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それからカイトはずっと無言の仏頂面だ。どうにも今日は調子が狂う日だ。
空は晴れ渡っていて、心地の良い風が吹いている。昼時の中心広場は賑やかで、楽しげに寄り添って歩く若い男女や親子連れの姿が目立つ。
こんな天気のいい日には、カイトと外で食事でもしようかと思っていたのだけれど、そんな気になれなくて私はずっと俯いていた。
「いつまで俯いている。お前の情けない顔を見ていると不愉快だ」
カイトは苛立たしげに言った。その言葉に私ははっと顔を上げる。するとカイトは呆れた顔で私を見つめていた。
「私だってたまには落ち込んだりすることだってありますよ!」
私は思わず感情的になって言い返してしまう。
「いつも能天気なお前でも落ち込むことがあるのか。だったら、さっきのは一体何だったんだ」
カイトの口調は相変わらず辛辣だが、そこに悪意はないことは分かっていた。彼はただ純粋に疑問に思っているのだ。だから私は正直に答えることにした。
「フィーナちゃんにやけに優しかったじゃないですか。もしかしてさっきの申し出を受けるつもりじゃなかったんですか?」
私がそう言うと、彼はやれやれといった様子でため息をついた。そして私を睨み付けると言った。
「馬鹿かお前は」
「なっ!?」
私は予想外の返答に言葉を失った。てっきりカイトはフィーナちゃんに気があるのだと思ったのだが……違ったのだろうか? 私が混乱していると、カイトは続けた。
「俺は、お前に買われて良かったと思ってる。だから他の奴の所になんか行かねぇし、護衛だってやめねぇ」
「カイト……」
私は胸が熱くなるのを感じた。それと同時に罪悪感に襲われた。彼にそんなことを言わせてしまって申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「ごめんなさい……私、何も考えていなくて……」
私は泣きそうになりながら謝った。すると彼はぶっきらぼうな口調で言う。
「別にいい。お前はそういう奴だってことは分かってる」
そう言って私の頭を掴むとわしゃわしゃと撫で回すのだった。彼の優しさが伝わってくるようで嬉しい気持ちになると同時に、なんだか照れくさくて私は赤くなった顔を隠すように俯くしかなかったのだった。
「飯買ってくる。ここで待ってろ」
そう言ってカイトは露店の方へと歩いて行った。その後ろ姿を眺めながら、私は一人呟いた。
「まったく、素直じゃないんだから……」
けれどそんなところが愛おしいと思う。私は自然と笑顔になっていたのだった。
「飯買ってきたぞ」
カイトはそう言って紙袋を私に手渡した。中にはサンドイッチや焼き菓子が入っているようだったので、近くのベンチに座ると食べることにした。
(……美味しい!)
野外で食べるご飯もなかなか良いものだと思った。天気の良い青空の下で食べるとより一層美味しく感じる。私は夢中になって食べていたが、ふと視線を感じて隣を見るとカイトと目が合った。
「何ですか?」
私が尋ねると彼は視線を逸らしたが、ややあって言った。
「……お前、ほんと食い意地張ってるな」
カイトはそう言うと微かに笑ったように見えた。久しぶりに見た彼の笑顔に私は嬉しくなった。やはり彼は笑っている方が素敵だと思うのだ。
「うるさいですよ! そんなんじゃありませんよ!」
私は恥ずかしくなってそっぽを向くと、残りのサンドイッチを一気に平らげたのだった。
昼食を食べ終わると、私たちは広場を後にして帰路に就くことにした。空は快晴で、雲がゆったりと流れているのが見えた。風が吹くたびに木の葉が揺れてざわめく音が耳に心地良い。
(ああ、平和だな)
私はしみじみと思った。この街に戻ってきて良かったと思う瞬間だ。こうしてカイトと一緒にいられることが幸せだと改めて思った。
「ねえ、カイト」
私が呼びかけると彼はこちらを見た。その目は穏やかで優しい色をしている。
「これからも一緒にいてくれますか?」
私が問いかけると、彼は静かに頷いた。それだけで十分だった。彼とならどんな困難でも乗り越えられる気がしたのだった。
空は晴れ渡っていて、心地の良い風が吹いている。昼時の中心広場は賑やかで、楽しげに寄り添って歩く若い男女や親子連れの姿が目立つ。
こんな天気のいい日には、カイトと外で食事でもしようかと思っていたのだけれど、そんな気になれなくて私はずっと俯いていた。
「いつまで俯いている。お前の情けない顔を見ていると不愉快だ」
カイトは苛立たしげに言った。その言葉に私ははっと顔を上げる。するとカイトは呆れた顔で私を見つめていた。
「私だってたまには落ち込んだりすることだってありますよ!」
私は思わず感情的になって言い返してしまう。
「いつも能天気なお前でも落ち込むことがあるのか。だったら、さっきのは一体何だったんだ」
カイトの口調は相変わらず辛辣だが、そこに悪意はないことは分かっていた。彼はただ純粋に疑問に思っているのだ。だから私は正直に答えることにした。
「フィーナちゃんにやけに優しかったじゃないですか。もしかしてさっきの申し出を受けるつもりじゃなかったんですか?」
私がそう言うと、彼はやれやれといった様子でため息をついた。そして私を睨み付けると言った。
「馬鹿かお前は」
「なっ!?」
私は予想外の返答に言葉を失った。てっきりカイトはフィーナちゃんに気があるのだと思ったのだが……違ったのだろうか? 私が混乱していると、カイトは続けた。
「俺は、お前に買われて良かったと思ってる。だから他の奴の所になんか行かねぇし、護衛だってやめねぇ」
「カイト……」
私は胸が熱くなるのを感じた。それと同時に罪悪感に襲われた。彼にそんなことを言わせてしまって申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「ごめんなさい……私、何も考えていなくて……」
私は泣きそうになりながら謝った。すると彼はぶっきらぼうな口調で言う。
「別にいい。お前はそういう奴だってことは分かってる」
そう言って私の頭を掴むとわしゃわしゃと撫で回すのだった。彼の優しさが伝わってくるようで嬉しい気持ちになると同時に、なんだか照れくさくて私は赤くなった顔を隠すように俯くしかなかったのだった。
「飯買ってくる。ここで待ってろ」
そう言ってカイトは露店の方へと歩いて行った。その後ろ姿を眺めながら、私は一人呟いた。
「まったく、素直じゃないんだから……」
けれどそんなところが愛おしいと思う。私は自然と笑顔になっていたのだった。
「飯買ってきたぞ」
カイトはそう言って紙袋を私に手渡した。中にはサンドイッチや焼き菓子が入っているようだったので、近くのベンチに座ると食べることにした。
(……美味しい!)
野外で食べるご飯もなかなか良いものだと思った。天気の良い青空の下で食べるとより一層美味しく感じる。私は夢中になって食べていたが、ふと視線を感じて隣を見るとカイトと目が合った。
「何ですか?」
私が尋ねると彼は視線を逸らしたが、ややあって言った。
「……お前、ほんと食い意地張ってるな」
カイトはそう言うと微かに笑ったように見えた。久しぶりに見た彼の笑顔に私は嬉しくなった。やはり彼は笑っている方が素敵だと思うのだ。
「うるさいですよ! そんなんじゃありませんよ!」
私は恥ずかしくなってそっぽを向くと、残りのサンドイッチを一気に平らげたのだった。
昼食を食べ終わると、私たちは広場を後にして帰路に就くことにした。空は快晴で、雲がゆったりと流れているのが見えた。風が吹くたびに木の葉が揺れてざわめく音が耳に心地良い。
(ああ、平和だな)
私はしみじみと思った。この街に戻ってきて良かったと思う瞬間だ。こうしてカイトと一緒にいられることが幸せだと改めて思った。
「ねえ、カイト」
私が呼びかけると彼はこちらを見た。その目は穏やかで優しい色をしている。
「これからも一緒にいてくれますか?」
私が問いかけると、彼は静かに頷いた。それだけで十分だった。彼とならどんな困難でも乗り越えられる気がしたのだった。
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