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学園祭当日、私たちは朝早くから準備を始めていました。劇の台本を何度も読み返して、セリフの練習を繰り返しました。お兄様の指導のおかげで、だいぶ上達したと思います。


「そろそろ始まる時間だな」


時計を見ると、もうすぐ午前10時になろうとしていました。私はドキドキしながら舞台袖で待機しています。すると、司会者の方が登壇しました。いよいよ幕が上がるのです。舞台に立つと客席には大勢のお客さんが集まっていました。緊張のあまり体が震えてきます。しかし同時にワクワクもしていました。


「これより、演劇『ロミオとジュリエット』を開始します」


ナレーションが流れ、幕が上がると同時に私は歩き出します。舞台の中央に立つと大きく深呼吸しました。そしてセリフを口にします。


「ああ……どうして私たちは結ばれてはいけないのでしょう……」


するとお兄様が反対側から舞台に出てきました。客席からは歓声が上がります。


「愛しています……ロミオ様……!」


お兄様と目が合い、お互いの気持ちを確かめ合うように微笑み合います。そして手を取り合うシーンに入っていくのです。私たちは練習の成果を発揮することができました。お兄様の動きに合わせながらセリフを言っていくうちに、自然と一体感が生まれてきました。まるで本当に恋をしているかのような錯覚に陥りそうになりますが、これはあくまで演技なのです。しかしそれでも、この時間が永遠に続けば良いと思ってしまうほど、私はお兄様との幸せな時間を過ごしていたのです。


劇が終わりに近づくにつれて、名残惜しさがこみ上げてきます。もっとお兄様と一緒にいたかった。そんなことを考えているうちに幕が下りていきました。客席から大きな拍手が送られ、私たちは舞台袖へと戻りました。


「お疲れ様でした」とクラスメイトたちが出迎えてくれました。


「みんなのおかげで上手くいったよ」と感謝の気持ちを伝えると、彼らは照れくさそうに微笑んでくれました。そして次の演目が始まります。次はお兄様のクラスがやる劇のようで、お兄様は準備のために舞台へと上がっていきました。


「お兄様、頑張ってください!」


そしてついにお兄様たちのクラスの演劇が始まりました。内容はファンタジーものらしく、剣を持った主人公が魔物と戦うシーンが描かれています。迫力のある演技に圧倒されながら見入ってしまいました。


「お兄様、すごい……かっこいい……」


クライマックスシーンでは、主人公とヒロインのキスシーンがあり、客席から黄色い歓声が飛び交います。私も思わずドキドキしてしまいました。劇が終わり幕が下りると拍手が巻き起こりました。私も夢中で手を叩きます。素晴らしい舞台でした。


「お疲れ」隣に座ったお兄様が声をかけてくれました。


「ありがとうございます」


「すごく良かったぞ」そう言って微笑むお兄様を見て胸が高鳴りました。


学園祭の熱気が冷めやらぬ中、私たちは片付けを始めました。舞台セットや衣装を丁寧に片付けながら、今日の思い出を振り返っています。


「お兄様、本当にお疲れ様でした」と私が声をかけると、お兄様は優しく微笑んでくれました。


「オフィーリアこそよく頑張ったな。初めての舞台で緊張したんじゃないか?」


「はい、とても緊張しましたけど…お兄様と一緒だったから、なんとか乗り越えられました」


そう答えると、お兄様は少し照れたような表情を見せました。


「そうか……俺も君がいてくれて心強かったよ」


その言葉に、私の心臓が大きく跳ねました。片付けが終わると、クラスメイトたちと打ち上げをすることになりました。学食に集まり、みんなで今日の出来事を笑い合いながら振り返ります。


「お前らの演技、めっちゃ良かったぞ!」


「そうそう、本当に恋人同士みたいだった!」


からかいの声が飛び交う中、私とお兄様は顔を見合わせて苦笑いしました。


「まあ、それだけ演技が上手かったってことだな」とお兄様。


「はい……そうですね」と答えながら、私の胸の中では複雑な気持ちが渦巻いていました。


打ち上げが終わり、帰り道。夕暮れ時の校庭を歩きながら、お兄様が突然立ち止まりました。


「今日は本当に楽しかった。君と一緒に舞台に立てて良かったよ」


真剣な眼差しで語るお兄様に、私は言葉を失ってしまいます。


「私も……とても幸せでした」


そう言葉を絞り出すと、お兄様はゆっくりと私に近づいてきました。


「もしかしたら、これは演技じゃないのかもしれない」


お兄様の言葉の意味を理解するのに少し時間がかかりました。そして、私の頬が熱くなるのを感じました。


「お兄様……」


私たちの距離がどんどん縮まっていきます。心臓の鼓動が激しくなる中、お兞様の手が私の頬に触れました。


そして――


「おーい、二人とも!みんな待ってるぞー!」


突然の声に、私たちは飛び離れました。クラスメイトが遠くから手を振っています。


「あ、ごめん。行かなきゃな」とお兄様。


「は、はい……」


そうして私たちは、言葉にできない何かを胸に秘めたまま、みんなの元へと駆けていきました。

この学園祭で、私たちの関係は少しだけ変わったのかもしれません。これからどうなるのか、期待と不安が入り混じる気持ちで胸がいっぱいになりました。でも、きっと素敵な未来が待っているはず。そう信じて、私は前を向いて歩き続けるのです。
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