悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした～娘は私が責任もって育てて見せます～

17

ある日のこと、私は掃除をしながらリュートとエレローラを観察をしていた。すると突然、フィーナがリュートに近づいてきたのである。


「リュート様、ごきげんよう」


彼女は微笑みながら挨拶をした後で言葉を続けたのだ。


「最近はあまりエレローラさんと会ってらっしゃらないのですか？」


その問いかけにリュートは困ったように笑いながら答えた。


「ああ、あまり会える時間が取れなくてね……でも心配はいらないよ。近いうちに必ずエレローラと話をするつもりだから……」


その言葉を聞いた瞬間、私は思わず耳を疑った。まさかリュートの口からそのような言葉が出るとは思わなかったからだ。しかしフィーナはその言葉を受けても動じる様子を見せなかったのである。


「そうですか……それは良かったです」


彼女はそれだけ言うと、その場を立ち去ろうとしたのだが突然立ち止まり振り返ったのだ。その顔には何かを決意したような表情を浮かべていた。そして次の瞬間、驚くべきことを口にしたのである。


「リュート様、私と一緒に来ていただけませんか？」


その言葉に私は耳を疑ったが、それ以上に驚いたのはリュートの方だった。彼は一瞬戸惑ったような表情を見せた後で言った。


「一体どうしたんだ？ 急にそんなことを言うなんて……」


リュートの言葉に対して彼女は冷静に答えた。


「いえ、ただあなたをお連れしたい場所があるだけです」


その言葉には有無を言わさぬ迫力があり、リュートも気圧されているようだった。しかしそれでも彼は引き下がらなかったのである。


「すまないが今は忙しいんだ……また今度にしてくれないか？」


そう言って立ち去ろうとした彼だったが、フィーナは諦めなかった。今度は彼の手を掴むと強引に引っ張っていったのだ。その様子はまるで恋人同士のように見えるほどだったが、実際には違うということはすぐにわかった。なぜならフィーナの瞳には狂気じみた光が見え隠れしていたからだ。


「ちょっと、離してくれないか？」


リュートは困惑しながらも抵抗しようとしたが、それでも彼女は離そうとしなかった。その様子はまるで獲物を狙う獣のようだった。


「お願いですから……私と一緒に来て下さい！」


彼女の叫びにも似た声にリュートも思わず足を止めてしまったようだ。そして次の瞬間には抵抗する気力を失ってしまったようだった。その様子を見たフィーナは満足そうに微笑むと彼を連れて歩き出したのである。


「リュート様、もう少しです……頑張って下さい」


私はそんな二人の様子を遠くから見ていたのだが、さすがにこれ以上放っておくわけにはいかなかった。リュートはフィーナに完全に魅了されてしまっているようだったからだ。このままでは彼が危ないと思ったのである。しかし下手に介入すると面倒なことになるため、慎重に行動する必要があったのだ。そこで考えた末に出した結論が尾行だった。


「二人を監視して動向を探るしかない……」


そう決意した私は、リュートの後をつけることにしたのである。フィーナとリュートの関係性や目的を把握するためにも尾行は絶好の機会だと思ったのである。


「絶対に逃さないわ……」


私は心の中で呟きながら、二人の後を追いかけていったのだった。


「リュート様、もう少しです……頑張って下さい」


フィーナは必死でリュートの身体を引っ張りながら目的地へと進んでいた。しかし、その時突然背後から声をかけられたのだ。振り返るとそこには見覚えのある人物が立っていた。それはエレローラだったのだ。


「フィーナ？ あなた何をしているの？」


彼女は驚いた表情を浮かべてこちらを見ていた。私は一瞬動揺してしまったが、すぐに冷静さを取り戻して言ったのである。


「あら、エレローラさんじゃないですか？ お久しぶりですね」


しかし、彼女の表情からは不信感が読み取れた。どうやら私の行動に何か思うところがあるようだったのである。だがここで引き下がるわけにはいかなかったので強気に出ることにしたのだ。


「リュート様、早く行きましょう！ 急がないと間に合わなくなってしまいますよ！」


私は彼の手を引きながら再び歩き始めたのだが、それでもエレローラは諦めようとしなかったようだ。彼女は私たちの前に回り込むと言ったのである。


「待ちなさい！ どこに行くつもりなの？」


その言葉に一瞬動揺してしまったが、それでも平静を装って答えたのだ。


「別にあなたに言う必要はありませんよね？ それとも何か不都合なことでもあるのでしょうか？」


私の挑発的な言葉に彼女は一瞬怯んだ様子を見せたが、すぐに気を取り直したように反論してきたのだ。


「そういう問題ではありません！ 私はリュート様に聞いているのです！」


しかし、その言葉を聞いても彼は何も答えなかったのである。その様子を見たエレローラは眉をひそめるとこう呟いたのだ。


「フィーナ……あなた一体何を考えているの？」


その問いかけに私はニヤリと笑みを浮かべて答えたのである。


「別に何も企んでいませんよ？ それとも何か心当たりでもあるんですか？」


その言葉に一瞬動揺の色を見せたエレローラだったが、すぐに冷静さを取り戻して言ったのである。


「いいえ、何もありませんわ！ ただあなたがリュート様を連れ去ろうとしているように見えたものですから……」


そう言ってきた彼女に対して私はさらに言葉を続けたのだ。


「ふふ、面白い冗談ですね。それでは失礼します」と言って立ち去ろうとしたその時だった。突然背後から腕を掴まれたのである。


驚いて振り返ると、そこにはリュートがいたのだった。彼は私を守るように立ちはだかりながらエレローラに向かって言ったのである。


「フィーナを連れて行くつもりなら俺も一緒に行こう」


その発言に対して彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに冷静な表情に戻ると口を開いたのだ。


「わかりました……それでは参りましょう」


そう言って歩き出す三人を私は気づかれないように付いていくのであった。