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私の名前はオフィーリア・コーネリア。私はこの世界の悪役令嬢です。


幼い頃に起きたある出来事で、私は自分の正体が前世から転生した乙女ゲームの主人公であることを知りました。そして、今いる世界が「イノセント・プリンセス」というヨーロッパ風世界の名門の学園を舞台にした乙女ゲームの世界だと気付いたのです。


この乙女ゲームの主人公は平民出身で、男爵家に引き取られてから貴族の子弟が集まる王立学園に入学します。そこで彼女は華やかな世界と知り合いになっていきますが、心の傷や満たされなさを抱える攻略対象達と出会うことで、彼らになくてはならない存在となっていくのです。


私はこのゲームの主人公とは正反対の立場でした。金持ち公爵家の長女でありラインハルト王子の婚約者であるオフィーリア・コーネリアという地位と富を持った悪役令嬢として、平民出身の主人公に嫉妬し意地悪をすることで存在感を示すのです。


例えば、お金に物を言わせ、主人公と攻略対象たちの待ち合わせやデートを邪魔したり、取り巻きたちと共に陰口を言ったりといった嫌がらせをしていました。そして、主人公がどんなルートでハッピーエンドを迎えようとも、私は最後には散財を咎められて公爵家から追い出されるという最期を遂げるのでした。


この真実は私にとって衝撃的なものでありました。贅沢し放題も我が儘し放題だった今までの生活は、いずれ主人公がハッピーエンドを迎えるための舞台装置でしかなかったのです。しばらく落ち込みましたが、断罪される未来を受け入れることにしました。


悪役令嬢として断罪されたら、隠居して森の一軒家でカフェを開いて、のんびり生きていこうと決意したのです。


しかし、最近はどうも周囲の様子がおかしいように思えます。ゲームとは違う展開が起こり始めたような気がするのですが、転生した影響でしょうか? それとも何か変化があったのでしょうか?





数年経ちました。今日は学園に入学してから初めての休日です。

王都の一等地にある豪華な屋敷の離れで、私は紅茶を優雅に飲んでいました。するとドアがノックされ、「どうぞ」と私が許可を出すと、異母弟であるカイトが部屋に入って来ました。


「おはようございます、姉様」


「おはよう、カイト」


三歳年下のカイトは私より一歳年下で、ふわふわした茶色の髪に私譲りの青い瞳をしています。


「姉様、今日の紅茶はなんですか?」


「ダージリンティーよ。爽やかな香りがするでしょう」


「はい! あ、そういえば昨日姉様のお友だちから頂いたレモンパイがあるんです。一緒に食べませんか?」


「あら、それは嬉しいわね」


私はカイトが持ってきたレモンパイを一口食べました。サクサクとした生地と甘酸っぱいレモンクリームが絶妙に合います。


「美味しいわね」


「そうですね。姉様のレモンパイには負けますけど」


私はふふっと笑いました。この子は私が作ったレモンパイをとても気に入ってくれているのです。


「姉様が学園に通うようになって、僕は寂しいです」


「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」


私はカイトの頭を撫でました。するとカイトは笑顔になります。


「姉様が学園で良い人に出会えるように祈っています!」


「ありがとう、カイト」


この子は本当に可愛いですね。私は義弟をぎゅっと抱きしめました。


「姉様、苦しいです」


「あら、ごめんなさい。あなたがあまりにも可愛かったから」


カイトは少し恥ずかしそうに頬を染めました。


「僕はもう子供ではありません。でも、姉様が僕を可愛がってくれるのは嬉しいです」


そう言って、カイトは私の胸に顔を埋めました。私は再び弟の頭を撫でます。するとカイトは気持ち良さそうに目を細めました。この子は昔から甘えん坊なのですね。


「姉様」


「なあに?」


「僕は、姉様のことを世界で一番愛しています」


可愛い義弟からの思わぬ告白に、私は驚いてしまいました。この子はなんて良い子なのでしょう。私がカイトの頬に軽く口づけすると、彼はさらに強く私に抱きついてきました。そして、私の胸に顔を押しつけてきます。


「もうっ! くすぐったいわ!」


「ごめんなさい」と謝りながらも、カイトは私の胸に顔を埋めたままでした。本当に甘えん坊さんですね。でも、そんなところも可愛いです。


「姉様、愛しています」


「私もよ」


私は義弟をぎゅっと抱きしめ返しました。するとカイトは嬉しそうに笑います。その笑顔を見ると、私まで幸せな気持ちになります。私はこれからもずっとこの子の姉として生きていこうと決意しました。
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