上 下
12 / 20

12

しおりを挟む
ある日のこと、俺はフィーナと共に街に買い物に出かけていた。


「カイト様、次はどこに行きますか?」


「そうだな……」


俺は歩きながら周囲を見渡す。様々な店が立ち並び、多くの人で賑わっているようだ。大通りには屋台が並び、美味しそうな匂いを漂わせている。


「カイト様! あそこでフルーツを売っているみたいですよ!」


フィーナが目を輝かせながら指差した方向を見ると、そこにはたくさんの果物が並んでいる屋台があった。どうやら果物の卸売りをしている店のようだ。


「せっかくだし、何か買っていこうか」


「はい!」


俺とフィーナは屋台へと向かう。そこで俺は一際目を引く果物を見つけた。それは赤色の綺麗な宝石のように輝いている。その輝きは見ているだけで心が洗われるようだった。


「これは……何ていう果物なんだ?」


「これは『ルビーフルーツ』という果物です! 1年に1回しか収穫できない希少なフルーツで、味も絶品なんですよ!」


フィーナは興奮気味に語る。そんなに凄いものなのか……是非食べてみたいものだ。


「すみません、そのルビーフルーツを2つください」


「あいよ! 合計で3万ゴールドだ!」


「これでお願いします」


俺はゴールドの入った小袋を取り出した。店主はそれを受け取ると、代わりにルビーフルーツを手渡してくれる。


「毎度あり! また来てくれよな!」


俺たちはルビーフルーツを持って屋台を後にする。そして近くのベンチに座ると、早速食べてみることにした。その果実は光にかざすと赤く輝いているように見えるが、口に含むと少し酸味があり甘かった。まるで果物の宝石箱のようだ。


「美味しいですね……!」


フィーナは幸せそうな表情で言った。こんなに可愛らしい姿が見られるなんて……今日はいい日だな。


「カイト様、ありがとうございます! こんな素敵なものをプレゼントしてくださるなんて……」


フィーナは嬉しそうに微笑むと、俺に抱き着いてきた。柔らかな感触が伝わってくる。


「喜んでくれて良かったよ」


俺はフィーナの頭を撫でる。すると彼女は気持ちよさそうに目を細めた。とても幸せそうだ……ずっとこうしていたいなと思うほど、幸せな時間だった。


「カイト様、もう一つ差し上げますね!」


そう言ってフィーナはルビーフルーツを差し出してくる。だが、俺はそれを断った。


「それはフィーナが食べてくれ」


「私はもう十分食べましたから……それに、カイト様にも食べていただきたいです……」


「そうか……なら半分ずつ食べようか」


俺とフィーナは一つずつ口に含むと、ゆっくり味わうように咀嚼していく。果物の甘い香りと酸味が広がり、とても幸せな気分になった。この幸せはきっと、彼女と分け合ったから味わえるものなのだろう。


「美味しいですね……」


「ああ、とても美味しい」


俺たちは笑顔で見つめ合う。その時、フィーナが何かに気付いたように声をあげた。


「あ、カイト様……口元に……」


そう言いながらフィーナはハンカチを取りだし、俺の口元を優しく拭いてくれる。彼女の細く柔らかい指先の感触を味わうことができた。少しドキドキする……。


「……これで綺麗になりましたね!」


「あ、ありがとう」


俺は少し照れながら礼を言う。なんだか気恥ずかしかったが、幸せなひと時を過ごすことができた。


「次はどこへ行こうか?」


「そうですね……カイト様はどこへ行きたいですか?」


フィーナは首を傾げる。彼女の可愛さに見惚れながら、俺は考え込んだ。そして思いついた場所を口にする。


「そうだ! 劇場に行ってみないか? ちょうど観劇券が2枚あるんだ」


それは偶然手に入れたものだったが、ちょうどいい機会だと思ったのだ。するとフィーナは少し考えるような仕草をした後、笑顔で答えた。


「いいですね! 私も観てみたいです!」


「決まりだな。それじゃあ行こうか」


俺たちは劇場へと足を向ける。すると、突然フィーナが俺の手を握ってきた。突然のことに動揺してしまうが、彼女は気にせず俺の手を引っ張っていく。


「ふふん♪」


鼻歌を歌いながら上機嫌な様子の彼女を見ていると、俺も自然と笑顔になっていた。握られた手は柔らかく温かい……俺はその感触を堪能しながら劇場へと向かうのだった。


「面白かったな!」


劇場からの帰り道、俺は興奮冷めやらぬといった様子で言った。劇の内容は王道の物語で、騎士と姫が結ばれる物語だった。その美しい恋模様は観る者の心を鷲掴みにし、最後まで目が離せなかった。


「そうですね! 私も感動しました……」


フィーナも瞳を潤ませながら答える。彼女も楽しんでくれたようだ……よかった。2人で感想を言い合いながら歩くうちに、宿屋へと着いた。


「今日のデートは楽しかったですね」


「そうだな……また行きたいな」


「はい! 私も絶対に行きます!」


俺たちは笑いあいながら、今日の1日を振り返りつつ、眠りについた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...