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俺と葵さんはそれぞれに準備を終えてから、予定した時刻にダンジョン前の河原で合流した。預かり所で二人分の装備類を回収しつつ、まずは武具店に向かう。昨日手に入れた武器を売却するためだ。
「武具はだいたいですけど、店に並んでいる値段の半値ぐらいで買い取ってくれる感じですね。ロングソードはたしか店売り価格3万円ぐらいだったと思うので、売却価格は期待できると思いますよ」
武具店に向かう道すがら、葵さんがそう教えてくれる。その時だった。店の中から、一人のガラの悪い男が出てきた。歳は二十代後半ぐらいで、鎖かたびらを身に着け、背には盾をくくり付け、腰には剣を提げている。探索者のようだ。男は葵さんを見つけると、にやりと笑って彼女の腕をつかんだ。
「待てよ。この間、ソロでやるって俺の誘いを断っただろ? なのにこいつとは組むのかよ」
「は、離してください……!」
男が葵さんの腕を掴んだ瞬間、俺の中で何かが切れた。
一瞬の出来事だった。
「ぐあっ!」
俺の拳が男の顎を捉え、彼は3メートルほど吹き飛ばされて地面に転がった。
「な、何だと……お前……」
男が震える声で言う。俺の両目が妖しく輝いているのが、店のガラス越しに映っているのが見えた。
「他人に手を出す前に、相手が誰かよく確認することだな」
俺の言葉に、男の顔から血の気が引いた。
「ま、まさか……伝説の『孤高の探索者』……!」
「立ち去れ」
その一言で、男は這うようにして逃げ去った。葵さんは目を丸くして俺を見ている。
「す、すごいです……直人さん……」
「些細なことだよ。それより、武具店に行こうか」
俺は何事もなかったかのように歩き出した。これが俺の日常だ。強さゆえに、時に厄介事に巻き込まれることもある。でも、それも含めて探索者の道なのだろう。
「はい!」
葵さんは元気よく返事をすると、俺の後を追ってきた。これから二人でダンジョンに潜ると思うと胸が弾む。きっと楽しい一日になるだろうと思いながら、俺は店内に入っていったのだった。
「まずは、探索者免許証を拝見させていただけますか」
カウンター越しに店員が言う。俺たちはそれぞれ免許証を取り出した。
「確認いたしました。それではお会計の方ですが、お預かりした商品は合計で7万3千円になります」
なかなかの高額だ。これで葵さんが手に入れたロングソードは、店売り価格で2万5千円ほどらしいから、半値で買い取ってくれたことになる。
「それではお支払いですが、現金とカードどちらがよろしいですか?」
店員が聞いてくるので俺はカードを差し出しつつ言った。
「一括払いでお願いします」
「かしこまりました」
店員が端末を操作するとすぐに会計処理が終わったようで、レシートを渡された。それを受け取った後、俺たちは武具店を後にした。
「さて、次は防具屋かな」
「そうですね。武器は手に入りましたけど、防具も新調したほうがいいと思います」
葵さんの言葉に俺は頷いた。確かに今の装備では心許ない部分もあるだろう。
「じゃあ行こうか」
俺たちは武具店の隣にある防具屋へと向かった。中に入ると様々な種類の鎧が所狭しと並べられていた。
「いらっしゃいませー! お探しの品は何でしょうか?」
店員が笑顔で声をかけてくれるので、俺は少し考えてから答えた。
「動きやすい防具が欲しいんですけど」
「それでしたら、こちらの商品がおすすめです」
店員はそう言うと一つの鎧を勧めてきた。胸当てと腰当てがついたもので、見た目より軽く感じる。値段も手頃だったので、俺はその二つを購入することに決めた。葵さんの方も同じものを選ぶようだ。会計を済ませた後、俺たちは店を出て再びダンジョンへ向かうことにしたのだった――。
「武具はだいたいですけど、店に並んでいる値段の半値ぐらいで買い取ってくれる感じですね。ロングソードはたしか店売り価格3万円ぐらいだったと思うので、売却価格は期待できると思いますよ」
武具店に向かう道すがら、葵さんがそう教えてくれる。その時だった。店の中から、一人のガラの悪い男が出てきた。歳は二十代後半ぐらいで、鎖かたびらを身に着け、背には盾をくくり付け、腰には剣を提げている。探索者のようだ。男は葵さんを見つけると、にやりと笑って彼女の腕をつかんだ。
「待てよ。この間、ソロでやるって俺の誘いを断っただろ? なのにこいつとは組むのかよ」
「は、離してください……!」
男が葵さんの腕を掴んだ瞬間、俺の中で何かが切れた。
一瞬の出来事だった。
「ぐあっ!」
俺の拳が男の顎を捉え、彼は3メートルほど吹き飛ばされて地面に転がった。
「な、何だと……お前……」
男が震える声で言う。俺の両目が妖しく輝いているのが、店のガラス越しに映っているのが見えた。
「他人に手を出す前に、相手が誰かよく確認することだな」
俺の言葉に、男の顔から血の気が引いた。
「ま、まさか……伝説の『孤高の探索者』……!」
「立ち去れ」
その一言で、男は這うようにして逃げ去った。葵さんは目を丸くして俺を見ている。
「す、すごいです……直人さん……」
「些細なことだよ。それより、武具店に行こうか」
俺は何事もなかったかのように歩き出した。これが俺の日常だ。強さゆえに、時に厄介事に巻き込まれることもある。でも、それも含めて探索者の道なのだろう。
「はい!」
葵さんは元気よく返事をすると、俺の後を追ってきた。これから二人でダンジョンに潜ると思うと胸が弾む。きっと楽しい一日になるだろうと思いながら、俺は店内に入っていったのだった。
「まずは、探索者免許証を拝見させていただけますか」
カウンター越しに店員が言う。俺たちはそれぞれ免許証を取り出した。
「確認いたしました。それではお会計の方ですが、お預かりした商品は合計で7万3千円になります」
なかなかの高額だ。これで葵さんが手に入れたロングソードは、店売り価格で2万5千円ほどらしいから、半値で買い取ってくれたことになる。
「それではお支払いですが、現金とカードどちらがよろしいですか?」
店員が聞いてくるので俺はカードを差し出しつつ言った。
「一括払いでお願いします」
「かしこまりました」
店員が端末を操作するとすぐに会計処理が終わったようで、レシートを渡された。それを受け取った後、俺たちは武具店を後にした。
「さて、次は防具屋かな」
「そうですね。武器は手に入りましたけど、防具も新調したほうがいいと思います」
葵さんの言葉に俺は頷いた。確かに今の装備では心許ない部分もあるだろう。
「じゃあ行こうか」
俺たちは武具店の隣にある防具屋へと向かった。中に入ると様々な種類の鎧が所狭しと並べられていた。
「いらっしゃいませー! お探しの品は何でしょうか?」
店員が笑顔で声をかけてくれるので、俺は少し考えてから答えた。
「動きやすい防具が欲しいんですけど」
「それでしたら、こちらの商品がおすすめです」
店員はそう言うと一つの鎧を勧めてきた。胸当てと腰当てがついたもので、見た目より軽く感じる。値段も手頃だったので、俺はその二つを購入することに決めた。葵さんの方も同じものを選ぶようだ。会計を済ませた後、俺たちは店を出て再びダンジョンへ向かうことにしたのだった――。
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