15 / 30
15
しおりを挟む
翌日、俺はいつも通り領主館で仕事をこなしていた。
「おかしい……俺はスローライフ生活を送るために追放されたのにどうしてこんなに働いているんだ?」
『そりゃあ、アベル様がお人よしだからですよ』
「え? そうなの?」
『そうですよ!現に困っている人たちを放っておけないからこうやって働いてるじゃないですか!』
「うーん……まあそれもそうだな……」
俺は納得することにした。実際、困っている人を見ると放っておけない性分なのだ。それに俺が働いていることで皆が喜んでくれるのを見るのは嬉しいし……
「しかし仕事だけの人生も嫌だな……」
『じゃあ、アベル様は何をしたいんですか?』
「そうだな……趣味で畑を耕したり、釣りをしたりしてみたい」
『オヤジ臭いですね……』
「ほっとけ!」
『まあ、アベル様らしいですけどね』
「まあな……」
そんな会話をしていると突然ドアがノックされた。誰だろうと思い返事をすると入ってきたのはアリサだった。彼女は部屋に入ってくるといきなり俺の横に立つと言った。
「あのっ! 一緒に温泉に行きませんか?」
「温泉?」
「はいっ! アーガスの西にある温泉宿です!」
「温泉か……疲れを癒すには良さそうだな」
「本当ですか!?」
アリサの顔がパッと明るくなる。彼女は嬉しそうに笑った後、俺の手を引っ張ってきた。
「早く行きましょう!」
こうして俺はアリサと一緒に温泉に行くことになったのであった……
◇
俺たちはアーガスの西にある温泉宿に来ていた。周囲には誰もおらず貸切状態だ。早速服を脱ぐと温泉に入ることにする。湯加減も丁度良くとても気持ち良かった。空を見上げると星が輝いているのが見えた。
(たまにはこういうのも良いかもな……)
そう思いながらボーっとしているといつの間にか隣にアリサがいた。
「アベルさん、気持ちいいですね!」
彼女は満面の笑みを浮かべている。
「ああ、そうだな……ってここは男湯だぞ!?」
「ふふっ、ここは混浴なんですよ」
アリサは小さく笑うと、俺の腕にしがみついてきた。柔らかい感触が伝わってくる……
「どうした?」
「いえ……ただこうしたかっただけです」
そう言うと彼女は更に強く抱きついてくる。
「アベルさん……大好きです」
次の瞬間、エミリーが勢いよくドアを開けて入ってきた。
「アベルさん! 私も一緒に入ります!」
「エミリー!? どうしてここに!?」
「私も温泉に来たんです! それよりもアリサさん、離れてください!」
エミリーが叫ぶと、アリサも負けじと言い返す。
「嫌です! アベルさんは私のものなんですから!」
「いいえ! 私のものです!」
二人は睨み合うとそのまま取っ組み合いを始めてしまった。俺は慌てて止めに入るが、なかなか収まらない……
「やれやれ……」
温泉から出ると、俺たちは温泉宿の名物料理を頂いた。山菜や川魚を使った料理はとても美味しく、ついつい食べ過ぎてしまった。
「アベル様、あーんしてください」
「いや、自分で食べられるから……」
「いいから早く!」
アリサは強引にスプーンを近づけてくる。俺は仕方なく口を開けた。するとそこに料理が運ばれる。
「美味しいですか?」
「ああ、美味いぞ」
俺が頷くと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。そして再び料理を食べさせてくれる。その様子を見ていたエミリーが羨ましそうな声を上げた。
「私もアベル様にあーんします!」
「駄目です! これは私がやるんです!」
アリサがそう言うと、エミリーは頬を膨らませた。そんな二人のやりとりを見て苦笑するしかない俺であった……
「やれやれ……」
その後、部屋に戻ると布団に入ることにしたのだが……
「アベル様と寝るのは私です!」
「いいえ! 私ですよ!」
エミリーとアリサはどちらが俺と一緒に寝るかで揉めていた。正直言ってとても面倒くさい……そう思った俺はある提案をした。
「なら三人で寝よう」
俺の言葉に二人は顔を真っ赤にする。そしてお互いに顔を見合わせると、小さな声で話し合いを始めたようだ。しばらくして結論が出たのか二人が同時にこちらを見ると言った。
「アベル様がそう言うなら……」
「仕方ないですね……」
どうやら納得してくれたようだ。俺はホッと胸を撫で下ろすと布団に入った……
「アリサさん、アベル様にくっつきすぎです!」
「エミリーさんこそ、アベルさんに近すぎませんか?」
「私はアベル様の婚約者ですから当然です!」
「私だってアベルさんの事が好きなんです!」
この二人の争いは終わることはなさそうだ……俺は小さくため息をつくと眠りについた……
「おかしい……俺はスローライフ生活を送るために追放されたのにどうしてこんなに働いているんだ?」
『そりゃあ、アベル様がお人よしだからですよ』
「え? そうなの?」
『そうですよ!現に困っている人たちを放っておけないからこうやって働いてるじゃないですか!』
「うーん……まあそれもそうだな……」
俺は納得することにした。実際、困っている人を見ると放っておけない性分なのだ。それに俺が働いていることで皆が喜んでくれるのを見るのは嬉しいし……
「しかし仕事だけの人生も嫌だな……」
『じゃあ、アベル様は何をしたいんですか?』
「そうだな……趣味で畑を耕したり、釣りをしたりしてみたい」
『オヤジ臭いですね……』
「ほっとけ!」
『まあ、アベル様らしいですけどね』
「まあな……」
そんな会話をしていると突然ドアがノックされた。誰だろうと思い返事をすると入ってきたのはアリサだった。彼女は部屋に入ってくるといきなり俺の横に立つと言った。
「あのっ! 一緒に温泉に行きませんか?」
「温泉?」
「はいっ! アーガスの西にある温泉宿です!」
「温泉か……疲れを癒すには良さそうだな」
「本当ですか!?」
アリサの顔がパッと明るくなる。彼女は嬉しそうに笑った後、俺の手を引っ張ってきた。
「早く行きましょう!」
こうして俺はアリサと一緒に温泉に行くことになったのであった……
◇
俺たちはアーガスの西にある温泉宿に来ていた。周囲には誰もおらず貸切状態だ。早速服を脱ぐと温泉に入ることにする。湯加減も丁度良くとても気持ち良かった。空を見上げると星が輝いているのが見えた。
(たまにはこういうのも良いかもな……)
そう思いながらボーっとしているといつの間にか隣にアリサがいた。
「アベルさん、気持ちいいですね!」
彼女は満面の笑みを浮かべている。
「ああ、そうだな……ってここは男湯だぞ!?」
「ふふっ、ここは混浴なんですよ」
アリサは小さく笑うと、俺の腕にしがみついてきた。柔らかい感触が伝わってくる……
「どうした?」
「いえ……ただこうしたかっただけです」
そう言うと彼女は更に強く抱きついてくる。
「アベルさん……大好きです」
次の瞬間、エミリーが勢いよくドアを開けて入ってきた。
「アベルさん! 私も一緒に入ります!」
「エミリー!? どうしてここに!?」
「私も温泉に来たんです! それよりもアリサさん、離れてください!」
エミリーが叫ぶと、アリサも負けじと言い返す。
「嫌です! アベルさんは私のものなんですから!」
「いいえ! 私のものです!」
二人は睨み合うとそのまま取っ組み合いを始めてしまった。俺は慌てて止めに入るが、なかなか収まらない……
「やれやれ……」
温泉から出ると、俺たちは温泉宿の名物料理を頂いた。山菜や川魚を使った料理はとても美味しく、ついつい食べ過ぎてしまった。
「アベル様、あーんしてください」
「いや、自分で食べられるから……」
「いいから早く!」
アリサは強引にスプーンを近づけてくる。俺は仕方なく口を開けた。するとそこに料理が運ばれる。
「美味しいですか?」
「ああ、美味いぞ」
俺が頷くと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。そして再び料理を食べさせてくれる。その様子を見ていたエミリーが羨ましそうな声を上げた。
「私もアベル様にあーんします!」
「駄目です! これは私がやるんです!」
アリサがそう言うと、エミリーは頬を膨らませた。そんな二人のやりとりを見て苦笑するしかない俺であった……
「やれやれ……」
その後、部屋に戻ると布団に入ることにしたのだが……
「アベル様と寝るのは私です!」
「いいえ! 私ですよ!」
エミリーとアリサはどちらが俺と一緒に寝るかで揉めていた。正直言ってとても面倒くさい……そう思った俺はある提案をした。
「なら三人で寝よう」
俺の言葉に二人は顔を真っ赤にする。そしてお互いに顔を見合わせると、小さな声で話し合いを始めたようだ。しばらくして結論が出たのか二人が同時にこちらを見ると言った。
「アベル様がそう言うなら……」
「仕方ないですね……」
どうやら納得してくれたようだ。俺はホッと胸を撫で下ろすと布団に入った……
「アリサさん、アベル様にくっつきすぎです!」
「エミリーさんこそ、アベルさんに近すぎませんか?」
「私はアベル様の婚約者ですから当然です!」
「私だってアベルさんの事が好きなんです!」
この二人の争いは終わることはなさそうだ……俺は小さくため息をつくと眠りについた……
205
お気に入りに追加
1,024
あなたにおすすめの小説
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
「武器屋があるからお前など必要ない」と追放された鍛冶師は伝説の武器を作り、無双する~今更俺の武器が必要だと土下座したところでもう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属する鍛冶師のアークはパーティーに貢献してないという理由で追放される。
アークは王都を出て、自由に生きることを決意する。その道中、アークは自分の真の力に目覚め、伝説級の武器を作り出す鍛冶師として世界中に名を轟かせる。
一方、アークを追い出した【黄金の獅子王】のメンバーは、後になって知ることになる。アークが自分たちの武器をメンテしていたことでSランクになったのだと、アークを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになり、アークが関わった人たちは皆、彼の作る伝説の武器で、幸せになっていくのだった。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる