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数日後、俺たちはアーガスの街の北部に広がる、【ドルム山】へとやってきていた。


『主よ。こんな山の中にきて、なにをする気だ?』


「ギルドからの依頼で、ミスリルの鉱脈を視察しに行くんだ」

このドルム山は貴重なミスリルの鉱脈が眠っていると言われている場所である。今回の依頼はその調査がメインなのだ。


『なぜ冒険者が鉱脈を探すのだ? 採掘は鉱夫の仕事ではないか』


「山に魔物が発生したようで、鉱夫たちが採掘できなくなっているらしいんだ」


『なるほど。魔物退治も兼ねているのか』


俺たちは山の奥へと進んでいく。するとミスリルの鉱脈があると思われる洞窟を発見した。


「ここかな?」


『恐らく間違いないだろう』


俺たちは洞窟の中に足を踏み入れる。すると中には魔物や魔獣が巣食っていた。どうやら鉱夫たちを困らせているのはこいつららしいな……


「浄化の炎(ピュリフィケーション)」


エステルが魔法を使うと、魔物たちは光に包まれて消える。これで一安心だな……ん? 奥のほうから気配を感じる……


「……♪」


とんがり帽子を被った小さな毛むくじゃらの生物が俺の太ももをつついてくる。


『こやつは【ノーム】じゃ。こういう洞窟や鉱山に住む土の精霊じゃな』


「可愛いわ!」


『確かに愛らしいが、油断していると怪我をすることになるぞ』


ノームは鉱山の守護神として崇められている。だが悪い人間や、鉱山に侵入してきた魔物などに住処を襲われると、その報復としていたずらをすることがあるそうだ。そのため一部の人からは嫌われているらしい……


『どうやら案内してくれるらしいな』


迷路のような鉱山の中をノームは軽やかな動きで進んで行く。俺たちはその後ろをついて行った。すると少し開けた場所にたどり着いた。足下には、奇妙な図形が描かれている。


「これは転移の魔法陣のようだな」


俺たちが転移の魔法陣に乗ると、ノームが何か呪文を唱えた。すると俺たちの体が光に包まれて、別の場所へと転移する。


「ここは……」


周りを見渡すと、広い空間が広がっていた。壁を見ると、青色がかった銀色の鉱石があちこちから生えていた。


「凄いわ! これ全部ミスリルよ!」


「希少な金属がこんなに……」


『これだけの量を採掘できれば、ひと財産築けそうじゃな』


俺たちは手分けしてミスリルの採取を始めた。するとノームがやってきて、くるくると可愛らしいダンスを踊る。だが、突然怯えたような表情になると、どこかへ消えてしまった。


「グォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


すると奥から大きな咆哮が聞こえてきた。現れたのは体に鉱石の生えた魔物であった。


「こいつは【ミスリル・ビースト】よ!」


エステルが杖を構える。俺も剣を抜いて臨戦態勢をとった。するとミスリル・ビーストは鉱石でできた爪で引っ掻いてきたり、尻尾を振り回して攻撃してくる。


「くっ……速い……」


俺は攻撃を躱すだけで精一杯だった。このままだとまずいぞ……どうすればいいんだ……


『主よ! この剣を使うのだ!』


「デュランダル……」


お札の力でデュランダルの力を解放する。その瞬間、ミスリル・ビーストの動きが止まった。俺は渾身の力を込めて斬りつけると、体を真っ二つに両断することができた。


「グォオオッ!!」


断末魔の叫び声をあげて、ミスリル・ビーストは倒れる。やがて光の粒子となって消えていったのだった……


「やったな……」


俺はデュランダルを鞘に収める。するとノーム達がやってきて、ペコペコと頭を下げてきた。


『どうやらミスリル・ビーストに意地悪されてたようじゃな。助けてくれてありがとうと言っておるぞ』


ノーム達は俺の足をくいくいと引っ張る。


『そなたと契約したいそうじゃ』


「わかった。よろしく頼む」


するとノームたちは喜びの舞を踊り始めた。なんだか微笑ましい光景だな……


『お礼にミスリルの武器を作ってくれるそうじゃよ』


「おぉ……それは楽しみだな」


ノーム達は、近くにあったミスリル鉱石に集まる。どこからかハンマーを取り出し、次々と加工していった。あっという間にミスリルの武器が完成する。


「今まで使ってきたどんな剣よりも軽い。強度も申し分ないな」


俺は剣を振るう。すると鉱石がバターみたいに斬れた。


「おぉ……凄いな」


『主よ! もっと作ってくれるようじゃぞ』


ノームたちは、俺たちにミスリルの武具を作ってくれるのだった……


「ありがとう、ノームちゃん♡ 大事に使わせてもらうわね♡」


褒められて嬉しいのか、ノームたちは嬉しそうにくるくると踊る。エステルはそんな可愛らしい姿を見て、ほっこりとしていた。


「鉱脈のことだけど、ギルドにどう報告しようか……」


「そうね……こんなに取れる鉱脈が知れたら、あっという間に掘り尽くされちゃうわね」


「それだけじゃなく、ノーム達の住処も失ってしまうことになる」


よく考えた末に俺は、一つの結論を出した。


「ミスリルの鉱脈は、俺たちだけの秘密にすることにしよう」


「それがいいと思うわ」


『異議なしじゃ』


こうして俺たちは、ノームが採掘場としている鉱山を、誰にも教えないようにしたのだった。もちろん俺たちも、もうここへ来ないつもりである。


「素敵な武器をありがとう、君たちのことは一生忘れない」


俺たちは帰り支度を整えて、下山することになった。ノーム達が別れを惜しむような表情を浮かべる。


「大丈夫、必要な時はいつでも呼ぶよ」


ノームたちがうなずく仕草を見せる。


「じゃあな!」


俺たちは手を振って、ノーム達と別れたのだった。
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