三度の飯より犬好きな悪役令嬢は辺境で犬とスローライフがしたい

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朝焼けの空が領地を染め始める6時半、クロエは目覚めた。

侍女たちの手際よい仕草に身を委ねながら着替えを済ませると、7時には犬舎へと足を向ける。肩の開いた白のワンピースに黒の長手袋、そして大きな麦わら帽子という実用的な装いだ。


「カイン、マックス、ジェニー、アドルフ、マリー！ みんな、よく眠れた？」


昨夜は叔父の厳命で散歩を見送らざるを得ず、夢遊病のように犬舎まで足を運んでしまったが、今朝は晴れやかな表情で愛犬たちと対面する。手慣れた動作で革製のハーネスを装着していく姿は、日課の証だった。


「さあ、いきましょうか」


クロエは愛犬たちと散歩に出かけた。森の中の細道をゆっくりと歩くだけの気ままな運動だ。クロエにとってそれは日々の生活の一部であり、彼らにとっては主人と過ごすかけがえのない時間だった。


「今日もいい天気ね」クロエは空を見上げながらつぶやく。その瞳に映る青が深いことは、澄み切った空気のおかげだろう。


「ワン！」先頭をいくカインが一声吠えると、他の犬たちもそれに続く。クロエは軽く微笑んでうなずきを返すと、さらに歩調を緩めた。


木漏れ日を浴びながらのんびりと歩を進めていると、不意に彼女の視界に小さな影が飛び込んできた。それは子犬の姿だった。思わずしゃがみ込み手を伸ばすと、子犬は警戒することなく近づいてきた。


「あら……可愛い」クロエはその頭を撫でながら呟いた。「どこから来たの？」


子犬は答えず、ただ無邪気に尻尾を振っていた。その仕草に癒されていると、背後から声が聞こえてきた。


「クロエお嬢様！ お探しいたしましたよ」


振り返ると侍女のロザリーが息を切らしながら走ってきていた。その両手にはバスケットを持っているようだ。


「どうしたの？ そんな慌てて」


「お散歩中急に飛び出して行かれたので、何事かと思いました……」ロザリーは大きく深呼吸をした。そして再び口を開いた。


「そろそろ朝食のお時間です」


時計を見ると時刻は8時前だ。どうやら1時間以上も犬たちと戯れていたらしい。


「ごめんなさい、つい夢中になっちゃって」


クロエは立ち上がりスカートの裾を軽く叩いて整える。その動作に合わせて犬たちも歩みを止めた。


「さあ、帰りましょう」ロザリーの言葉に呼応するように子犬も一声鳴いた。


こうして森の中での散歩を終え、屋敷へと戻ると侍女たちによって素早く身支度を整えられた。


「朝食の準備が整いましたよ」ロザリーが優しく微笑む。


「ありがとう」クロエは感謝の言葉を述べつつ席に着いた。テーブルの上には焼き立てのパンやジャム、ハチミツなどが並べられている。


「さあ、召し上がってください」叔母が勧める。クロエはゆっくりと手を合わせ、小さな口に料理を運んでいく。その所作には育ちの良さが滲み出ていた。


朝食を済ませた後は自室に戻り勉学に勤しんだ。家庭教師であるベス先生に教えを請うことは日々の日課であり、その日も充実した時間を過ごすことができた。