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俺は冒険者として初めての依頼を受けることにした。依頼内容は、街の外に自生している薬草を採取するという簡単なものだ。
「さてと、薬草拾いに行くか」
俺は街を出て、目的地の森までひとっ飛びで移動した。
「よし、到着っと」
『よし、ではないのじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!』
猫の姿をしているノワールが、俺に怒鳴る。
「なんだよ?」
『なんだとは何だ! なぜ平然と飛んでいるのじゃ!? お主、何をやった!?』
「魔法で飛んだ」
『結界魔法しか使えぬのではなかったのか!?』
「いや、結界魔法で飛んだんだよ」
『意味が全く分からんのじゃ!』
「結界に【浮遊】を付与して、全身に結界を纏わせることで飛ぶことが出来るようになるんだよ」
ノワールは驚愕しつつも理解し、呆れたようにため息をつく。
『相変わらず非常識な使い方をするのう……』
「手札が一つしかないなら、それを徹底的に使いこなすしかないからな」
俺たちは森の入口に立っていた。街から続く草原は、近づくにつれて緑が濃くなっている。
『どれが薬草か分かるのかの?』
「そんなの必要ない。【成】」
俺は周囲一帯に結界を張り、縮小して薬草以外を弾き出す。こうすることで薬草だけが残るという寸法だ。
『なんという……。薬草採取すら規格外なのじゃな』
「さて、拾った薬草は収納にしまって……」
その時、森の奥から悲鳴が聞こえてきた。
「た、助けてえぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!」
俺は結界で身体を覆い、空を飛んで彼らの元へ向かう。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」
そこにいたのは3メートルを超える赤毛の熊、レッドベアーであった。
「おいおい、これが森の主ってやつか?」俺は空中で立ち止まりながら、巨大なレッドベアーを見下ろした。その圧倒的な体躯と荒々しい気配に、普通の冒険者なら震え上がるだろう。しかし、俺にはそんな恐怖はない。
『主よ、軽く見過ぎなのじゃ……あの熊は、Bランク冒険者パーティーでも全滅する相手なのじゃぞ!』ノワールが警告するが、俺は平然と肩をすくめた。
「ふむ、つまり素材として価値があるってことだな」
『素材の話ではないのじゃ!!!! 命の話をしておるのじゃ!!!!』
熊は俺に気づいたのか、低い唸り声を上げながらその巨大な爪を振り上げた。その動きだけで風圧が周囲の木々を揺らす。下にいる冒険者たちは完全に怯えて、地面に座り込んでいた。
「さてと、試してみるか」俺は手をかざし、結界魔法を展開した。
「【成】」
俺の足元から広がった透明な結界が、瞬く間に球状になり、俺と熊を覆う。結界の中では、俺が設定したルールが絶対だ。
「この中では、重力を5倍に設定する」
途端にレッドベアーの動きが鈍くなり、その巨体がズシンと地面に沈み込んだ。あまりの重さに地面がひび割れる。熊は抵抗しようとするが、動きは明らかに制限されている。
『な、なんと……重力を自在に操るとは! お主、本当にただの冒険者か!?』
「いや、冒険者として初仕事だしな。一応、優しくやるさ」俺は結界内で次の設定を付け加えた。
「攻撃反射率、100%に設定。」
熊が苦し紛れに爪を振り上げて結界に叩きつけるが、その衝撃はそのまま自身に返され、巨体が地面に叩きつけられる。雷鳴のような音が響き渡った。
『……完全に主が森の主なのじゃ……』
熊はもはや立ち上がることもできず、その場にぐったりと倒れ込んだ。俺は結界を解除し、地面に降り立つ。
「ほら、終わったぞ」俺は怯えていた冒険者たちに声をかける。
「た、助かった……君は一体、何者なんだ!?」
「ただの冒険者だよ」俺は肩をすくめ、倒れたレッドベアーの素材を回収する準備を始めた。毛皮や爪、牙は高値で売れるだろう。
『ただの冒険者ではないのじゃが……まあ、説明するのも面倒なのじゃな』
冒険者たちは感謝の言葉を口々に述べていたが、俺にとってはこれもまた仕事の一環にすぎない。だが――
「まあ、次の依頼がもっと面白いといいんだけどな」俺は空を見上げながらつぶやいた。
ノワールが呆れたようにため息をつきながら答える。
『もう少し普通に生きられぬのかの……主は』
こうして、俺の冒険者としての初仕事は終わった。しかし、これが「普通」ではない日々の始まりだということを、この時の俺はまだ知らない。
「さてと、薬草拾いに行くか」
俺は街を出て、目的地の森までひとっ飛びで移動した。
「よし、到着っと」
『よし、ではないのじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!』
猫の姿をしているノワールが、俺に怒鳴る。
「なんだよ?」
『なんだとは何だ! なぜ平然と飛んでいるのじゃ!? お主、何をやった!?』
「魔法で飛んだ」
『結界魔法しか使えぬのではなかったのか!?』
「いや、結界魔法で飛んだんだよ」
『意味が全く分からんのじゃ!』
「結界に【浮遊】を付与して、全身に結界を纏わせることで飛ぶことが出来るようになるんだよ」
ノワールは驚愕しつつも理解し、呆れたようにため息をつく。
『相変わらず非常識な使い方をするのう……』
「手札が一つしかないなら、それを徹底的に使いこなすしかないからな」
俺たちは森の入口に立っていた。街から続く草原は、近づくにつれて緑が濃くなっている。
『どれが薬草か分かるのかの?』
「そんなの必要ない。【成】」
俺は周囲一帯に結界を張り、縮小して薬草以外を弾き出す。こうすることで薬草だけが残るという寸法だ。
『なんという……。薬草採取すら規格外なのじゃな』
「さて、拾った薬草は収納にしまって……」
その時、森の奥から悲鳴が聞こえてきた。
「た、助けてえぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!」
俺は結界で身体を覆い、空を飛んで彼らの元へ向かう。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」
そこにいたのは3メートルを超える赤毛の熊、レッドベアーであった。
「おいおい、これが森の主ってやつか?」俺は空中で立ち止まりながら、巨大なレッドベアーを見下ろした。その圧倒的な体躯と荒々しい気配に、普通の冒険者なら震え上がるだろう。しかし、俺にはそんな恐怖はない。
『主よ、軽く見過ぎなのじゃ……あの熊は、Bランク冒険者パーティーでも全滅する相手なのじゃぞ!』ノワールが警告するが、俺は平然と肩をすくめた。
「ふむ、つまり素材として価値があるってことだな」
『素材の話ではないのじゃ!!!! 命の話をしておるのじゃ!!!!』
熊は俺に気づいたのか、低い唸り声を上げながらその巨大な爪を振り上げた。その動きだけで風圧が周囲の木々を揺らす。下にいる冒険者たちは完全に怯えて、地面に座り込んでいた。
「さてと、試してみるか」俺は手をかざし、結界魔法を展開した。
「【成】」
俺の足元から広がった透明な結界が、瞬く間に球状になり、俺と熊を覆う。結界の中では、俺が設定したルールが絶対だ。
「この中では、重力を5倍に設定する」
途端にレッドベアーの動きが鈍くなり、その巨体がズシンと地面に沈み込んだ。あまりの重さに地面がひび割れる。熊は抵抗しようとするが、動きは明らかに制限されている。
『な、なんと……重力を自在に操るとは! お主、本当にただの冒険者か!?』
「いや、冒険者として初仕事だしな。一応、優しくやるさ」俺は結界内で次の設定を付け加えた。
「攻撃反射率、100%に設定。」
熊が苦し紛れに爪を振り上げて結界に叩きつけるが、その衝撃はそのまま自身に返され、巨体が地面に叩きつけられる。雷鳴のような音が響き渡った。
『……完全に主が森の主なのじゃ……』
熊はもはや立ち上がることもできず、その場にぐったりと倒れ込んだ。俺は結界を解除し、地面に降り立つ。
「ほら、終わったぞ」俺は怯えていた冒険者たちに声をかける。
「た、助かった……君は一体、何者なんだ!?」
「ただの冒険者だよ」俺は肩をすくめ、倒れたレッドベアーの素材を回収する準備を始めた。毛皮や爪、牙は高値で売れるだろう。
『ただの冒険者ではないのじゃが……まあ、説明するのも面倒なのじゃな』
冒険者たちは感謝の言葉を口々に述べていたが、俺にとってはこれもまた仕事の一環にすぎない。だが――
「まあ、次の依頼がもっと面白いといいんだけどな」俺は空を見上げながらつぶやいた。
ノワールが呆れたようにため息をつきながら答える。
『もう少し普通に生きられぬのかの……主は』
こうして、俺の冒険者としての初仕事は終わった。しかし、これが「普通」ではない日々の始まりだということを、この時の俺はまだ知らない。
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