悪役令嬢の兄に転生したので、妹を聖女に生まれ変わらせます

19

影との戦いから数週間後、俺たちは学園生活に戻っていた。しかし以前とは少しだけ違う部分もあった。それは……アリアとクロエとの距離が以前よりも近くなったことだった。


例えば、授業中にふと視線を感じた方を見ると、彼女がこちらを見て微笑んでいたり、昼休みには一緒にお弁当を食べる機会が増えたりといった具合だ。最初は戸惑ったものの、今ではこの変化を受け入れていた。むしろ喜ばしいことだと感じていたのだ。彼女たちと一緒にいる時間は俺にとってかけがえのないものだったからだ。


「カイト、どうかした？」


不意に声をかけられて顔を上げると、そこにはアリアの顔があった。どうやら考え事をしている間にボーッとしていたらしい。慌てて笑顔を作りながら「何でもないよ」と言うと、彼女は再び微笑んでくれた。その仕草はとても可愛らしく見えた。そんな彼女を見ていると胸の奥が熱くなるのを感じた……


そんなことを考えているうちに授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響き、昼休みになったことを知らせるのだった。俺は早速立ち上がると教室を出て行こうとしたのだが、その前に呼び止められてしまった。振り返ると、そこにはクロエが立っていたのだ。


「あの……一緒にお昼ご飯を食べませんか？」


少し不安げな表情を見せながら、クロエはそう言った。そんな彼女の提案を断る理由などあるはずもなく、俺は笑顔で頷いた。すると彼女も嬉しそうに笑ってくれたのだった……


そうして俺たちは三人で中庭へと向かった。そこでお弁当を食べようということになったのだ。ベンチに座って空を見上げると、雲一つない青空が広がっている。絶好のピクニック日和だと言えるだろう。そんなことを思っているうちにアリアがバスケットの中から大きなサンドイッチを取り出した。どうやら手作りのものらしい。


「はい、どうぞ」と言いながら渡されたそれを一口食べると、口の中に優しい味が広がった。


「美味しい！」


思わず声を上げると、アリアは嬉しそうに微笑んでくれた。そんな彼女を見ていると胸が高鳴るのを感じた……そんなことを考えているうちにいつの間にか全部平らげてしまっていた。


「ごちそうさまでした」と言うと、今度はクロエがお弁当箱を差し出してきた。中身はおにぎりのようだ。こちらもとても美味しそうである。早速いただくことにしたのだが、一口食べるとその美味しさに感動してしまった。中に具が入っているようだが何が入っているのかはよく分からなかったが、とにかく美味しかったのだ。


そんな俺の様子を二人は微笑みながら見つめていた。その視線を感じると急に恥ずかしくなってきたが、同時に嬉しくもあった。こうして彼女たちと一緒に過ごす時間が何よりも大切だと思えたのだ……


そして昼休みが終わりに近づきつつあることに気づいた俺は、慌てて立ち上がった。そんな俺に続いて二人も立ち上がる。


「また一緒にご飯を食べようね」と言いながら手を振るアリアに手を振り返しながら、俺たちはそれぞれの教室へと戻ったのだった……


授業が終わるとすぐに帰り支度をして教室を出たのだが、そこでふと声をかけられた。振り向くとそこにはクロエの姿があった。彼女は微笑みながら手を振っている。どうやら俺のことを待っていたようだ。そんな彼女の隣にはアリアの姿もあった。二人は並んで歩きながらこちらに向かってくるところだったようだ。


「一緒に帰りませんか？」と聞かれたので、俺は迷うことなく頷いた。断る理由などあるはずもなかったからだ。こうして三人で肩を並べて歩くことになったのだが、なんだか不思議な気分だった。今までこんな風に誰かと一緒に帰ったことがなかったからかもしれない……そんなことを考えながら歩いているうちにいつの間にか家に着いていたようだ。


玄関の前で立ち止まると、クロエがもじもじしながら口を開いた。一体どうしたんだろうと思っていると、彼女は恥ずかしそうに目を伏せながらこう言ったのだ……


「あの……少しだけ上がっていきませんか？」


突然の申し出に驚いたものの、断る理由はなかった。むしろ喜んで受け入れることにした俺は、彼女の家にお邪魔することにしたのだった。玄関を開けるとクロエは「どうぞ」と言いながら中に招き入れてくれた。中に入るとそこは綺麗に片付けられていて清潔感のある空間が広がっていた。リビングに案内されると、そこに座って待っているように言われたので大人しく従うことにする。しばらくするとお茶を持ってきてくれたのでお礼を言って受け取ることにした。そして一口飲むとその温かさにほっと一息つくことができたのだ。それからしばらくの間沈黙が続いたのだが、不意にクロエが口を開いた。


「あの……突然お邪魔してしまってすみませんでした」


申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女に対して首を横に振りながら答えることにする。


「ううん、全然大丈夫だよ。それに俺も君とゆっくり話してみたいと思っていたところだったからさ」そう言うと彼女は安心したように微笑んでくれたのだった……


それから俺たちは色々な話をした。お互いの趣味や好きな食べ物などについて語り合ったり、学園生活についての話題で盛り上がったりと楽しい時間を過ごしたように思う。特に彼女が俺のことをどう思っているのかを知ることができたのは大きな収穫だったと言えるだろう。


やがて日が暮れ始めた頃、俺は帰ることにした。玄関まで見送りに来た彼女に改めてお礼を言うと、彼女は微笑みながらこう言ったのだ……


「また遊びに来てくださいね」と言ってくれたことが嬉しかったのと同時に少し照れくさかったが、それでも素直に受け入れることにする。こうして俺たちは別れたのだった……