「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした～今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります～

26

それから一週間が経過したある日のこと、俺は王宮の一室にいた。ここはリチャードの執務室らしく、豪華な内装が施されている。壁際には本棚が置かれており、その中にはぎっしりと本が並んでいた。そして中央には大きなテーブルとソファーが置いてある。その上にはティーセットが置かれていた。


（なかなか良い部屋だな……）


俺がそう思っていると扉が開き、リチャードが入ってきた。彼は笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「待たせたね」


「いや、そんなに待っていないよ」


俺が答えるとリチャードは向かい側のソファーに座る。そして従者に合図を出すと従者は部屋から出て行った。どうやら二人きりにしてくれたらしい……リチャードはお茶を飲みながら口を開く。


「それで早速本題に入ろうか」


「ああ、そうだな」


俺が同意すると彼は静かに語り始めた。


「君に来てもらったのは他でもない……実はある任務を受けてもらいたいんだ」


「何だ？」


「それは我が国と敵対している『ニブルム王国』について調査して欲しい」


リチャードは真剣な表情で言う。


「ニブルム王国……」


俺が呟くと彼は頷いた。そして話を続ける。


「実は最近、彼らの動きが活発になってきていてね……我が国も警戒を強めているんだ」


そう言ってため息をつくと紅茶を口に運ぶ。


「それで君には潜入捜査を行ってもらいたいと思っているんだが、引き受けてくれるかな？」


その問いかけに俺は頷いた。


「分かった、引き受けよう」


俺が答えるとリチャードは笑みを浮かべる。


「ありがとう、君なら引き受けてくれると思っていたよ」


彼はそう言うと立ち上がって俺の前まで歩いてきた。そして手を差し伸べてくる。俺はその手を取ると握手を交わした。それから互いに手を離すとソファーに座る。リチャードは再び紅茶に口をつけると口を開いた。


「それじゃあ細かい打ち合わせをしようか……まず、君は王国に潜入して情報を集めて欲しい」


「なるほど、それでその後はどうすればいいんだ？」


俺が聞き返すとリチャードは顎に手を当てて考え込む仕草をする。そして何かを思いついたように顔を上げた。


「そうだな……潜入したらまずは王女と接触して欲しい」


「王女だと？」


予想外の答えに思わず聞き返すと彼は頷く。


「ああ、その王女をこちら側に引き込むことができれば色々とやりやすくなるからね……それに君が近くにいるだけで抑止力になるはずだし」


「なるほど……」


俺は頷くと思考を巡らせる……確かに王女に近づくのは悪くないアイデアかもしれない。


（それに俺の噂を広めることも出来るしな……）


俺はそう考えると口を開いた。


「分かった、その作戦でいこう」


「よし、では頼んだぞ」


リチャードはそう言うと立ち上がり、従者を呼ぶ。そして何かを指示すると彼は部屋から出て行った。恐らくこれから色々と準備をするのだろう。俺もそろそろ出発することにしようかと思っているとリチャードが話しかけてきた。


「最後に一つだけ忠告しておくよ……王国には『漆黒の刃』という暗殺者集団がいるから注意してくれ」


「漆黒の刃？」


俺が聞き返すとリチャードは説明し始める。


「ああ、最近王国で頭角を現し始めた暗殺者集団だ……奴らの情報収集能力は異常でね、我々の情報網ですら手に余るほどだよ」


彼はそこまで言うと少し考えるような仕草を見せた後で再び口を開く。


「まあ、君がいれば問題無いとは思うけれど一応ね……」


（なるほどな……）


俺は心の中で呟くと頷いた。確かにそういう手強い敵は早めに摘んでおいた方が良さそうだ。


「分かった、覚えておくよ」


俺が言うとリチャードは満足そうな表情を浮かべる。


「よろしく頼むよ、期待しているからね」


彼はそう言うと俺に笑いかけた。そして手を振ると部屋から出て行く……その後ろ姿を見ながら俺は思った。


（さて、早速準備に取り掛かるか）


こうして俺の潜入任務が始まったのだった。