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剣聖の娘、裏組織を叩き潰す!

必殺剣

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「はぁーーーっっ!!!」

 ガキィンッ!!!


 裂帛の気合いで振るわれたエステルの大剣の一撃を、竜人は長剣でしっかりと受け止める。
 その細腕からは全く想像がつかない絶大な膂力を誇る彼女の本気の一撃にも、竜人の剣は微動だにしない。
 その事実一つだけで、彼の実力が遥か高みの領域にある事を示している。


 ぶおんっ!!


「うおっ!?」

「!!ちっ……!!」

 エステルが竜人と切り結んでいる隙に、背後に回ったクレイとアルドが連携して攻撃を加えようとしたが、竜の尾が高速で彼らを薙ぎ払おうとする。
 二人は瞬時に反応して後方に跳び、辛うじてそれを避けたものの攻撃は中断せざるを得なかった。


「ぐ…………こいつ、私より力が強い……!!」

 鍔迫り合いを押し込まれそうになり、エステルは歯を食いしばって何とか持ちこたえようとする。
 人間はもとより、例え相手が辺境の魔物であっても彼女が力負けすることは殆ど経験の無いこと。
 ごく一部の大型魔獣や、それこそ竜種くらいである。


 そして一度は後退を余儀なくされたクレイとアルドは、今度は尻尾の一撃がある事を念頭に連携をとって再び竜人に襲いかかる。
 一人が竜尾で迎撃されても、もう一人は攻撃を継続できるような位置取りで。


 しかし……!


「っ!!」

 竜人は瞬間的に闘気を爆発させ、切り結んでいたエステルの大剣を無理やり押し込んで彼女と間合いを外す。
 そして瞬時に身体を回転させながら背後に迫っていたクレイとアルドに、竜尾と長剣を振るう。


「くっ!!」

「これを凌ぐか!?」

 先程と同じように二人は何とか攻撃を避けるが、再び仕切り直しとなってしまった。


 三人との間合いが出来た竜人は、大きく息を吸い込むような動作をする。
 そして……


 ぶおぉぉーーっっ!!!


 竜人が溜め込んだ息を吐き出すと、灼熱の炎がエステルに放たれる。
 だが、彼女はまだ態勢を立て直そうとしているところだった。


「「エステルっ!!」」

 アルドとクレイの叫び声が重なる。


「なんの!!エステルぐるぐるバリアっ!!」

 炎が届く寸前に態勢を立て直したエステルは、大剣を高速回転させることでそれを防ごうとする。
 それだけでは竜の吐息ドラゴン・ブレスにも匹敵しそうな攻撃を防ぎきれるものではないが、エステルの大剣は強力な闘気と魔力を帯び、かつ高速回転させることで炎の尽くを吹き散らしてしまった。

 しかし、彼女は技名に自分の名前を入れずにはいられないのだろうか……?



 ……ともかく。
 そこで攻防はいったん途切れ、竜人と三人は次の攻撃に備え機をうかがう。


(……強い。これはどのみち一人で戦うってのは無理だったね。でも、それなら……)

 エステルは内心で、ここからの戦い方を考える。
 想像以上だった竜人の強さ……しかし彼女はそれを嘆くこともなく、むしろやる気がみなぎる。


「クレイ!!アレ・・をやるよ!!」

「!……頼む!」

 エステルの言葉は手短だが、クレイは瞬時にその意図を察した。
 物心がつく前からの幼馴染なので、その辺は阿吽の呼吸である。


あれ・・……?」

「陛下、エステルはこれから準備に集中するんで、その間は何とか竜人あいつを二人で抑えましょう」

「そう言うことか。分かった」

 どうやらエステルが大掛かりな攻撃を行うらしいと理解し、アルドはクレイの言葉を了承した。
 しかし彼はニヤリと笑いながら、更に言い放つ。


「だが……その前に倒してしまっても良いのだろう?」

「……ええ、もちろんです。アイツにばかり活躍させると、調子に乗っちまいますからね」

 竜人は想像を超えた強敵だ。
 しかし、それで弱気になって時間稼ぎや防御ばかりを意識たのでは逆に飲み込まれてしまう。
 自らを叱咤する意味も込めて、彼らは攻め気を崩さない姿勢を貫く。


「行くぞ!!正面は任せろ!!ブレスの隙は与えるな!!」

「はっ!!」

 今度は王自らが先頭に立ち、真正面から竜人の相手をする。
 そしてクレイは死角に回り込んでアルドのフォローに回った。

 エステルが一時的に抜けてしまった分、二人は先程までよりもギアを引き上げるが、それは長時間続くものではないだろう。
 しかし、先のセリフの通り短期決戦で倒してしまうことが出来ればそれで良し。
 そうでなくても、エステルがなんとかする……と、彼らは信じたのである。


 二人と竜人が壮絶な戦いを始めたのを確認したエステルも彼らを信じ、瞳を閉じて集中する。
 溢れんばかりに迸っていた闘気を身体の中に押し込めていく。
 すると体内で練り上げられた闘気と魔力が際限なく高まり、彼女の身体は薄っすらと燐光を帯び始めた。

 エステルはゆっくりと大剣を構える。
 凝縮した力が今にも爆発しそうになるのを、無理やりに抑え込む。
 そして目を見開き、必殺の一撃を放つタイミングをうかがう。



 それは、エステルが強大な魔獣やドラゴンを倒す時だけに使う切り札。
 もとはジスタルが編み出したその奥義を、彼女は更に昇華させていた。


(さあ、行くよ……『ファイナルエステルドラゴンくらっしゅ!』をくらいなさい!!)


 ……もちろん、彼女はエドナのお腹の中にネーミングセンスを置き忘れてきている。


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