな」
「は? 意味わからないんだけど」
「黙って付いてこれば自ずとわかる」
俺の言葉に納得したのかセリーニアは小さなため息をつき、静かになった。
その後、特に何事もなく地下へと俺達は降り立つ。
「嘘……なにこれ」
「これは……凄いですね」
本来なら有り得ない光景にどうやら言葉を失っている様だ。
「おら、止まるなよ。歩き続けろー。コロッセオでいくらでも見れるから。どうせここは時が停まった様なもんだからずっとこのままだしな」
西日の夕焼けが俺達を照らす。
コロッセオに向かう為に道を進む。
「なにこれどういう事!? 地下なんじゃないの!?」
「地下だぞ? 地下に空間を作ってそこにコロッセオを建設した。俺と俺の仲間達の手でな」
「あんた……何者なの?」
「ただの勇者の従者兼師匠ですが、何か?」
「ウザ、死ねば? ――ってさっきから変な鳴き声が聞こえるんだけど?」
「ありゃ、ひぐらしっつー俺の故郷にいた昆虫だ。ちなみにモンスターとかじゃないし、そもそも触ることすらできないから無視していいぞ」
「むしだけに……」
ポチからのテクニカルパスを俺は華麗にスルー。
「そ、そういえばお前に聞くの忘れてた。戦闘技能はあるのか? 修めているジョブは?」
「毒物の扱いなら得意です。あとは脚が早い事と聖女様の盾になる事なら誰にも負けません」
「毒ねぇ。うーん、かなり微妙……。よし、ポチお前も見学な。それによくよく考えたらパーティバランス悪くなる」
セリーニアの後ろにいたポチが俺に追いすがってきた。
彼女の眼はいつもの死んだ魚の様な目つきから、明らかな生気が見てとれる。
「しかしそれでは聖女様の盾になって死ぬ事ができません!」
「良いのよポチ。私負ける気は毛頭ないから。貴女は私の有能ぶりを目に焼き付けなさい。せっかく考えて名前付けたのよ。もったいないじゃない。それに軽々しく聖女の前で死ぬなんて言わないで」
ポチは俺から手を離すと後ろへ下がっていく。
「申し訳ございません。以後、気をつけます」
「わかってくれたのね。嬉しいわ」
「お喋りは終わったか? 着いたぜ。ここから階段を登れば良いだけだ」
「か、階段がひとりでに動いてる!?」
「おう、こいつはエスカレーターつってわざわざ登る必要ないんだ。ただ乗るだけで良い。こんな感じで」
俺は階段に両足を乗せる。
「なるほど」
ポチが俺に続く形でエスカレーターに乗る。
「ちょ、ちょ待てよ! 急にそんな事言われったって! う……エイッ!」
エルもそうだったがこの世界の住人にはエスカレーターは恐怖の対象になり得るのだろう。
そんな事をなんとなく思っているとコロッセオに着いた。
エスカレーターがそのまま下りになり、自らも足を進め、アルジャ・岩本の元へと赴く。
「やあゲイン君。もういつでも始められるよ。ドッペルゲンガー君の解説はいるかい?」
「いらん。見れば大体わかる」
「そう? まだ話いてない仕様とかあるんだけど」
「――いや、1個だけ聞かせてくれ。何らかのトラブルが起きてあれを止めたくなった場合は?」
俺はコロッセオの中央で突っ立っている木人に指を指す。
「そうだね。僕が好きなタイミングで止めれるけど、君が動いた方が早い場合は首に埋め込まれているコアを取り出すか、そのまま破壊すれば止まるよ」
「なるほど。つまりロボットと同じと言う訳だ」
「そうだね。大体一緒だよ」
「しかし、俺のコピーと言うことはステもそのままなのか」
「いや、そうではないよ。君みたいな高過ぎるステータスの場合セーフティが働いて8割近く数値が下がっている筈だ」
「つまり2割程度の俺と戦う訳だ。その事はあいつらは知っているのか?」
「いいや」
「あっそ」
フィールドにアーサー達の元にセリーニアが合流したのを確認。後ろ振り向くとポチがアルジャ・岩本の隣に来ていた。
「私はどこに座れば良いのでしょうか?」
「とりあえず彼の隣へ座れ」
彼女はそのままアルジャ・岩本の隣に座る。
「お、丁度作戦会議が終わったぽいぞ」
フィールドの端で小さな団子の様になっていたが各々が散らばり、特定の位置につく。
前衛はリンを中心にアーサー、エスカの2名が左右に陣取り、2メートル程距離を置いた所にエルとセリーニアが戦闘態勢をとっている。
ふーん。その戦列で行くんだ。
何で変身してねぇんだあいつ。
「ねぇねぇせっかくだからさ、解説して」
「嫌です……」
「何で?」
「冗談だ。始まってすらいねぇじゃねぇか」
「あ、じゃあ始めるね」
木人の姿形がみるみる変わっていき、木目調のヤルダバオトⅧ式出来上がった。
「おー、かっこええ」
「でしょ!? あれ僕も気に入ってるんだよ~」
ヤルダバオトⅧ式が手を翳すと景色が一瞬モノクロに反転しノイズが現れた。
「よっしゃ行くッスよ! メタモルフォーゼ!」
彼女を中心にドギツいピンク色の光を発し、彼女の姿が変わっていく。
『ダークネスクラッシュ』
彼女が変身を完了させ、ドッペルゲンガー君ヘ接敵した刹那――彼が覇気のない機械音声で喋りだし、半球状の黒い膜の様なものが一瞬発せられるがすぐに消え去る。
「先手必勝! 正義執行! 稲妻風神脚アンド光龍連撃掌!」
リンが宙に浮かび、放電しつつドッペルゲンガー君ヘ怒涛の蹴りによる応酬。蹴り技を浴びせられた彼は2歩程後ずさりしリンが着地した瞬間、彼の足元から竜巻が発生し彼を飲み込む。
竜巻が収まったと同時にリンが彼に接近し、超高速の連続パンチを見舞っている。両手は真っ白に輝いており、龍の姿を象っている。リンの攻撃により、ドッペルゲンガーの躰が徐々に浮き始めている。
リンに吊られる形でアーサー、エスカもドッペルゲンガー君ヘ殺到するが、2人は急に後ろへふっ飛ばされた。
「嘘ぉ!? 何スカそれぇ!? 良くも先輩! 許さないッス!」
いや俺じゃねぇし。
「アタタタタタ!! うりゃ!! ショウダウン!」
とっておきの1発であろうアッパーを食らわせるとドッペルゲンガー君は上空に吹っ飛び、間髪入れずカードが5枚現れ、ハートのロイヤルストレートフラッシュが完成すると、白く輝く巨大な龍が出現し彼を飲み込み消え去り、ドッペルゲンガー君は地表に叩きつけれるが、すぐに起き上がり手を翳す。
「聖なる加護よ! 戦士に力を! シャイニングフォース!」
ふっ飛ばされエスカとアーサーに白い光が降り注いだ。
あの魔法はダメージと恐怖心を軽減させる。すぐに2名は復帰し、エスカはその場で剣を振りかぶり、アーサーは自分の周りに盾を顕現させ、後衛の2人を守る為か直線上の真ん中ヘ移動する。
戦闘を見ていると不意に肩ポンされた。
「ねぇ、どうしてあの2人は吹っ飛んだのに彼女だけ無事なの?」
「ありゃヒーローの特性お陰だな」
ハガセンにおけるヒーローの強みはその手数の多さと全ジョブ中最速のディレイタイム0.8秒という復帰の速さ。そして隠し要素ではあるが、全スキルの発動する瞬間、2フレーム無敵が付与する事である。このキ○ガイ地味た2つの特性によりヒーローは全職業中最もDPSが高いという特徴を持つ。
その為か唯一前衛職の中でヒーローは遠距離攻撃系スキルが一切覚えられないというデメリットを持つが、全900種類以上にも及ぶ変身スーツによりコンセプト毎の強力なパッシブスキルやスキルが得られ、もはやデメリットは形骸化している。強いヒーローは1人居るだけで驚異となり得るのだ。
閑話休題。
「つまり、無敵時間でドッペルゲンガー君の攻撃を図らずもガードしたと。なるほどねぇ」
「ヒーローは敵に張り付いてとにかく攻撃しまくるのが仕事だからな。上手いヒーローはノーダメージのままどんどん攻撃を継続してそのまま敵をなぶり殺しにできる。その代わり――」
「その代わり?」
「使う技にもよるが、MPの管理に人一倍気を使うジョブでもあるな。ヘイトをどんどん稼いでしまうって点も難しい点だ」
思った通りMPを使い果たし、彼女の苛烈を極めた攻撃は終ったのか、突如ジャンプしドッペルゲンガー君と距離を取る。
『ダークネスボール』
黒い球状のエネルギー帯が3人に向かって幾つも放たれる。
アーサーは俄然、後衛のエルとセリーニアを守る為、文字通り彼女達の盾となっている。
横に展開していた盾郡を巨大な黄色い盾に瞬時に変化させ、放たれた黒いエネルギー弾を弾き返す。
あいつ本当に凄い奴だな。あの調子だとタンクもいけるんじゃないだろうか?
「フフ――」
「何1人でニヤついてるのさ」
「いや、ほんと見てて飽きないなと思ってな」
トライデントは攻守両用の盾なのでシールダーが持つような使い方は本来できない可能性が高いのだが、あいつはトライデントを1点のみに集中させ疑似的なビッグシールドを作り出したとみえる。
「アー君大丈夫!?」
「平気だよセリーニア。君達こそ怪我はないかい?」
「シャイニング……スコール!」
「妖精の恵み! フェアリーエフェクト! アー君ありがとう!」
セリーニアの光属性バフの恩恵を受け、エルが放った白い光がビームの様な形になりドッペルゲンガー君ヘ直撃する。
光が収まるとドッペルゲンガー君の右腕が痙攣し、地面へ落ちた。
『アイン・ソフ・オウル』
「ハッ!? 皆避けろ!!」
エスカが声を張り上げる。
地面から髑髏が入った黒い柱の様なものが次々生えては消えてゆき、アーサー達全員の眼前ヘその柱が出現する。
「遂に来たか。ノイズの切り札」
殆どの者が突如出現した禍々しい柱から距離を取る中、エスカがあらかじめ知っていたかの如く縫うように柱を避け、剣を振りかぶり伸びた剣先がドッペルゲンガー君の胴体を切り裂く。
人間の様に黒い血液が吹き出し、血溜まりにドッペルゲンガー君は倒れ動かなくなったと同時にノイズと皆の側に現れた黒く禍々しい柱は消え去った。
「やったぞ! 私達の勝ちだ!」
エスカが高らかに勝利を宣言する。
「やってしまった」
「ん? 倒したんじゃないのかい?」
「あぁ、倒したさ。ただエスカの剣がノイズの最後っ屁をくらっちまった」
勝利に湧く中、エスカの剣が漆黒に染まり音を立て刀身にヒビが入った。
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