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翌日、俺たちはアーガスの北にある山でキャンプをしていた。周囲には美しい湖が広がっている。俺たちはそこで食事をしながら、のんびり過ごしていた。


「それにしても綺麗な場所だな……」


俺は景色を眺めながら呟く。エルフリーデも同意するように頷いた。


「はい、とても素敵です」


リザも無言のまま頷き返してくる。彼女は干し肉を齧りながら景色を眺めていた。アルシャはというと、少し離れた場所で釣りをしている。どうやら大物が掛かったらしく、竿が大きくしなっていた。


「あっ! 来た!」


アルシャが嬉しそうに声を上げる。次の瞬間、魚影が水面から飛び出してきた。その大きさは人間ほどの大きさで、巨大な銀色の鱗に覆われている。


「わわっ!」


アルシャは慌てて竿を引くと、魚を釣り上げた。それは巨大な鯨のような姿をしており、大きな口を開けてアルシャを飲み込もうとしてくる。彼女は咄嗟に槍を構えてそれを防いだ。


「重すぎるよ……もう無理……!」


アルシャは必死に踏ん張っているが、鯨の力には敵わない。今にも押し負けてしまいそうだ。


「アルシャ!」


俺は魔剣を構えると、鯨に向かって駆け出した。そしてそのまま飛び上がると、首を目掛けて斬りつける……。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」


鯨は悲鳴を上げて暴れる。俺は振り落とされないようにしながら何度も斬りつけた。すると徐々に動きが鈍くなっていく……。


「今だ! リザ!!」


俺が叫ぶと同時に、リザは大きく跳躍した。そして鯨の頭に飛び乗ると、脳天目掛けて槍を突き刺す……。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


鯨は断末魔の叫び声を上げると、その場に倒れ伏した。激しい水飛沫が上がり、周囲の景色を一変させる……。


「ふぅ……」


俺は一息つくと、湖に沈んでいた魔剣を拾い上げた。その後、アルシャとリザにも手伝ってもらって鯨を解体する。その中から出てきたのは、銀色の鱗だった。


「これは……?」


不思議に思いながら手に取ってみる。すると突然、鱗が光り輝いた……。


「うわっ!?」


驚いて手を離すと、光は徐々に収まっていく。そしてそこには美しい女性が現れた……。彼女は目を閉じて眠っているように見えるが、その美しさに見惚れてしまう……。


「綺麗……」


エルフリーデが呟くと同時に、女性は目を開けた。金色の瞳に見つめられた瞬間、ドキッとする……。


「私を呼んだのはあなたかしら?」


女性は首を傾げながら聞いてきた。俺は戸惑いながらも答えることにする。


「あ、ああ……そうだが……」


「そう……」


彼女は小さく呟くと、ゆっくりと立ち上がった。そして俺の方へ歩いてくる……。


(綺麗な人だな……)


そんなことを思っているうちに、彼女は目の前までやって来た。そして微笑みながら話しかけてくる。


「私は『海龍リバエル』……よろしくね♪」


そう言ってウインクしてくる。俺は呆然としながら彼女の姿を見つめていた……。


(海龍リバエルか……)


名前からして、おそらく水属性のドラゴンなのだろう。ということは、この湖は彼女の住処なのだろうか? そんなことを考えていると、彼女は俺を見つめてきた。そして何か思いついたように頷くと、俺に向かって話しかけてくる。


「ねえ……あなたの名前はなんていうの?」


「俺か? 俺はナオトだ」


俺が名乗ると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。そして俺に抱きついてくる……。


「よろしくね、ナオト♪」


俺は困惑しながら彼女を見つめていた……。彼女は俺の胸に頰ずりをしながら甘えてくる。


「ちょ、ちょっと待て……!」


俺は慌てて引き剥がそうとしたが、全く動かなかった。むしろその力が強くなっているような気がする……。


「ふふっ♪」


彼女は悪戯っぽく笑うと、さらに強く抱きしめてきた。柔らかい感触が伝わってきてドキドキしてしまう……。


(なんかヤバい気がするんだが……)


そう思った瞬間、アルシャとエルフリーデが俺の腕を引っ張った。そのまま彼女から引き離すと、俺を庇うように立ち塞がる。


「ちょっと! ご主人様から離れなさい!」


「そうです! いきなり抱きつくなんて失礼ですよ!」


2人は怒りを露わにしながら叫んだ。リバエルはニコニコ笑いながら答える。


「あら? 嫉妬かしら?」


挑発的な言葉を投げかけると、2人はムッとした表情を浮かべた。そしてアルシャは弓を構えて矢を放つ……。


「うわっ!?」


矢は一直線に飛んでいき、リバエルの頬を掠めた。彼女は驚いた表情を浮かべると、そのまま距離を取るように後退する。


「危ないわね……」


リバエルは流れる血を拭うと、鋭い眼光で睨みつけてきた。その瞬間、空気が一気に張り詰める……。


(もしかして怒らせてしまったか?)


不安になりながら様子を見守っていると、リバエルは微笑みを浮かべた。そして優しく語りかけてくる。


「ごめんね、驚かせちゃって……ちょっと悪戯してみたくなっただけなの」


それを聞いてホッとすると同時に、アルシャとエルフリーデも警戒を解いたようだ。2人は武器を下ろしている。


「ほら、傷を見せてみて」


リバエルはそう言うと、アルシャの頬に手をかざした。すると淡く光ったかと思うと、傷は完全に癒えている……。


「すごい……」


思わず感嘆の声を上げると、彼女は照れ臭そうに笑った。


「これくらい大したことないですよ~」


そう言って謙遜するが、彼女の力は凄まじいものだと感じる。この力があればどんな敵でも倒せそうだと思った……。


(さすが海の精霊だな……)


俺は尊敬の眼差しを向けた。するとリバエルは頬を染めてモジモジしている。


「そんなに見つめられると……恥ずかしいです……」


彼女は照れながら俯いた。その仕草はとても可愛らしく、抱きしめたくなる衝動に駆られてしまう……。


(いやいや、相手はドラゴンだぞ!)


心の中で葛藤していると、エルフリーデが俺の前に立った。そして両手を広げて通せんぼをする。


「ご主人様に近づかないで下さい!」


その様子を見ていたリバエルはクスッと笑うと、エルフリーデに近づいていった。そして耳元で囁くように問いかける。


「あら? あなたもナオトが好きなの?」


「っ!?」


その言葉に動揺したのか、エルフリーデの顔が真っ赤に染まった。リバエルはニヤニヤしながら続ける。


「あなたもナオトと一緒にいたいのよね?」


「ち、違います! 私はご主人様のお側にいたいだけです!」


エルフリーデは必死になって反論するが、リバエルは聞いていないようだ。彼女は妖艶な笑みを浮かべながら、さらに言葉を続ける……。


「隠さなくていいのよ♪ あなたも私と同じようにナオトに愛されたいのでしょう?」


(おい、ちょっと待て……)


俺は嫌な予感を感じて止めようとしたが、一歩遅かった……。


「そ、それは……」


エルフリーデはモジモジしながら答えに詰まっている……。俺は冷や汗を流しながら2人のやり取りを見守っていた……。


「ほら、正直に言いなさい♪」


リバエルはそう言うと、エルフリーデの肩に手を置いた。そして妖艶な笑みを浮かべる……。


(これはまずい展開になりそうだな……)


俺は心の中でため息をつくと、意を決して2人に近づいた。そしてリバエルに声をかける。


「そこまでだ」


俺の言葉に、リバエルは不満げに振り返った。そして俺に向かって非難してくる。


「どうして止めるのよ? 私はこの子とも仲良くなりたいだけなのに……」


「その気持ちは分かるが、あまりからかうなよ」


俺が窘めるように言うと、リバエルは渋々といった様子で頷いた。だがすぐに悪戯っぽい笑みを浮かべると、今度はアルシャに話しかける。


「ねえ……あなたもナオトのことが大好きでしょう?」


その言葉を聞くと、アルシャは頰を赤くしながら俯いた。そして恥ずかしそうに呟く……。


「そ、それは……はい……」


彼女は消え入りそうな声で答えると、耳まで真っ赤に染めた。リバエルは満足そうに微笑むと、アルシャの頭を優しく撫でる。


「やっぱりね♪ あなたからはナオトへの想いが伝わってくるわ♪」


その言葉を聞くと、アルシャはさらに俯いてしまった。そんな様子を見て苦笑すると、今度はエルフリーデに話しかける。


「あなたはどうなの?」


リバエルが質問すると、エルフリーデはビクッと反応した。そして恥ずかしそうにしながらも口を開く。


「わ、私は……ご主人様のことが大好きです……」


(うんうん、よく言えたな)


俺は心の中で褒めると、エルフリーデの頭を優しく撫でた。彼女は嬉しそうに微笑むと、俺の方へ擦り寄ってくる。


「えへへ……」


そんな俺たちのやり取りを見ていたリバエルは微笑んだ。そして優しい表情で口を開く。


「あなたたちは本当に仲良しなのね♪」


「まあな……」


俺は照れくさくなりながらも頷いた。そしてリバエルに向かって問いかける。


「なぁ、俺たちと一緒に行かないか?」


俺がそう言うと、彼女は驚いた表情を浮かべた。エルフリーデとアルシャも同意するように頷く。


「えっ!? いいの!?」


リバエルは嬉しそうな声を上げると、俺に向かって飛びついてきた。そしてそのまま抱きつくと、頬ずりしてくる。


「ありがとう! すごく嬉しいわ♪」


(うおっ!?)


突然のことに動揺するが、なんとか平静を保った。柔らかい感触が伝わってくるが、今はそれどころではない……。俺は彼女の肩を掴んで引き離すと問いかけた。


「とにかく俺たちと一緒に行くぞ!」


「ええ♪」


リバエルは笑顔で答えると、俺の頰に軽く口付けをする。その瞬間、身体の中で何かが弾けたような感じがした……。


(なんだ?)


不思議に思っていると、リバエルが急に慌て始めた。


「ご、ごめんね! つい……」


彼女は申し訳なさそうに頭を下げると、潤んだ瞳で見つめてくる。そんな表情をされると怒る気になれないな……。


「いや……大丈夫だ」


俺は苦笑しながら答えると、改めて彼女を見つめた。綺麗な金色の瞳が輝いているように見える……。


「それじゃあ改めてよろしく頼むよ」


俺が手を差し出すと、リバエルは嬉しそうな表情で握手してきた。その手は小さく柔らかく、とても温かい……。


「よろしくね♪ ナオト♪」


こうして新たな仲間が加わって屋敷はさらに賑やかになるのであった。
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