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次の日、私はエドワードさんの訓練を見学することにした。


「やあ、こんにちは」


彼は私に気付き手を振ってくれる。私も手を振り返した。


「調子はどうですか?」


「うん、いい感じだよ」


彼は剣を振り回しながら言う。その動きはとても鮮やかで美しかった。きっと毎日鍛え上げているのだろうと思う。


「すごいですね!」


「そうかな? ありがとう」


エドワードさんは照れ臭そうに笑う。その笑顔を見ると、なんだかこちらまで幸せな気分になった気がした……。


「そろそろ休憩にしようか」


エドワードさんは剣を下ろすと、こちらに戻ってきた。そして水筒を差し出す。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます!」


私はそれを受け取ると、勢いよく飲み干していく。冷たい水が喉を通る感覚が心地よかった……。


「……ふぅ」


一息ついたところで改めて周囲を見渡す。すると訓練場の端には小さな小屋があることに気付いた。どうやらここは休憩室も兼ねているようだ。中に入ってみるとそこにはベッドやテーブルなどが置かれていた。ここで休めば疲れが取れるだろう。


「あれ……?」


よく見るとベッドの上に何かあることに気が付いた。近づいて確認してみると、それは毛布だった。おそらく誰かがここで寝ていたのだろう。私はそっと毛布をかけてあげた。するとその時、後ろから声をかけられた。


「あの……すみません」


振り向くとそこに立っていたのは女性の騎士さんだった。年齢は私と同じくらいだろうか? 彼女は申し訳なさそうにこちらを見ている。どうやら何か用事があるようだ。


「どうかしましたか?」


私は笑顔で尋ねることにした。すると彼女は少し躊躇った後、口を開いたのだ……。


「あの、貴女が噂の治癒魔法の使い手の方ですか?」


彼女は恐る恐る尋ねてくる。私は小さく首を縦に振った。すると彼女の顔色が明るくなった気がした。どうやら信じてもらえたようだ。


「私はララと言います。実はお願いがあるんですが……」


彼女はモジモジしながら言う。その様子はとても可愛らしく思えた……。


「はい、なんでしょう?」


私は優しく問いかける。すると彼女は意を決したように口を開いた……。


「わ、私も治癒魔法を教えてほしいんです!」


彼女の目には強い意志が宿っていた。きっと本気で学びたいのだろうと思う。


「わかりました! 私でよければ」


私は笑顔で答えることにした。少しでも力になれるのなら嬉しいと思ったのだ……。それから私は彼女に治癒魔法を教え始めた。最初は上手くいかなかったけど、回数を重ねるうちに段々と上達していったようだ。彼女はとても熱心に学んでくれた。それがとても嬉しかった。


「すごい! 貴女は天才ですよ!」


「いえ、そんな……」


私は照れながら頭をかく。褒められるなんて滅多になかったので、なんだか不思議な気分だった……。するとそこにエドワードさんがやってきた。彼は私たちの様子を見て不思議そうな顔をしていたようだ。


「二人で何をしているんだい?」


「あ、エドワードさん」


私は彼の方を向いて言う。ララさんは慌てて頭を下げた。そして事情を説明してくれたのだ。それを聞いたエドワードさんは納得したように頷いていた。


「なるほど、そういうことだったのか」


彼は優しい笑みを浮かべると、私たちに向き直る。そしてゆっくりと口を開いた……。


「二人ともよく頑張ってくれたね。ありがとう」


彼の言葉を聞いた途端、胸の奥が熱くなるような感覚を覚えた……。これが嬉しいということなのだろうか?


「いえ、私は何も……」


ララさんは俯きながら言う。どうやらまだ自信が無いようだ。するとエドワードさんはそんな彼女の手をそっと握ると言った……。


「大丈夫、君は間違いなく成長しているよ」


「……っ!」


彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまう。その様子はまるで恋をしている乙女のようだった。そんな彼女に微笑みかけると、彼は言葉を続けた……。


「これからも一緒に頑張っていこうじゃないか。君ならきっとできるさ」


「……はい、よろしくお願いします!」


彼女は勢いよく頭を下げる。その顔はとても嬉しそうだった……。その様子を見たエドワードさんは満足そうに微笑んでいたのだった……。
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