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「あの、私のステータス、あまり期待できそうにないので、優しく評価してくださいね」


軽薄そうな3人組に愛想よく接しながら、天然な女の子を演じて前へ。彼らの下品な視線は不快だったが、これも時間稼ぎの一環だ。


「この場所に手を置けばいいんですか?」


さりげなく後ろを振り返り、賢者の様子を確認。予想通り、ステータスの改変作業中のようだ。


「それでは、始めさせていただきます」


わざとゆっくりとした口調で宣言し、石に触れる。書き換えられた『料理人』のステータスが映し出された途端、3人組がゲラゲラと笑い出した。


「なんだよ、料理人って!」


「異世界ファンタジーに全然関係ないじゃん!」


「逆に面白すぎ!」


好きなだけ笑えばいい。これこそが狙いなのだから。


「やっぱり私には向いてないみたいですね。できれば保護していただけませんか?」


笑顔で金髪の貴公子に近づき、頼み込んだ。眉をひそめながらも、同意の合図をもらえた。

私の平凡なステータスの後なら、残りの判定も楽になるはず。案の定、女性2人組が続いて前に出てきた。

賢者が先に行けば自分たちが最後になることを懸念して、急いで順番を確保したのだろう。ここまでは順調。賢者の時間稼ぎは成功している。


「クロエさんですね。私はキョーコと申します。よろしくお願いします」


先ほど軽蔑された女性に声をかける。名前はステータスで確認済みだ。


「あ、はい。こちらこそ、キョーコさん」


周囲を見渡すと、金髪の貴公子に従う者が3名。


「キョーコと申します。お世話になります」


丁寧に一礼すると、彼らも静かに自己紹介してくれた。


金髪の青年は周辺諸国の代表、カイト。グラントニア国の第三王子とのこと。

その側近には、屈強な体格の武人であるバーンズ。浅黒い肌に精悍な顔立ち。まさに理想的な戦士の風貌だ。私好みのルックスで、実力も伴えば推しキャラ間違いなし。カイトの護衛だと言う。厳しい目つきだが、悪人には見えない。


バーンズと似た容貌の細身の男性はロック。参謀タイプだろう。その洞察力のある眼差しに、背筋が凍る思いだ。


最後は温厚そうな中年の護衛、トリスタン。以上の四名が異国からの来訪者だ。他にも随行者はいるが、召喚の儀式に立ち会えたのはこの四人だけらしい。


私の後に現れた女性二人のステータスは、無難なものだった。特別低くはないが、際立ってもいない。最初の3人組と同程度だ。

今のところ、彼女たちからの保護願いはない。そして最後に、例の金髪の賢者がステータスチェックに向かう。

石に触れ、ステータスが表示された瞬間、下卑た嘲笑が響く。


「何だそのゴミみたいなステータス!」


「しょぼすぎだろ!」


「口だけ野郎じゃん!」


軽薄な3人組が声高に嘲り、この国の者たちも冷ややかな笑みを浮かべている。完璧だ。これで追放の準備は整った。


こちらに歩み寄る、今や『家具職人』となったクロエに手を振ると、不機嫌そうな表情を返された。助けてあげたのに、という気もするが、まあいい。


「他に保護を希望される方は?」


カイトが一同に問いかける。


「あの、俺も保護希望です」


手を挙げたのは勇者だった。予想通り、面倒な展開になりそうだ。


「では、勇者様以外の方の保護を希望される方は?」


カイトが再度確認する。


「あの、私も保護をお願いできますか? あ、私は『薬師』のサブリナと申します」


手を挙げたのは中年の婦人だ。先ほど蔑んだ目で見下していた女性の一人だった。


「かしこまりました。それでは皆様にご提案です。我が国で保護させていただく代わりに、我が国のために働いていただきたいのです」


カイトの提案に、一同は顔を見合わせた。異世界から召喚された者たちの多くは、戦う力を持つ者ばかり。戸惑うのも無理はない。


「ご不安はもっともですが、我が国で平和に暮らして頂けるよう最大限の便宜を図らせて頂きます」


カイトがたたみかけると、一人また一人と手を挙げた。この世界の現状を知るのはもう少し先だろうけれど、『聖女』である私は彼らの戦いに巻き込まれることになるはずだ。


「では、皆様のご意思を尊重し、保護させていただくことにします。ロック、各人の世話係を手配しておいてくれ」


「かしこまりました」


こうして私たちは、この国の庇護下に入ることが決まった。後は追放のシナリオがうまく進むよう努めるだけ。
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