上 下
9 / 26

9

しおりを挟む
ある日のこと、私は貴族のお茶会に招待されることになった。なんでも有名な魔術師の方が来ているらしいのだ。私はあまり乗り気ではなかったのだが、招待された以上断るわけにもいかず渋々参加することになったのである。


「はぁ……気が重いなぁ……」


思わずため息が出てしまった私を心配したのかエレローラが声をかけてきたのだ。


「お母様、どうかしたの?」


心配そうに見つめてくる娘の姿に私は慌てて笑顔を作ったのである。そして彼女を安心させるために優しく頭を撫でながら言ったのだった。


「大丈夫よ、心配しないで」


そしてお茶会当日、私はエレローラと一緒に会場へと向かったのである。中に入ると既に多くの人が集まっていて賑わっていた。


「うわぁ……すごい人だね……」


「お母様、早く行こうよ!」


エレローラは私の手を引いて人混みの中へと進んでいく。すると目の前に一人の女性が立っていることに気がついたのだ。その女性は長い金髪に赤い瞳をしていてとても美しい容姿をしていたのである。年齢は20代前半くらいだろうか? 彼女は私たちの姿を見つけると笑顔で声をかけてきたのだ。


「始めて見る人ね。私はサブリナ・ラーナリア。あなたは?」


「私はソフィアと申します、こっちは娘のエレローラです」


私が自己紹介をすると彼女は笑顔で答えてくれたのだ。そしてそのまま会話が始まったのである。どうやら彼女も魔術師らしく今回のお茶会に呼ばれていたらしいのだ。


「へぇ、ソフィアさんは凄いわね。まだ若いのにこんなに大きな屋敷に住んでいるなんて」


「いえ……これも全て夫のおかげですから……」


私の言葉を聞いた彼女は少し驚いた表情を浮かべた後で尋ねてきたのだ。


「あら? 旦那さんはいないのかしら?」


私はどう答えるべきか悩んでしまったのである。正直に話すわけにもいかず悩んだ末に適当に誤魔化すことにしたのだ。


「夫は仕事で忙しいのでなかなか帰ってこれないんです……」


私の言葉を聞いて彼女は少し悲しそうな表情を浮かべた後で謝罪の言葉を述べたのだ。


「ごめんなさい、変なこと聞いちゃったわね……」


「いえ、気にしないでください」


私が慌てて取り繕うように言うと、彼女は笑顔を浮かべて話題を変えてくれたのである。


「それよりもせっかくだし一緒にお茶でも飲まない?」


その言葉に私は少し困ってしまったが断るわけにもいかず了承することにしたのだ。こうして私たちは一緒にお茶をすることになったのだが、そこで思わぬ人物に出会ったのだ。それはリュートさんだったのだ。彼は私たちの姿を見つけると笑顔で声をかけてきたのだった。


「やあ、ソフィア! それにエレローラちゃんも!」


まさかこんな所で再会すると思っていなかったため驚いてしまったが、すぐに挨拶を返すことができたのである。


「こんにちは、リュートさん」


「久しぶりだね」


彼は相変わらず爽やかな笑顔を浮かべていたのだった。そんな彼に私も笑顔で応えたのである。それからしばらく三人で話をした後でお茶会はお開きとなったのである。帰り道、リュートさんは私を家まで送ってくれることになったのだ。


「今日はありがとう」


私は彼に改めてお礼を言ったのである。すると彼は笑顔で答えてくれたのだ。


「こちらこそ楽しかったよ」


そして別れ際、彼は私に小さな箱を差し出してきたのである。不思議に思って見ていると彼は照れくさそうに頭を掻きながら言ったのだった。


「これを受け取って欲しいんだ……」


渡されたのは指輪だった……それを見た瞬間、私の心臓は大きく跳ね上がった気がしたのだ……


「これは……?」


私が戸惑いながら尋ねると彼は少し照れた様子で答えてくれたのである。


「プレゼントだよ……」


「えっ!?」


思わず叫んでしまった私だったが、すぐに冷静になって咳払いをした後、改めて彼に尋ねたのである。どうしてこれを私にくれるのか気になったからだ。すると彼は微笑みながら答えてくれたのだった。


「君に似合うと思ったからさ」


その言葉を聞いた瞬間、私の頬は赤く染まり、言葉が出なくなってしまった。エレローラが興味津々な表情で私たちを見つめているのに気づき、私は何とか笑顔を作り直しながらお礼を言った。


「ありがとう、リュートさん。でも、こんな高価なものは……」


「気にしないで。僕が君にあげたかったんだ。受け取ってくれるだけで嬉しいよ。」


彼の優しい言葉に、私は心の中でさらに混乱したが、指輪を大切に抱えながら小さく頷いた。


「……ありがとう。本当に」


その後、私たちは少し照れくさい雰囲気の中、再び歩き出した。リュートさんが帰り道を一緒に歩いてくれることで、緊張がほぐれたのか、エレローラはいつも通りのおしゃべりを始めた。


「リュートさん、またお家に遊びに来てくれる?」


リュートさんは笑顔でエレローラに応じた。


「もちろんさ。エレローラちゃんの笑顔を見れるなら、いつでも遊びに行くよ」


そんなやり取りをしながら、私たちは和やかに歩き続けた。家に到着する頃には、夕焼けが空を染め、オレンジ色の光が私たちを包み込んでいた。


「今日は本当にありがとう、リュートさん」


私は改めて感謝の気持ちを伝えた。彼は優しく微笑みながら答えた。


「こちらこそ、素敵な時間をありがとう。また近いうちに会おうね」


その晩、エレローラは興奮してお茶会の話を続けていたが、私の頭の中はリュートさんのことばかりだった。指輪を手に取り、じっと見つめながら、私は自分の気持ちを整理した。彼の思いにどう応えるべきか、まだ答えは見つからなかったが、その温かい気持ちを大切にしようと思った。これから先、どんな展開が待っているのかは分からないが、少しずつ進んでいく決意を固めたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜか乙ゲーの攻略キャラに転生してしまった俺は、悪役令嬢の可愛さに惚れました

奏音 美都
恋愛
 横断歩道を歩いてる最中に暴走トラックに突っ込まれた俺は、なぜか乙女ゲームの攻略キャラのひとりに転生したらしい。ヒロインは、漫画みたいなピンクの髪色に緑の瞳をした背のちっこい女子、アツコだった。  だけど……俺が気になるのは、悪役令嬢キャラであるエトワールだった。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

断罪ルートを全力で回避します~乙女ゲームに転生したと思ったら、ヒロインは悪役令嬢でした~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲームのヒロインに転生した。貧乏な男爵家の娘ながらも勉強を頑張って、奨学生となって学園に入学したのだが、蓋を開ければ、悪役令嬢が既にハーレムを作っていた。どうやらこの世界は悪役令嬢がヒロインのようで、ざまぁされるのは私のようだ。 ざまぁを回避すべく、私は徹底して目立たないようにした。しかし、なぜか攻略対象たちは私に付きまとうようになった。 果たして私は無事にざまぁを回避し、平穏な人生を送ることが出来るのだろうか?

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...