悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした～娘は私が責任もって育てて見せます～

5

次の日、私はエレローラと一緒に花屋さんに来ていた。このお店は私たちのお気に入りで、よくお花のお世話を頼んでいるお店でもあるのだ。


「こんにちは」


私が挨拶すると、店主の女性が笑顔で出迎えてくれる。彼女はいつも元気いっぱいで明るくて素敵な人だ。


「あら、いらっしゃい！ 今日はどんなご用件かしら？」


「実は……この子に花束を作って欲しいんです」


そう言って後ろにいた娘を紹介すると、彼女は驚いたような表情を浮かべたがすぐに笑顔に戻った。そしてエレローラに向かって優しく語りかける。


「こんにちは、可愛らしいお嬢さんね！ 貴女のお名前はなんていうのかしら？」


「……エレローラといいます」


エレローラは少し緊張した様子だったが、しっかりと受け答えをする姿に私は嬉しくなった。この子は本当に成長が早いと思う。将来はきっと素敵な女性になることだろう。


「いい名前ね！ それで、どんな花束がいいのかしら？」


「えっと……お母さまの好きな花を教えてください」


エレローラは遠慮がちに言うと私の方をチラリと見る。どうやら私の好みに合わせたいようだ。そんな娘の気持ちを察してか店主の女性は少し考えた後で口を開いた。


「そうね……貴女のお母さまはこの白い花が好きだからそれに合わせると良いと思うわ！」


「はい！ わかりました！」


そう言って元気よく返事をした後、彼女は店内の花々を見て回り始めたのである。その様子を微笑ましく見ていると、不意に店主の女性が私に話しかけてきた。


「あの女の子は貴女の娘さん？」


「はい、そうですよ」


私は素直に答えると、エレローラのことを話し始めた。彼女はとても優しくていい子だということを一生懸命に話したつもりだ。その甲斐あってか、彼女も納得してくれたようだった。


「あの子のこと大切にしてあげてくださいね！」


そう言って笑う彼女の笑顔はとても素敵だった。私もつられて笑顔になりつつ頷いたのだった。


「もちろんです！ あの子は私にとってかけがえのない存在ですから！」


「ふふ……それなら良かったわ」


そう言って微笑むと、彼女は再び仕事に戻っていった。私はその後ろ姿を見ながら思うのだった。この出会いに感謝しながら、これからも娘と共に生きていこうと心に誓ったのである。


それからしばらくしてエレローラは花束を持って帰ってきた。それは私が一番好きな白い花を中心に作られたものだった。その美しさに思わず見惚れてしまうほどだった。


「お母様！ どうですか？」


エレローラは嬉しそうに聞いてくるが、私の口からは何も言葉が出てこなかった。それほどまでに感動していたのだ。


「お母様？」


エレローラは不思議そうに首を傾げる。そんな彼女を見て私は慌てて笑顔を作った。


「ごめんなさいね……あまりにも綺麗だったから見惚れていたのよ」


私が素直に感想を言うと、彼女は嬉しそうに微笑んでくれたのだった。その笑顔がまた可愛らしくて思わず抱き締めたくなるほどだったが我慢した。今はそれよりも大切なことがあるのだから。


「ありがとう！ とっても素敵な花束を作ってくれて！」


私は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。するとエレローラは慌てて手を振って否定してきたのだ。


「いえ！ 頭を上げてください！ 私がやりたくてやったことですから！」


「それでも言わせてほしいの……本当にありがとうね」


私はもう一度頭を下げる。そんな私を見てエレローラは少し困ったような顔をしていたが、やがて小さくため息をつくと口を開いたのだ。


「わかりました……そこまで言うなら素直に受け取ります」


そう言って微笑む彼女の姿に私もつられて笑顔になるのだった。そして改めて娘の顔を見る。その顔はとても幸せそうだった。その顔を見て思うのである。この笑顔をいつまでも守っていきたいと……。