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ある日のこと、私たちはコーネリア家のプライベートビーチに遊びに行くことになった。コーネリア家が所有する別荘地の一角にあるビーチで、周囲には人が住んでいないため気兼ねなく楽しむことができる場所なのだ。


「わぁ、海だー!」


エレローラは目を輝かせて大喜びしていた。


「こらこら、そんなに慌てないの」


私は娘を落ち着かせながら荷物を置いた後、水着に着替えることにしたのだ。


「お母様!早く行こうよ!」


待ちきれない様子のエレローラを見て微笑みながら私も準備を始めたのである。


「わかったわ。でもあまり遠くに行かないでね?」


私が注意すると彼女は素直に頷いてくれた。そして私たちは一緒に砂浜へと向かったのだった。そこには見渡す限り美しい海が広がっている光景が広がっていたのだ。


「うわぁ……すごく綺麗!」


エレローラは目を輝かせながら感嘆の声を上げた。私も同じく感動を覚えていたが、それと同時に少し不安も感じていたのだ。というのも、このビーチには人が住んでいないため危険な生物がいるのではないかと心配になっていたからだ。そんな私の気持ちを察したのか、隣にいたリュートさんが声をかけてきたのである。


「大丈夫さ、何かあったら俺が守るよ」


その言葉を聞いた私は思わずドキッとしてしまったが、平静を装ってお礼を言ったのだ。そして私たちは一緒に海に入ることにしたのである。


「冷たーい!」


エレローラは水遊びを始めたのだが、その様子を見てリュートさんが笑っていたのだ。


「あははっ!元気だな」


そんな二人を見ながら私は微笑ましく思っていたのだが、突然後ろから声をかけられたので振り返るとそこにはエドワードさんの姿があったのである。


「ソフィア様、楽しんでいただけていますか?」


彼女は微笑みながら話しかけてきたので私も笑顔で答えた。


「はい! とっても楽しいです!」


私の答えを聞いたエドワードさんは嬉しそうに微笑んだ後、今度はリュートさんに話しかけたのである。


「リュート様、ソフィア様がお世話になっております」


それに対してリュートさんも笑顔で応じたのだった。


「いえ、こちらこそソフィアさんにはよくしてもらっています」


そしてそのまま談笑を始めた二人を私は少し離れた場所から見つめていたのだ。


「ソフィア様? どうされました?」


その様子に気づいたエレローラが駆け寄ってきたので私は慌てて笑顔を浮かべた。そして何事もなかったかのように振る舞ったのだ。だが、彼女の目は誤魔化せなかったようでじっと見つめられてしまったのだ。


「ねぇ、お母様……」


彼女が何かを言いかけた時、突然大きな波が打ち寄せてきたのである。その波に飲み込まれた私たちは全身びしょ濡れになってしまったのだ。


「きゃー!もう最悪!」


エレローラは怒りながら文句を言っていたが、その表情はとても楽しげだった。私も一緒になって笑いながら言ったのである。


「あはははっ! びしょ濡れになっちゃったね!」


その様子を見たエドワードさんは安心したように微笑んでいたのだ。こうして私たちはしばらくの間、海を満喫するのであった。そして夕方になり別荘へ戻ることにしたのだが、その道中でエレローラは私にこう言ってきたのだ。


「お母様、楽しかった?」


私は笑顔で答えた。


「もちろんよ! 最高の思い出ができたわ」


その言葉に満足したのか、娘は笑顔を浮かべながら私に向かって抱きついてきたのだった。そんな娘を抱きしめ返しながら私は心の底から幸せを感じていたのだった。


「ねえ、お母様……」


別荘に戻るとエレローラが突然話しかけてきたのだ。その表情は少し寂しげな雰囲気を漂わせていたのだ。


「どうしたの?」


私が尋ねると彼女は俯き加減に答えた。


「あのね、私……リュートさんともっと仲良くなりたいの」


その言葉を聞いた瞬間、私の胸は高鳴ったのである。まさか娘の口からそんな言葉を聞くとは思わなかったからだ。だが同時に不安も感じていたのだ。もし二人が付き合うことになれば私とリュートさんの関係も変わってしまうかもしれないからだ。


「どうしてそう思ったの?」


私は慎重に言葉を選びながら娘に質問した。すると彼女はゆっくりと話し始めたのである。


「私、リュートさんのことが好きなの」


娘の言葉を聞いて胸が締め付けられるような痛みを感じた。だが同時に嬉しくもあったのだ。ついにこの時が来たかと思ったからである。思えば今までずっと我慢してきたのかもしれない……娘が成長するにつれて親離れするのは当然であり、むしろ喜ばしいことだと思うべきなのだ。だがそれでも寂しいものは寂しいし悲しいものは悲しいのである。そんな複雑な感情を抱きながら私は娘に自分の気持ちを悟られないように細心の注意を払いつつ、優しい口調で語りかけた。


「そう……でも大丈夫。リュートさんはいつもあなたのことを大切に思ってくれているわ」


私の言葉を聞いて娘は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。だがその笑顔がとても儚く見えてしまったのは気のせいではないはずだ。娘もまた自分の思いを打ち明けたことで少し不安を感じているのかもしれないと思ったからだ。だからこそ私は娘の手を取りながら言ったのだ。


「大丈夫よ、エレローラならきっとうまくいくはずよ」


その言葉を聞いた娘は安心した表情を浮かべていた。そんな彼女を見て私は決意を固めたのである。必ず娘の恋を成就させると……
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