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「君との婚約を破棄する」


それは突然のことだった。15歳になったばかりの私は婚約者であるラインハルト皇太子に呼び出されたかと思うと、一方的に婚約破棄を言い渡されたのだ。


「えっと、殿下……? 一体何の冗談ですか?」


あまりに唐突なことで頭がうまく働かない。


まるで悪い夢でも見ているかのようだった。


「僕は君のような性悪女とはやっていけないんだ」


ラインハルト皇太子は淡々とそう告げると私に背を向ける。そして私の目の前で別の女に寄り添った。


「リリアーヌ、君のような優しい女性が婚約者でよかったよ」


「私も殿下が婚約相手で幸せです」


私の前で堂々と抱き合っている彼らを見て頭が真っ白になった。


いや、正確には怒りを通り越して呆れていたのだろう。彼らはこの期に及んで私を悪女だと言い張るつもりらしい。


「さぁ帰ろう、リリアーヌ! これからはずっと一緒だ!」


「はい殿下!」


二人は私に見せつけるように唇を重ねた。それはまるで愛し合う恋人のようだった。


「っ……」


怒りと悲しみが同時にこみ上げてきた。けれどここで感情のままに振る舞うわけにはいかない。私はこの国の未来を担う者として、公的な場での礼儀作法をしっかり教え込まれて育ってきたのだ。だから私は笑顔を取り繕った。


「さようなら殿下」


優雅にドレスの裾を持ち上げ、最大限の敬意を示す礼をする。そして彼らの前から去った。去り際に振り返ると二人はまだ抱き合っていた。それが余計に私の心を傷つけた。


「……ふふっ」


二人の姿が見えなくなってから、思わず笑みがこぼれてしまう。


「ふふっ……あははっ!!」


堪えきれずに声を上げて笑い出す。笑いすぎてお腹の筋肉が痛くなってきた頃、ようやく落ち着いた私は涙を拭いながら呟いた。


「私……捨てられたんだ……」


その瞬間、私の心は空っぽになった気がした。それと同時に頭の中に浮かんだのは復讐の二文字だった。


「……許さない」


怒りに任せて握りしめた拳が震える。爪が皮膚に食い込み血が滲むほど強く握っているせいで痛みが走る。けれどそれでも私は力を緩めなかった。


「絶対に許さないんだから!」


その日から私は復讐を心に誓った。
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