別れの理由

梨花

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男の話

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今回もダメだった。
ホワイトデーから数えて3回目の週末。
出張で約束を守れないと告げたLINEの返事は
『残念ですが仕方ないですね。
お仕事頑張ってください。
お部屋の片付けだけしておきます。』
と書かれていた。
週末どこかに出かけようと話をしていた。
日帰り温泉に行こうかなんて話もしていた。
なのに、それが駄目になったと知らせても俺の彼女はワガママ1つ言わずにいる。
付き合い始めた頃は週末はもちろん、平日も時間が合えば一緒に食事に行ったりしていたはずなのに。
彼女の本音が聞きたい為に態と距離を置いてみたけど。
「ため息つくと幸せが逃げるよ。」
言ってきたのは同期で従姉妹のみどり
同い年である俺と翠は幼いころはとても仲がよかった。
思春期に入って互いの家や祖父の家に寄り付かなくなって暫く会わない時期があり、その後再会したのは大学のサークルのコンパだった。
お互い生まれた時からの付き合いであったことと互いの見た目の良さから周囲は勝手に俺たちが付き合ってることにしてしまった。
そして俺たちも互いの虫除けの為に付き合っている風を装っていた。

その関係が崩れたのは3年前。
俺に恋人と呼べる相手が出来た時だった。
合コンで知り合った彼女は相手の男には目もくれず一緒に来た女どもと喋って食って飲んでいた。
惹かれたのはその態度だけじゃなかった。
和風創作料理のその店で出された魚の煮付けを綺麗な箸づかいで食べていた。
きちんとした家で育ってきたんだなというのがわかったから。
だから俺は彼女を手に入れる為に仕事が終わると彼女の職場に押しかけ一緒に帰ったのだ。
そうやって手に入れた彼女を俺が大事にしていたのを不満に思ってたいた奴らがいた。
それは大学の時に俺と翠を勝手に恋人に仕立て上げたサークルのメンバーだった。
「最近翠が1人で飲んでいる。」だの「翠が寂しそうにため息をついている。」だの「飲み会に1人で参加させるな!」だの。
正直興味ない。
しかしあまりにも執拗なLINEのトークに翠に話しかけてみれば、婚約者が3年間海外に行っているとのこと。
おまけに恋人がいないと思っている社内の奴からつきまとわれているのだという。
俺は翠と寄りを戻したような雰囲気を作ることになってしまった。
その為必然的に彼女との時間が削られていく。
おまけに、だ。
俺も翠も創業者一族ということもあり、2人セットで重要な案件に関わることが増えた。
副社長である父親に何度か文句を言ったが、逆に平社員の立場で結婚など口にするなと言われてしまった。
結婚。
俺は付き合いだしてすぐにそれを意識した。
付き合いだして1年が過ぎたころにはそれは自分の中では揺るぎないものになっていて、父親に話したのだ。
父親が出した条件は係長。
創業者一族だからといって特別待遇があるわけではない。
現に今の社長は創業者一族ではない人だ。
だから。
俺は彼女との結婚という目標の為に必死で働いてきた。
なのに、現実は。

電話すら出来ない。
話をするのが怖い。
いつも当たり障りのない仕事の話だけをする。
家族の話は出来ない。
もししてしまったら、彼女は逃げてしまいそうだから。
だが平社員の俺がこんなに忙し過ぎなのは家族のせいでもあり。
「全部話して仕舞えばいいのに。」
俺の事情を知っている翠は言う。
「言うよ、連休中に。」
4月の人事で係長になった。
これで当面の問題はクリアになったはず。
今忙しいのは昇進したために付随する仕事が増えたせいだから。
だから5月の連休に旅行に誘う。
そこで彼女に紹介するのだ、俺の家族を。
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