5 / 20
5
しおりを挟む
俺は伝説の吸血鬼、不死の女王ノワールを封印した。
「すごい! 本当にすごいわ、カイト!」
幼なじみにして恋人であるフィーナが、嬉しそうに抱きついてくる。柔らかい感触と甘い香りに、一瞬思考が飛びそうになる。
「でも不思議ね。カイトはこんなに強いのに、なんでパーティを追放されたの?」
「それは、俺が王太子のパーティーでは補助役に徹してたからだよ」
「補助役?」
「ああ。結界だけ張ってろって命令されてたからな」
ラインハルト王太子は、自分が目立ちたい性分だった。戦いは全部自分の手柄にしたがる。だから俺は、真価を発揮する機会を与えられなかった。
「なるほどね。どんなに強くても、その力を見せる場がなければ分かってもらえないものね」
「ああ、そんなものだな……」
フィーナの言葉に思わずため息が漏れる。
「でも私はカイトの力を分かってるよ」
フィーナは穏やかに微笑みながら俺を抱きしめ、その手で優しく頭を撫でてくれる。その仕草に、俺は不思議と安らぎを覚えた。
「カイトがどれだけ努力したか、私には分かる。伝説の吸血鬼を封じるなんて、簡単にできることじゃない。途方もない努力を積み重ねた証拠だもの」
「ああ……」
「結界魔法しか使えないからって馬鹿にされたこともあったでしょ? でも、それに負けず頑張った結果が、今のカイトなんだよ」
「ああ、そうだな……」
思わず弱音が漏れる。今まで誰も俺を評価してくれなかったからだ。
「カイトはこれから、きっとたくさんの人に認められるよ。もし誰にも認めてもらえなくても、私がずっと側にいる。あなたの力を、ちゃんと分かってるから」
「……ありがとう、フィーナ」
初めてだ。こんな風に俺の努力を認めてくれる人は。だからこそ、この人を守らなければならないと強く思った。
「フィーナ、ちょっと周りを調べてきていいか?」
「いいけど……何か気になることがあるの?」
「ああ、少しだけな」
フィーナに結界を張り、安全を確保してからその場を離れる。そして――地面に落ちている十字架を手に取る。
「おい、吸血鬼。聞こえてるだろ?」
十字架に向かって声をかける。通常なら意識すら沈められ、外部との接触は不可能。しかし、俺は結界の強度を少しだけ緩め、その意識を表に引き出した。
『う、うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!!!!!!!』
――泣き声?
『人間に負けるなんてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!! 悔しいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!』
不死の女王が子供のように泣きじゃくっている。あまりにも予想外で、思わず苦笑する。
「おい、落ち着け。ちょっとだけ封印を緩めてやる」
そう言って結界を操作すると、十字架が輝き、中から幼い少女の姿が現れた。銀髪にぶかぶかのドレス、頭には十字架が載っている。
「な、なぜわらわがここに!? これはどういうことじゃ!」
「正確には、おまえの一部だけを外に出しただけだ。力は十字架に封じたままだよ」
「なんじゃそれは……貴様、本当に人間か?」
「ああ、少し結界魔法が使えるだけのな」
こんな相手だが、こいつの知識を引き出す必要がある。俺は封印の制御を見せつけながら問答を始める。
「ノワール、俺の従者になれ」
「なっ!? わらわが人間の従者に!?」
「選択肢はない。拒否すれば無明の闇が待っているだけだ」
「……くっ。わ、分かったのじゃ」
不死の女王は渋々ながら提案を受け入れてくれた。さて……まずは情報を引き出すか。
「吸血鬼族の長、ノワール。お前に聞きたいことがある」
「なんじゃ?」
「なぜ復活した? 他の魔族はどこにいる?」
「わらわも復活の経緯はよく分からんのじゃが……おそらく、あの忌々しい人間どもの仕業じゃろうな」
「……人間どもだと?」
俺は思わず眉を寄せる。その言い方ではまるで……。
「そうじゃ。あの憎っくき人間どもは、我らの里を焼き払いおったのじゃ! 一族の者たちも全て死に絶えた……! もはや生き残りなどおらぬ!」
「……そうか」
俺は静かに目を伏せる。やはり魔族と人間は対立していたか……だが、これではっきりした。この大陸に、人間と魔族の対立が根深く存在していることが。
「カイトよ。わらわはこれからどうすればいいのじゃ?」
ノワールは不安そうな目で俺を見上げる。その仕草はまるで子供のようだ。
「そうだな。まずは情報が欲しい」
俺はノワールに質問を続けることにした。この大陸の歴史、この国の現状など、彼女の持つ知識を引き出していく。
「……というわけだ」
「なるほどな……人間どもが魔族との対立を深めるのも無理はないわい……」
ノワールは遠い目で夜空を見上げる。その横顔を見て思う。彼女もまた、人間と魔族の争いに苦悩していたのだろうと。
「カイトよ。わらわもお主に協力しよう」
「本当か?」
「うむ。わらわが知る限りのことを教えよう。その代わり、わらわの望みを叶えて欲しい」
「なんだ? 言ってみろよ?」
「わらわは、この大陸から争いをなくしたいのじゃ。そのために、お主の力を貸してほしい!」
ノワールは俺の目を見つめ、力強く言った。その目は真剣で、嘘偽りのないものだった。
「……分かった。俺にできることなら協力しよう」
「感謝するぞ! カイトよ!」
俺は彼女の手を取り、握手を交わした。こうして吸血鬼の女王、ノワールが俺の仲間になった。
「すごい! 本当にすごいわ、カイト!」
幼なじみにして恋人であるフィーナが、嬉しそうに抱きついてくる。柔らかい感触と甘い香りに、一瞬思考が飛びそうになる。
「でも不思議ね。カイトはこんなに強いのに、なんでパーティを追放されたの?」
「それは、俺が王太子のパーティーでは補助役に徹してたからだよ」
「補助役?」
「ああ。結界だけ張ってろって命令されてたからな」
ラインハルト王太子は、自分が目立ちたい性分だった。戦いは全部自分の手柄にしたがる。だから俺は、真価を発揮する機会を与えられなかった。
「なるほどね。どんなに強くても、その力を見せる場がなければ分かってもらえないものね」
「ああ、そんなものだな……」
フィーナの言葉に思わずため息が漏れる。
「でも私はカイトの力を分かってるよ」
フィーナは穏やかに微笑みながら俺を抱きしめ、その手で優しく頭を撫でてくれる。その仕草に、俺は不思議と安らぎを覚えた。
「カイトがどれだけ努力したか、私には分かる。伝説の吸血鬼を封じるなんて、簡単にできることじゃない。途方もない努力を積み重ねた証拠だもの」
「ああ……」
「結界魔法しか使えないからって馬鹿にされたこともあったでしょ? でも、それに負けず頑張った結果が、今のカイトなんだよ」
「ああ、そうだな……」
思わず弱音が漏れる。今まで誰も俺を評価してくれなかったからだ。
「カイトはこれから、きっとたくさんの人に認められるよ。もし誰にも認めてもらえなくても、私がずっと側にいる。あなたの力を、ちゃんと分かってるから」
「……ありがとう、フィーナ」
初めてだ。こんな風に俺の努力を認めてくれる人は。だからこそ、この人を守らなければならないと強く思った。
「フィーナ、ちょっと周りを調べてきていいか?」
「いいけど……何か気になることがあるの?」
「ああ、少しだけな」
フィーナに結界を張り、安全を確保してからその場を離れる。そして――地面に落ちている十字架を手に取る。
「おい、吸血鬼。聞こえてるだろ?」
十字架に向かって声をかける。通常なら意識すら沈められ、外部との接触は不可能。しかし、俺は結界の強度を少しだけ緩め、その意識を表に引き出した。
『う、うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!!!!!!!』
――泣き声?
『人間に負けるなんてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!! 悔しいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!』
不死の女王が子供のように泣きじゃくっている。あまりにも予想外で、思わず苦笑する。
「おい、落ち着け。ちょっとだけ封印を緩めてやる」
そう言って結界を操作すると、十字架が輝き、中から幼い少女の姿が現れた。銀髪にぶかぶかのドレス、頭には十字架が載っている。
「な、なぜわらわがここに!? これはどういうことじゃ!」
「正確には、おまえの一部だけを外に出しただけだ。力は十字架に封じたままだよ」
「なんじゃそれは……貴様、本当に人間か?」
「ああ、少し結界魔法が使えるだけのな」
こんな相手だが、こいつの知識を引き出す必要がある。俺は封印の制御を見せつけながら問答を始める。
「ノワール、俺の従者になれ」
「なっ!? わらわが人間の従者に!?」
「選択肢はない。拒否すれば無明の闇が待っているだけだ」
「……くっ。わ、分かったのじゃ」
不死の女王は渋々ながら提案を受け入れてくれた。さて……まずは情報を引き出すか。
「吸血鬼族の長、ノワール。お前に聞きたいことがある」
「なんじゃ?」
「なぜ復活した? 他の魔族はどこにいる?」
「わらわも復活の経緯はよく分からんのじゃが……おそらく、あの忌々しい人間どもの仕業じゃろうな」
「……人間どもだと?」
俺は思わず眉を寄せる。その言い方ではまるで……。
「そうじゃ。あの憎っくき人間どもは、我らの里を焼き払いおったのじゃ! 一族の者たちも全て死に絶えた……! もはや生き残りなどおらぬ!」
「……そうか」
俺は静かに目を伏せる。やはり魔族と人間は対立していたか……だが、これではっきりした。この大陸に、人間と魔族の対立が根深く存在していることが。
「カイトよ。わらわはこれからどうすればいいのじゃ?」
ノワールは不安そうな目で俺を見上げる。その仕草はまるで子供のようだ。
「そうだな。まずは情報が欲しい」
俺はノワールに質問を続けることにした。この大陸の歴史、この国の現状など、彼女の持つ知識を引き出していく。
「……というわけだ」
「なるほどな……人間どもが魔族との対立を深めるのも無理はないわい……」
ノワールは遠い目で夜空を見上げる。その横顔を見て思う。彼女もまた、人間と魔族の争いに苦悩していたのだろうと。
「カイトよ。わらわもお主に協力しよう」
「本当か?」
「うむ。わらわが知る限りのことを教えよう。その代わり、わらわの望みを叶えて欲しい」
「なんだ? 言ってみろよ?」
「わらわは、この大陸から争いをなくしたいのじゃ。そのために、お主の力を貸してほしい!」
ノワールは俺の目を見つめ、力強く言った。その目は真剣で、嘘偽りのないものだった。
「……分かった。俺にできることなら協力しよう」
「感謝するぞ! カイトよ!」
俺は彼女の手を取り、握手を交わした。こうして吸血鬼の女王、ノワールが俺の仲間になった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
旅の道連れ、さようなら【短編】
キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。
いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる