上 下
19 / 30

19

しおりを挟む
ある日のこと、俺たちはアーガスの郊外にある古びた屋敷を訪れていた。目的はこの屋敷に住む吸血鬼の討伐だ。


「ここが吸血鬼の住処か……」


『アベルさん、気を付けてください。吸血鬼は強力な相手です!』


「ああ、分かってるさ」


屋敷の扉を開けると埃っぽい空気が漂ってきた……部屋の中は薄暗く不気味な雰囲気を放っている。


「ギギィ!」


天井から巨大な蜘蛛が落ちてきた。それは鋭い牙をむき出しにして襲い掛かってくるが、俺は軽くあしらって蹴り飛ばした。そしてそのまま屋敷の中を探索していく……


『アベルさん、こっちに何かあります!』


フィーネに誘われるままついて行くと、そこには地下へと続く階段があった。階段を下りていくと広い部屋に出た……そこには多くの書物や実験器具などが散乱しており、不気味な雰囲気が漂っている。そして部屋の中央に置かれた椅子には一人の女性が座っていた……その女性は長い金髪で赤い瞳をしていた。彼女はこちらに気づくとゆっくりと立ち上がり、妖艶な笑みを浮かべた。


「ようこそ我が屋敷へ……」


「お前が吸血鬼か?」


「ええそうよ……私はこの屋敷の主であるレティシア・ヴァン・アーカードよ。何の用で来たのかしら?」


「お前を討伐しに来た」


「へぇー、面白いことを言うのね。人間が私に勝てるとでも思っているのかしら?」


「もちろんそのつもりだ」


俺がそう答えると、彼女は妖しい笑みを浮かべた。そしてゆっくりと近づいてくる……


『アベルさん! 気を付けてください!』


フィーネの忠告通り、レティシアは鋭い爪で切り裂いてきた。しかし俺はそれを難なく避けると反撃に出た。拳を振りかざして彼女の顔面を狙うも寸前のところで避けられてしまう……


「あら、なかなかやるじゃない」


レティシアは再び間合いを取ると今度は魔法を放った。無数の血の槍が飛んでくるが全て避けきる……そして俺は一気に距離を詰めると彼女に拳を振るった。しかしそれは血の盾によって受け止められてしまう。


「ちっ……」


俺は舌打ちをして後ろに下がった。


『アベルさん、大丈夫ですか?』


「ああ、問題ない」


フィーネの声に答えながらも油断なく身構える……するとレティシアは再び間合いを詰めてきた。そして鋭い爪を振りかざしてくるがそれを躱すと、俺は彼女の腕を掴み投げ飛ばした。だがレティシアもすぐに体勢を立て直して立ち上がる……そして再び攻撃を仕掛けてきた。しかし今度は俺も反撃に出た。拳を振るい彼女を吹き飛ばすとさらに追撃をかける。


「これで終わりだ!」


俺は飛び上がると渾身の蹴りを放った。しかしその一撃はレティシアに受け止められてしまう……彼女は不敵な笑みを浮かべると俺の足を強く握りしめた。骨が軋む音が聞こえてくる。激痛が走ると同時に力が抜けていった。そしてそのまま地面に叩きつけられてしまう……


『アベルさん!』


フィーネの心配そうな声が聞こえる中、俺はゆっくりと立ち上がった。


「なかなかやるじゃないか……」


「あなたもね」


俺たちは互いに笑みを浮かべていた……次の一撃で勝負が決すると確信したからだ。


「行くぞ!」


俺が叫ぶと同時にレティシアが攻撃を仕掛けてきた。目にも止まらぬ速さで繰り出される斬撃を躱し、受け流す……そして隙を見て拳を突き出した。しかしそれは避けられてしまう。次に蹴りを放つもこれも避けらてしまう……しばらく激しい攻防が続いた後、ついに決着の瞬間がやってきた。


「これで終わりだ!」


俺は渾身の力で拳を振り抜いた。その一撃は見事に命中して彼女を吹き飛ばした。壁に激突した彼女は力なく崩れ落ちる……


「やったのか?」


俺が呟くと同時にレティシアが起き上がった。彼女は口から血を流しながらも不敵な笑みを浮かべていた……


「まさかここまでやるとは思わなかったわ……」


「まだやるのか?」


「いいえ、もう満足したわ」


そう言うと彼女はその場に座り込んだ。そして俺に向かって話しかけてきた。


「ねえ、あなた名前はなんていうの?」


「アベルだ」


「そう、いい名前ね。また会える日を楽しみにしているわ」


レティシアは背中から蝙蝠のような翼を生やすと飛び去った……


『アベルさん、大丈夫ですか?』


「ああ、大丈夫だ」


俺はフィーネに答えると屋敷を出て行った。そしてそのまま帰路につくことにした……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」 E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。 毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。 そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。 しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。 そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。 『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。 「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」 「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」 これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。 ※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。

処理中です...