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翌日、執務室で仕事をしていると、ジェレミアが血相を変えて飛び込んできた。


「ア、アベル様! 大変です!」


「どうしたんだ?」


「魔族が……魔族がやって来ました!」


どうやら魔族がこの村に攻めてきたらしい。


「分かった、すぐ行こう」


俺は剣を手に取ると、現場へと向かった。するとそこには一人の女性がいた。見た目は二十代前半くらいで黒い翼と角を持った美女だ。彼女の周囲には配下と思われる魔物たちがいる。


(あれが魔族か……それにしても美人だな)


彼女は妖艶な笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。そして俺の目の前で立ち止まった。


「あなたがアベルね?」


「そうだ。お前は?」


「私は魔王軍四天王の一人、ルシアよ」


「それで? なんでここに来たんだ?」


「単刀直入に言うわ。あなたと同盟を結びに来たのよ」


「同盟?」


「ええ、私たちは人間との和睦を望んでいるの。だけど今のままじゃ望めそうもないわ」


「だから俺たちに協力してほしいと?」


「その通りよ」


ふむ……どうやら彼女は本気で言っているようだ。


「罠に決まってます! 断るべきです!」


ジェレミアが必死の形相で訴えてくる。だが、俺は彼女の提案に乗ることにした。


「分かった。同盟を結ぼうじゃないか」


「あら? 意外とあっさり決めるのね」


「まあな……」


戦わないで済むならそれに越したことはない。それに魔族と手を結ぶことができれば、今後何かと役に立つだろう。


「じゃあ、早速だけど魔王城に来てもらえるかしら?」


「ああ、構わないよ」


こうして俺は魔王城へと向かうことになった。





「そちがアベルか?」


魔王の城、謁見の間。玉座にふんぞり返っているのは、10歳くらいの幼女だ。


「わらわが魔王アンリエッタじゃ。よろしくの」


「アベルだ。よろしく頼むよ」


俺は魔王の前で跪く。すると彼女は満足そうに微笑んだ。


(まさか魔王が幼女だったとは……)


見た目は10歳くらいの可愛らしい少女である。だが、彼女の放つオーラは明らかに強者のそれであった。おそらく彼女が纏う魔力がそう感じさせているのだろう。


「して、同盟を結ぶにあたって条件があるのじゃが……」


「ああ、何でも言ってくれ」


「……うむ、そちにはわらわの夫となってもらう」


「は?」


魔王の口から出てきた予想外の条件に、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。


「聞こえなかったのか? わらわと結婚してもらうと言っておるのじゃ」


(いやいや! そんないきなり結婚とか言われても困るんだが……)


俺が戸惑っていると、ルシアが助け船を出してきた。


「陛下、いくらなんでもそれは……」


「ルシアは黙っておれ」


「……はい」


(陛下ってことはこの幼女は魔王なのか……)


俺は改めて魔王をまじまじと見つめる。確かに見た目と口調はとても幼いが、その身に纏うオーラは明らかに異質だった。


(しかし、なぜ俺と結婚したいなどという発想に至ったんだ?)


俺はその理由について考えるが分からなかった。するとアンリエッタが口を開く。


「実はのぅ……そちの噂を聞いてからというもの、ずっと会いたいと思っていたのじゃ」


「そうなのか?」


「うむ、それでそちを婿に迎えれば人間界への和睦もスムーズに進むと思ってな」


(なるほど……そういうことか)


どうやら魔王アンリエッタは俺との結婚が同盟を結ぶ条件であると本気で思っているようだ。まあ、実際問題として魔王が俺の妻になることで魔界を味方につけることができればかなり心強いだろう。それにここまでされて断るというのも申し訳ないしな。


「分かったよ。魔王様と結婚しようじゃないか」


俺がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべた。そして玉座から降りると俺の元まで歩いてくる。


「では早速結婚式を始めるとしよう!」


こうして俺と魔王の結婚が決まったのだった……正直まだ戸惑っているが仕方ないだろう。それに結婚といっても形だけのものだしな。


(それにしてもルシアの奴、さっきから一言も喋らないな)


チラッと横目で見ると、何故かルシアはわなわなと震えていた。一体どうしたのだろうか?


「陛下……いくらなんでも結婚というのは……」


(ルシアの奴、かなり動揺してんな)


まあ無理もない。魔王が俺と結婚するなんて言い出したら誰だって驚くだろうからな。しかも相手は人間の男だし。


「なんじゃ? 不満でもあるのか?」


アンリエッタは不機嫌そうに頰を膨らませる。それを見たルシアは慌ててフォローを入れた。


「いえ! 滅相もございません!」


(うーん……なんか面倒なことになりそうな予感がするんだよなぁ……)


俺は思わずため息をついた。これからどうしたものか……そう考えているうちにも儀式の準備は進んでいくのであった。


「ではこれより結婚式を開始する!」


アンリエッタが宣言すると、儀式が始まった。まずは誓いの言葉を述べなければならないのだが……正直言ってかなり気まずい。なんせ相手は魔王だ。気難しい性格をしているに違いないからな。


「そちはわらわの夫になる覚悟があるか?」


「もちろんだ」


「ならばよいのじゃ! では始めるぞ!」


彼女は俺の前に跪くと、そっと口づけをしてきた。


「では、誓いの接吻を!」


俺はアンリエッタを抱き寄せるとそのままキスをする。舌を入れてみると彼女は一瞬驚いたような反応を見せたが、すぐに受け入れてくれたようだ。しばらく互いの唾液を交換した後、ゆっくりと唇を離す。


「……これで契約は完了じゃ」


彼女の顔を見ると真っ赤になっていた。どうやら恥ずかしかったらしい。そんな彼女を見ていると愛おしさがこみ上げてきた。


(なんだこれ? なんかすごくドキドキするな……)


今まで感じたことのない感情だ。こんなことは初めてだった。だが不思議と悪い気分ではない。むしろ心地よかった。


「そちの魔力……わらわよりも上じゃ……」


彼女は俺の胸に顔を埋めながら呟く。どうやら自分の魔力を俺に奪われたことがショックだったようだ。だが、それは無理もないだろう。なにせ相手は魔王なのだからな。


「まあよい! これからよろしく頼むぞ!」


アンリエッタは満面の笑みを浮かべている。そんな彼女を見ていると俺も幸せな気分になるのだった。
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