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俺は伝説の吸血鬼、不死の女王ノワールを封印した。


「すごい! 本当にすごいわ、カイト!」


幼なじみにして恋人であるフィーナが、嬉しそうに抱きついてくる。柔らかい感触と甘い香りに、一瞬思考が飛びそうになる。


「でも不思議ね。カイトはこんなに強いのに、なんでパーティを追放されたの?」


「それは、俺が王太子のパーティーでは補助役に徹してたからだよ」


「補助役?」


「ああ。結界だけ張ってろって命令されてたからな」


ラインハルト王太子は、自分が目立ちたい性分だった。戦いは全部自分の手柄にしたがる。だから俺は、真価を発揮する機会を与えられなかった。


「なるほどね。どんなに強くても、その力を見せる場がなければ分かってもらえないものね」


「ああ、そんなものだな……」


フィーナの言葉に思わずため息が漏れる。


「でも私はカイトの力を分かってるよ」


フィーナは穏やかに微笑みながら俺を抱きしめ、その手で優しく頭を撫でてくれる。その仕草に、俺は不思議と安らぎを覚えた。


「カイトがどれだけ努力したか、私には分かる。伝説の吸血鬼を封じるなんて、簡単にできることじゃない。途方もない努力を積み重ねた証拠だもの」


「ああ……」


「結界魔法しか使えないからって馬鹿にされたこともあったでしょ? でも、それに負けず頑張った結果が、今のカイトなんだよ」


「ああ、そうだな……」


思わず弱音が漏れる。今まで誰も俺を評価してくれなかったからだ。


「カイトはこれから、きっとたくさんの人に認められるよ。もし誰にも認めてもらえなくても、私がずっと側にいる。あなたの力を、ちゃんと分かってるから」


「……ありがとう、フィーナ」


初めてだ。こんな風に俺の努力を認めてくれる人は。だからこそ、この人を守らなければならないと強く思った。


「フィーナ、ちょっと周りを調べてきていいか?」


「いいけど……何か気になることがあるの?」


「ああ、少しだけな」


フィーナに結界を張り、安全を確保してからその場を離れる。そして――地面に落ちている十字架を手に取る。


「おい、吸血鬼。聞こえてるだろ?」


十字架に向かって声をかける。通常なら意識すら沈められ、外部との接触は不可能。しかし、俺は結界の強度を少しだけ緩め、その意識を表に引き出した。


『う、うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!!!!!!!』


――泣き声?


『人間に負けるなんてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!! 悔しいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!』


不死の女王が子供のように泣きじゃくっている。あまりにも予想外で、思わず苦笑する。


「おい、落ち着け。ちょっとだけ封印を緩めてやる」


そう言って結界を操作すると、十字架が輝き、中から幼い少女の姿が現れた。銀髪にぶかぶかのドレス、頭には十字架が載っている。


「な、なぜわらわがここに!? これはどういうことじゃ!」


「正確には、おまえの一部だけを外に出しただけだ。力は十字架に封じたままだよ」


「なんじゃそれは……貴様、本当に人間か?」


「ああ、少し結界魔法が使えるだけのな」


こんな相手だが、こいつの知識を引き出す必要がある。俺は封印の制御を見せつけながら問答を始める。


「ノワール、俺の従者になれ」


「なっ!? わらわが人間の従者に!?」


「選択肢はない。拒否すれば無明の闇が待っているだけだ」


「……くっ。わ、分かったのじゃ」


不死の女王は渋々ながら提案を受け入れてくれた。さて……まずは情報を引き出すか。


「吸血鬼族の長、ノワール。お前に聞きたいことがある」


「なんじゃ?」


「なぜ復活した? 他の魔族はどこにいる?」


「わらわも復活の経緯はよく分からんのじゃが……おそらく、あの忌々しい人間どもの仕業じゃろうな」


「……人間どもだと?」


俺は思わず眉を寄せる。その言い方ではまるで……。


「そうじゃ。あの憎っくき人間どもは、我らの里を焼き払いおったのじゃ! 一族の者たちも全て死に絶えた……! もはや生き残りなどおらぬ!」


「……そうか」


俺は静かに目を伏せる。やはり魔族と人間は対立していたか……だが、これではっきりした。この大陸に、人間と魔族の対立が根深く存在していることが。


「カイトよ。わらわはこれからどうすればいいのじゃ?」


ノワールは不安そうな目で俺を見上げる。その仕草はまるで子供のようだ。


「そうだな。まずは情報が欲しい」


俺はノワールに質問を続けることにした。この大陸の歴史、この国の現状など、彼女の持つ知識を引き出していく。


「……というわけだ」


「なるほどな……人間どもが魔族との対立を深めるのも無理はないわい……」


ノワールは遠い目で夜空を見上げる。その横顔を見て思う。彼女もまた、人間と魔族の争いに苦悩していたのだろうと。


「カイトよ。わらわもお主に協力しよう」


「本当か?」


「うむ。わらわが知る限りのことを教えよう。その代わり、わらわの望みを叶えて欲しい」


「なんだ? 言ってみろよ?」


「わらわは、この大陸から争いをなくしたいのじゃ。そのために、お主の力を貸してほしい!」


ノワールは俺の目を見つめ、力強く言った。その目は真剣で、嘘偽りのないものだった。


「……分かった。俺にできることなら協力しよう」


「感謝するぞ! カイトよ!」


俺は彼女の手を取り、握手を交わした。こうして吸血鬼の女王、ノワールが俺の仲間になった。
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