上 下
13 / 20

13

しおりを挟む
俺と葵さんはそれぞれに準備を終えてから、予定した時刻にダンジョン前の河原で合流した。預かり所で二人分の装備類を回収しつつ、まずは武具店に向かう。昨日手に入れた武器を売却するためだ。


「武具はだいたいですけど、店に並んでいる値段の半値ぐらいで買い取ってくれる感じですね。ロングソードはたしか店売り価格3万円ぐらいだったと思うので、売却価格は期待できると思いますよ」


武具店に向かう道すがら、葵さんがそう教えてくれる。その時だった。店の中から、一人のガラの悪い男が出てきた。歳は二十代後半ぐらいで、鎖かたびらを身に着け、背には盾をくくり付け、腰には剣を提げている。探索者のようだ。男は葵さんを見つけると、にやりと笑って彼女の腕をつかんだ。


「待てよ。この間、ソロでやるって俺の誘いを断っただろ? なのにこいつとは組むのかよ」


「は、離してください……!」


男が葵さんの腕を掴んだ瞬間、俺の中で何かが切れた。


一瞬の出来事だった。


「ぐあっ!」


俺の拳が男の顎を捉え、彼は3メートルほど吹き飛ばされて地面に転がった。


「な、何だと……お前……」


男が震える声で言う。俺の両目が妖しく輝いているのが、店のガラス越しに映っているのが見えた。


「他人に手を出す前に、相手が誰かよく確認することだな」


俺の言葉に、男の顔から血の気が引いた。


「ま、まさか……伝説の『孤高の探索者』……!」


「立ち去れ」


その一言で、男は這うようにして逃げ去った。葵さんは目を丸くして俺を見ている。


「す、すごいです……直人さん……」


「些細なことだよ。それより、武具店に行こうか」


俺は何事もなかったかのように歩き出した。これが俺の日常だ。強さゆえに、時に厄介事に巻き込まれることもある。でも、それも含めて探索者の道なのだろう。


「はい!」


葵さんは元気よく返事をすると、俺の後を追ってきた。これから二人でダンジョンに潜ると思うと胸が弾む。きっと楽しい一日になるだろうと思いながら、俺は店内に入っていったのだった。


「まずは、探索者免許証を拝見させていただけますか」


カウンター越しに店員が言う。俺たちはそれぞれ免許証を取り出した。


「確認いたしました。それではお会計の方ですが、お預かりした商品は合計で7万3千円になります」


なかなかの高額だ。これで葵さんが手に入れたロングソードは、店売り価格で2万5千円ほどらしいから、半値で買い取ってくれたことになる。


「それではお支払いですが、現金とカードどちらがよろしいですか?」


店員が聞いてくるので俺はカードを差し出しつつ言った。


「一括払いでお願いします」


「かしこまりました」


店員が端末を操作するとすぐに会計処理が終わったようで、レシートを渡された。それを受け取った後、俺たちは武具店を後にした。


「さて、次は防具屋かな」


「そうですね。武器は手に入りましたけど、防具も新調したほうがいいと思います」


葵さんの言葉に俺は頷いた。確かに今の装備では心許ない部分もあるだろう。


「じゃあ行こうか」


俺たちは武具店の隣にある防具屋へと向かった。中に入ると様々な種類の鎧が所狭しと並べられていた。


「いらっしゃいませー! お探しの品は何でしょうか?」


店員が笑顔で声をかけてくれるので、俺は少し考えてから答えた。


「動きやすい防具が欲しいんですけど」


「それでしたら、こちらの商品がおすすめです」


店員はそう言うと一つの鎧を勧めてきた。胸当てと腰当てがついたもので、見た目より軽く感じる。値段も手頃だったので、俺はその二つを購入することに決めた。葵さんの方も同じものを選ぶようだ。会計を済ませた後、俺たちは店を出て再びダンジョンへ向かうことにしたのだった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...