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ある日、私は屋敷の東にある森で魔物を狩っていた。
「ふぅ……ちょっと休憩」
周りにはいくつもの魔物の死骸の山がある。私はその中でも一際大きな魔物の死骸の上に腰掛けた。
『流石にここまでとは……我が主は相変わらず規格外だな』
シロは呆れながら私を見る。
「これでも抑えているほうよ」
突然、誰かの悲鳴が聞こえてくる。私は急いで悲鳴がした場所に向かう。すると、そこには5メートルはありそうな巨大な蜘蛛と杖を持ったお婆さんがいた。
「た、助けて……」
お婆さんは腰が抜けてしまい動けないようだ。
「冥府の吹雪(インフェルノ・ブリザード)!」
巨大蜘蛛は一瞬で氷漬けになり、粉々に砕け散る。
「大丈夫でしたか?」
私はお婆さんに手を差し伸べる。すると、お婆さんは私の顔を見ると驚いた表情を浮かべた。
「あ、あなたは……もしかしてクロエ・フォン・コーネリア様ですか……?」
お婆さんは震えながら私の手を握る。
「ええ、そうだけど……」
「これは失礼致しました! コーネリア家の御令嬢に助けていただけるとは……! 老い先短い命ですが、まだまだ生きる価値はありそうですな」
お婆さんは嬉しそうに私の手をブンブンと振る。ちょっと痛いんだけど……。
「私の名前はサブリナと申します。しがない魔道具職人ですじゃ」
サブリナと名乗るお婆さんは自己紹介をする。魔道具かぁ……
「よろしければ我が家にお茶でもいかがですか? 助けていただいたお礼がしたいですじゃ」
サブリナさんは私にそう提案する。
「いいですよ」
お婆さんの厚意を無駄にするわけにもいかないので、私はサブリナさんの誘いに乗ることにした。
「本当になんてお礼を言ったらいいのやら……あそこで助けていただかなければ可愛い孫娘一人残していったでしょう」
「お孫さんがいるんですね」
「はい……息子夫婦がいなくなってから二人で暮らしておりますじゃ」
そんなことを話しているうちにサブリナさんの家に着く。
「さあ、どうぞお入りください」
「お邪魔します」
私はサブリナさんの家に上がる。家の中は広々としていて、いかにも高そうな魔道具があちこちに飾ってあった。
「お帰りなさい。お婆ちゃん!」
白い髪の女の子がパタパタと走ってきて、サブリナさんに抱きつく。
「ただいま、クロエ」
サブリナさんはそう言うと、優しく少女を抱きしめる。
「魔物に襲われたところをこの方に助けてもらったんだよ」
「お婆ちゃんを助けてくれてありが……ってクロエお姉さま!」
どこかで見た顔だと思ったらルシアだった。
「お知り合いですかな?」
サブリナさんが尋ねてくる。
「ええ、この前ちょっと……」
「私もクロエお姉さまに助けてもらったんだよ!」
ルシアは笑顔でそう言う。いや、そんな大したことやってないと思うんだけど……。
「なんとまあ……あなたは孫の命の恩人ですじゃ……」
サブリナさんは涙を流しながら私の手を握る。
「いえいえ、そんな大したことはやってないですから」
私は手をブンブンと振る。そこまで感謝されるとなんだかむず痒い。
「と、ところで魔道具について教えて頂けませんか?」
「命の恩人であるあなた様の頼みなら、喜んでお受けしましょう」
私はサブリナさんの工房にお邪魔させてもらうことにした。
「魔道具は魔力のない人間でも、魔法の効果を発生させる道具ですじゃ」
「へぇ……」
サブリナさんは机のランプの台座から小さな赤い石を取り出す。
「これは魔石といいましてな、魔水晶という魔力が結晶化した鉱石を加工したものです。大抵は魔素の濃度が濃い場所で採掘できる他、魔物の体内からも採取できますじゃ」
ようするに電池みたいなものね。
「この魔石を動力源として、様々な魔道具が作られておるですじゃ」
「例えば?」
「先ほどお見せした明かりをつける魔道具やお湯を沸かす道具、他には冷蔵の魔道具も作られておるですじゃ」
「へぇ……凄いわね」
前世でも似たようなものはあったけど、ここまで高性能なものではなかった。この世界の科学は私が知っているものより発展しているようだ。
「では、実際に魔道具を作製しましょうかの」
サブリナさんは棚から赤い魔石を取り出し、松明にはめ込む。
「点火(イグニッション)」
サブリナさんがそう言うと、松明から火が噴き出す。
「おお! 凄い!」
「この魔石には炎(ファイヤ)の術式が込められていますじゃ。火を出したければ魔石に火の術式を、水を出したければ水の術式をを込めればいいのですじゃ」
私も魔石に術式を書き込むことにする。ランプに魔石を組み込む。そして、火の術式を刻み込む……ここにちょっとした、私のアイディアを加える。
「点火(イグニッション)」
私がそう言うと、ランプからもの凄い光が放たれる。
「な、何事!?」
サブリナさんは狼狽えている。そして、工房にルシアが入ってきた。
「クロエお姉さ……ってなにこれ!?」
どうやらルシアも眩しすぎて目をつぶってしまったようだ。私が指を鳴らすとちょうど良い具合の明るさになる。
「こ、これは一体なんですか……?」
「私が作ったランプよ」
私は何でもないことのように言うがサブリナさんの驚きはまだ治らない。
「一体どんな術式を込めたのじゃ!?」
サブリナさんは私のランプをまじまじと見る。
「二つの術式を組み込んだんだ。一つは光源(ライト)、もう一つは……調節(コントロール)」
「え? 今なんと……?」
「だから光源(ライト)と調節(コントロール)だよ」
「……クロエ嬢よ。おぬしは……天才じゃ。わしも長年魔道具職人をやってきたが、二つの術式を組み込んだ魔道具を作ったのはおぬしが初めてじゃ……」
サブリナさんは驚愕の目で私を見る。なんかすごい尊敬されてるような……
「クロエお姉さま! 凄すぎます!」
「クロエ様! あなたは天才じゃ!」
「い、いや……その……」
なんか凄い褒められてむず痒い。こんな褒められ方したことなかったからどう反応すれば良いか分からない。
『照れてるな』
(う、うるさいわね)
シロにからかわれてしまったが私はまんざらでもなかった。それからしばらくの間、サブリナさんとルシアは私をべた褒めし続け、私はひたすら照れるのだった。
「ふぅ……ちょっと休憩」
周りにはいくつもの魔物の死骸の山がある。私はその中でも一際大きな魔物の死骸の上に腰掛けた。
『流石にここまでとは……我が主は相変わらず規格外だな』
シロは呆れながら私を見る。
「これでも抑えているほうよ」
突然、誰かの悲鳴が聞こえてくる。私は急いで悲鳴がした場所に向かう。すると、そこには5メートルはありそうな巨大な蜘蛛と杖を持ったお婆さんがいた。
「た、助けて……」
お婆さんは腰が抜けてしまい動けないようだ。
「冥府の吹雪(インフェルノ・ブリザード)!」
巨大蜘蛛は一瞬で氷漬けになり、粉々に砕け散る。
「大丈夫でしたか?」
私はお婆さんに手を差し伸べる。すると、お婆さんは私の顔を見ると驚いた表情を浮かべた。
「あ、あなたは……もしかしてクロエ・フォン・コーネリア様ですか……?」
お婆さんは震えながら私の手を握る。
「ええ、そうだけど……」
「これは失礼致しました! コーネリア家の御令嬢に助けていただけるとは……! 老い先短い命ですが、まだまだ生きる価値はありそうですな」
お婆さんは嬉しそうに私の手をブンブンと振る。ちょっと痛いんだけど……。
「私の名前はサブリナと申します。しがない魔道具職人ですじゃ」
サブリナと名乗るお婆さんは自己紹介をする。魔道具かぁ……
「よろしければ我が家にお茶でもいかがですか? 助けていただいたお礼がしたいですじゃ」
サブリナさんは私にそう提案する。
「いいですよ」
お婆さんの厚意を無駄にするわけにもいかないので、私はサブリナさんの誘いに乗ることにした。
「本当になんてお礼を言ったらいいのやら……あそこで助けていただかなければ可愛い孫娘一人残していったでしょう」
「お孫さんがいるんですね」
「はい……息子夫婦がいなくなってから二人で暮らしておりますじゃ」
そんなことを話しているうちにサブリナさんの家に着く。
「さあ、どうぞお入りください」
「お邪魔します」
私はサブリナさんの家に上がる。家の中は広々としていて、いかにも高そうな魔道具があちこちに飾ってあった。
「お帰りなさい。お婆ちゃん!」
白い髪の女の子がパタパタと走ってきて、サブリナさんに抱きつく。
「ただいま、クロエ」
サブリナさんはそう言うと、優しく少女を抱きしめる。
「魔物に襲われたところをこの方に助けてもらったんだよ」
「お婆ちゃんを助けてくれてありが……ってクロエお姉さま!」
どこかで見た顔だと思ったらルシアだった。
「お知り合いですかな?」
サブリナさんが尋ねてくる。
「ええ、この前ちょっと……」
「私もクロエお姉さまに助けてもらったんだよ!」
ルシアは笑顔でそう言う。いや、そんな大したことやってないと思うんだけど……。
「なんとまあ……あなたは孫の命の恩人ですじゃ……」
サブリナさんは涙を流しながら私の手を握る。
「いえいえ、そんな大したことはやってないですから」
私は手をブンブンと振る。そこまで感謝されるとなんだかむず痒い。
「と、ところで魔道具について教えて頂けませんか?」
「命の恩人であるあなた様の頼みなら、喜んでお受けしましょう」
私はサブリナさんの工房にお邪魔させてもらうことにした。
「魔道具は魔力のない人間でも、魔法の効果を発生させる道具ですじゃ」
「へぇ……」
サブリナさんは机のランプの台座から小さな赤い石を取り出す。
「これは魔石といいましてな、魔水晶という魔力が結晶化した鉱石を加工したものです。大抵は魔素の濃度が濃い場所で採掘できる他、魔物の体内からも採取できますじゃ」
ようするに電池みたいなものね。
「この魔石を動力源として、様々な魔道具が作られておるですじゃ」
「例えば?」
「先ほどお見せした明かりをつける魔道具やお湯を沸かす道具、他には冷蔵の魔道具も作られておるですじゃ」
「へぇ……凄いわね」
前世でも似たようなものはあったけど、ここまで高性能なものではなかった。この世界の科学は私が知っているものより発展しているようだ。
「では、実際に魔道具を作製しましょうかの」
サブリナさんは棚から赤い魔石を取り出し、松明にはめ込む。
「点火(イグニッション)」
サブリナさんがそう言うと、松明から火が噴き出す。
「おお! 凄い!」
「この魔石には炎(ファイヤ)の術式が込められていますじゃ。火を出したければ魔石に火の術式を、水を出したければ水の術式をを込めればいいのですじゃ」
私も魔石に術式を書き込むことにする。ランプに魔石を組み込む。そして、火の術式を刻み込む……ここにちょっとした、私のアイディアを加える。
「点火(イグニッション)」
私がそう言うと、ランプからもの凄い光が放たれる。
「な、何事!?」
サブリナさんは狼狽えている。そして、工房にルシアが入ってきた。
「クロエお姉さ……ってなにこれ!?」
どうやらルシアも眩しすぎて目をつぶってしまったようだ。私が指を鳴らすとちょうど良い具合の明るさになる。
「こ、これは一体なんですか……?」
「私が作ったランプよ」
私は何でもないことのように言うがサブリナさんの驚きはまだ治らない。
「一体どんな術式を込めたのじゃ!?」
サブリナさんは私のランプをまじまじと見る。
「二つの術式を組み込んだんだ。一つは光源(ライト)、もう一つは……調節(コントロール)」
「え? 今なんと……?」
「だから光源(ライト)と調節(コントロール)だよ」
「……クロエ嬢よ。おぬしは……天才じゃ。わしも長年魔道具職人をやってきたが、二つの術式を組み込んだ魔道具を作ったのはおぬしが初めてじゃ……」
サブリナさんは驚愕の目で私を見る。なんかすごい尊敬されてるような……
「クロエお姉さま! 凄すぎます!」
「クロエ様! あなたは天才じゃ!」
「い、いや……その……」
なんか凄い褒められてむず痒い。こんな褒められ方したことなかったからどう反応すれば良いか分からない。
『照れてるな』
(う、うるさいわね)
シロにからかわれてしまったが私はまんざらでもなかった。それからしばらくの間、サブリナさんとルシアは私をべた褒めし続け、私はひたすら照れるのだった。
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