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翌日、私はシルヴィアと一緒に街に出ていた。最近は仕事ばかりで忙しかったので、こうしてのんびりと街を歩くのは久しぶりだ。


「あ! クロエ様だ!」


「本当だ!」


子供たちが私を見つけて駆け寄ってくる。そんな子供たちの頭を撫でてあげると嬉しそうな表情を浮かべるのだった。


(ふふっ、可愛いわね)


子供特有の純粋な笑顔を見ていると癒されるわね。


「クロエ様、私も撫でてください」


シルヴィアも少し恥ずかしそうにしながら私に頼み込む。私はそんなシルヴィアの頭を撫でると、彼女は幸せそうな表情を浮かべた。

しばらく街を散策した後、私たちは帰路についていた。すると路地裏から争うような声が聞こえてくる。気になった私が声のする方に向かっていくと……そこには数人の男性に囲まれている少女がいた。少女は綺麗な青髪をポニーテールにしており、とても可愛らしい子だった。


「あなたたち何しているのよ?」


私が尋ねると男たちがこちらを睨みつけてくる。


「ああ? 誰だよ、お前?」


「その子は嫌がっているみたいじゃない。放してあげたら?」


「なんだと……!?」


男たちは私に殴りかかってくる。私はそれを軽く受け流すと、男を地面に叩きつける。


「ぐはっ!?」


男は気絶してしまったようだ。それを見た他の男たちが激昂する。


「てめえ! やりやがったな!」


「やっちまおうぜ!」


男たちは次々と襲い掛かってくるが、私は彼らを一瞬で制圧した。


「あ、ありがとうございます!」


少女は私にお礼を言うと、深々と頭を下げた。


「いえ、当然のことをしたまでよ」


「あの……何かお礼をさせてください!」


(うーん……別にお礼なんていらないんだけど……)


でもこの子が引き下がらないのは明らかだった。私は少し悩んでからこう提案するのだった。


「じゃあ、一つお願いを聞いてくれる?」


「はい! 私にできることなら何でもします!」


少女は嬉しそうにそう答える。


「じゃあお昼を奢ってくれないかしら? 実はお腹ぺこぺこなのよ」


「そんなことでいいんですか?」


少女は意外そうな表情を浮かべる。私は笑顔で頷いた。


「ありがとう」


私はお礼を言って、少女と一緒に近くの喫茶店へと入った。


(この娘、可愛いわね……)


少女はとても可愛らしく整った顔立ちをしていた。それにスタイルもかなり良いし、胸も大きい。なんというか庇護欲をそそられる容姿をしていると思う。


(こんな可愛い子をいじめるなんて許せないわね)


きっと男たちはこの子の可愛さに嫉妬してあんなことをしたんだろうと思う。


「そういえば名前を聞いてなかったわね。私はクロエっていうの」


「私はエルナと申します!」


少女、エルナはそう言って名前を教えてくれる。


(やっぱり可愛いわ……)


私は思わず見惚れてしまうのだった。


「どうしたのですか?」


「なんでもないわよ」


私はそう誤魔化して運ばれてきたパスタを口に運ぶ。うん、とても美味しいわね……。


「エルナはこの辺りに住んでいるの?」


「いえ、実は王都に来たばかりでして……」


エルナは少し恥ずかしそうにしながらそう言う。王都に一人で来るなんて珍しいわね……。まあ、今は冒険者をしているから一人なのは納得だけど……。


「どうして一人で王都に来たの?」


「実は武者修行の旅に出ておりまして……」


エルナは照れくさそうに言う。私はそれを聞いて納得した。確かに冒険者ならそのくらいするわよね。でも女の子が一人で旅をするのは危険だと思うけど……。


(この子が一人なのもそういう理由かしら?)


そんなことを考えていると、不意にエルナのお腹が「ぐぅ~」という音を立てる。


「ふふっ、お腹すいてるみたいね」


「うぅ……」


恥ずかしそうにするエルナ。そんな表情も可愛らしいと思う私は相当この子が好きみたいだ。


(私もお腹がすいてきちゃったわね)


そう思った私は店員さんを呼ぶと追加で注文をするのだった。


「パンケーキ追加で!」


少しして配膳されてきたシロップたっぷりのパンケーキを食べながら、私たちは楽しくお喋りをしていた。エルナは明るくてとても楽しい娘で、彼女の話を聞くのはとても楽しかった。


「ねえ、エルナ」


「はい?」


私はずっと気になっていたことを聞いてみようと思った。


「どうして一人で冒険者をしているの?」


そう聞くと、エルナは真剣な表情になる。そしてゆっくりと話し始めた。


「実は私……お父様を探しているんです」


(お父様を探している?)


どういうことかしら……? 詳しく話を聞いてみるとどうやら彼女は父親を探すために旅をしているのだという。


「お父様とは小さいころから一緒に遊んでもらっていて、いつも私の味方でいてくれたんです。そんなお父様が大好きだったのですが、ある日突然いなくなってしまって……」


(まあ、そういうこともあるわよね……)


冒険者をやっていると命を落とすことはよくあることだ。それが幼い子供だったらなおさらだろうと思う。


「それからずっと探しているのですが見つからなくて……」


(そうよね……見つかるわけないわ)


そんな都合よく見つかるなら苦労しないわよね……。それにしてもこの子のお父様も罪作りな男ね……こんなに可愛い娘を放っておいて逃げるなんて……!


「エルナ、お父様は見つかったの?」


「いえ、まだ見つかっていません……」


悲しそうな表情を浮かべるエルナ。私は彼女をそっと抱きしめた。


「ふぇっ!?」


突然のことに驚くエルナ。だけど私は気にせずに続けた。


「きっと見つかるわ」


根拠のない励ましだけれど……でもこの子には希望を持って生きてほしいと思うから……だから私は精一杯の笑顔で言うのだった。


「私が一緒に探してあげるわ!」


「本当ですか!?」


エルナは嬉しそうな表情を浮かべる。やっぱり彼女は笑顔が似合うと思う。この子には笑顔が一番似合う。


(私が必ずお父様を会わせてあげるわ……!)


私は心の中でそう誓うのだった……。
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