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それから劇の練習が始まったのだが、なかなか上手くいかない。特にセリフが覚えられず苦戦していた。そんな私を見兼ねてか、お兄様が声をかけてきた。
「オフィーリア、ちょっとこっちに来い」
「はい! なんですか?」
「今からお前に演技指導をする」そう言ってお兄様は私の手を取ると歩き始めた。向かった先は空き教室だった。中に入るなり扉を閉めて鍵をかけてしまう。二人きりの空間になったことで緊張してしまう私をよそに、お兄様は真剣な表情をしていた。
「いいか? よく聞けよ」
「はい!」
「まず初めに言っておくことがある」
「なんでしょうか?」
お兄様は咳払いをすると、ゆっくりと語り始めた。
「いいか? これからお前に演技指導をするが、これはあくまでも練習だ。本番ではないことを忘れるな」
「はい! わかりました」と私は元気よく返事をした。すると、お兄様は小さくため息をついてから続けた。
「よし、じゃあ始めるぞ」
「お願いします!」と私は頭を下げる。
「まずは姿勢からだ。背筋を真っ直ぐに伸ばして立つんだ。それから視線は少し上に向けること」
「はい!」言われた通りにやってみるが、どうにも上手くいかない。すると、お兄様はまたため息をついた後言った。
「違う! こうだ!」と言って私の後ろに回り込み、後ろから抱きしめるような格好になる。突然のことに驚いていると、耳元で囁かれた言葉にさらに動揺してしまった。
「いいか? お前は今、誰かに抱きしめられているという設定だ。そして、その人物に対して恋心を抱いているという設定でもある」
「えっ!? そんな設定まであるんですか!?」と思わず叫んでしまったが、お兄様は構うことなく続ける。
「そうだ。だから真剣にやれ」
「はい……」
(これは演技の練習なんだから、恥ずかしがってちゃダメだよね……)
そう自分に言い聞かせて気持ちを切り替えようとするのだが、どうしても意識してしまう自分がいる。心臓の音がうるさいくらいに鳴り響いていて落ち着かない状態だ。
「よし! じゃあ次に進むぞ」
そう言ってお兄様は私から離れた。私はホッと息をつくと同時に少し寂しさを覚えてしまった。そんなことを考えているうちに次の指示が出る。今度は立ち位置や歩き方を練習するようだ。言われた通りにやってみるものの、やはり上手くいかない。しかし、お兄様は根気強く付き合ってくれたおかげで少しずつではあるがコツを掴めてきた気がする。
練習を重ねるうちに、私の動きも少しずつ自然になってきました。お兄様の熱心な指導のおかげで、自信も少しずつ芽生えてきたように感じます。
「そうだ、そうだ。その調子だ」お兄様が励ましの言葉をかけてくれます。
「ありがとうございます、お兄様」私は照れくさそうに答えました。
「さて、次はセリフの練習だ。台本を見てみろ」
お兄様に言われて、持参した台本を開きます。そこには、主人公とヒロインの甘いやりとりが書かれていました。突然、頬が熱くなるのを感じます。
「え、えっと……この場面ですか?」私は戸惑いを隠せません。
「ああ、そうだ。ここが一番重要なシーンだからな」お兄様は真剣な表情で言います。
「でも……こんな恥ずかしいセリフ、私には……」
「大丈夫だ。ゆっくりでいい。まずは感情を込めて読んでみろ」
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせます。震える声で台詞を読み始めます。
「あ、あなたのことを……ずっと好きでした」
「もっと感情を込めろ。相手の目を見て言うんだ」
お兄様の指示に従い、彼の目を見つめます。すると不思議と、台詞が自然に口から出てくるのです。
「あなたのことを、ずっと好きでした! どうか私の気持ちを受け取ってください!」
「よし、その調子だ!」お兄様が満面の笑みで褒めてくれます。「次は僕のセリフだ」
お兄様が一歩近づき、私の手を取ります。その瞬間、心臓が大きく跳ねました。
「俺もお前のことが好きだ。ずっと前から……」
お兄様の真剣な眼差しと、優しく響く声。それが演技だとわかっていても、胸が高鳴ります。
「これからもずっと一緒にいてくれ」
「は、はい……!」
気がつけば、お互いの顔が近づいていました。その時―
「おや、もう時間か」お兄様が時計を見て言いました。
「今日はここまでにしよう」
現実に引き戻された私は、ほっとすると同時に少し残念な気持ちになりました。
「お兄様、ありがとうございました。とても勉強になりました」
「ああ、よかった。これからも頑張れよ」
お兄様が優しく頭を撫でてくれます。その温もりが心地よく、もう少しこの時間が続けばいいのにと思ってしまいました。
教室を出る前、お兄様が振り返って言いました。
「オフィーリア、明日も練習しよう。もっと上手くなれるはずだ」
「はい! 頑張ります!」
教室を後にしながら、明日の練習が今から楽しみでなりませんでした。そして、この気持ちが単なる演技への熱意だけなのか、それとも...。そんなことを考えながら、私は寮への帰り道を歩き始めたのでした。
「オフィーリア、ちょっとこっちに来い」
「はい! なんですか?」
「今からお前に演技指導をする」そう言ってお兄様は私の手を取ると歩き始めた。向かった先は空き教室だった。中に入るなり扉を閉めて鍵をかけてしまう。二人きりの空間になったことで緊張してしまう私をよそに、お兄様は真剣な表情をしていた。
「いいか? よく聞けよ」
「はい!」
「まず初めに言っておくことがある」
「なんでしょうか?」
お兄様は咳払いをすると、ゆっくりと語り始めた。
「いいか? これからお前に演技指導をするが、これはあくまでも練習だ。本番ではないことを忘れるな」
「はい! わかりました」と私は元気よく返事をした。すると、お兄様は小さくため息をついてから続けた。
「よし、じゃあ始めるぞ」
「お願いします!」と私は頭を下げる。
「まずは姿勢からだ。背筋を真っ直ぐに伸ばして立つんだ。それから視線は少し上に向けること」
「はい!」言われた通りにやってみるが、どうにも上手くいかない。すると、お兄様はまたため息をついた後言った。
「違う! こうだ!」と言って私の後ろに回り込み、後ろから抱きしめるような格好になる。突然のことに驚いていると、耳元で囁かれた言葉にさらに動揺してしまった。
「いいか? お前は今、誰かに抱きしめられているという設定だ。そして、その人物に対して恋心を抱いているという設定でもある」
「えっ!? そんな設定まであるんですか!?」と思わず叫んでしまったが、お兄様は構うことなく続ける。
「そうだ。だから真剣にやれ」
「はい……」
(これは演技の練習なんだから、恥ずかしがってちゃダメだよね……)
そう自分に言い聞かせて気持ちを切り替えようとするのだが、どうしても意識してしまう自分がいる。心臓の音がうるさいくらいに鳴り響いていて落ち着かない状態だ。
「よし! じゃあ次に進むぞ」
そう言ってお兄様は私から離れた。私はホッと息をつくと同時に少し寂しさを覚えてしまった。そんなことを考えているうちに次の指示が出る。今度は立ち位置や歩き方を練習するようだ。言われた通りにやってみるものの、やはり上手くいかない。しかし、お兄様は根気強く付き合ってくれたおかげで少しずつではあるがコツを掴めてきた気がする。
練習を重ねるうちに、私の動きも少しずつ自然になってきました。お兄様の熱心な指導のおかげで、自信も少しずつ芽生えてきたように感じます。
「そうだ、そうだ。その調子だ」お兄様が励ましの言葉をかけてくれます。
「ありがとうございます、お兄様」私は照れくさそうに答えました。
「さて、次はセリフの練習だ。台本を見てみろ」
お兄様に言われて、持参した台本を開きます。そこには、主人公とヒロインの甘いやりとりが書かれていました。突然、頬が熱くなるのを感じます。
「え、えっと……この場面ですか?」私は戸惑いを隠せません。
「ああ、そうだ。ここが一番重要なシーンだからな」お兄様は真剣な表情で言います。
「でも……こんな恥ずかしいセリフ、私には……」
「大丈夫だ。ゆっくりでいい。まずは感情を込めて読んでみろ」
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせます。震える声で台詞を読み始めます。
「あ、あなたのことを……ずっと好きでした」
「もっと感情を込めろ。相手の目を見て言うんだ」
お兄様の指示に従い、彼の目を見つめます。すると不思議と、台詞が自然に口から出てくるのです。
「あなたのことを、ずっと好きでした! どうか私の気持ちを受け取ってください!」
「よし、その調子だ!」お兄様が満面の笑みで褒めてくれます。「次は僕のセリフだ」
お兄様が一歩近づき、私の手を取ります。その瞬間、心臓が大きく跳ねました。
「俺もお前のことが好きだ。ずっと前から……」
お兄様の真剣な眼差しと、優しく響く声。それが演技だとわかっていても、胸が高鳴ります。
「これからもずっと一緒にいてくれ」
「は、はい……!」
気がつけば、お互いの顔が近づいていました。その時―
「おや、もう時間か」お兄様が時計を見て言いました。
「今日はここまでにしよう」
現実に引き戻された私は、ほっとすると同時に少し残念な気持ちになりました。
「お兄様、ありがとうございました。とても勉強になりました」
「ああ、よかった。これからも頑張れよ」
お兄様が優しく頭を撫でてくれます。その温もりが心地よく、もう少しこの時間が続けばいいのにと思ってしまいました。
教室を出る前、お兄様が振り返って言いました。
「オフィーリア、明日も練習しよう。もっと上手くなれるはずだ」
「はい! 頑張ります!」
教室を後にしながら、明日の練習が今から楽しみでなりませんでした。そして、この気持ちが単なる演技への熱意だけなのか、それとも...。そんなことを考えながら、私は寮への帰り道を歩き始めたのでした。
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