上 下
20 / 20

20

しおりを挟む
今日から薔薇祭が開催されるということもあって校内はいつも以上に賑わっていた。そんな中、俺はアリアと一緒に歩いているところだった。彼女は様々な出店を見て回りながらはしゃいでいる様子だったが、その表情はとても楽しそうだった。そんな彼女を見ていると俺も自然と笑みが溢れてくる

のを感じた。


「ねえ、次はあれ食べよう!」


そう言って彼女が指差したのはクレープの屋台だった。二人で並んで注文すると出来上がったものを受け取って近くのベンチに腰掛けることにする。早速一口食べると口の中に甘さが広がり幸せな気分になった。隣を見ると彼女も幸せそうな顔をしているのが見えた。その表情を見ていると自然と笑みが溢れてきてしまうのだった……


「ねえ、次はどこへ行こうか?」


そう聞くと彼女は目を輝かせながら答えた。


「うーん……そうだ!お化け屋敷に行ってみたい!」


そう言われて一瞬戸惑ったものの、すぐに覚悟を決めた俺は彼女と一緒にお化け屋敷へ向かうことにしたのだった……


「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」


部屋に入るなりアリアは大きな悲鳴を上げた。そんな彼女の姿を見て思わず笑ってしまったのだが、それでも怖いものは怖いようだ……


「もう! 笑わないでよー」と頬を膨らませながら抗議してくる彼女だったが、それでも怖さは変わらないらしい。そんな姿を見ているとますます可愛らしく見えてきたのだった……


それからしばらくの間、俺たちはお化け屋敷を楽しんだ後、休憩スペースに座って休むことにした。


「怖かったけど楽しかったね!」


そう言いながら笑う彼女を見ているとこちらまで楽しくなってくるのを感じた。そんな彼女を見ていると愛おしさが込み上げてきて思わず抱きしめそうになったのだが、なんとか我慢することができた自分を褒めてやりたい気分だった……


「また一緒に来ようね」と言われ、俺は笑顔で頷くことにしたのだった……


そうしてお化け屋敷を出た後、俺たちは中庭のベンチに座って休憩することにした。しばらく沈黙が続いた後、不意に彼女が口を開いた。その表情は少し悲しげなものに見える気がする……どうしたんだろうと思っていると、彼女はゆっくりと話し出したのだ。


「ねえ、カイトは私のことどう思ってる?」


唐突にそんなことを聞かれて戸惑ったものの、素直に答えることにした。


「頼もしい仲間だと思っているよ」と答えると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべた後に続けてこう言ったのだ。


「じゃあさ……私のことを異性として意識したことってある?」


その問いかけに一瞬戸惑ってしまったものの、正直に答えることにした。


「……あるかもしれない」と答えると、彼女は頬を赤く染めながら俯いたまま黙ってしまった。そんな彼女を見ているとこちらまで恥ずかしくなってきてしまうほどだったが、それでも目を逸らすことはできなかった……


やがて意を決したかのように顔を上げると、彼女は真っ直ぐにこちらを見つめてきた。その瞳からは強い意志のようなものを感じることができた……そして次の瞬間には驚くべき言葉を口にしたのだ。


「好きです……私と付き合ってください!」


突然の告白に動揺を隠しきれなかったものの、何とか平静を装って返事をすることにした。


「……気持ちは嬉しいけど、今はまだ答えられないかな……」


そう答えると、アリアの表情が一瞬曇ったように見えた。でも、すぐに彼女は明るい笑顔を取り戻し、こう言った。


「そっか……わかった。急に言い出してごめんね。でも、私の気持ちは本当だから。カイトのことをずっと好きだったの」


彼女の率直な言葉に、俺は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。アリアのことは大切な友達だと思っていたけど、恋愛感情まではなかった。それでも、彼女の気持ちを軽々しく扱うわけにはいかない。


「アリア……ごめん。俺も君のことは大切に思ってる。でも、今はまだ……」


言葉を詰まらせる俺に、アリアは優しく微笑んだ。


「大丈夫だよ。急かすつもりはないから。ゆっくり考えてね」


彼女の優しさに、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。でも、嘘をつくわけにはいかない。正直に向き合うことが、アリアへの誠意だと思った。


「ありがとう、アリア。俺も真剣に考えるよ」


そう言うと、彼女はホッとしたような表情を見せた。


「うん、ありがとう。それだけで十分だよ」


二人の間に少し気まずい空気が流れたけど、アリアは明るく話題を変えた。


「さあ、薔薇祭はまだまだこれからだよ! 次はどこに行こうか?」


アリアの明るい声に、俺も気持ちを切り替えることができた。確かに、告白されたことで複雑な気持ちになったけど、今日は楽しむことに集中しよう。そう決意して立ち上がった。


「そうだな……あそこの占いブースはどうだ?」


俺が指さした先には、紫色のテントが立っていた。入り口には「運命の星占い」という看板が掲げられている。


「いいね! 行ってみよう!」


アリアは元気よく立ち上がり、俺の腕を引っ張った。その仕草は、さっきまでの告白のことなんて忘れてしまったかのようだった。


占いブースに近づくと、香ばしい香りが漂ってきた。中に入ると、年配の女性が笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃい、若いカップルさん。運命の星を覗いてみますか?」


俺とアリアは顔を見合わせた。カップルと間違われたことに、少し照れくさい気持ちになる。


「あの……友達同士なんです」


俺が慌てて説明すると、占い師は意味ありげな笑みを浮かべた。


「そうですか。でも、星々は時に私たちが気づいていない真実を教えてくれるものです。さあ、どちらが先に占ってもらいますか?」


アリアが俺の方を見た。


「カイト、先にやってみる?」


俺は少し躊躇したが、結局同意した。占い師の前に座ると、彼女は水晶玉を覗き込んだ。


「あなたの星は……迷いの中にあるようですね。大切な選択を控えているのかもしれません」


その言葉に、俺は思わずドキリとした。アリアの告白のことを考えていたからだ。


「でも、恐れることはありません。あなたの心が本当に望むものを見つけたとき、全てが明らかになるでしょう」


占い師の言葉は、どこか励ましのように聞こえた。


次はアリアの番だった。彼女が座ると、占い師は再び水晶玉を覗き込んだ。


「あなたの星は……強い光を放っています。勇気を持って前に進めば、きっと願いは叶うでしょう」


アリアの顔が少し赤くなるのが見えた。もしかしたら、俺への告白のことを考えているのかもしれない。


占いが終わると、俺たちは礼を言って外に出た。夕暮れ時になっていて、辺りはオレンジ色に染まっていた。


「どうだった?」


アリアが俺に尋ねた。


「なんだか、不思議な気分だよ。でも、少し心が軽くなった気がする」


俺はそう答えた。本当のところ、占い師の言葉は俺の心に響いていた。大切な選択...心が本当に望むもの...それが何なのか、まだはっきりとはわからない。でも、これから少しずつ考えていこうと思った。


「そっか。私も同じだよ」


アリアはそう言って、優しく微笑んだ。


「ねえ、そろそろ帰ろうか。今日は楽しかったね」


「ああ、本当に楽しかった」


俺たちは並んで歩き始めた。薔薇祭の喧騒が遠ざかっていく中、二人の間には穏やかな空気が流れていた。これからどうなるかはわからない。でも、今この瞬間は大切な思い出として、きっと心に刻まれるだろう。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

転生して悪役令嬢になったので王太子殿下を守るために婚約破棄を告げたら、逆に溺愛されてしまいました

奏音 美都
恋愛
 な、なんてことなの……私がプレイしてた乙ゲーの世界に入って、今、推しの王太子殿下の目の前にいる、だと……!?  けれど、私が転生したのは王太子殿下と結ばれる美貌の侯爵令嬢、アンソワーヌではなく、王太子殿下の婚約者でありとあらゆる虐めと陰謀を仕掛け、アンソワーヌと結ばれようとした王太子殿下を殺してしまうという悪役令嬢、オリビアだった。

悪役令嬢になる呪いがかかっているので、神官に縋ります!

餡子
恋愛
姉と王太子が仲良くしていると、なぜか苛々してしまう私ビアトリス。王太子を好きでもないのに、姉に嫌がらせをしたくなる。これが悪役令嬢の運命なのかしら……って、悪役令嬢って何。えっ、当て馬のやられ役? もしかして私、その悪役令嬢になる呪いがかかってる!? こんな時、頼りになるのは神官である幼馴染。どうか縋らせてください!

【完結】転生少女の立ち位置は 〜婚約破棄前から始まる、毒舌天使少女の物語〜

白井夢子
恋愛
「真実の愛ゆえの婚約破棄って、所詮浮気クソ野郎ってことじゃない?」 巷で流行ってる真実の愛の物語を、普段から軽くあしらっていた。 そんな私に婚約者が静かに告げる。 「心から愛する女性がいる。真実の愛を知った今、彼女以外との未来など考えられない。 君との婚約破棄をどうか受け入れてほしい」 ーー本当は浮気をしている事は知っていた。 「集めた証拠を突きつけて、みんなの前で浮気を断罪した上で、高らかに婚約破棄を告げるつもりだったのに…断罪の舞台に立つ前に自白して、先に婚約破棄を告げるなんて!浮気野郎の風上にも置けない軟弱下衆男だわ…」 そう呟く私を残念そうに見つめる義弟。 ーー婚約破棄のある転生人生が、必ずしも乙女ゲームの世界とは限らない。 この世界は乙女ゲームなのか否か。 転生少女はどんな役割を持って生まれたのか。 これは転生人生に意味を見出そうとする令嬢と、それを見守る苦労人の義弟の物語である。

転生できる悪役令嬢に転生しました。~執着婚約者から逃げられません!

九重
恋愛
気がつけば、とある乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた主人公。 しかし、この悪役令嬢は十五歳で死んでしまう不治の病にかかった薄幸な悪役令嬢だった。 ヒロインをいじめ抜いたあげく婚約者に断罪され、心身ともに苦しみ抜いて死んでしまう悪役令嬢は、転生して再び悪役令嬢――――いや悪役幼女として活躍する。 しかし、主人公はそんなことまっぴらゴメンだった。 どうせ転生できるならと、早々に最初の悪役令嬢の人生から逃げだそうとするのだが…… これは、転生できる悪役令嬢に転生した主人公が、執着婚約者に捕まって幸せになる物語。

処理中です...