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揺れる馬車の中で、私は半分眠りに落ちていた。王都からコーネリア領までは道が整備されており、穏やかな揺れが子守唄のように私を包んでいた。

ふと目を開けると、窓際で黒髪の青年が景色を眺めていた。私は数回まばたきをして意識を取り戻す。その気配を感じ取ったのか、彼が振り向いた。


「目が覚めたようだね」ラインハルトが柔らかな声で言った。


「はい……」まだ朦朧とした頭で返事をする私に、彼は窓の外を指さした。


「見てごらん。随分と進んできたよ。もうすぐアーガスだ」


私は言われるままに窓の外を覗き込んだ。すると、そこには見渡す限りの緑と田園風景が広がっていた。青々とした草原に、赤い屋根の家々が並ぶ様子は、まるで絵本の中の世界のようだ。


「素敵な町なんです」私は懐かしさを込めて答えた。「活気に満ちていて、美味しい物もたくさんあって……いつもここで昼食を取るんです」


「そうか、楽しみだ」


近づく町並みに、私の心は弾んでいた。生まれ育った領地の空気が、懐かしさと共に私を包み込む。


「もうすぐ到着しますよ」


「ええ、そうですね」私は笑顔で頷いた。


馬が足取りを緩め、やがて噴水広場で馬車は静かに停止した。従者のノックと共に「お開けしてよろしいでしょうか」という声が聞こえる。


「ああ」クラウスの許可を受けて、扉がゆっくりと開かれた。


「アーガスに到着いたしました」


ラインハルトは私に手を差し伸べ、その手を借りて私は馬車を降りた。待機していた侍女が直ちに私のもとへ駆け寄り、深々と礼をする。その姿に安堵の息が漏れた。


「殿下、昼食はいつも通りになされますか?」


「殿下では目立つだろう。ラインハルトでいい」


「あ……はい。ラインハルト様」


私は慌てて呼び方を改め、頭を下げた。しかしラインハルトは軽く笑いながら首を振った。


「気にすることはないよ」


その言葉にホッとしながら、私はそっと顔を上げた。目の前には微笑みを絶やさない彼の顔があった。その美しさに圧倒されながらも、私は小さく微笑んだ。


「わかりました……では参りましょうか」


私たちは馬車から降りて噴水広場へと歩みを進めた。大通りには多くの商店が立ち並び、人々の笑い声が響いている。その光景はかつての日常と何も変わっていなかった。


「ここはいつ来ても賑やかですね」


「ええ、本当に。それがコーネリアの一番の自慢ですもの」私は胸を張りながら答えた。


「そうだね」ラインハルトは微笑みながら頷いた。


やがて私たちは広場の隅にある小さなレストランにたどり着いた。ドアを開けると、カランコロンとベルが鳴る。


「いらっしゃい!」威勢のいい声が私たちを迎え入れた。店内には常連客と思われる客が数名座っているだけだったが、私たちの入店に気付くと一斉に視線を向けた。彼らの好奇に満ちた視線を避けるように、私たちは窓際の席に座った。


「おすすめは何だい?」


「そうですね……」私は少し考えてから言った。「ミートパイがお勧めです」


ラインハルトは興味深げにメニューを覗き込んだ。そしてしばらく悩んだ後、彼は店員を呼び止めて注文を伝えた。


「ミートパイを2つ頼む」


「かしこまりました」


店員は恭しく礼をして厨房へと向かった。


「ここのミートパイは絶品なんですよ」私は得意げに言った。「特にこの季節にはぴったりなんです」


ラインハルトは興味深げに頷き、窓の外を眺めた。その横顔に見惚れていると、再びベルが鳴った。今度は注文した料理が運ばれてきたようだ。


「お待たせしました」店員の声と共に、熱々の湯気が立ち上る皿が置かれた。そこには香ばしい香りを放つミートパイが2つ並んでいた。


「美味しそうですね」ラインハルトは目を輝かせた。


「ええ、本当に!」私は満面の笑みを浮かべた。


二人は早速ナイフとフォークを手に取り、一口頬張った。サクッとしたパイ生地の中から、ジューシーな肉汁が溢れ出してきて舌の上でとろける。その味はまさに絶品だった。


「これは……素晴らしいね」ラインハルトは感心したように呟いた。


「そうでしょう? コーネリアの自慢ですから」私は得意げに言った。「他にもいくつかおすすめはありますけど、他も召し上がりますか?」


「そうだね……では他の料理も頼むことにしようか」


ラインハルトの言葉に、私は笑顔で頷き返した。その後も私たちは食事を続けながら、様々な話題について話し合った。彼の知識の広さと聡明さに感心しながらも、同時にどこか懐かしい感情が胸に湧き上がってくるのを感じたのだった。
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