悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした～娘は私が責任もって育てて見せます～

18

そしてしばらく歩いたところでようやく目的の場所に到着したようだった。そこは人気のない森の中であった。そこでフィーナはリュートの手を離して言ったのである。


「ここでいいでしょう」


彼女は微笑みながらリュートを見つめていたが、その瞳には狂気の色が宿っていたのだ。それはまるで獲物を狙う獣のようであった。そして次の瞬間、突然ナイフを取り出すとリュートに襲いかかってきたのである。


「リュート様！ 逃げて下さい！」


私は思わず叫んでしまったが、その声は届かなかったようだ。彼は突然のことで対応できなかったのかその場に立ち尽くしていた。そして次の瞬間にはフィーナに押し倒されてしまったのである。


「リュート様……やっと二人っきりになれましたね……」


そう言って笑みを浮かべる彼女の顔からは狂気しか感じられなかった。その光景を見ていた私は助けに行こうとしたのだがエレローラに止められてしまったのである。


「邪魔をしないでいただけませんか？ これは私とリュート様の問題なのですから」


彼女はそう言うと私に向かって魔法を放ってきたのである。私は咄嵯に防御魔法を展開したのだが、その隙にフィーナがリュートに馬乗りになってしまったのだ。


「さあ、これでもう逃げられませんね……ふふふ」


彼女は笑いながらリュートの身体を撫で回し始めたのだった。それを見た私は怒りで我を忘れそうになったが、それでも冷静さを保つように自分に言い聞かせていたのだ。ここで感情的になっても何も解決しないからだ。それよりもまずは状況を把握しなければならないと考えたのである。


「フィーナ、あなたは一体どういうつもりなのですか？ なぜリュート様に危害を加えるような真似をするのですか？」


エレローラは怒りを必死に堪えながらフィーナに向かって問いかけた。しかし彼女は全く意に介していない様子であった。


「ふふ、あなたこそ邪魔しないでいただきたいですわ！ 私はただリュート様と二人で幸せな時間を過ごすだけですもの！」


その言葉を聞いた瞬間、私は確信したのである。彼女は完全に狂っているということに……


「フィーナ、あなたは自分が何をしているのか分かっているのですか？」


エレローラの問いかけにフィーナは首を傾げた後で言った。


「ええ、もちろんですとも！ リュート様と愛を育むつもりですわ！」


その言葉を聞いた瞬間、私の怒りは頂点に達した。そして思わず怒鳴りつけたのである。


「あなたは自分が何を言っているのか分かっているのですか！？ リュート様を愛しているのならこんなことをしてはいけません！」


私の言葉にフィーナは一瞬驚いたような表情を浮かべた後で言った。


「ふふ、何を言っているのですか？ 私はリュート様を愛しているからこそ一緒になりたいと思っているのですよ？」


その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中で何かが弾けるような感覚を覚えたのである。そして気がつくとフィーナの頰を思いっきり引っ叩いていたのだ。


「お母さま！？」


突然のことに驚きの声を上げるエレローラだったが、今はそれを無視して私はフィーナに掴みかかったのである。


「あなたは自分が何をしているのか分かっているのですか！？ これは立派な犯罪ですよ！」


私の言葉にフィーナは一瞬だけ動揺の色を見せたものの、すぐに冷静さを取り戻すと反論してきたのだ。


「何を言っているのですか！ たかが女一人殴ったくらいで……それにリュート様は私の愛に応えてくれたではありませんか？」


その言葉には怒りよりも恐怖心を覚えたほどだった。彼女は本気でリュートを愛していると思っているようだったからだ。だがそれでも私は諦めるわけにはいかなかったのである。なぜならリュートは私にとってかけがえのない存在だったからだ。


「フィーナ……あなたは間違っているわ！ リュート様はあなたのことを愛していないのよ！」


私の言葉にフィーナは一瞬驚いたような表情を浮かべた後で言ったのである。


「そんなはずはないでしょう？ だって私たちは愛し合っていたのですから……」


その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが切れたような気がした。そして気がつけば私はフィーナの胸ぐらを掴むと怒鳴りつけていたのだ。


「ふざけるんじゃないわよ！ リュート様は私のものよ！ あなたになんか渡さないわ！」


その迫力に驚いたのかフィーナは怯えたような表情を浮かべて後退ろうとしたのだが、その前にエレローラが立ち塞がったのである。


「待ちなさい！ あなたこそ自分が何をしたのか分かっているの！？」


その言葉に私はハッとして我に返ったのだ。確かに今の行動は自分でもやり過ぎだと思うほどだったからだ。

だがそれでも私は引くわけにはいかなかったのである。リュートのためならば何でもやる覚悟があったからだ。


「フィーナ……あなただけは許さないわ！」


そう言って再び掴みかかる私をエレローラが必死に止めようとするが、それでも構わずに殴りかかろうとしたその時だった。突然背後から誰かに抱きしめられたのだ。驚いて振り返るとそこにはリュートの姿があったのである。彼は私を強く抱きしめると言ったのだ。


「もうやめてくれ……これ以上君が傷つく姿を見たくはないんだ……」


彼の声は震えていた。おそらく自分のせいで私とフィーナが争う姿に耐えられなかったのだろう。そんな彼の気持ちを察した私は抵抗するのをやめたのである。


「リュート様……」


私は思わず彼の名前を呟くとその場に崩れ落ちるように膝をついたのだった。その様子を見届けたエレローラは安堵のため息をつくとフィーナに向かって言ったのである。


「フィーナ、あなたは自分がした事を反省しなければなりません」


その言葉にフィーナは反論する気力も残っていないようだった。彼女は俯いたまま黙って聞いていたのだが、やがて小さな声でこう呟いたのである。


「……分かりました」


それを聞いたエレローラは満足そうに頷くと私たちに向かって言ったのだ。


「さあ、二人とも立ちなさい！ 一緒に帰りましょう！」


その言葉に私たちは同時に立ち上がったのである。そして無言のまま歩き始めるとそのまま家へと戻ったのだった。その間ずっと誰も口を開こうとはしなかったのだが、ただ一つだけ言えることはフィーナがもう二度とリュートに近づかないだろうということだった……。