124 / 145
剣聖の娘、裏組織を叩き潰す!
剣聖の娘、爆発する!
しおりを挟むついに始まってしまった闇オークション。
しかし、アルド率いる王国騎士団の精鋭たちも、少女の救出と裏組織壊滅のため既に突入の準備を終えている。
あとはアルドの合図があれば、一斉に事態は動き出すはずだ。
オークションは粛々と進行し、少女たちの何人かは既に買い手が決まっていた。
それも、騎士たちが動けば全てご破産である。
『では、そろそろ突入を……』
『あ、陛下、ちょっと待ってもらえますか?』
アルドがこれから号令をかけるため、エステルに念話を飛ばしたところ、何故か彼女はそれに待ったをかけた。
『どうした?』
『いえ、ちょっと会場の雰囲気が変わって……』
彼女がそう感じたのは、観客席の隅の方にいた白仮面の男が、おそらくは何らかの合図のため右手を上げた時から。
(あいつ……あの時の……やっぱり幹部っぽいね)
その人物の気配に、エステルは覚えがあった。
彼女が聖女であることを確認するため、監禁場所から連れ出した男だ。
その強さは『そこそこ』というエステル評を得るほどの、一般的には相当な手練れと思われる。
そして、その男の合図を受けた司会役は一つ頷いて……
「……さて、あまり引っ張っても皆様も痺れを切らしてしまうと思いますので、そろそろ目玉商品を出品いたしましょう。32番、前に出ろ」
(32番……って、私!?)
ここまで順番に少女たちを登場させていたのだが、ここにきて番号を飛ばしてエステルが出品される事に。
彼女は少し驚きつつも、言われた通りに前に進み出た。
これまで、オークションで競っている間でさえも会場内は不気味なほど静かだったが……一際目立つ美貌の少女の登場に、観客たちから感嘆のため息が漏れた。
「事前に告知しておりました通り、彼女は見ての通りの美貌だけでなく、なんと『聖女』の資質を持ってます。これほどの出物はなかなかございません。みなさま奮ってご入札ください」
司会役の男は淡々とした口調は変わらないものの、そんな煽り文句でバイヤーたちの購入意欲を刺激した。
前王バルドが娘に語った話によれば、『聖女』はエルネア王国でしか生まれることがないという。
そんな貴重な存在を奴隷として手に入れられるならば、どれだけ金を積んでも良いと思う者は多いはずだ。
それも、他国の者であれば尚のこと。
まさしくエステルは『目玉商品』であった。
(……どれくらいの値段が付くのか、ちょっとだけ興味あるかも。なんてったって、私ってば『せくすぃ~おねぃさん』だからね!)
当の本人は、そんな呑気なことを思ってたりするのだが。
ただ、確かに彼女の美貌は類稀ではあるが、本人が言うようなセクシー路線ではないだろう。
クレイが聞けば「寝言は寝てから言え」と言うに違いない。
そうして彼女に対して入札が始まろうとしたのだが……
黒仮面のバイヤーの男が手を上げた。
「どうされましたか?」
「いや……その娘、見目は確かに抜きん出てはいるが、随分と身体つきが貧相に見える。いかに聖女と言えど、高い買い物になるなら中身を確認したい」
「なるほど、かしこまりました。……では32番、服を脱いで裸になれ」
それを聞いたエステルの表情がストン……と、抜け落ちた。
僅かな間の沈黙……しかしそれは火山が噴火する前の予兆のようなもの。
大地が鳴動するかのように、少しずつ闘気が漏れ出し始め……
そして次の瞬間……!!
(……ブチ殺スっ!!)
「ひぃっ!?」
これまで溜に溜め込んでいたエステルの闘気が爆発し、それを至近でまともに浴びた司会役の男が恐怖のあまり思わずへたり込んだ。
そして……
『へ~かっ!!あいつら私のこと『色気のかけらもないチンチクリンのお子様』って言いました!!確認するから服を脱いで裸になれって言いましたっ!!』
ブチ切れながらも、即座にアルドに念話するのを彼女は忘れてなかった。
……かなり被害妄想が著しいようではあるが。
そして仮面の男たちは、竜の逆鱗に触れればどうなるのか身を以て知る事になる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方、エステルの怒りの念話を受けたアルドと言えば、もちろん……
「彼女の麗しき玉体を拝もうとする輩など、全員両の目を抉ってやれっ!!」
……と、ブチ切れていた。
クレイやギデオン、周りの騎士たちはアルドのセリフにドン引きしながらも、一斉にオークション会場の中へと突入を開始するのだった。
71
お気に入りに追加
1,145
あなたにおすすめの小説
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
伯爵様の子供を身篭ったの…子供を生むから奥様には消えてほしいと言う若い浮気相手の女には…消えてほしい
白崎アイド
ファンタジー
若い女は私の前にツカツカと歩いてくると、「わたくし、伯爵様の子供を身篭りましたの。だから、奥様には消えてほしいんです」
伯爵様の浮気相手の女は、迷いもなく私の前にくると、キッと私を睨みつけながらそう言った。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
暇が祟って世界を滅ぼす 〜世界の敵だと言われたので、せっかくだから世界を滅ぼそうと思う〜
虹閣
ファンタジー
暇だった。そう、ただ1000年間暇を持て余し続けていた。ただ魔術と剣の鍛錬をしていただけだ。
それだというのに、俺は唐突に世界の敵とされて、世界から追われる身となった。
であれば、逃げる必要をなくすためにも、いっそのこと俺が世界を滅ぼしてしまおう。
せっかく刺激がなく退屈していたところなんだ。それに、久しぶりに山の下に降りて生活もしてみたい。
これは、そんな軽い気持ちで始まる、世界を滅ぼす旅の話である。
小説家になろう、カクヨムでも同タイトルで掲載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる