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Sクラスの教室に入ると、張り詰めた空気を感じた。


「あれが噂の……」


「コーネリア侯爵家のご子息か」


「さすがは天才と言われるだけのことはあるな」


Sクラスの生徒は皆、俺に対して興味津々のようだ。俺は気にせず席に着く。


すると、隣の席に座っていた男子生徒が声をかけてきた。


「初めまして、カイト君。私はアベル・フォン・クレインだ。よろしく頼むよ」


「ああ、こちらこそ」


「君は本当に凄いね。試験では全教科満点だったそうじゃないか」


「まあな」


「謙遜しないところが君らしいな。でも、あまり調子に乗りすぎると足元をすくわれてしまうよ?」


Sクラスの生徒は皆優秀で、俺より上の人間ばかりだ。油断していると足をすくわれかねない。


「肝に銘じておくよ」


「うむ、それでいい。ところで放課後は暇かい? よければ学園の庭園を案内したいのだが……」


「悪いな。俺は妹と帰る約束をしているんだ」


「そうか……ならば仕方ないね」


そんな話をしているうちに教師が入ってくる。授業が始まり、一日が終わった。クロエと一緒に帰ろうとすると、クラスメイトの女子生徒たちが群がってきた。


「お兄様! 一緒に帰りましょう!」


「ちょっと待ちなさいよ! 私が先に誘うつもりだったのに!」


「抜け駆けは許さないわよ!」


女子たちはクロエを俺から引き離そうとする。


「お兄様は私と帰るんです!」


「そんなわけないでしょ! カイト君は私と一緒に帰るのよ!」


「あんたなんかお呼びじゃないの!」


女子生徒たちは醜い言い争いを始めてしまった。俺はうんざりして、転移魔法を発動した。


「初日からこれか。先が思いやられるな」


「お兄様……みんなは悪い子たちではないのですよ?」


クロエは悲しそうな表情をする。俺はクロエの頭を優しく撫でた。


「大丈夫だよ、クロエ。俺が必ず守るから」


「お兄様……」


Sクラスの生徒との言い争いをなんとか切り抜けた俺は、妹と一緒に帰路についていた。


「お兄様、あの人たちって本当に貴族なんですか? 品がなくてうんざりしますわ」


「貴族にも色々といるのさ」


「お兄様は凄いです。あんな人たちとは違って、立派な人間ですわ」


クロエはそう言ってくれるが、俺は自分がまだまだだと思っている。もっと強くならなければ。そう思った瞬間だった。


「おい」


ガラの悪い男が話しかけてきた。


「なんでしょうか?」


俺はできるだけ丁寧な口調で話す。しかし、男はそれが気にくわなかったようだ。


「金目のものを出しな。それで許してやるよ」


「お前たちに渡すものなど何もない」


「そうかい、なら力ずくで奪うまでだ!」


男たちは一斉に襲いかかってきた。こんな奴らに魔法を使うまでもあるまい。


「クロエ、少し下がっていてくれ」


「はい、お兄様」


クロエが後ろに下がると同時に、俺は一瞬で最初の男の懐に入り、腹に拳を叩き込む。男は息を詰まらせ、その場に倒れ込んだ。

次の男が背後から襲いかかってきたが、俺は優雅に身をかわし、男の足を払った。男は体勢を崩し、地面に顔面から激突した。

残りの3人は恐怖に駆られ、逃げ出そうとする。しかし、俺はそれを許さなかった。


「待て」


俺の声に、3人は凍りついたように立ち止まった。振り返る彼らの顔には恐怖の色が浮かんでいる。


「お、お願いします。許してください」


「も、もう二度とこんなことはしません」


彼らは震える声で許しを乞うた。しかし、俺には彼らを簡単に許す気はなかった。


「クロエを危険な目に遭わせたことを後悔するがいい」


俺は冷たく言い放った。そして、瞬時に3人の前に立ちはだかる。彼らが反応する間もなく、俺は的確な打撃を加えていった。腹部、顎、そして胸部。一瞬のうちに3人は地面に倒れ込んだ。


「お兄様、素晴らしいです!」


クロエが駆け寄ってきて、俺の腕にしがみついた。その瞬間、俺の怒りは消え去った。


「大丈夫か、クロエ? 怖くなかったか?」


「はい、お兄様がいてくださるから、少しも怖くありませんでした」


クロエの無邪気な笑顔に、俺は安堵の溜め息をついた。


「そうか。よかった」


俺たちはそのまま帰路を急いだ。途中、クロエが小さな声で言った。


「お兄様、私もお兄様のように強くなりたいです」


「クロエ、お前はそのままでいい。俺が必ず守るから」


「でも、いつもお兄様に守ってもらってばかりでは...」


「心配するな。お前には別の役目がある」


「別の役目、ですか?」


「ああ。お前は人々を導く聖女になるんだ。そのためには、心の優しさと強さを持ち続けることが大切だ」


クロエは少し考え込んだ後、明るい声で答えた。


「はい、わかりました。お兄様のために、私、頑張ります!」


その言葉を聞いて、俺は微笑んだ。クロエを守り、聖女として育て上げる。それが俺の使命だ。そして、その使命を全うするためには、もっと強くならなければならない。
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