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第111話俺、メイドにコーディネートされる

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 エスカとを終えた。基本的に彼女が主導権を握っている為に俺は寝っ転がってれば良いだけなのだが、エスカのダークエルフとしての体力は俺からみても大したものだと思う。

 件の彼女は俺の部屋に備え付けられたシャワーを浴びた後、ツヤツヤな顔を俺に晒しながら上機嫌って感じでコロッセオに向かったようだ。

「こういうのマグロって言うんだっけ? いや、感じていない訳ではないし違うか。……逆レ――」

 いやいや違う。
 だって、ずっと引っ付かれて身動きほぼ取れないんだもんなぁ。あれがダークエルフのとこで言うやり方なんだろう。たぶん。それに動けないのには理由があるしな。

「俺は何を冷静に考えとるんだ。――なるほど。これが賢者タイムと言うやつか。おっとそうだ。おいメイド、部屋の掃除をしておけ。ベットメイキングを頼むぞ」

 部屋の隅に待機していたメイドが俺の元へと近づくと恭しくこうべを垂れる。

「承知いたしました。ゲイン様、1つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「ゲイン様が着ておられました、服は如何いたしましょう?」
「あー……そういえばそうだった」

 普段着として着用してた白いチュニックはというと、部屋の扉を閉めた瞬間に発情しきったエスカによって破られてしまったのだ。俺にはフェミニスト気質な所があるらしく戦闘以外ではどうやら女性を傷つけるのを変に躊躇ってしまう。
 俺が彼女と事を構える際、俺が動けないのには理由がある。素の腕力だけでもドラゴン一匹位ならそのままなぶり殺しにできる力がある。外格を着装していると数値的には着込んでいる外格によっては上下するが、その実非戦闘時における腕力脚力その他諸々筋肉の動きや血流の流れなど、肉体的なカバーは全てAI達が自動的に制御してくれている。バニラ生身である俺が1番危険なのだ。下手したらエスカの腕や躰を握り潰してしまう恐れがある。勿論自分でも力の制御はできる。できるが、ものには弾みというものがある。万が一を考えて編み出した安全策。それがマグロになるという結果を生み出した。彼女も喜んでいるみたいだしウィンウィンの関係という奴だろう。
うん、きっとそうだ。そうに違いない。

 閑話休題。

「適当なの見繕ってくれ」
「私がですか? 承知いたしました」

 なんだ? 今一瞬メイドの目に火が灯った様な気がした。

 そこから30分程俺は部屋にあるクローゼット内に半ば監禁され、メイドの着せ替え人形になるのだった。

「お、おいもういい! 何か裏路地にたむろしてるDQNみたいな格好になってるぞ。つーか、俺こんな服持ってたの? 記憶ねーんだけど!?」
「これはこれでありですね。では最後にシルバーのチェーンをジーンズに付けて完成といたしましょう」
「マジで? マジでこれでいくの?」
「大変お似合いです」

 メイドからの乾いた拍手が部屋に響き渡る。

 俺の今の格好はというと上半身は黒のランニングに黄色いパーカー、下半身は白のベルトにシルバーのチェーンがついたジーンズ。靴は白地に赤のストライプの柄が入ったスニーカーという出で立ちだ。

 やべぇよやべぇよ。1世紀よりもうちょい前に存在したというラッパーとかいう人達のカッコウなのでは?
ラジカセとかいう音の出る黒光りした鈍器を背負ってその辺練り歩いていたという人達の格好なのでは?

 メイドの方を見るとそこはかとなく頬が紅潮しているのがわかった。
 適当に見繕ってとは言ったよ? これ絶対あのメイドの趣味だよ。つーか、ホームのメイドって趣味とか設定されてんの? お掃除とかそういう事するだけの存在じゃないの? 色々びっくりなんだけど。

「ねぇ、最後に確認するけどマジでイケてると思う?」
「とてもお似合いです」
「アッハイ……」

 もう何も言うまい。剣と魔法のファンタジーにパワードスーツ着装してる身だし今更と言えば今更かもしれない。1人位ファンタジーよろしくチュニックとかローブとか着込んでる中にパーカーとジーンズとシルバーのチェーン巻いた兄ちゃんがいてもいいじゃないか。うん、自由って素晴らしい。さぁ、やる事山積みだしもう出ようそうしよう。

 俺は新たな姿を得てドアまで歩いていきドアノブに手をかけ、颯爽と自室から退出後し、少し歩いて食事処の引き戸をゆっくりと開ける。

 皆の視線を一身に浴びる。

「――ゲイン君、しばらく見ないうちに何があったんだい?」
「アルジャ・岩本。1つ聞きたい事があるんだが、メイドって皆あんな感じなの? いやマジでびっくりなんだけど。一定のコミュケーション取れるのは知ってたけどさ。コーディネートまでしてくれるとは思わなかった」
「メイド毎に【性格】や【好み】は存在しているよ。裏設定みたいなものだけどね」
「はえ~」
「君の部屋のメイドに頼んだらそうなったんだね」
「あぁ……まぁな」
「コーディネートはこーでねぇと。なんつって」
「次くだらねぇ事言ったらその白衣ビリビリに破くからな」

 アルジャ・岩本が顔を伏せ、口元に握り拳を持っていく。

「ンン……ゴホン。じゃ、例のアレやるかい」
「おうやるやる。ドッペルゲンガー君っていう未実装のアイテム使うんだろ?」
「そうだよ。こいつはね? ミラーマッチがやりたいっていう要望が結構多くてね? そんなユーザーを思って試しに作ったアイテムなんだ」
「おお! 俺対俺やアーサー対アーサーみたいな戦いができるのか!?」
「まあね。ちなみに名前に君付けされたアイテムは僕が考案した証拠でもあるからね~。頭の隅にでも置いといてよ」

 アルジャ・岩本が人差し指と親指をくっつけそのまま離すと緑色のスクリーンが彼の眼前に出現し、指を動かし画面を幾度かスクロールさせ、人差し指で画面をタップすると人の形をした木製の人形の様なものが出現した。

木人もくじん?」
「こりゃ僕の趣味でこうなってるだけさ。とっとと外格を着装しなよ」
「よし、外着!」

 頭上に魔法陣が現れ漆黒の外格が俺と重なる。

「ゲイン様、ご機嫌麗しゅ……いつもと格好が違う様ですが」
「おうネメシス。これには深い訳があってな。かくかくしかじかなんだな。これが」
「左様で」
「で、ぶっちゃけ似合うと思う?」
「何故私に意見を求めるのでしょうか」
「だって1番付き合い長いじゃん。アゼルバイジャン」
「そうですね……」

 ネメシスは尻目でチラチラとこちらを覗き見る様な形をとっている。
 いや、どうせお互いいつも見てるんだから普通に見ればよくね?
 なんて言ったら最後に電流不可避なのは確定的に明らかなので黙って見守る。
っていうか、彼女の肌の色は色白なので赤くなると一目瞭然なのだ。今リアルで彼女の顔が赤みがかっている。

「に、似合っているんじゃないですか?」
「そう? お前がそう言うならそれでいいかな」
「――ご自由に」
夫婦めおと漫才は終わったかい? じゃあ早速――」
「め、めおと!!?」
「あばばばばば!!」

 微塵の前触れもなく俺の躰を電流が迸る。

 俺は全身の力が抜け倒れる――と思ったがネメシスが外格を勝手に動かし始めた。

 人差し指を立てながら、言わなくていい事言ってしまった彼に詰め寄ってる様だ。

「いいですか!? 二度と言わないでください! その、めめ夫婦とか言うワードは!」
「わ、わかったわかった。口が滑っただけさ。ほら、ドッペルゲンガー君にタッチして」

 ネメシスに強制的に意識を回復させられた俺はドッペルゲンガーにタッチする。

「あー、耳がキーンってなってる。もうこれで良いのか?」
「うん。あとは戦うだけだよ」
「よし、じゃあせっかくだから俺とアルジャ・岩本以外全員参加っつー事で! ハイコロッセオにレッツゴー!」
「ハイ! 僕頑張ります!」
「おう、イイゾ~」

 アーサーが駆け足で食事処から退出する。それにつられてエルが出ていく。

「よっしゃー! 先輩フルボッコにしてやるッスよ! デュエルの雪辱を果たすッス! 何よりアーサーきゅんとの共闘ッス! 燃えねぇ訳がないッス! アーサーきゅーん! うへへ」

 ドス黒い気合いをリンは込めながら退出していく。

「んじゃあ、僕もドッペルゲンガー君設置しにいくね」

 アルジャ・岩本を見送り、そして残ったのはセリーニアと彼女に張り付く信者ナンバーなんたらと言っていたメイドのみになった。

「何座ってんだよ。おめぇも行くんだよ。おう、あくしろよ」
「は? 嫌よ。何で私が意味のわからん戦いに参加しなきゃなんねーのよ」
「逆にこの流れで何で参加しねぇんだよ。アーサーも出てんだぞ」
「アー君は出て当然でしょう? 戦士なんだもん。私はヒーラーよ? 戦闘に参加する必要ないでしょ? ね? ポチもそう思うでしょ?」
「御身を大切になさるのが1番かと」

 色々言いたい事あるけどまずポチて。お前はそれでいいか。ポチて。

「クッソ予想外過ぎる名前に一瞬あっけにとられてしまった。おめぇまさかヒーラーとして役立たずなんじゃあるまいな?」
「ハァ? 舐めんじゃねーぞ? こちとら何年聖女やってると思ってたんだよ? 鼻から脳みそ引きずり出すぞ!」
「じゃあ何も問題はあるまい? あっそっかぁ。怪我するのが怖いんだな? ずっと大切にされてきた弊害弊害か? 痛いのが怖いか? それとも大好きなアーサーきゅんに情けない所見られるのがいやか? じゃあ良いや。お前は終わるまでそこで大人しくしとけや」
「てめぇまでアー君の事をその気色悪い呼び名で呼ぶんじゃねー! やってやるよ! アー君を守るのは私の役目なんだ! もうあの頃の私じゃない!」
「そうか。では、見せてくれ」
「上等だ! 目ン玉ひん剥いてよーく見とくんだなぁ!」

 俺はセリーニとポチを伴い、食事処を出ると、地下にあるコロッセオへと向かうのだった。
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