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柔らかな朝の光が差し込む食堂で、クロエはステファニーの顔を見て眉をひそめた。いつもの凛とした佇まいとは違い、どこか憔悴の色が見える。


「あら、ステファニー様。お顔色が優れませんわ。昨夜はお休みになれなかったのですか?」


「いえ……」ステファニーは言葉を選ぶように間を置いて、「何だか、夢見が悪くて」


その声は、いつもの力強さを欠いていた。テーブルに並べられた朝食の匂いも、今朝は妙に鼻につく。ステファニーは無意識のうちにクロエの視線を避け、窓の外に目を向けた。


「何か、心配事でもおありなのでしょうか」


クロエは心配そうにステファニーの顔を覗き込む。その瞳には真摯さが溢れていた。その様子にステファニーは慌てて首を振る。


「い、いえ……大したことではありませんわ。少し寝不足気味なだけで……」


その言葉にクロエは小さく溜息をつくと、諭すように語りかけた。


「ステファニー様。私たちは親友ですもの、隠し事はなさらないでくださいませね」


ステファニーは一瞬戸惑ったように瞳を揺らしたが、やがて小さく頷き、それからぽつりぽつりと話し始めた。


「私……最近、自分でもおかしいと思うことがあるんです……」


彼女の口調にはどこか不安の色が滲んでいる。その瞳には困惑の色も混じっていた。


「それはどんなことですの?」クロエは真剣な面持ちで尋ねた。ステファニーは目を伏せてしばらく沈黙していたが、やがて意を決したように口を開いた。


「……その、ラインハルト殿下のことなんですが」


その言葉にクロエは思わず息を飲んだ。まさかここでその名前が出てくるとは思わなかったからだ。


「殿下と何か……?」


「い、いえ……直接何かがあったわけではないのですが……」


ステファニーは口ごもりながら言葉を紡ぎ出した。その表情には迷いと戸惑いが滲み出ていた。


クロエは静かに彼女の言葉を待った。その沈黙に耐えかねたのか、やがて彼女は静かに語り始めた。


「……殿下のことが気になって仕方がないのです」


その言葉にクロエは一瞬息を呑んだ。しかしすぐに冷静さを取り戻し、優しく微笑みかけた。


「それは……どのような意味で?」


「……自分でもよくわかりませんわ」ステファニーは困惑した様子で首を横に振った。


「ただ、殿下のことを考えると胸が高鳴りますし……同時に切なくなるような気持ちにもなります」


その言葉はどこか熱を帯びていた。その頰は微かに紅潮しているようにも見える。クロエは小さく溜息をついた後、諭すように語りかけた。


「……ステファニー様、それは恋ではないでしょうか?」その言葉にステファニーは大きく目を見開くと、慌てた様子で否定した。


「そ、そんなはずありませんわ! だって私はラインハルト様のことをお慕いしていますのよ? それなのに……」


「でも、殿下への想いと殿下以外の方への想いは別物でしょう?」


クロエの言葉にステファニーはしばらく黙り込んでいたが、やがて小さく頷いた。その表情からは困惑の色が見て取れる。


「そうかもしれませんわ……でも、なぜ急にこんなことになったのかしら」彼女は独り言のように呟いた後、何か思い出したかのようにハッとした表情を浮かべた。そして慌てて席を立つと足早に食堂を後にした。残されたクロエは小さく溜息をつくと、静かに窓の外へと視線を移す。そこには穏やかな春の日差しが降り注いでいた。


ステファニーは足早に廊下を歩くと、中庭に出たところで足を止めた。そこは色とりどりの花が咲き誇り、甘い香りで満たされていた。その香りに誘われるように彼女はゆっくりと歩き出す。そして大きな木の根元に座り込むと、大きく溜息をついた。その表情にはどこか憂いの色が滲んでいた。


「私……どうしちゃったのかしら」彼女は小さく呟いた。その声は微かに震えているようにも感じられた。しかし同時にそこには微かな期待の色も含まれているように思えた。


その時、背後から足音が聞こえた。振り返るとそこに立っていたのは侍女のロザリーだった。彼女は心配そうな面持ちでこちらを見ている。


「お嬢様……大丈夫ですか?」ロザリーは遠慮がちに声をかける。それに対してステファニーは慌てて笑顔を作ると、小さく首を振った。


「ええ、大丈夫よ」


しかしその言葉とは裏腹に顔色はあまり良くないように見える。その様子を見てロザリーはますます不安げな表情を浮かべたが、それ以上は何も聞かなかった。代わりに隣に腰掛けると優しく声をかけた。


「何か悩み事があるのなら私に話してくださいな。きっと楽になりますよ」


その言葉に、ステファニーは小さく微笑むと静かに語り始めた。


「……私、最近おかしいんです」


「ええ、存じております」ロザリーは微笑みながら頷く。ステファニーは一瞬戸惑った表情を浮かべていたが、やがて意を決したように言葉を続けた。


「……ラインハルト殿下のことが頭から離れないんです」


その言葉を聞いた瞬間、ロザリーは小さく息を飲んだがすぐに平静を取り戻すと静かに聞き入った。彼女は黙ったまま続きを促すように頷いて見せる。その様子にステファニーは少し安心したのか再び話し始めた。その表情には戸惑いの色が見える。しかしそれ以上に何か強い決意のようなものがあった。


「最初はただ憧れているだけだと思っていました。でも……最近になってそれが違うことに気づいたんです」


その言葉にはどこか切実さが感じられた。ロザリーは黙って耳を傾けることしかできない。しかしそれでもステファニーは懸命に言葉を紡ぎ続けた。その瞳には決意の色が滲んでいる。


「私はラインハルト殿下に恋をしているのかもしれません」


その言葉を聞いた瞬間、ロザリーは思わず息を飲んだ。しかしすぐに冷静さを取り戻すと静かに問いかけた。


「……それは本当でしょうか?」


その問いかけにステファニーは一瞬躊躇したが、やがて小さく頷いた。その瞳には不安の色が滲んでいるように見えた。ロザリーはそんな彼女の肩に手を置きながら優しく語りかける。


「大丈夫ですよ、お嬢様ならきっとうまくやれます」


その言葉にステファニーは小さく微笑んだが、すぐに表情を曇らせた。その様子を見てロザリーは首を傾げる。


「……でも、もしこの気持ちが叶わぬものだったらと思うと……」彼女は小さく溜息をつくと目を伏せた。その表情からは深い悲しみの色が見えるようだった。ロザリーはそんなステファニーを慰めるようにそっと抱きしめると耳元で囁いた。


「大丈夫です、お嬢様。私はいつだって貴女の味方ですから」


その言葉にステファニーは涙ぐみながら答えた。「……ありがとう、ロザリー」
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